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INTERVIEW

2024.02.01

歌で“道”を作る――西川貴教、小室哲哉と作り上げた『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌「FREEDOM」、作品と共に歩んできた20年の想いを語る

歌で“道”を作る――西川貴教、小室哲哉と作り上げた『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌「FREEDOM」、作品と共に歩んできた20年の想いを語る

2002年10月から放送を開始した『機動戦士ガンダムSEED』。作品の名刺のように世界中のファンから愛される最初のOP「INVOKE -インヴォーク-」を歌ったT.M.Revolution(西川貴教のソロプロジェクト)は、その後「Meteor -ミーティア-」、「Zips」、「ignited -イグナイテッド-」、「vestige -ヴェスティージ-」と楽曲で作品と寄り添ってきた。2005年10月に『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』が最終回を迎えた以降も人気は衰えることなく、続編を待ってきたファン。同じく続編の誕生を心待ちにしてきた西川貴教が約20年の時を経て届ける『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の主題歌「FREEDOM」で届ける想いとは――楽曲プロデュースに小室哲哉を迎えた本作について、作品への想いと共に聞く。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

20年の想い、結実

――「INVOKE -インヴォーク-」で『機動戦士ガンダムSEED』と出会ってから22年になろうとしております。西川さんと『機動戦士ガンダムSEED』の出会いは、それまでのアニソンの流れの中でも新たな潮目になったと感じますが、今、改めてどのようなことを感じていらっしゃいますか?

西川貴教 潮目になったんですよね、結果的に。それまでのアニメとポピュラーミュージックの関係性を見てみると、例えば4クールぶち抜きでの放送となったアニメ『るろうに剣心』は、1クールごとに主題歌を変える、という新たなビジネスモデルを開拓した画期的な作品になったと思うんです。そこで数々のアーティストが頭角を現していきましたが、その一角として僕も実際に「HEART OF SWORD ~夜明け前~」で楽曲を知ってもらうことになりましたし、この曲をきっかけに歌番組などにお邪魔をして、今があると言っても過言ではありません。ただ、アニソンファンから見れば「アニメと楽曲がリンクしていないじゃないか」と思われるようなところもあって、もっと濃いめの、主人公や必殺技を連呼するようなアニソンが求められてもいましたが、僕はどちらも好きだったんです。ポピュラーミュージックに育てられてきましたし、アニメも大好き。それなら作品の世界観をきちんと踏襲しながら、自分の楽曲としてライブで歌える曲をやりたいよね、ということで「INVOKE -インヴォーク-」が完成した。「世の中的な潮目」という部分については皆さんの受け止め方だと思いますが、僕自身としてはすごく大きな出来事でしたね。ここでやったアプローチを見て、「それならうちでも主題歌を歌って欲しい」とか「そのやり方をやって欲しい」と手を挙げてくださる方が出てくるようになりましたから。それからは「西川さんでお願いします」と言っていただけるようなことも増えていった感じでしたね。この作品と出会って、ある種このやり方を開拓したことがその潮目を作った、と思ってくださる人がいるのであればすごく嬉しいです。

――そんな西川さんにとって「ガンダムSEEDシリーズ」はとても深い関係性のある作品となっています。当時のことでとても記憶に鮮やかな出来事というとどんなことがありますか?

西川 スタートの「INVOKE -インヴォーク-」に至るまではもちろんですが、僕にとってすごく大きかったのは『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』ですね。『ガンダム』というIPのクオリティを担保するために3年に一作を作っていくという流れの中で、シリーズとしてすぐ次を、という流れがありつつも1年のインターバルを開けて制作された「ガンダムSEEDシリーズ」でしたが、あまりにも『SEED』の成果がめざましかったこともあって、続くシリーズでは新しいアーティストにチャンスを与えてあげて欲しい、ということもあり、多くのアーティストが手を挙げていたと聞いています。それでも、福田己津央監督が、僕と一緒にやりたいと言ってくださったんですね。監督が強い意志で僕の主題歌で、という気持ちを貫いてくれたことで「ignited -イグナイテッド-」が出来上がりました。それくらいの覚悟を見せてくれた監督と作品ですから、僕も同じく強い覚悟を持って作品に寄り添うぞ、という気持ちでした。だからこそ『SEED』の劇場版が「もう可能性はないんじゃないか」という雰囲気になっていた時期も「僕が生きている以上、劇場版はあります」って言い続けましたし、「僕が諦めない限り、絶対に作品は作られます」と発信し続けてきましたからね。

――最終回を終えたあとも『機動戦士ガンダムSEED』シリーズと共に歩んできた時間ですね。

西川 特に『SEED』は、よくあのタイミングで出来たなと感じるんです。少し開いた時期はあったものの、『SEED』の前作は『∀ガンダム』。「全てのガンダムの肯定と否定」と銘打って富野由悠季監督が全ての執念を込めた弾丸のような、全身全霊渾身の一撃で放った作品。焼け野原になった状態に対して何を作るのか、というところに「SEED(種)」。その焼け野原に種を蒔く作品だった、というイメージを持っているんです。その作品で、僕の音楽活動をずっと見てくださっていた福田監督が「一緒にやりたい」と言ってくれた。ガンダムが好きだった僕と、相思相愛の出会いでしたし、そして監督は僕の想いへ贈り物としてキャラクター(ミゲル・アイマン)を作ってくださいました。その資料をいただいたときには、「これが僕のキャラクター!本当にいいんですか?」と驚きましたね。そのとき僕が言った「これって宇宙世紀なんですか?」という言葉に「この人は本当にガンダムが好きなんだな」と改めて感じたと監督がおっしゃっていました。

――『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』で演じられたハイネ・ヴェステンフルスとして「ザクとは違うんだよ、ザクとは」というセリフもありました。あれこそ『機動戦士ガンダム』へのリスペクトも強く出た言葉でしたね。

西川 それまで頑なに『機動戦士ガンダム』がバイブルで、触ってはいけない神の啓示のような存在だったけれど、福田監督は冒頭からザクを出しますし、今回の映画でもそういった『ガンダム』へのリスペクトはありますからね。その表現って、すごく現代的ですよね。HIP HOPというか……あくまでもサンプリングで、以前の作品へのリスペクトを込めてトラックメイクする感覚と似ていて、音楽界で当たり前になりつつあるような音楽的なカルチャーがアニメにもある気がしてすごく良かったですね。監督が楽曲を大事にしてくださることも知っているし、監督の表現のアプローチからも音楽的なものを感じました。

――音楽を大切にされる福田監督だからこそ、作中での「Meteor -ミーティア-」の起用になったと以前伺いました。

西川 あれはアルバム曲で、作品への書き下ろし楽曲ではなかったけれど監督が気に入ってくださった結果、機体の名前にも使われましたし、あの曲は今でも『機動戦士ガンダムSEED』を象徴する曲になっていますよね。

小室哲哉と共に作りあげた「FREEDOM」

――『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』がついにファンの元へ。続編の誕生をずっと心待ちにしておられた西川さんですが、主題歌のオファーが来たときにはどのような想いがありましたか?

西川 率直に嬉しかったです。そこに至るまでに色々なことがありましたし、やっと新作を届けられるんだな、という想いもありました。さぁ、この想いに、この大きな責任をどういう形で果たしていくべきなのかな、と悩み考える時間がありました。

――制作にあたって福田監督とはどのようなお話をされたのでしょうか。

西川 最初の言葉が「西川さんが歌ってくださればなんでもいいです」でした。その信頼に「ありがとうございます」と。

――共にここまで歩んできたからこその、西川さんご自身としても歌いたいことはあったのではないかと思いますが、いかがでしたか?

西川 そうは言っても何が描かれるのか、ということはありましたから。シリーズ構成をされていた両澤(千晶)さんのこともありましたし、一度終わったお話が『DESTINY』からの地続きだったとしてもどう描かれていくんだろう、と。2005~2006年に「劇場公開しますよ」と発表があって、公開が2008年や2009年だったら恐らく全然違う判断をしていたと思うのですが、約20年もお待たせしてしまったこの時間の中で色々なことがあったし、地続きとは言いながらも果たしてそのままの気持ちを楽曲にしていいのだろうか、と考えました。ガンダム誕生40周年のときにも「BEYOND THE TIME~メビウスの宇宙を越えて~」を、アマチュアの頃から一緒にやってきた仲間であるLUNA SEAがカバーしていて、それを傍らで聴いていて「これも感慨深いな」と思っていて。当時小学生だったり中学生だった子たちが、今ではお子さんがいたりするかもしれない。2世代、3世代という感覚でガンダムは繋がってきているんだなと感じてもいますし、それならば昭和や平成、令和という時代を跨ぐ架け橋になるような作品が作れたらなぁ、と思ったんです。「BEYOND THE TIME~メビウスの宇宙を越えて~」のイメージも相まって小室哲哉さんにお願いできないかなと思い至り、実際にお願いをしました。

――そして生まれた「FREEDOM」です。小室さんとはどのようなお話をされたのでしょうか。

西川 実はTM NETWORKとT.M.Revolutionはある方を通じて繋がっているんです。その方はTM NETWORKを「TM=タイムマシンって言いなよ」って進言された方が、その後僕と出会って、「Takanori Makes RevolutionでT.M.Revolution」というネーミングで僕はデビューすることになった。そのご縁については小室さんが話してくださっていますが、そういうところでも近くて遠く、遠くて近い、という関係性だったんです。なおのこと僕にとっても、いよいよこの年齢で、しかも西川貴教として自分の声にフォーカスを当て、みんなが歌わせたい、聴きたいものを歌っていこうという新たなアプローチを模索している最中での楽曲制作。それなら「いつか一緒に」ではなく、「今」と思ったんです。今までにない新しい座組で楽曲作りができないかなぁ、という感じだったから、面白いですよね。続けてるとこういうことが起きるんだなって思いました。制作を始める段階では監督にも同席してもらって、小室さんと僕、三者で言いたいことを全部伝え合いました。そのうえで短期決戦で集中して向き合おうと思いましたし、とにかくズレがないことが一番大事だから。誰かから聞いた、誰かが言った、ではなく一度3人集まって、agreeするという作業をしました。

――そこで西川さんが「こうしたい」と提案したのはどのようなことだったのでしょうか。

西川 今回においては作品を、時代を繋ぐ、という想いでした。その話をしたのは、劇場版のティザービジュアルが発表になった直後くらい。ラクスとキラが向き合っているポスターを見たときですね。ガンダムは映っていなくて、ラクスとキラだけ。きっと「えっ!?」と思われた方もいたと思いますし、中には納得された方もいたと思います。監督があえてあのビジュアルにされた意図があると思ったんですね。『DESTINY』の最終話のあとのことを描くとしたら、キラとラクスの2人の物語しかないと、思っていらっしゃったらしくて。もちろん題材も題材ですし、アクションシーンを期待されるファンの方もいらっしゃると思うんです。今や実写とアニメはどんどん垣根がなくなっていると思うし、なんだったらアニメの方が大胆にスケール感を出せている。限られたバジェットの中で最大限に表現が出来ているものって日本のアニメしかないんですよね。そういった意味では『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は、カップルで、デートとして観に行く作品にしていきたいそうなんです。シンプルにラブストーリーとして見てもらいたい想いもあると思いますが、同時に変わりゆく世界の情勢を反映させた大きな世界の話もしている。だけどたった2人の人間の気持ちを描いてもいる。ミクロとマクロの話を同時にしているのは『SEED』らしいなって感じたんです。そこをどう楽曲で描くか、ということを話しました。

――そこからは小室さんとのやり取りになっていくんですね。

西川 デモがあがって、それを聴いて、キー合わせも含めてスタジオに行って何度か実際に歌いました。仮歌を歌っているときにはまだ歌詞もなかったのでぼんやりとしたワードをキーに合わせて歌っていったんですが、その段階で使いたい場所も明確になっていましたし、画に合わせて一緒に聴くシーンもありました。レコーディング作業はコンパクトに進んでいったのですが、そのなかでも僕が思うアプローチなどをディスカッションしたりもしました。小室さんのその場の思い付きでハモが出来たところもありました。「どう思う?」「じゃあこうしよう」というようなやり取りを重ねていって、僕はミュージシャンとして本当に作業を楽しみましたね。もちろん小室さんは大先輩ですが、フラットに色んな話をしながら1つの作品を作っていっている実感もあって、とても楽しく、貴重な時間をいただけたなと思います。よもやT.M.Revolutionとしてデビューして30年目が近づいてきていますが、こういう世界線もあるんだなぁ、と思って。スタジオで2人並んでラフミックスをチェックしているときにも、「こういう世界は想像していなかったな」と感慨深い想いでした。

――これまでの楽曲は、ミゲルやハイネではないですが、キラやアスランたちと共に戦っている感があったけれど、今回は世界の全部を包んでいるような印象でした。

西川 まさに第三者の目線というか。雲の上の、神の視点のような、世界を見る視点ですね。だから歌い方も使っている声のレンジも意識をしました。これは劇場で画と一緒に、作品の一部として受け止めてもらえたときに初めてご納得いただけるものになっていると自負しています。歌単体で聴くと普段僕が使っているレンジに比べて一段階下なのですが、それが世界観を俯瞰で見せてくれているというか。『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』という作品において「FREEDOM」が流れる場所にこの曲を置いたときに、「誰」や「どこ」などの「何か」に重心を置くよりも、「INVOKE -インヴォーク-」から始まって、HIGH and MIGHTY COLORや玉置成実ちゃんのようにこの作品から名を知らしめた方々をはじめ多くのアーティストが彩ってきた世界を、TVシリーズが終わったあともずっと見続けてきた世界を、第三者として俯瞰で見てきている僕が歌う1曲。監督よりも俯瞰で、だけど制作の気持ちもファンの皆さんの視点も理解しながらもどちらに寄ることもなくふわふわと見続けてきた僕の歌だと思いますし、その自分の視点を表現できたと思っています。そして「西川の曲はこうじゃないと」という小室さんの信念みたいなものもあって。モーゼのように色んなものをぶち抜いていく、海を真っ二つにしていくように歌だけで勝負して欲しい、という想いもある1曲なんですね。シンプルなピアノのコード弾きに、アカペラで道を作る。。監督からの想いと小室さんからもらったものを受けて、全身で表現する感じだったので。良いものをいただきました。

次ページ:『機動戦士ガンダム』の歴史に刻まれる数々の点が「FREEDOM」まで繋ぐ1本の線

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