INTERVIEW
2024.02.25
――アニソン業界で経験を積み上げ、地位を確立したお三方から見て、今後の目標はありますか?あるいは、今のアニソン業界を自分が変えてやる的な夢とか。
田淵 お。これは熱くなるぞ。
草野 ここからが鼎談のスタートみたいな(笑)。
田淵 晶太君のそういうの聞きたい。
堀江 そういう話をしてもいいならめちゃめちゃありますよ。今の僕は「コンペ撲滅運動」を続けていこうと思っているので。それは作家事務所さんから怒られても。ネームバリューが代表曲もある僕らの場合、コンペを飛ばして指名で発注をいただけますし、制作側やアーティスト本人と直接話すこともできるわけじゃないですか?でも、一部の人が牛耳る業界になってきたのがすごく嫌で。本来は、プロデューサーたちがもっと、これから仕事を始めたい若手と同じ目線で話し合うべきだと思うんですよ。というのも、明らかに僕らよりも若い子のほうが面白い曲を作りたい情熱を持っているから。でも、そのエネルギーに対して向き合ってくれる案件が本当に少ないですよね。
草野 どこを見てもクレジットに載っている面々が同じというのは……ね。
堀江 そうそう。しかも、その曲が良くない場合もあるので。忙しいなかで作ったような曲とか、その人の限界を感じさせるような曲とか。だから今チームを作って、ガッツのある若手と案件をマッチングさせるけれども、若手が作った曲がもう一歩行き詰ったときには僕とかが出ていって仕上げる、ということを実験的に始めているんです。
田淵 その「コンペ撲滅運動」というのを補足すると、アニソン業界ではクリエイターになるために100も200もコンペに応募したうえで奇跡の1曲が引っかかるのを待たなければならない、という状況がもう20年くらい続いていて。それが成り立っていたのは、100や200という曲を出せて才能も根性もある人が夢を掴む、という図式があったからなんですけど、でも今はコンペに選ばれても確実に人生が変わるわけではない。納期までが短いとか、急いで翌日にフルサイズを提出してとかいまだにあるし、アルバムの中の1曲ではCDが売れないから夢もお金も掴めないし、アニメのタイアップになったとしても代表作になるような知名度にならないし、という時代なので。
堀江 そう、無機質なコンペをなくしたい。コンペが好きなら別にいいですけど、若手もプロデューサーもアーティストも同じ目線で話をして、そこから曲が生まれる業界にしていきたいよね。中途半端に夢を見させて、アーティストやプロデューサーの顔も見えない、作った実感を持てない曲が世に出されるくらいなら、自分で曲を書いて発信したほうがいいので。
草野 謎の改変が加えられることもあるしね。
堀江 だから、ここからの10年は育てていくという方向性に変えていきたいと思っています。
田淵 結局、その仕組みが変わらないとクリエイターがアーティストを目指すようになってアニソンの世界にもう来ないと思うんですよね。例えば、eba君がcadodeを立ち上げたのもそうですし、今だとキタニタツヤがまさにそれで。ソロでの名前も持ちながら楽曲提供もして、あるとき「時代」と重なるとああいった爆発的なことが起きるんですよね。でも今やアニソンシーン以外にも、サブカル面白クリエイターが腕試しするシーンは増えてきたので。
草野 Vtuberだったり歌い手さんだったり。
田淵 そうそう。TuneCoreで発信できるし。だけど、嗅覚が鋭い人は成功を掴めるけれども、そうではないクリエイターが一生コンペに挑み続けるというのはその人のためになっていますか?というところはすごく考えますね。結局、この3人がこういう話を嬉々として話せるのは「これならできる」という自分の「やり方」を見つけたからで、コンペに鍛えられたわけでも時代に合わせる努力をしたからでもないんですよ。晶太君が仕事を抱えすぎて精神的に参ったあとに立ち直ったのもやり方を見つけたからで。でも、そこまでに10年かかっているんですよ。その年月ってめっちゃ無駄かもしれないから若手に経験してほしくない。
草野 そうね。10年の道すがらで死ぬ人は絶対いるから。私も田淵さんも晶太君もその意味では体力があるから。
堀江 いや、華余子さんと田淵さんはそうかもしれないと仕事をしていても思うけど、僕を同じ化け物の括りに入れるのは……。
草野 ちょっと!(笑)。あの、私は依頼がなくても「この人に書けるならどんな曲を書くだろう?」って思って曲を書き溜めたアーティストさんが10組くらいいて。
――曲を直で渡したMay’nさんとか。
草野 そうそう、LiSAちゃんとか西川貴教さんとかそうなんですけど、でも田淵さんに言われて覚えているのが、「このやり方で成功したからあなたも同じように頑張れ、って華余子さんが言うのは暴力だから」って。だから、「自分から曲を書いて送りつけてきた」とは言わないことを肝に命じました。それに、私が「負けるものか」という反骨心で書き続けられたのは、やっぱり一回は認めてもらえた経験もあったからで。この10年間で一度も認められなかったらどんなにすごい曲が書けても……。
堀江 萎えるよね。
草野 そう、辞めてると思う。
田淵 晶太君も僕も、体力的に「無理!」となったときにそのまま業界を去ることだってあり得た。
堀江 華余子さんの曲がなかったらあり得た。
草野 責任、重っ!(笑)。
田淵 だから晶太君は、クリエイターとプロデューサーを繋げて才能を伸ばすところに今取り組んでいて。
草野 チャレンジし続ける体力や精神力がなかったら才能があっても折られてしまうシステムは良くないし、「この人に歌ってほしい」「この作品で仕事をしたい」という熱が冷めないシステムになればいいとはすごく感じます。
田淵 それはそれで狭き門にはなるんですけど、必要な才能を釣り上げる努力をしないと業界が続かなくなるはずなので。
草野 田淵さんのDIALOGUE+じゃないですけど、アキストゼネコで楽曲提供からSEにセットリスト作り、衣装やグッズ監修まで全部1人でやっているのは、やっぱりスタートアップが面白いからで。現場の熱量が高いんですよね。今は良い曲ができるとそっちに回しているところもあるんですよ。そうやって自分なりの音楽との関わり合い方を見つけたうえで、だからこそ「これから何をする?」っていうターンに入った気はしています。自分も田淵さんも晶太君もやり方を見つけてここまで来られたのは良かったけど、一番楽しい状態のまま音楽ができる方法を探さなきゃいけないとも思います。
堀江 いやぁ、このテーマでもう一度(鼎談を)やりたいね。
草野 今日の続きからね。10周年アルバムの話よりもここからの話のほうが長くなる可能性がある(笑)。
田淵 よし、「リスアニ!」から世界を変えていこう(笑)。
●リリース情報
草野華余子 1st selfcover album
『産地直送vol.1』
発売中
−収録曲−
M1 一番光れ! -ブッチギレ-
M2 Bursty Greedy Spider
M3 火花アディクション
M4 スリルを頂戴
M5 ignition
M6 COLORFUL BOX
M7 たゆたえ、七色
●ライブ情報
草野華余子 presents 産地直送プレミアム〜人生四十周年大収穫祭〜
2024年2月25日(日)@渋谷Spotify O-EAST
OPEN15:00 / START15:45
前売¥5,500 / 当日¥6,000(+1D代)
・草野華余子Band Member
Vo&Gt. 草野華余子
Gt. はやぴ~(岸田教団&THE明星ロケッツ)
Gt. 堀江晶太
Ba. イガラシ(ヒトリエ)
Key. モチヅキヤスノリ
Dr. みっちゃん(岸田教団&THE明星ロケッツ)
Mani. 坂井伽寿馬
・出演:
草野華余子(BAND)
岸田教団&THE明星ロケッツ
鈴木このみ
uijin
ARCANA PROJECT
アキストゼネコ
ヒグチアイ
【チケット】
https://l-tike.com/artist/000000000831099/
草野華余子
公式サイト
https://kusanokayoko.com/
公式X
https://twitter.com/kayoko225
堀江晶太/kemu 公式X
https://twitter.com/kemu8888
SHARE