2023年は念願の10周年記念ライブを2日間にわたって行い、自身のソロアーティストとしてのアニバーサリーを完走した声優・南條愛乃。そして2024年に入り最初にリリースされた配信シングル「光のトリル」は、そんな次の一歩を進もうとする彼女の新たなアーティスト性が反映された幻想的な1曲となった。今回は昨年の10周年記念ライブを振り返ってもらいながら、「光のトリル」がどのようにして生まれたのか話を聞いた。
INTERVIEW BY TEXT BY 澄川龍一
――まずは昨年末に行われた“南條愛乃 10th Anniversary Live -FUN! & Memories- supported by animelo”について。2日ともにコンセプトやセットリストの異なるステージとなりましたが、終えてみていかがでしたか?
南條愛乃 「無事に終わって良かったな」というのがまず第一にありますね。楽曲をなるべくたくさん盛り込みたくて、「ジャーニーズ・トランク」以外は全曲違うセトリで、しかも「ジャニトラ」も演出は変えるという実質まったく別ものの2daysを企画してしまったので、実はドキドキしていたんですけどバンドさんたちもずっと一緒にやっているメンバーだったのもあって思ったほど苦戦もせずにやり切れましたね。リハの間に「ここは少し曲順を変えよう」などの微調整はありましたが、リハ自体はスムーズでしたしね。バンドさんたちは、2日目前半の、勢いでもっていけない繊細な曲が続くパートの集中力が、すごい神経つかう!とバラードながらにヒイヒイしてくれてましたが(笑)。あとは久々に振りをつけた曲もあったので、少し不安もありましたが、無事に終えることができて良かったです。ライブを終えたとは余韻がすごくて。
――ラジオでもおっしゃっていましたよね。
南條 しばらく余韻に浸っている感じでしたね。1日目は“FUN!”ということで楽しめる曲をたくさん入れて、2日目は“Memories”というコンセプトで落ち着いた曲が多かったんですけど、充実感や充足感がものすごくて、余韻が長らく続いていました。
――2日通して観た感想としては、南條さんの様々なアプローチの楽曲でこの10年を振り返る内容でしたが、そうやって振り返ったあとの“Memories”のアンコールで披露した「カタルモア」を聴いて、「ああ、南條さんはこういう想いでソロキャリアを始めて、10年を歩んできたんだな」と思ったんですよね。
南條 そうですね。「カタルモア」は周年のタイミングなどでしか披露しない曲になっていたんですけど、久々にやるからといって「久々だね」みたいな感覚でもなく、いつでも一瞬でソロをスタートさせた頃の感覚に気持ちがワープするというか。あのときの気持ちがあったからスタートすることができて、その気持ちのまま今に至れているというのはすごくありがたいことでもありますし、自分の中でも変わらない気持ちみたいなものがずっと続いてるんだなっていうのを改めて実感できる時間になったというか。この節目でもやれて良かったなと思います。
――またそれをお客さんと共有できる空間だったのを再認識しましたね。お客さんも“FUN!”では思い切り声を出して楽しんで、対して“Memories”では着席してじっくり聴いている。しかも南條さんが促したわけではなく。
南條 そうですね、それは私の中でも想定外で、“Memories”はステージに出たときに「あ、みんな座っているスタイルだ」と思って、それもいいなと思いながら進めて。合間合間にちょっとアップテンポめな曲も入れたりしてたので「立ちたいかな?」と思う曲もありつつ、でもこのあとまたしっとりしてるからな~と立ってもらうか座ってもらうか考えながらやってたりしたんですけど、途中からは聴くスタイルが1日目と2日目でガラっと変わるのも面白いかなと思ってそのまま座って聴いてもらってその空気感を楽しんでました。
――2日間で異なる魅力を打ち出せたのはまさに10年間培ってきたものですよね。またそうしたなかでの南條さんのボーカルに関しても、10年のキャリアを感じさせるというか。個人的には“FUN!”での「逢えなくても」が印象に残っていて。素晴らしかったです。
南條 本当ですか!良かった。
――こうして華々しく終えられた10周年イヤーですが、余韻のあとの現在のお気持ちはいかがですか?
南條 実質2年かけて、ライブだけじゃなく本も作っていただいたり衣装展もやっていただいたり、色んな企画を盛り込んでお客さんも一緒になって私の10年を振り返ることができて、伝え忘れたものや改めて伝えたいと思っていたものを全部出し切れたので、すごく清々しい気持ちで11年目以降に行けるなみたいな気持ちでしたね。
――まさにそれがこの年末年始のリリースに関わってくるわけですよね。あともう1つ、10周年ライブから2週間を空けて、1月8日にはfripSide20周年のフェス(“fripSide 20th Anniversary Festival 2023 -All Phases Assembled-”)に参加されました。10周年ライブの余韻のあと、どういうお気持ちでぴあアリーナMMのステージに立たれたのかなと。
南條 10周年記念ライブのあとの年内いっぱいはゆっくりできました。実家に帰ることもできたので、結構不抜けてました……でも、不抜けきっちゃうと1月8日に戻ってこられないので、緊張の糸は切らさないようにという思いはどこかにありました。
――ソロとは向き合い方も違いますし、およそ2年ぶりのfripSideのステージだったわけですが、客席から観た印象では張り詰めた緊張感というよりも、どこか落ち着いているような、自然体な雰囲気があったんですよね。
南條 そうですね。第2期のボーカルとして立つステージではありましたが、今はもう卒業して第3期の2人が担当しているので、バトンも受け渡したしましたし、第2期のボーカルという立ち位置はありつつも、もうちょっと普段の自分っぽさというのも出してもいいのかなと思っていました。やっぱり第2期が走っているときはfripSideのボーカルとしての立ち居振る舞いというのは自然とやっていた気がしますけど、今はそこから一歩引いたところにいるので、完全にその当時と同じじゃなくてもいいのかなという、「今の私がfripSideのボーカルとして立ったらこうなる」というのを見せられたらいいのかなと思ったので、歌い方や立ち居振る舞いも、多分当時とは多少違う部分が見え隠れしていたんじゃないかなと思います。
――ソロとfripSide両方のライブを観た身としては、例えば「whitebird」や「Answer」での表現で、卒業したあとの今の南條さんを強く感じられたんですよね。
南條 そうですね。当時は「もっとこう歌わなきゃ」が先行してたのもありますし、卒業してソロに専念することができたからこそ、表現や歌い方も変わったなっていうのは自分でも思いますね。当時から、私がfripSideを卒業するということをあまりネガティブな理由で受け取ってほしくなかったですし、2年くらい経ってfripSideの曲を歌って、ソロに専念したことによって違う表現も含まれているんだなというのが見えるなら面白いかなって。
――まさに。卒業後の2年の間で新たな挑戦もあって、昨年末には『The Fantasic Garden』というアルバムを作られた。そうした新たな進化があった南條さんが歌うfripSideというのは非常に興味深いものがあって。
南條 やっぱり1曲に向き合える時間が増えたことによって、当時辿り着けなかった表現が増えたなと自分でも感じられましたし、今後もまだ増えていくんだろうなと自分の中でもプラスの変化として見つけられたことがすごく良かったです。「いくつになっても変わっていけることがあるんだな」ということを自分自身でも体感できました。
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