INTERVIEW
2024.02.02
――曲が完成したときに、驚いたものはありました?「こうくるのか」みたいな。
斎藤 全部インパクトがありましたけど、個人的に好きな曲を挙げるなら、修学旅行のための曲(「センチメンタル修学旅行」)ですかね。
神前 ELOみたいな曲ですね。
斎藤 そうそう。明るいんだけど、修学旅行って終わったあとは寂しいじゃないですか。その寂しさも表現されていて、すごく良いメロディだなと、当時はもちろん今でも感じますね。あとは、「かなたのテーマ」は印象深いです。
――神前さんは特に思い入れのある曲はありますか?
神前 「らっきー☆ちゃんねるのテーマ」が印象的というか、楽しかったですね。イントロからテンション爆上げの感じが、映像のテンション感と面白いハマり方をしたなと。
斎藤 のちに歌になった曲ですね。「かなたのテーマ」もそう。この2曲がたまたまだけど、『らき☆すた』の劇伴はどれもメロディがしっかりしてるので、歌モノにしやすいんですよね。
神前 「フンフンフン♪だよ、らき☆すた」も非公式で「らららこっぺぱん」なんて歌詞をつけて歌われてましたしね。「フンフンフン♪だよ、らき☆すた」といえば、ランティスの伊藤さんに日常系の劇伴のデモをたくさん作って聞いていただいたとき……あの人、すごい勢いでデモを聞かれるんですよ。曲の頭をちょっとだけ聞いたら、すぐに飛ばす。そうやってバーっと流していくなかで、「フンフンフン♪だよ、らき☆すた」の元になったデモをいきなり「これ!」と選ばれた。すごく聴く耳があるんだなって、驚かされたんです。
斎藤 確かにデモを聞くの早かった。持っていく側としてはサビまで聴いてほしい曲でも、Aメロで判断されてしまう。でも、その曲を世の中に出してみると、その判断が確かに当たっているのでこちらとしてはぐうの音も出ない。
――すごい話です。しかし今のお話だと、『らき☆すた』の劇伴の代名詞的に思い出されるあの1曲が、神前さんの中ではあくまでそのとき用意したたくさんの候補の1つ、快心の作品だったわけではなかったと。
神前 そうですね。すごい編成の薄い曲ですし、あれを自信をもって「これがメインテーマです!」って言えるような見通しの良さや計画性は、当時の僕にはなかったですね。今にして思えば、ああいう音の薄さ、ピアノだけだったりファゴット1本だったりするような極端に記号的な感じが、『らき☆すた』の等身の低いキャラクターの感じには合ってるなって気はします。僕が用意していたデモ、全体的にもう少しリズムの多い曲だったんです。
――制作スケジュールは潤沢だったのでしょうか?
斎藤 量はあったけど、スケジュールは普通かな?
神前 『らき☆すた』は始まるまでは普通だったんです。でも、始まったあとの追っかけで作る曲の多さと、あと途中で発生した大量のキャラソンの仕事。キャラソンは全部を書いたわけではないですけど、それでも劇伴とキャラソンの並行が結構ハードだった記憶があります。
――キャラソンが多かったのはどうしてだったんですか?
斎藤 あれは作品がヒットする予感がした段階で、キャラソンを出してちゃんと作品の世界を広げるべきだし、売り上げも立てるべきだしっていう、社会人としてはすごくまっとうな考え方でやったまでです。CDがよく売れていた時代でもありましたからね。いけると思ったら、いけるところまでいこうぜ!っていうのが、当時のレーベルの想いだったんです。
神前 そうですね。「ガンガンいこうぜ!」な雰囲気でした。元々オープニングの映像がすごくキャッチーでしたし、最初からヒットする予感がなかったと言えば嘘になる。オープニングはすごいものが出来たなと、自分でも思っていました。でも、アニメ全体があそこまでの盛り上がりになるのはちょっと予想外でしたね。びっくりしました。
斎藤 日常の何でもない会話を軸にしているアニメで、『ハルヒ』みたいなドラマチックな展開がたくさんあるわけじゃない。だから、良いものになってる自信はみんなあったと思うんですけど、どのくらい跳ねるのかはわからなくて。オープニングは跳ねて良かったんですけど、物語は基本メインキャラクターの4人がただしゃべってるだけですから、「視聴者の反応はどんな感じなんだろう」って思いながら、最初のうちは少し客観的に見ていたかもしれません。「いけるぞ!」って感じになったのは、途中から。
――今ではもう、ファンだったとか、影響を受けた方がアニメ・アニソン業界に入られているのでは?
斎藤 神前さんの周りにはたくさんいるんじゃないですか?
神前 最近それくらいの世代の方が30歳ちょい上になって、発注する立場になられてますね。「『らき☆すた』見てました。あの曲みたいにしてください」というオーダーが増えています。
――言われると、ぶっちゃけどういうお気持ちになるんですか?
神前 「絶対そうはしないぞ」です(笑)。
――やっぱり(笑)。
神前 でも、言ってくださること自体はありがたいので、『らき☆すた』で感動していただいたのと同じくらいの感動というか、手応えのある良い曲を作ろうとは思いますね。やる気が湧きます。
斎藤 いちスタッフとしては、17年前に『らき☆すた』を好きでいてくれた人と一緒に仕事をすると、たくさん息子や娘が生まれた感じがするんですね。仲良くなりやすくていいな、仕事がしやすいな、と思ってます。
――お二人はその後も幅広くお仕事を手がけていらっしゃいますが、振り返ってみて、『らき☆すた』の現場を経たことで得られた、その後のお仕事をするうえで役立っているものは何がありますか?
神前 無茶なオーダーでも何とかするスキルは身についたなというのと、主題歌から劇伴までやらせていただいたことで、1つ名刺代わりといいますか、「『らき☆すた』の人ね」ということで他所のメーカーさんとかからもご指名をいただくようになって、非常に仕事の幅が広がるきっかけになった作品でもありますね。
――『らき☆すた』の仕事をしたことで、音楽的な引き出しが増えたりは?
神前 「増えた」というよりは、「そのとき持てるものをすべて投下した」のが『らき☆すた』という感じです。自分でも意識していなかった引き出しまで、全部開けさせられた(笑)。
――30代前半の神前さんのすべてがここに注ぎ込まれているんですね。斎藤さんはいかがですか?
斎藤 僕もめちゃくちゃな提案を受け止められるようになりましたね。KADOKAWAの伊藤プロデューサーが本当にはちゃめちゃで、ロケハンの手配をしたこともあるんです。現地までの旅行のチケット手配から、ロケバス手配から、全部やりました。白石 稔くんの出ている実写エンディングの撮影に北海道に行くプランがあったんですよ。この一部手伝いをする話は元々あったんですけど、「エンディングは音楽の担当箇所なので、斎藤さんが担当してください」と言われて。僕は当時NOと言えない人だったので、「わかりました!」って言って、全部の行程を手配しました。ほかにラジオ番組も作ったし、神前さんも大変だったんですけど、制作の我々も大変だったんです(笑)。その裏で大量の楽曲制作もあって、とにかく物量を乗り切るスキルが身についた。
神前 やっぱり、それにつきますね。
斎藤 今でもそうなんですけど、以降何か大変なことがあっても、「『らき☆すた』と比べたらマシか」って思える。この現場で、すごく強くなれた気がします。一番体力もあった時期ですし、KADOKAWAの伊藤さんも尖ってましたから。それを全身で受け止めているうちに鍛えられたかな。「タイガーマスク」の虎の穴みたいな感じだったのかもしれません(笑)。
神前 あの頃の伊藤さん、すごかったですよね。キレッキレでした。
斎藤 やることを全部を当ててくるヒットメーカーでしたね。ただ、メンバーへのオーダーはそのぶん、とんでもない。
神前 悪ノリが大好きな方なので、「これ、面白くない?」みたいな形で、ネタが大量投下される。
斎藤 当時の伊藤さんのキレキレ具合と比べると、その後お仕事をご一緒させていただいたどの方もソフトに思えます。これは褒め言葉と受け取ってほしいんですが(笑)。
――それに斎藤さんもかなり悪ノリするところではしていて、OSTの曲のタイトルとか、どういうテンションで考えておられたんですか?
斎藤 それこそ、「悪ノリをしよう」っていう伊藤プロデューサーの大命題を受けて、一生懸命ふざけて書いたんですよ(笑)。曲を聴いて、「フンフンフン」とか「ランランラン」はなんとなく「『らき☆すた』っぽいな」と思って付けて。「~だよ、らき☆すた」のシリーズは、ふざけてて、真面目な人から怒られそうなのがいいな、と。あえて奇をてらわずにふざけているタイトルですね。一番奇をてらってるのは、多分「マッシー&マーロー」ですよね。当時、奥田民生さんの「マシマロ」という曲がヒットしていたんです。それとリズムが似てたので、このタイトルに。
神前 確かに、17年経った今だとこれが一番わかりにくいかもしれないですね(笑)。
斎藤 そしてタイトル付けに困ったら「暁」や「サトル」をつける法則。
神前 僕絡みで言うと、「1974」って単に僕の生まれた年なんですよね。「1942」ってゲームのパロディ曲なんですけど。これは一切僕は口を出していません(笑)。斎藤さんがお付けになられたものです。
斎藤 そうです。タイトルの全責任は私にあります。でも本当に、これは集中して、頑張って付けたんですよ。滑っているかもしれませんけど、ちゃんと悪ノリをしようっていうアニメの全体の大テーマに則ってやったまでです。
神前 そういえば、DVDに付属したOSTのとき、僕、ブックレットに全曲解説を書きましたよね?
斎藤 そうですね。それも伊藤プロデューサーの案でした。
神前 しかも「音楽雑誌のレビュー風にすごく真面目な文章を書く」っていうネタで。
斎藤 題名はふざけてるけど中身は真面目、そのギャップが面白いんじゃないという判断でした。皆さんに伝わったかはわからないですけど、やってる我々は面白かったなぁ。
――全身全霊、真剣な悪ノリ。どこをとってもそういうお話が飛び出す作品なんですね。それでいうと、冒頭でも話題にあがりましたが、2月にはオケコンが控えている。これも相当ですよね。お話しできる範囲でいいのですが、どのようなイベントになりそうですか?
斎藤 『らき☆すた』の劇伴、日常系劇伴はほとんどやります。1部2部に分かれていて、1部は日常系劇伴主体になって、2部は組曲「らき☆すた動画」というメドレーがあるんですが、あの15分あるMEGAMIXをオーケストラで演奏します。
――それはすごい!
斎藤 組曲「らき☆すた動画」は、当時ニコニコ動画で「組曲」と呼ばれる動画のシリーズがすごく流行っていて、それに負けたくない!と思って公式が頑張った仕事だったんです。オーケストラでやれるのかな?と思って譜面を作る人たちに見せて聞いてみたら、「出来ます」といってくれたので、やってみることにしました。まだデモしか聴いていませんが、良いものになりそうですよ。
神前 へえ!僕はまだデモは聴いてないんですけど、それは楽しみですね。
斎藤 司会が白石くんと今野宏美さん、「らっきー☆ちゃんねる」の2人なので、あの番組風でふざけながらやってもらおうかなってチームでは今話してまして。面白いはずなんです。当時の映像も一緒に観れますし。
――17年経っても『らき☆すた』はそういう凝ったことをやる作品で、変わりないですね。
斎藤 正直なところを言えば、もうちょっとチケットが売れてほしい(笑)。場所がちょっと遠いかもしれませんけど、久喜市でやることに意味があるんです。なかなかない経験をすると思って、ぜひ、足を運んでいただけたら嬉しいです。
神前 僕もゲストで、トークに参加します。ぜひ同窓会気分で、みんなで集まって、お祭り騒ぎしましょう!
●リリース情報
TVアニメ『らき☆すた』オリジナルサウンドトラック
発売中
品番:LACA-19018~9
価格:¥3,850(税込)
<Index>
▼disc – 1
1.フンフンフン♪だよ、らき☆すた
2.フンフンギターだよ、らき☆すた
3.南国風ですが、何か
4.スキップスキップだよ、らき☆すた
5.いつもの感じ
6.ランランラン♪だよ、らき☆すた
7.軽やかだよ、らき☆すた
8.こなたのテーマ、普通バージョン
9.こなたのテーマ、インドバージョン
10.こなたのテーマ、沖縄バージョン
11.お正月だよ、らき☆すた
12.マッシー&マーロー
13.楽しく元気の良い曲を暁先生が作りました
14.愉快だね、らき☆すた
15.タッタタカターだよ、らき☆すた
16.うんちくだよ、らき☆すた
17.ぶっぶぶっぶぶーだね、らき☆すた
18.ドライブだよ、らき☆すた
19.切なき時間
20.平和だな、らき☆すた
21.1年生はフレッシュだねぇ
22.新しい風
23.ゆたかのテーマ
24.みなみのテーマ
25.パティのテーマ
26.ひよりの妄想
27.かがみキュン
28.かがみだけ違うクラスになっちゃった…
29.イライラかがみん
30.かがみの初恋
31.柊四姉妹
32.かなたのテーマ
33.センチメンタル修学旅行~ちょっと速い~
34.センチメンタル修学旅行~ちょっと遅い~
35.センチメンタル修学旅行~奈良っぽい~
36.海ですなぁ、海ですねぇ
37.爽やかな友情
38.体育祭ですよ
39.つかさのヘッポコハードル競争
40.文化祭は準備が一番楽しい
41.ずっと文化祭の準備をしていたい
42.らっきー☆ちゃんねるのテーマ
43.次回予告だよ、らき☆すた
▼ disc – 2
1.ハレ晴レユカイ(こなたの着メロ)
2.ゲーセンでキャッチだね、らき☆すた
3.歯医者をねらえ!、暁ふんばった
4.Gravity(TV size)
5.怪談の恐怖
6.ぎゃああああああああ
7.これでエンヤ、暁の苦悩
8.マリヤ様がみてるかもしれない
9.パッヘルベルのカノン(つかさの着メロ)
10.つかさのリコーダー演奏
11.かがみのリコーダー演奏
12.1974
13.めぐりあうかもしれない
14.掲載、それは感動
15.戦場の有明
16.ずっと暁のターン
17.最後の答えで良いですか?
18.ビールのCMっぽい曲を作ってみた
19.エルガムイ
20.ライジレーサー
21.爆弾くんランド
22.サトルと巨像
23.そうじろう変身!
24.本当に怖い家庭の医学
25.24時間
26.レオタード3姉妹美人泥棒
27.興奮トラック
28.バンガスター
29.フルメタパニーク
30.ソウルキャバリエ
31.ファイルナファタンジー
32.ACE BATTLE
33.ギャルゲ~朝の風景~
34.ギャルゲ~ランチ食べよ~
35.ギャルゲ~一緒に帰ろう~
36.ギャルゲ~宿題やんなさい!~
37.ギャルゲ~別にあんたの心配なんかしてないんだからね~
38.ギャルゲ~好きにしていいよ~
39.モソハソ
40.鋼拳バトル、暁がんばった
41.暁拳5
42.普通の飲み物には興味ありません!以上!
43.今日のお犬様
44.銀河鉄道らき☆すた
詳細はこちら
新譜、カタログ含め1月31日よりサブスク配信中!
■TVアニメ『らき☆すた』オリジナルサウンドトラック
https://lnk.to/LACA-19018
■らき☆すた Re-Mix003 原作刊行20周年始まるザマスよ、いくでガンス、フンガーLP
https://lnk.to/LZC-2653
■各社公式プレイリスト
https://lnk.to/luckystar-music-playlist
●イベント情報
原作20周年記念『「らき☆すた」オーケストラコンサート 〜20周年だよ、全員再集合!〜』
2024年2月4日(日)
1st(昼の部) 開場 13:00 / 開演 13:45 (終演予定 15:45)
2nd(夜の部) 開場 16:30 / 開演 17:15 (終演予定 19:15)
会場:久喜総合文化会館 大ホール
出演者
管弦楽:らっきー☆すたーオーケストラ a.k.a Heartbeat Symphony
司会:今野宏美(小神あきら役)、白石 稔(白石みのる役)
ゲスト:神前 暁(作曲家)
※敬称略
※出演予定アーティストは変更になる場合もございます。予めご了承下さい。
チケット
VIPチケット(特典+前方席優先):¥18,000(税込)
特典付プレミアムチケット:¥12,400(税込)
通常チケット:¥8,800(税込)
※特典は現地でのお渡しとなります。後日配送の対応は致しかねます。
※特典内容は公演ごとに異なります。
※チケットの詳細は、チケットぴあ受付ページにてご確認ください。
主催・企画」株式会社KADOKAWA
制作:ハートカンパニー、ぴあ
運営:キョードープロデューサーズ
協力:バンダイナムコミュージックライブ
©美水かがみ/らっきー☆ぱらだいす ©美水かがみ
『らき☆すた』公式サイト
http://www.lucky-ch.com/
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