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INTERVIEW

2024.02.10

『映画 ギヴン 柊mix』syhが紡ぐ「ストレイト」「パレイド」、飾らない言葉を届ける「スーパーウルトラ I LOVE YOU」に込めた想い――センチミリメンタル×今井文也 スペシャル対談

『映画 ギヴン 柊mix』syhが紡ぐ「ストレイト」「パレイド」、飾らない言葉を届ける「スーパーウルトラ I LOVE YOU」に込めた想い――センチミリメンタル×今井文也 スペシャル対談

キヅナツキが描く青春群像劇『ギヴン』がアニメ化されたのが2019年7月のこと。バンドが軸となるボーイズラブ作品である本作のアニメで、「冬のはなし」をはじめとしたバンド・ギヴンの楽曲を手がけ、OP主題歌「キヅアト」を歌ったセンチミリメンタルが、現在公開中の『映画 ギヴン 柊mix』でも主題歌「スーパーウルトラ I LOVE YOU」、そして劇中に登場し、実際に2月21日にシングル「ストレイト/パレイド」をリリースするバンド・syhの楽曲制作も担当。

今回はセンチミリメンタルの温詞と、syhのボーカル・鹿島 柊を演じる今井文也の対談をお送りする。インディーズからメジャーへ――高校生バンドながら階段を上るsyhの音楽について、そして『ギヴン』から放たれる音楽について熱く語り合う。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

プラスの感情もマイナスの感情も突破する柊の歌

――作品に関わられるようになって約5年。今、改めて『ギヴン』の印象をお聞かせください。

温詞 僕はバンド・ギヴンの楽曲制作担当として入って、それから主題歌もセンチミリメンタルとして歌わせてもらったのですが、本当にずっと、一体となって歩みを進めてきた大事な作品です。今回も『映画 ギヴン 柊mix』として作品の新しい部分にスポットが当たる回に、それもsyhという新しいバンドの音楽がステップアップして広がっていく展開に関わり、一緒に歩めることにワクワクしました。楽しみながら制作に挑めました。

――今井さんはいかがですか?

今井文也 OADのアニメ収録以来久しぶりに収録させていただいたのですが、柊としてここまで長くしゃべるのは今作(『映画 ギヴン 柊mix』)が初めてだったので、また新しく柊を深堀り出来ることが嬉しかったですし、そういう部分が5年前との力の入れ具合の違いとしてあったのかなぁ、と思います。TVアニメがスタートした当時は、アニメの現場もそれほど知らない状態だったので。現場の空気に馴染むことに苦労した思い出があるので、そういうところからより繊細な、緻密な人間関係の作業が出来るようになったのは、この5年の変化かなと思います。

――温詞さんからご覧になって、今井さんの演じる柊はどのような印象がありますか?

温詞 今井さんの持っている天性の、人間としての輝きというか、オーラみたいなものは柊に通じるところがすごくあると思いますし、音楽面で一緒にやれたこともすごく嬉しかったです。今までは作中で柊の歌が出てくることはなく、僕が作った音楽を歌ってもらうような機会はなかったので、今回一緒に協力をしながら携われたことを嬉しく思います。今井さんは、なるべくして柊という役に出会った人ではないかなと思いますね。

今井 嬉しい!

――今井さんご自身も様々な音楽コンテンツに関わられていますが、温詞さんの音楽の印象はいかがでしたか?

今井 ギヴンの音楽を初めて聴いたときから、すごく独特の空気感を感じていました。コンテンツの楽曲として同じ方が作曲していると言っても曲ごとに違う顔を見せるものもありますし、もちろんギヴンでもどの曲も違った個性を持っているのですが、一貫して『ギヴン』の世界観の中の楽曲であることが“芯”となっているのが魅力的ですごいなぁ、と。それはTVアニメでも映画でも。今回syhというバンドの楽曲が新たに書き下ろされて描かれるということで、どんな曲になるのだろう、と楽しみにしていました。いざ自分で歌ってみて、「なるほど、syhとギヴンの違いはこんなふうに出てくるんだな」ということを、現場で、肌で感じました。

――syhのボーカリストとして歌っている立場として、ギヴンの楽曲はどのように受け取っていますか?

今井 寂しさとか悲しさだったり、負の感情を溜めて放っている、というのがギヴンの楽曲の印象としてすごく強いです。もちろん最終的にプラスの感情に繋がってもいくのですが、それでも曲を聴いていると、そのときの悲しい感情や寂しさみたいなものがこちらにも伝わってくるな、ということをギヴンの楽曲からは感じますね。syhの楽曲にも、プラスの感情もマイナスの感情もあるのですが、そこを突破するようなイメージが強いんじゃないかな。ここからどんどん色んなところに広がっていくような勢いや力がギヴンとは違うところなんじゃないか、ということは歌いながら、聴きながら思っていますね。光と影とまでは言わずともコントラストとして出ているような感じがして、違いが楽しめるのではないかと思います。

――温詞さんがギヴンとsyhの楽曲を作る際に意識するのはどんなことなのでしょう。ギヴンは大学院生・大学生・高校生の混合バンドですが、syhは完全に高校生バンドですし。

温詞 若さゆえの突き抜けやパワー感、テンションの高さをsyhのサウンドでは意識しています。もちろんキャラクター性もありますし、年齢的なもの、それに3ピースという編成の問題もあって、syhのほうがテンション感や感情が外向きなアウトプットで作っていますね。逆にギヴンは内向的というか、感情を内側に内側に掘っていったものをバーンと外に出す感じなので、「内と外」とで差は出ています。

――syhのギターは、ギヴンの立夏が弾いています。その部分では音にこだわりはありましたか?

温詞 ライブハウス界隈で仲の良い人たちや関係値のある人たちでバンドのサポートをするのはよくある話なので、サポートであっても「お仕事です」みたいな感じにはしたくなかったんですよね。ライブハウス界隈の「サポート頼むよ」みたいな感覚の延長線上でやってほしかったので、サポート然としてもらうよりもメンバーくらいの空気感で迎え入れられて、そのなかでやっていくような関係性を音でも表現したいという気持ちはありました。

技術で見せるより、想いを真っ直ぐに歌う柊の歌唱

――そのsyhの楽曲の中心にある柊の歌唱。どのように作っていかれたのでしょうか。

今井 普段はダンスユニットやアイドルユニットで歌うことが多くて。そういう時は歌の中でもプラスで「ここはキメるぜ!」という表現が多かったのですが、今回はバンドマンのキャラクターで、歌うのもバンドの曲なので、抑揚やビブラートといった技術で見せる表現よりは、想いを真っ直ぐに吐き出しました。しかも高校生という多感な時期のボ-カルということもありますし、そういうところで変に上手く歌おうとするのではなく、気持ちで歌うことを強く出したいな、と。原作を読んでいると、歌がすごく上手い、そして華がある、と表現されていますし、「もっとこういうところで、こんなふうにニュアンスをつけたほうがいいんじゃないかな」とか色々考えていたのですが、現場で「これ、良いかも」と思ったのは、真っ直ぐな歌い方だったんです。変に色々と考えずにストレートに出す歌い方がハマりましたし、(温詞さんと)お互いに「この歌い方が良いかもね」となりました。それで最終的には真っ直ぐに歌うことを念頭に、2曲とも歌いましたね。

――温詞さんはどういったディレクションを?

温詞 まずは柊の持つ真っ直ぐさや純粋さを表現したかったのですが、それに加えて良い意味でのナルシストさというか。自分にちゃんと酔いしれて、そこに乗っかって歌を楽しんでいけることを出したいと思いました。自分の歌にちゃんと乗っかったうえで酔いしれることができるのは才能だと思いますし、その空気感を出したかったという狙いがあって。今井さんはすごく歌も上手だったので、これならその表現を狙っていけるんじゃないかなとレコーディング当日に感じたので、そこに向けて2人で探り合いながら作っていった感じですね。

――そしてsyhの「ストレイト」「パレイド」が完成しました。「ストレイト」はギヴンも挑戦したコンテスト・CAC(カック)で優勝した際に披露した楽曲、そしてメジャーデビュー曲としての「パレイド」。インディーズ時代とメジャーでの楽曲の違いはどのようにつけられたのでしょうか。

温詞 インディーズ時代の代表曲である「ストレイト」は、ライブオーディションで披露して評価を得た、ということも加味したうえで高校生であることの真っ直ぐな青さや、技術を見せびらかしたり「もっと見てくれ!」と言わんばかりの、大人たちが制限をかけていない解放感だったりを出したかったので、一番のサビが終わったら途端にベースソロに入って、長い間奏に突入するところもライブでいかに盛り上がるか、何を見せつけたいのかが出ている部分だと思うんです。それがひとしきり終わったところで歌に戻ってくる。コンパクトでありながらやりたいことを詰め込んで、「俺の“カッコいい”はこれです!」というものを、売れるとか売れないとかビジネスとか全部フル無視で追求した曲であることを念頭に置いて作っていますね。

――「パレイド」はいかがですか?

温詞 「パレイド」は一転して、元々バンドの持つ衝動感や華やかさ、勢いを残しつつ、自分がサウンドプロデューサーとしてsyhの子たちの面倒を見ることになったら、「ストレイト」みたいな曲をデビュー曲としてリリースさせられないなと思ったので、ちゃんと落としこんで、展開をつけながらもポップスとしてちゃんと完成するものを意識しました。でも、きっとそうしたとしてもあの子たちなら飲まれすぎずに抗ってくるところもあると思うんです。大人に整理整頓された場所と、でもそこに「自分たちの“カッコいい”はこれだ」と提示してきたことで、良いぶつかり合いを通して完成したという空気感が出せたらな、と思って表現、制作しました。

――そこの違いがしっかり音に出ているのが、より胸が熱くなりますね。

温詞 メジャーデビューするとこういう音が入るよな、とか、曲って整理されるよなっていう部分はありますよね。アレンジャーとしてプロの作家が入ってくることもありますし。アレンジサウンド然り、変わっていくアップデート感は表現したかったですね。

――今のお話を聞いて、どんなことを感じられましたか?

今井 MVを撮るシーンのときに、それまでは“THE高校生”のバンド感があったところから紆余曲折あって大きくなった感覚があったんですね。音の面でも「ああ、なるほど」と思いました。syhの奏でる音が、仕事として音楽に携わっていき、プロになっていくとこんなふうに洗練されていくんだな、と試写会のときにも思ったんです。それがストーリーとして、キャラクターたちの成長とも繋がって描かれてもいたので、そのリンクも見ていて面白かったです。自分で演じているはずなのに、劇場で見ると音からも色々な情報を受け取ることができました。

――柊の歌唱で違いをつけたところはありましたか?

今井 気づかぬうちについていましたね。それこそ出来上がったものを聴いたときに感じました。やっぱり「ストレイト」と「パレイド」の間にある物語が、高校生にとってはデカいことが起きてもいますから、そこの心の整理じゃないですが、その成長感は自然と歌のトーンや歌い方として変化が出ていて。当然「映画の、こういうところで使われるだろうな」と多少は想定してはいたのですが、思った以上に出ていたので、見てくださる方も、ハッとされる方はいらっしゃるだろうな、と思いました。「あれ?俺、こんなに差をつけたっけ?」っていうくらいわかりやすく変わっていたので、意外でしたね。単に明るく、という一言では表せないような、人間的なちょっとした成長は自分の中でも意外でした。

――お芝居の変化はありましたか?

今井 syhは今作で深堀りをされていましたが、OADのときからCACで賞を取ったり、柊たちも人気があるということは節々で描かれたりもしていたので、映画の冒頭のところからバンドマンとしての成長を意識して演じたというよりは、そもそも持っているものが割と重い感じだったのでその辺りは変わらず作っていたかと思います。元々持っている柊の覚悟といいますか。立夏からデビューすることに「葛藤はなかったのか」と聞かれたときも「そりゃ、ないよな」という気持ちで僕も読んでいたので。そこで「こういう気持ちで臨んでいるんだろうな」という読み解きをした感じではなかったかもしれないです。当然その程度の覚悟はあるし、と僕も思っていましたし、それは過去の自分が「声優になる」と決めたときのテンション感とも似ているような感じがしたので。お芝居についても迷いはなかったです。

――実際に原作で読んでいた世界が動き出して、音がつき、syhの曲が響く。それをご覧になっていかがでしたか?

温詞 「ストレイト」は、CACというオーディションで賞を取って、ギヴンを打ち破り、その上に立った楽曲で、最初は「どうしよう」と思っていました。ギヴンがオーディションに書き下ろした「夜が明ける」が負けちゃっているわけですから。あの曲もすごく力のある曲でしたし、想いもたくさんこもっている。その曲を打ち破る曲ってなんなんだろうって、僕の中でも最初は完成乩が見えなかったんです。どこに落としこもうというのは苦労しましたが、結果今の形で完成して、映画として観て、聴いたときに「だからこのバンドがオーディションで勝ったのか」というストーリーが見えたので良かったです。「パレイド」は原作では詳しく登場しない部分に作られた「MV撮影」というエピソードでの曲だったこともあり、より自由度の高い状態で挑めたので、純粋に楽しかったです。syhというバンドをプロデュースさせてもらった、という1人のプロデューサーとして楽しませてもらえました。

今井 原作の『ギヴン』も不思議なもので、あまり止まっている感覚がないんですね。躍動感もありますし、ほかのマンガと比べてもキャラクターたちが生きていることを強く受け取れる作品だと思う。原作は原作で独特の時間が流れていますが、アニメはアニメで、特に音や心情描写を「アニメとして見せる」という手法にこだわっているんですね。それに今作はゆっくりとお話が進むので、そこの余白をどう見せていくか、というこだわりはとびぬけて面白く描かれているなと思います。

次ページ:ただただ真っ直ぐな柊のモノローグが呼んだ「スーパーウルトラ I LOVE YOU」

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