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2024.02.22

濃密で、激しく、美しい、世界に向けての宣戦布告――ワンマンライブ“Ave Mujica 1st LIVE「Perdere Omnia」”を振り返る

濃密で、激しく、美しい、世界に向けての宣戦布告――ワンマンライブ“Ave Mujica 1st LIVE「Perdere Omnia」”を振り返る

すべてを破滅へと誘うマスカレードが、幕を開けた。1月27日、神奈川・横須賀芸術劇場で開催されたAve Mujicaによるワンマンライブ“Ave Mujica 1st LIVE「Perdere Omnia」”。それは、まだ多くの部分が謎のベールに包まれているバンドの深奥に、僅かながらも触れられる時間であり、彼女たち5人の行く末を暗示するようなステージだった。全11曲、時間にして約1時間半。あまりにも濃密で、激しく、美しい、世界に向けての宣戦布告とも言うべき公演の一部始終を、ここに書き残す。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY ハタサトシ

シアトリカルなステージが描き出す“破滅のマスカレード”

Ave Mujicaは、次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」発のリアルバンド。「バンドリ!」の先輩バンドたちと同様、彼女たちもまたキャストが自ら歌唱および楽器演奏を行うことで、作品の世界観やキャラクターをそのまま現実のライブに落とし込むパフォーマンスを身上としている。メンバーは、ドロリス(Gt. & Vo./CV:佐々木李子)、モーティス(Gt./CV:渡瀬結月)、ティモリス(Ba./CV:岡田夢以)、アモーリス(Dr./CV:米澤 茜)、オブリビオニス(Key./CV:高尾奏音)の5名。2023年2月にバンドの存在が明かされ、同年6月に初ライブ“Ave Mujica 0th LIVE 「Primo die in scaena」”を行うも、その姿は黒いローブとマスクに覆われていて、キャスト名も公表されず、詳細不明のミステリアスなバンドとして話題を呼んでいた。

その後、2023年夏クールに放送されたTVアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の最終話にあたる第13話「信じられるのは我が身ひとつ」で初めてAve Mujicaが登場。前述の“0th LIVE”で初披露された、バンド名と同タイトルの楽曲「Ave Mujica」が劇中のライブシーンで披露され、“0th LIVE”の演劇パートが同アニメの劇中劇を再現したものであったことが判明するなど、“現実”と“仮想”がクロスする展開でファンに衝撃を与えた。

アニメ最終話での鮮烈なデビュー、そして新作TVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』の制作が発表され、Ave Mujica自体にも大きな注目と期待が集まるなか、Roseliaの単独2デイズ公演“Farbe”DAY2のオープニングアクト出演を経て、ついに再びファンの前に再び姿を現したのが今回の“1st LIVE”。前回のワンマンは“0th LIVE”と銘打たれていたこともあり、Ave Mujicaという存在の輪郭がおぼろげながらもはっきりと見えてきたこのタイミングでのワンマンこそが、彼女たちの真価を知ることができる公演と言っていいだろう。

ライブの幕開けを飾ったのは、先ほど触れたTVアニメ第13話のAve Mujicaメンバーによる劇中劇のシーン。彼女たちが演じるのは、月の光によって仮初めの命を授けられた“人形”。自身を人間だと思い込んでいたドロリスは、ほかのメンバーたちと出会うなかで、自らが人間に捨てられた“人形”であることを悟り、絶望する。そんな“人形”たちの“復活・復権(あるいは復讐)”を意味するのが、Ave Mujicaのマスカレード(=ライブ)だ。劇中劇のシーンが終わると同時にステージの幕が上がり、リアルバンドの5人が姿を現すと、ドロリスが「…ようこそ。Ave Mujicaの世界へ」と呼び掛けて1曲目「Ave Mujica」に突入する。演劇から本楽曲に繋ぐ流れは、アニメのライブシーンの再現であると同時に、“0th LIVE”の終盤の展開をそのままなぞる形にもなっており、両ライブが地続きになっていることを示唆するかのようだ(“0th LIVE”ではラストの「Ave Mujica」を除いてメンバー全員が黒ミサのような黒装束を着ていたが、今回は最初から姿を露わにしていたのも、あの日の続きを感じさせた)。

ゴシックメタルを基調に激しさと優雅さを併せ持った「Ave Mujica」を叩きつけてオーディエンスを熱狂の悦楽に誘うと、続いて禍々しい
ヘビーロック「ふたつの月  ~Deep Into The Forest~」でどこまでも深い場所へと堕ちていく。冒頭でドロリスとモーティスが背中合わせになってギターを弾く場面や、曲間でドロリスとオブリビオニスがシンメトリーな動きで魅せるなど、“2人”を意識させるステージングも印象的で、もしかしたら楽曲タイトルの“ふたつの月”や彼女たちの物語にリンクする何かがあるのかもしれない。さらにangela「KINGS」のカバーでは、ティモリスがスラップ奏法で見せ場を作る。彼女たちの楽器編成は、7弦ギターが2本、5弦ベース、ツーバス仕様のドラム、そしてキーボードは通常タイプとオルガンタイプの2台(オブリビオニスはそれを両手で同時に弾くこともある)。音の分厚さ、低音の鳴りの太さは「バンドリ!」のリアルバンドの中でも随一と言えるだろう。

ドロリス(Gt. & Vo./CV:佐々木李子)

ドロリス(Gt. & Vo./CV:佐々木李子)

モーティス(Gt./CV:渡瀬結月)

モーティス(Gt./CV:渡瀬結月)

3曲をひと息に駆け抜けると、今度はキャスト5人による演劇パートへ。前回の“0th LIVE”では、Ave Mujicaの“傍観者”である2人の少女を描いた連作ストーリームービーが幕間に流されたが、今回はライブ冒頭に上映されたアニメ内の劇中劇の続きの物語を、キャストが自ら演じる形式だ。その演劇パートは、いわゆるプレスコ形式で進行。ステージ上の演者たちは、事前に収録されたセリフの音声に合わせて芝居を行う。Ave Mujicaのステージにおいてはメンバーが全員が“人形”という設定であるため、セリフに対する当て振りの動きが逆に人形らしさを強調する効果も生む、秀逸な演出だったように思う(演者は身振りだけで、口は動かさないようにしていたのも“人形”っぽさが出ていた)。

月の気まぐれによって生かされている自らの“人形”としての境遇に悲嘆し、“世界”そのものに対しての憎しみを募らせていくドロリス。彼女を取り囲む「壊せ、壊せ」という声が共鳴し、やがて“世界”そのものを壊し尽くしてしまうことを、5人は決意する。「そして、世界の終末の先で、また会おう」。ドロリスがそう言い放つと、昨年末にリリースされたライブ初披露の楽曲「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」の演奏が開始され、破壊のマスカレードが幕を開ける。オルガンの荘厳な響き、鈍く刻まれるギターリフ、リズム隊の重々しいグルーヴが、まるで世界そのものが軋む音のように悲痛に鳴り響く。その流れからALI PROJECT「暗黒天国」のカバーに雪崩れ込み、アモーリスが髪を振り乱しながら叩き出す狂乱の2ビートも交えながら、破滅の世界へと突き進んでいく。ギター2名が間奏では向き合いながら、後奏ではお立ち台に上がって別々の方向を向きながら機械人形のように演奏していたのも印象的だった。

次ページ:“破壊”と“創造”の先で辿り着いた“本当の私たち”

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