鈴木重厚(Vo.Gr.)、藤原美咲(Vo.Ba)、斎藤翔斗(Dr.Vo.)の3人から成る大阪の3ピースバンド“そこに鳴る”。技巧派と呼ばれる彼らは海外にもファンが多く、国内ライブハウスシーンでは独自の存在感を放ってきた。持ち前の技術とセンスに“アニソンらしさ”が加わった新曲「相聞詩」はTVアニメ『魔女と野獣』のOPテーマ。今回が初のアニメタイアップ曲となる。緻密かつ大胆なテクニックは圧巻で、あっと驚くような展開が続々と訪れるにも関わらず、聴き手を置いてきぼりにしないさじ加減が絶妙。ポップスに根ざした音作りは、鈴木のバックグラウンドに関係があるようだ。リスアニ!初インタビューで曲に対する想いを聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY逆井マリ
──リスアニ!初登場ということで、まずはそこに鳴るの音楽性についてお伺いできればと思うのですが、曲作りの上で意識されていることというと?
鈴木重厚 曲は全部僕が作っていて、どんな音楽かというと……自分が音楽に無関心だった時代に聴いてもとっつけるくらいの、エクストリームなJ-POPを作りたいという想いがあって。バンドとしては突飛なことをやったりはしているんですけど、それが逆にわかりやすさにも繋がっている気がします。それに普遍性を持たせたいなって思っていて……って、ややこしいかな(笑)。
──いえいえ(笑)。“エクストリームなJ-POP”に至った理由について、もう少しお伺いしてもいいですか?
鈴木 元々Every Little Thingさん、Do As Infinityさんとか、エイベックス系の音楽が好きだったんですよ。そのあとから軽音楽部に入ったけど、バンドものになかなか惹かれなくて。そこで良いな、と思ったのが9mm Parabellum Bulletさんと凛として時雨さん(以下、時雨)でした。そういう経緯があって、“エクストリームなJ-POP”に至ったのかなと。
──いわゆる王道のJ-POPも好まれていたんですね。そこはメンバー全員共通するところなんです?
藤原美咲 そこはバラバラですね。私が音楽を好きになったキッカケは井上陽水さんでした。母がTHE ALFEEさんが好きで、そこから音楽を聴き始めて。小学校高学年から自分で音楽を聴き漁るようになってBUMP OF CHICKENさんにハマったんです。そこから「ギターって良いなぁ」と思うようになり、邦楽・洋楽問わず好んでバンド音楽を聴き始めました。ギターとしてバンドをやっていたこともあります。でもあまり上手くいかなくて。バンドを組みたくてもなかなか席がなくて「ギタリストって世の中に溢れているな」と思っていたときに、時雨に出会いました。そこで「ベースってカッコいいな」って。
──元々、“そこに鳴る”は凛として時雨のコピーバンドとしてスタートされたんですよね。そこでギタリストからベーシストに転向されたとか。
藤原 そうです。時雨のベーシスト・345さんに憧れて、ギタリストからベーシストに転向するんですけど……少し話を遡ると、鈴木くんとはmixiで繋がっていて、マイミクだったんですよ。で、鈴木くんの「凛として時雨のコピーバンドのベーシストを探してる」というコメントを見て「じゃあ、ベースやろう!」って突発的にチェンジしました。
──すぐにチェンジできたところがすごいですね。9mmもお好きだったんですか?
藤原 もちろんです。残響(レコード)時代から好きでしたね。
鈴木 我々はその世代なんですよ。
──斎藤さんは少し年下じゃないですか。バックグラウンド的なところはどうでしょう?
斎藤翔斗 僕は高校で軽音部に入ったんです。そこでパンク・ロックがカッコいいなと思って。Hi-STANDARDさん、ELLEGARDENさんなどから入って海外のメロディック・パンク系を掘り下げていきました。locofrankさん、HAWAIIAN6さん、dustboxさんも大好きです。
──最高のラインナップですね。一方、現在YouTubeチャンネルには、『プリキュア』楽曲や『呪術廻戦』主題歌など、アニメソングのカバーもされていますが、アニメにも造詣が深いのでしょうか?
鈴木 僕がアニメ好きで。それこそ『涼宮ハルヒの憂鬱』が中学生のときに放送されていて、深夜アニメストライクな世代なんですよね。『コードギアス』もずっと観ていましたね。それに付随して、ALI PROJECTさんやSunSet Swishさんなどを聴いていました。
斎藤 僕は王道系のアニメが好きですね。
藤原 私は熱心に1つの作品を見ていたというよりは、アニメから派生したカルチャーに興味があって。それと、アニメ好きの姉の影響で、ディープなアニソン、キャラソンはよく聴いていました。このバンド自体、昔から「アニソンっぽい」と言われることが多いんですよ。でも実際にはアニソンではなくて。早くアニソンにしてもらいたいなという気持ちはずっとありました。
──確かに、私も「アニソンっぽいな」と思っていました。
鈴木 僕がアニソンが好きだから、ってところが大きいのかもしれないですね。特に2010年代あたりのアニソンのフォーマットはめちゃくちゃ時代の先を行っていたと思っています。今でこそ、展開が早い、曲が短い、って当たり前のようになってきていますけど、それはアニソンが走りだったように思います。良い意味でメロもあざとくて、すっきりしていて。
藤原 アニソンは89秒で完結させなきゃいけないから、必然的にそうなりますよね。私もそういうところが好きですね。
──初のアニメタイアップが決まったときのお気持ちというのは?
藤原 グループLINEにレーベルの古閑社長(KOGA RECORDS)から「おめでとうございます、決まりました」と、ぽんっと詳細がきたんですよ。「嘘やろ?ほんまに?」って。
鈴木 誰も信じてなかったです(笑)。実は以前にも、そういう話があったんですけど、あっては消え、あっては消え。だからこそ余計疑心暗鬼で「実際に流れるまで信じないぞ」と。
藤原 内心、めちゃくちゃ嬉しかったですけどね(笑)。ついにきた、と。
──そのときにはすでに「相聞詩」はあったんですか?
鈴木 いえ、その話をもらってから、原作を読んで一から作っていきました。
──では、佐竹幸典先生による原作『魔女と野獣』を読まれたときはどのような印象がありました?
斎藤 僕はぶっちゃけ、一周目は「難しいな」って思ったんです。でもすごく絵が綺麗で、繊細な描写が多い。これは一周読んだだけじゃわからんなと思って、読み直して考察していきました。噛めば噛むほど、面白さがわかっていった印象です。
鈴木 それでいて古風というか、文学的というか。説明がないから、一周だけだとわからないことにトラディショナルな良さを感じました。昔のアニメっぽいというか……「あとはあなたたちに任せますよ」って。
──文学的という言葉がありましたが、そこから万葉集の部立の1つである「相聞」という言葉も閃いたのでしょうか。
鈴木 むしろ今、「文学的」という言葉を閃いたのでそこは関係はなくて(笑)。でもタイトルって内容の要約なので……ギドとアシャフの絆を一言で表せる何かってないかなと探し尽くして、やっと見つけた言葉でした。それと、古い歌集の空気感とニュアンスは近いのかな、という感覚もあったのかな。
──曲作りについてもぜひ教えてください。
鈴木 結構時間がかかっていた気がします。89秒で、中世ヨーロッパ的な空気感、ロンドン辺りの暗い色彩のイメージが浮かぶような進行にして。アニソンなので、跳躍のあるメロにしたいな、とか考えながら作っていきました。ある程度制約があったほうが曲を作りやすいんですよね。
──主題歌を作るのに向いてる、って言われませんか?
鈴木 めっちゃ言われますね(笑)。言われるんですけど、テーマを先に決めても自分の癖の強さが出てしまうタイプです。
──最終的に自分らしさが出るって最高じゃないですか。では時間が掛かった、という理由は……。
鈴木 歌詞にも時間が掛かったんですよね。東京で、5日間中3日間ライブします、みたいな時期があって。その空き日に朝から晩まで歌詞を書いていました。当たり前ではありますけど、作詞って音に言葉にハメないといけないじゃないですか。でも、ハマる言葉って都合が良くなくて。かといって、歌詞に合わせてメロディーを変えるのは嫌なタイプなんです。だから一生言葉を探し回るような感じでした。
──結果的に素晴らしい言葉がハマっていて。藤原さんと斎藤さんは、曲を聴いたときにどのような印象がありましたか。
藤原 最初にアニメサイズのアレンジのものが届いたんですが、アウトロのアコギでハッとさせられました。「こうくるんや!」って。
鈴木 脈略がないもんね(笑)。
藤原 そう、でもそれが面白いなって。そこに鳴る節がアニメ主題歌というフォーマットに乗せているところが良いなと思いましたね。
斎藤 僕は「やったったなー!」って思いました(笑)。本当にアニメ主題歌になるのか疑心暗鬼になっていたけど、デモが送られてきて「あ、ほんまにアニメの主題歌を歌えるんだな」という高揚感もありましたね。いつもデモでは、鈴木さんがドラムの打ち込みを入れてきてくれるんですけど、鈴木さんはドラマーではないので、ドラマー的な感覚ではないフレーズがあるんです。それが自分だとは生み出せないもので。特にBメロの“きっと糸は張った”から始まるフレーズは、きっと自分からは出てこなかっただろうなっていうドラムフレーズで、とても気に入っています。
鈴木 そうやったんや(笑)。
──手数も多いですが、レコーディングはどうでしたか?
斎藤 難しい曲なのでいつも大変なんですけど……普段はデモに忠実にやりつつも、自分のやりたいことも織り交ぜつつなんです。でも今回は「忠実にやろう」と、自分の中で考えていました。スタイリッシュなドラムに仕上がったんじゃないかなと思っています。
──藤原さんのベースのフレーズも、デモに忠実なのでしょうか?
藤原 デモの段階で鈴木くんが作り込んでいます。私が手を加えているところというと、音作りの部分になるんですが……普段であれば音のキャラクターを変えるときにエフェクターをいじるんですけど、今回はピックの硬さを使い分けることで音色を変えていきました。硬いピックを使うと高い音の成分が出やすくなるんですよね。反対に指弾きや柔らかいピックにすると、低音の成分が多くなります。ピックを変えることで、バンドアンサンブルの音の出方が変わってくるので、今回はエフェクターをやすやすと使わず、大人なプレイングを意識していました(笑)。フレーズごとに変えていますね。
──鈴木さんが今回のレコーディングで挑戦されたところはありますか。
鈴木 ずっとアンプに悩んでいたんですよ。ギターの音色が微妙に詰めきれんな、と。今回の「相聞詩」ではずっと使っていたアンプからFenderに変えて。「闘争を継ぐ」(2023年3月デジタルリリース)という曲だけフェンダーのアンプで録ったんですけど、しっくりこなくて。結果、Fenderをメインのアンプとして使って、MORGANをスピーカーとして使うのが、バンド的にハマってるように思いました。やっと定まりましたね。
──ギターの音色でメロの印象も変わりますものね。曲の完成を経て、さらにはアニメのオープニング映像を見たときは皆さんどのような反応だったんでしょう?
鈴木 自分の声が聴こえた瞬間に「え、なんで?」って。ほんまやったんやと(笑)。アニメーションならではの絵もすごく綺麗でした。
藤原 めちゃくちゃ感慨深かったですね。大阪はリアルタイムでは放送がやっていないので、最速の放送がその日の深夜2時からの配信なんですけど、手に汗を握りながら見ていました。
斎藤 僕も深夜2時に「うわっ!」って声が出ましたね。「ほんまやったんや!」と1人で叫びました。
──疑いがやっと晴れて(笑)。MVには様々な国の言語でメッセージが寄せられています。あのMVはどのように撮影されているのでしょうか?
藤原 今回初めてTakuya Oyama (VANLI)さんにお願いしたんです。今までの私たちのMVの撮り方とは結構違っていて、「ここはこういうカットを使う」というのを決めたうえで、私たちからすると最低限のテイクで進めていきました。サビはCGですけど、鏡に映ったメンバーが出てくるシーンでは、実際に鏡を割ってそれに反射させて撮影するという、最新の技術と撮影のアイデアとが存分に詰め込まれていて「すごいな」って思いながら撮っていました。勉強にもなりましたね。
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