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INTERVIEW

2024.02.28

多くのアニメタイアップを詰め込んだ3rdデジタルフルアルバム『カルト』、その中に隠されたsajiの戦略とは?ヨシダタクミ(vo、g)インタビュー

多くのアニメタイアップを詰め込んだ3rdデジタルフルアルバム『カルト』、その中に隠されたsajiの戦略とは?ヨシダタクミ(vo、g)インタビュー

2024年2月28日、sajiの3rdデジタルフルアルバム『カルト』がリリースされる。phatmans after schoolを前身に、2019年7月に活動を開始したスリーピースバンドのsaji。彼らが今回リリースしたアルバム『カルト』はRPGをテーマに制作がされたもの。『ラグナクリムゾン』や『とあるおっさんの VRMMO活動記』の主題歌として使用された アニメタイアップ楽曲4曲を含む計10曲が収録されている。本アルバムの中で彼らが取った戦略とは?ボーカル・ギターを担当するヨシダタクミに話を聞いた。

INTERVIEW BY 北野 創
TEXT BY 一野大悟

ニューアルバムのテーマはRPG

――久々のフルアルバム『カルト』が完成しました。

ヨシダタクミ 1年8ヵ月、思った以上に期間が空いてしまいましたね。その間も楽曲のデジタルリリースがコンスタントにあったので、僕個人としてはあまり久々という感じもしないんですけど(笑)。

――今作はどう言ったアルバムにしようと考えましたか?

ヨシダ 今回のアルバムには近年リリースした楽曲が収録されることが決まってました。それらの楽曲の共通点を考えた時に、僕らの生きる世界とは違う“異世界”を描いた作品のタイアップ楽曲だということに気づいたんですよ。そこから異世界を旅する、いわばRPGのようなアルバムにしようと考えていきました。

――アートワークからもRPGの雰囲気を感じました。

ヨシダ 今回のアートワークはsajiのギターであるユタニ(シンヤ)もデザイン制作に参加しています。メンバー間で「RPGをテーマにしよう」と話をした時に、アートワークはRPGに欠かせない地図にするというアイディアが生まれました。それをもとにこのアートワークが完成しました。細かく見るとタイアップ作品のモチーフが散りばめられているので探してみてほしいですね。

――タイトルの「カルト」にはどのような意味があるのでしょうか?

ヨシダ 「カルト」には元々「紙に何かを記したもの」という意味があり、フランス語では地図のことを「カルト」と言うんですよ。今作のキーワードに地図があることを考えた時、この言葉をタイトルにするのがベストだと感じました。ここに「熱狂的」を意味する日本語の「カルト」が重なり、このアルバムを皆さんが「熱狂的」に聴いてくれているとイメージして制作を進めていきました。

――収録曲に通底したコンセプトはあったのでしょうか?

ヨシダ 考えていたのは、全ての曲に遊び心を持たせるということです。なので今回のアルバム曲はいろいろな仕掛けを加えながら自由に制作をしているんですよ。

――自由さもありながらアルバム全体に統一感も感じました。

ヨシダ それは僕らsaji自体が持っている“軸”からくるものかもしれませんね。僕らは若い層の人たちに届ける歌を作るという“軸”を持っている。それが統一感に繋がったのではないかと。

――改めてアルバム曲に関して順に話を伺っていければと思います。1曲目の「感脳性リベレーション」はTV アニメ『ラグナクリムゾン』2nd OPテーマです。

ヨシダ 僕らとしては珍しい第2クールのオープニング。第1クールを担当したulma sound junctionさんからいかにバトンを引き継ぐかを考えて制作しています。彼らがマイナーコードでアップテンポな曲を作るバンドだったので、僕らもそれを継げるようにハードな楽曲に仕上げました。

――sajiとしては珍しい曲調ですね。

ヨシダ sajiは爽やかな楽曲を求められることが多いですからね。ただ、僕らは元々こういったハードな曲が大好きで、phatmans after school時代には度々作っているんですよ。

――制作はどのように進めていったのでしょうか?

ヨシダ 実はこの曲、アニメのプロデューサーさんを交えて制作をしています。歌詞もオンラインで会議しながら一緒に作っていきました。その中でモチーフとして意識したのが2クール目で描かれるラグナの心理的な葛藤です。

――葛藤ですか。

ヨシダ はい。本作の第1クールではラグナは無双状態にあり、自分1人で戦っている感じなんですよ。ただ、第2クールに入ると仲間の大切さに気づかされ、葛藤しながら戦うようになる。その葛藤を俯瞰視点から見て書いていきました。

――なるほど。制作にあたって心がけたポイントはありますか?

ヨシダ ラグナはいわゆる少年漫画の主人公的な「仲間と共に生きるんだ!」といった哲学は持っていない。それが歌詞に現れるようには心がけましたね。プロデューサーさんと表現を調整しながら作詞を進めていきました。

――サウンド制作において意識した点を教えてください。

ヨシダ イントロをキャッチーにすることにこだわりました。アニメオープニングってそのアニメの顔になるじゃないですか。それに相応しい、耳に残るけれどストレートすぎないサウンドにすることを意識しました。ユタニと話して何パターンか作り、絞り込みながら制作しています。

――数ある候補から現在のイントロが選んだ決め手はなんだったのでしょうか?

ヨシダ 聴いた人に「自分でも弾いてみたい!」と思われるかどうかですね。若い人たちに向けて曲を作っている僕らにとって、楽曲がコピーバンドで弾いてもらえるかどうかは大切な要素。なのでかっこいいけれどテクニカルすぎず、頑張れば耳コピできるイントロを目指して制作しています。

「並いる敵蹴散らし侍」ネーミング秘話

――続いての楽曲は「並いる敵蹴散らし侍」。タイトルのインパクトがすごいですね。

ヨシダ このタイトル、うちのベースであるヤマザキ(ヨシミツ)が考えたんですよ。メンバー全員でタイトル決めをしていた時に出てきたアイデア。気に入ったので即採用しちゃいました(笑)。

――気に入ったポイントはどこだったのでしょうか?

ヨシダ まず何と言ってもインパクトですよね。sajiの曲にはこれまでなかった雰囲気がある。もしもこのタイトルをサブスクで見かけたら再生したくなると思うんですよね(笑)。

――確かに内容が気になるタイトルですよね。

ヨシダ ですよね。そうやって皆さんに聴いていただき、サブスク上で上位に上がるといい。その結果「sajiってこういう曲もやるんだ!」という発見に繋がってほしいと考えました。ある種の社会実験ですよね(笑)。

――そんな綿密な計画があったとは……。

ヨシダ 基本的にはsajiは僕の想像を超えるバンドにしたいので、あまり計画的なことはしないようにはしているんですけどね(笑)。でも今回は色々実験をしてみることにしました。

――超アグレッシブな楽曲ですが、どういったイメージで作られたのでしょうか?

ヨシダ ライブで盛り上がるラウドな曲が作りたかったんですよ。お客さんと一体になって盛り上がれる曲。ただ、歌詞に関してはあまりイメージがなかったと言いますか……。僕が普段思っていることを滔々と書いた感じです。

――ヨシダさんの素の考えが歌詞に表れていると。

ヨシダ そうですね。僕の中には常に「自分の人生は自分の決断で決まる」と言う信念があるんですよ。現状を変えたいなら自分で動くという「決断」をしないといけないし、現状維持なら動かないという「決断」をするべき。その「決断」を他人のせいにしても仕方がない。それをひたすら言葉にしたのが今作の歌詞です。

――タイトルに「敵」という言葉が出てきますが、何か具体的なイメージはあったのでしょうか?

ヨシダ 僕が仮想敵として思い描いたのは「現状」ですね。ただ、このタイトルを考えたヤマザキが何を思って「敵」という言葉を使ったのかはわからない。彼の中には別の仮想敵がいるかもしれません。

――ここから「Magic Writer」と「エチカ」が続きます。

ヨシダ 実はこの2曲は同時期に作ったもの。『とあるおっさんのVRMMO活動記』 の主題歌を依頼いただいた際に2案出そうと思って制作したのがこの2曲なんです。結果「Magic Writer」が採用されました。ただ、僕自身「エチカ」も気に入っていたので今回収録することに決めました。

――「エチカ」も『とあるおっさんのVRMMO活動記』 に寄り添った内容になっていると?

ヨシダ そうですね。「エチカ」は「Magic Writer」と同じく「大人になってからの夢への向き合い方」をテーマに設定している。同じメッセージを別の方向から書いた感じですね。

――両楽曲の違いはどこにあるのでしょうか?

ヨシダ 「Magic Writer」は「大人になってからの夢への向き合い方」をかなり生々しく書いているんですよ。対しての「エチカ」は、夢に向き合う姿勢に優しく寄り添い、優しくアドバイスをするように作詞しています。同世代の人生相談にアンサーするみたいなイメージですね。

――この2曲の間で歌い方にも変化が出てきたのではないでしょうか?

ヨシダ 全然違いました。「Magic Writer」はテンションを抑えて真顔で歌っている。対して「エチカ」は気ままな感じで和やかに歌唱しています。なので「エチカ」の方が聴いた時に爽やかな印象を覚えるのではないかと。

――ここに続くのがケルト音楽っぽい雰囲気のワルツ「月とワルツ」ですね。

ヨシダ この曲は完全に趣味で作った曲なんですよ。アレンジまで自分でやって、途中で使われるピアノも自分で弾いています。

――テーマはあったのでしょうか?

ヨシダ あまり考えていなかったですね。タイアップではない曲を作る時も架空のアニメの主題歌を意識して制作することが多い。ただ、「月とワルツ」に関してはそれすらもありませんでした。強いて思い浮かべていたのは金曜ロードショーのオープニング映像ですね。おじさんが映写機を回している、今とは違う旧バージョンの映像(※1997年から2009年にかけて使用されたバージョンのこと)。あの映像はスタジオジブリ制作で、BGMは久石 譲さんなんですけど、あれをひたすら流しながら作業していたらファンタジックな、現実から乖離した曲を作りたくなってきて。それを形にしたのがこの楽曲です。

次ページ:“愛の円環”をテーマに制作した「Circle」

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