INTERVIEW
2024.02.21
日本人の父と中国人の母を持ち、日本語・中国語・英語の3ヵ国語を駆使した歌詞と透明感のある歌声で独自の世界観を構築するシンガーソングライター、krage。2022年にTVアニメ『後宮の烏』のEDテーマ「夏の雪」を歌い、アニメ音楽のシーンにもその名を知らしめた彼女が、2024年冬クールに話題のアニメ2作品の主題歌を担当している。1つはTVアニメ『俺だけレベルアップな件』のEDテーマ「request」。krageが敬愛してやまないアーティスト・TK(凛として時雨)のプロデュースによる、激情と葛藤が交差する挑戦的なアップナンバーに。そしてもう1つが、中国原作のアニメ『天官賜福 貮』日本語吹替版のEDテーマ「春想(ハルオモイ)」。彼女のルーツと作品で描かれるキャラクターの想いが重なった壮大なバラードだ。対照的な2曲でそれぞれの作品にしっかりと寄り添う彼女は一体どんなアーティストなのか――その異次元の才能に迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――リスアニ!初登場ということで、まずはこれまでの音楽遍歴、音楽活動を志したきっかけについてお聞かせください。
krage 母が中国出身で、家では中国の音楽が流れている環境で育ったので、J-POPはテレビでたまに流れているのを聴くくらいで子供の頃は歌にも特に興味はなかったんです。でも、母から習い事を薦められたときに私が選択したのが英語とピアノで、小学生高学年の頃から2~3年ほど習わせてもらって。その後、中学生の頃にレディー・ガガやケイティー・ペリーが流行って、YouTubeでレディー・ガガのピアノの弾き語り映像を観たんですよ。それでなんとなく真似して歌ってみたら、母や親しい友人から「上手いからやってみなよ」と言われたのが、歌を始めたきっかけでした。
――洋楽が歌を始めた入り口だったんですね。
krage はい。その少しあとに『東京喰種トーキョーグール』のアニメとボーカロイドの楽曲に触れて、日本語の楽曲の良さに気付きました。『東京喰種トーキョーグール』のOP主題歌だった「unravel」(TK from 凛として時雨)を聴いて、「日本語の楽曲ってこんなにかっこいいんだ!」って衝撃を受けまして。なので、王道のポップスにはほぼ触れずに音楽活動を始めた感じです(笑)。
――プロフィールによると、バンド活動をされていた時期もあったとか。
krage 最初はピアノの弾き語りから始めたんですが、高校の頃にDTMも触り始めて、宅録して動画を作ってSNSに投稿していたんです。その時期に「一緒にバンドをやってみない?」と声をかけられて。当時の私は楽曲の作り方もよくわからない状態だったので、ほかの人と協力して活動してみようと思い立ち、そこから3~4年ほど活動していました。そのバンドでは、いわゆる王道のJ-ROCKをやっていて、私はギター・ボーカルを担当していました。
――そうやって活動を行うなかで、音楽の趣味も広がっていったわけですか?
krage そうですね。今もジャンルにこだわらず幅広く聴いているのですが、洋楽から入って、ボカロ、アニソン、激しいメタル系のバンドとかを聴くようになったので、王道のポップスはかなりあとから聴くようになりました。私は昔からキラキラした感じのポップな曲はそんなにピンとこなくて、それこそクラシックピアノを習っていたときも短調の暗い曲ばかり弾いていたんです(苦笑)。その趣味のままここまできた感じですね。
――影響を受けたアーティストはいますか?
krage 高校の頃にAimerさんの音楽に出会って、特に歌の面で影響を受けました。Aimerさんは儚くて哀愁のある歌い方だと思うのですが、個人的にそういう歌い方にグッとくる部分があって。それとバンド活動をしていた時期に、エヴァネッセンスのエイミー・リーさんの歌い方をマネしていたことがあって、その影響もあると思います。音楽性に関しては、色んな音楽を幅広く聴いてきたので、自分でもはっきり影響源と言える方はいないです。
――krageさんの楽曲は洋楽のフレーバーが強い印象だったので、今のお話を聞いて色々と納得しました。
krage J-POPは後々になってから聴くようになったので、洋楽っぽいニュアンスは強いと思います。でも、基本的に陰キャ志向なので(苦笑)、ダークなものであれば何でも好きです。
――先ほど『東京喰種トーキョーグール』の話も出てきましたが、アニメもお好きらしいですね。
krage はい。『東京喰種トーキョーグール』から始まって色々観てきたのですが、それこそ今回の『俺レベ(俺だけレベルアップな件)』の劇伴を担当されている澤野弘之さんが関わっている作品はほぼ観ています。『ギルティクラウン』『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』とか……やっぱりダークな雰囲気の作品が好きですね。たまに味変をしたくなって『このすば(この素晴らしい世界に祝福を!)』とか『はたらく細胞』も観ますけど(笑)。最近は『マッシュル-MASHLE-』もお気に入りです。シリアスなものばかり観ていると気持ちが暗くなってしまうので……(苦笑)。
――澤野さんもお好きなんですね。
krage 澤野さんが劇伴を担当される作品は、世界観が壮大でテーマが重たいものが多いと思うんですけど、その趣味が自分と合っていて。もちろん澤野さんの作られる音楽も好きで、劇伴も含めてより没入できる感覚があるので、好んで観ています。
――澤野さんはAimerさんとも縁が深いですしね。
krage そうなんです!それこそ『機動戦士ガンダムUC』の「RE:I AM」や「StarRingChild」を歌われていた頃にAimerさんのことを知ったので、その2曲はすごく好きで聴いていました。
――それにしても、今回の『俺レベ』のEDテーマ「request」では、TKさんに楽曲提供してもらっているので、krageさんが好きな人たちと一挙にご一緒できた形になりますね。
krage 澤野さんとTKさんは私の中で断トツで大好きなアーティストなので、お話しをいただいたときはめちゃくちゃ嬉しかったです。「request」は今までの私のリスナーからしたら衝撃的な1曲になると思うのですが、それと同じタイミングで『天官賜福 貮』のEDテーマ「春想」も発表できたので、「夏の雪」(TVアニメ『後宮の烏』EDテーマ)でファンになってくださった方にも、色んな私の一面を見せられる素敵な機会になりました。
――『俺レベ』のタイアップのお話しをいただいたときは、どんな印象を受けましたか?
krage ダークファンタジー系の世界観だったので没入はできるだろうなと思いつつ、バトル系の作品と聞いたので「私、合うのかな?」って少し不安でした(苦笑)。そのあとにTKさんが楽曲提供してくださることが決まって、憧れの方からの曲ですし、作品のファンの方の期待も裏切りたくないのですごく力が入りました。
――krageさんはYouTubeに「unravel」のカバー動画をアップされているくらいですが、TKさんの音楽のどんなところに惹かれたのでしょうか。
krage 私は昔から型にはまらないものが好きだったので、「unravel」は衝撃的すぎて。これはマイナスな意味ではないのですが、子供の頃はテレビから流れてくるJ-POPに興味が持てなかったんです。でも、「unravel」を聴いたときに、それまで知っていた概念を壊してくれたというか、「こんな人がいるんだ……!」と思って。
――楽曲を制作するにあたって、作品サイドからはどんなテーマが提示されたのでしょうか。
krage アニメの監督やTKさんとのミーティングに私も参加させていただいたのですが、そのときにお話しされていたのが、作品の内容としては主人公の(水篠)旬くんがどんどんレベルアップしていくお話ではあるのですが、この曲は初期のまだ弱いときの旬くんにフォーカスを当てたものにしたい、ということでした。あくまでも葛藤している気持ちを表現したいっていう。
――制作中にTKさんとやり取りすることはありましたか?
krage サビのメロディをどうするか、最初に2パターン候補がありまして。トップノートが高いバージョンと、もう少し明るいバージョンがあったのですが、TKさんの個人スタジオでレコーディングをさせていただいたときに、「低い声がかっこいいから、サビは低めのトーンで始まったほうがかっこいいかもしれないね」と言ってくださって、今のサビになりました。
――実際に楽曲を受け取ったときの印象もお聞かせください。
krage 旬くんの気持ちが表現されていて作品にピッタリの楽曲だと感じましたし、2番の歌詞に“A”、“B”、“C”、“D”、“E”で始まる現代的な言葉遊びが入っていたりします。私も普段は葛藤しやすい性格ではあるので、不安になったり頑張らなくてはいけないと思ったときに、自分が歌った音源を聴くと鼓舞してくれるところがあって。負けそうな気持ちになったときに乗り越えられるような楽曲になったと思います。
――葛藤しやすい性格ということですが、どんなときに葛藤することが多いですか?
krage 基本的にポジティブな性格ではなくて……昔からダークなものが好きだし、ネガティブ志向だったので自分の言いたいことを思うように言えなかったり、やりたいと思っていることが実現できないときに、自分に対して厳しい目で見ることが多くて。性格的に「まあいいや」では済ませられないなので、そこでギャップが生じて葛藤することが多いです。なのでこの曲の歌詞はすごく刺さりましたね。“劣等よ私を離せ 本能の自分を”というフレーズもすごくわかるなあと思って。
――“本能の自分”を出したいけど出せない部分がある?
krage そうですね。すごく自信があるっていうタイプではないので、少しお上品な感じに振る舞ってしまったりすることがあるんです。私は日本と中国のハーフということもあって、昔から良い思い出ばかりだったわけではなくて、殻にこもりがちというか、本音で何かを語ることに抵抗を感じることが今でもあって。なので「ああ言えばよかったな……」って後悔することがたまにあります。
――この楽曲の歌詞には、自分自身を変えて覚醒を促すような部分がありますよね。krageさんもこの曲を歌うことで自分の気持ちを昇華できる感覚があるのでは?
krage そうですね。言葉を選ばずに言うと、私がポジティブで自信満々な人間だったら、多分この曲を今みたいに歌えなかったと感じていて。私はバンド活動を辞めたときに音楽活動自体も辞めようと考えていた時期があって、気持ちがどん底まで落ちた経験があるし、普段から葛藤したり殻にこもる部分があるからこそ、感情移入してこの曲を歌うことができると思うんですね。私も「強い心」になることが必ずしも正解とは限らないですけど、「弱い心」でい続けるよりは、抗っていきたい気持ちがある。一番好きな歌詞は“劣等よ私を離せ 本当の自分を request”のところで、この部分が私の言いたいことを代弁してくれている気がします。
――きっとTKさんは『俺レベ』のことだけでなく、krageさんのパーソナルな部分も汲み取ったうえで楽曲を制作してくださったんでしょうね。ただ、曲調としては今までのkrageさんの楽曲にはないタイプで、歌うのも苦労されたのではないでしょうか。
krage 今までリリースしてきた楽曲ではこういう歌い方をしていなかったのですが、それこそ私は「unravel」がルーツにあることもあって、YouTubeではアコースティックバージョンで歌っていますけどカラオケでは原曲のように歌っていますし、激しい歌い方ができないわけではなかったんです。なのでkrageの楽曲としては挑戦ではあったのですが、まったく慣れていなかったわけではありませんでした。ただ、全体的に曲の展開が激しいですし、テンポも速くて、低音もありつつ高音はすごく高いので、今までの曲の中では一番難易度の高い曲でしたね。レコーディングのときも、TKさんのディレクションを受けながら、「もっと良い表現ができるはず……」と葛藤しながら歌っていました。
――歌い方でこだわったポイントは?
krage 裏声で高音を当てるポイントとヘッドボイスでパキッと当てるところを細かく分けるようにしました。A・Bメロは割と裏声を使って、サビでは意志を強めにパキッと当てるようにしています。それと最後の“まだ まだ まだ”って繰り返すところは、私がレコーディングのときに力が入ってしまって、3回目の“まだ”が叫ぶような歌い方になってしまって。それを使っていただいたので、偶然ではあるのですが良かったです。
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