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INTERVIEW

2024.01.24

「Smile day’S presents アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2023 supported by リスアニ!」作曲家:黒須克彦×渡辺 翔×渡辺拓也 スペシャル鼎談

「Smile day’S presents アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2023 supported by リスアニ!」作曲家:黒須克彦×渡辺 翔×渡辺拓也 スペシャル鼎談

現在開催中のスマイルデイズによる「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2023」の審査員へのインタビュー、今回は黒須克彦、渡辺 翔、渡辺拓也といった最前線で活躍する作曲家に集まってもらい、自身のキャリアから作曲方法、曲を書くときの秘訣までを広く伺った。これまで数多くの名曲を生み出してきたヒットメーカーたちは、どのような想いでメロディを、サウンドを生み出しているのか。そしてそんな彼らは今のシーンをどのように見つめているのか、じっくりと話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一

■黒須克彦(くろすかつひこ)
2005年頃から本格的に作家活動をスタートさせる。
現在では、ベーシスト、バンドマスターとして数多くのアーティストのレコーディング、ライブに参加するだけでなく、J-POPSからアニソン、子供向け楽曲など多岐に渡った作詞、作曲、編曲、サウンドプロデュースを担当している。

代表曲
・TVアニメ/映画「ドラえもん」主題歌「夢をかなえてドラえもん」(作詞・作曲)
・乃木坂46「ぐるぐるカーテン」(作曲)
・μ’s「それは僕たちの奇跡」(作曲・編曲・ベース)
・LiSA「コズミックジェットコースター」(作曲・編曲・ベース)
・U&S(内海光司、佐藤アツヒロ)「UpdateS」(共作詞・作曲)

■渡辺 翔(わたなべしょう)
ジャンルにとらわれないメロディーと作詞センスが各方面で評価されるヒットクリエイター。LiSA「crossing field」「oath sign」「だってアタシのヒーロー。」TrySail「whiz」三森すずこ「ユニバーページ」ClariS「コネクト」など多数の大ヒット曲を手掛けている。
また注目の女性ヴォーカルユニットCYNHNのメインコンポーザーとしても活躍中。

代表曲
・ClariS「コネクト」(作詞・作曲)
・LiSA「crossing field」(作詞・作曲)
・三森すずこ「ユニバーページ」(作詞・作曲)
・麻倉もも「ピンキーフック」(作詞・作曲)
・天月-あまつき-「Circus addiction」(作詞・作曲)

■渡辺拓也(わたなべたくや)
様々なバンド活動の後、2003年より作曲家としてデビュー。
バンドサウンド中心の独自のサウンドが評価され、アーティストからアイドル、ネット系シンガーまで幅広く手掛ける。
またアーティストプロデュースでも手腕を発揮しており、多方面で活躍するヒットクリエイター。

代表曲
・SexyZone「RUN」(作詞・作曲・編曲)
・Little Glee Monster「透明な世界」(作詞・作曲・編曲)
・West.「Guilty」(作詞・作曲・編曲)
・ワルキューレ「ワルキューレは裏切らない」(作曲・編曲)
・TRUE「アンサンブル」(作曲・編曲)

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クリエイターたちのキャリアのスタート、そしてターニングポイントは?

ーー今回のスマイルデイズでのオーディションは「クリエイター志望」の方を広く募集するということで、改めて作曲家の皆さんのキャリアを伺っていきたいと思います。この中で一番キャリアが長い方は……。

黒須克彦 僕になりますかね。自分の曲がコンペ的なものに初めて採用されたのが、今から20年前の2004年くらい。その辺りからなんとなく今のスタンスで活動を始めたと思います。

渡辺 翔 僕は作家になったのが22歳の頃ですかね。音楽を始めたのも結構遅くて、高校卒業してから始めたんですよ。そもそも、高校卒業して入った学校でコースを間違えて、作曲の授業を受けちゃったんですよね。本当は宣伝とかプロデューサーの仕事がしたかったんですけど、受けてみたら作曲のプロデューサーコースでした(笑)。

渡辺拓也 僕は軌道に乗り始めたのが2005〜6年くらいからですね。初めての曲がコンペで決まってスタートした感じです。それまではバンドをやっていて、コンペが決まったあともバンドは継続していたんですけど、そこから3、4年くらいかけて作家になっていきました。

ーーそうしたなかで作家としてのキャリアをスタートさせた皆さんが、この仕事でやっていけると感じたターニングポイントとなった楽曲はありますか?

渡辺 翔 やっていけるぞって思えたのは曲を出してからしばらく経ってからで……やっぱり時差があるんですよね。僕の場合だと、多分「コネクト」(ClariS)がターニングポイントなんですけど、まだあの1曲だと一発屋の可能性もまだあったので、当時はまだ全然安心していなかったですね。もちろん今も安心してないですけど(笑)。そういう意味では、そこからちゃんと業界の中でも「こいつは良いの打ち返してくるじゃん」みたいに思ってもらえるようになったのは、同じClariSの「カラフル」辺りかなと。なので「コネクト」から2年くらい経って、ちゃんとやっていけるのかもしれないと思ったくらいですね。

黒須 僕は1曲に限定できないんですけど、2007年に色々なものが形になった気がします。それまでも制作数はそこそこあったんですけど、その間口というかジャンルが一気に広まって、世に曲が出たという年が2007年だったんですよね。そうした色々なフィールドでも形になっていったのが自信になっていったというのが大きいなと思います。

渡辺拓也 僕もこの曲というよりは、20代前半くらいの頃に小野大輔さんのアルバム(『風花』)で、8割くらい書かせていただいたんです。そのときはまだ自分的にも作家でやっていけるのかとか不安だった時期で、そこで1つの作品を作らせていただき、「これからもやっていけるな」って思った記憶がありますね。そのときは比較的自由にやらせていただいて、「自分が今までやってきたバンドの感じでお仕事をやっていいんだな」と感じたんです。ここまでやってきた自分の音楽をこれからもやっていこうと思えましたね。

0から1を生み出すクリエイターの作曲方法とは?

ーーそうしたなかで、コンペにせよ指名にせよ、どのようにして曲を作っていくのかも皆さんそれぞれ異なるのかなと。

渡辺 翔 昔、そういう話を拓也さんに聞いたことがあるんですよ。そのときは「マジか」ってちょっと打ちひしがれまして……拓也さんは頭の中でまず全部作っちゃって、あとはひたすら手を動かすだけって言っていて。

渡辺拓也 なんだか超かっこつけた言い方だね(笑)。でもある程度は、なんとなくどんな曲にしようかな?とかは頭の中で考えていますね。もちろんノープランでギターとかピアノを触るときもあるし。

渡辺 翔 安心しました(笑)。

渡辺拓也 さすがに全曲そうじゃないですよ(笑)。

渡辺 翔 それでいうと、僕はまず文章にします。Aメロはこうしたいな、Bメロはこうしたいなとかアイデアを片っ端から並べてワードに起こして、こういうフックポイント作りたいなとか、サビ頭の歌詞をめっちゃ強くしたいなとか、そういうアイデアを全部乱列させてからパズルのように組み立てていく。最近はすべてそうやって作っていますね。

渡辺拓也 翔くんは作詞もあるからそういう作り方なのかもしれないよね。

黒須 僕はどちらかというと拓也くん方式かもしれないですね。頭の中ですべてというわけではないですけど、車を運転しているときとかに何か考えてみようかなって口ずさんで、「お、きた!」と思ったらすぐにそのスマホに録音して、というのが最近は特に多くなっているかもしれない。 で、1つ取っ掛かりが出来ると、そこから連鎖してスルスルっと行く場合もありますし、逆に「ここだけがどうしてもできない」というときになって、僕は初めて楽器を手にする。早いときは楽曲の打ち合わせをして、帰るまでの車の中で全部出来たこともあります。これは奇跡でしたね(笑)。

黒須克彦

黒須克彦

ーー日常の中でメロディが生まれてくるというのはあるあるなんですかね?

黒須 拓也くんも一緒だと思うんですけど、なんとなくメロとコードが一緒に鳴るというか。

渡辺拓也 そうですね。黒須さんが言ったのは、頭の中でほとんど作っちゃうのに等しい感じもありますよね。それをボイスメモに吐き出してるという。

黒須 うん。もちろん、そこから楽器を持ったり打ち込んだりしていくと、形が変わってくることもある。例えば鼻歌でサビまで出来てから実際に打ち込んでみると、「あれ、このサビ違うな」ってなることもあるし。

渡辺 翔 そのときってコードもある程度見えている状態なんですか?

黒須 ある程度ね。そこでコードを意識しないと、どれもオーソドックスな進行になっちゃう。でもそこからちょっと捻ったものにするのは、やっぱり実際打ち込み作業になるかな。

渡辺 翔 そうなんですね。僕も一度試したんですけど、マジでオーソドックスなコードしかつかなくて。これで作っている人は多いけど、すごいなって思っていたんですよね。

黒須 さすがに鼻歌状態で難しいテンションコードまで出来ることはなかなかないよね(笑)。

渡辺 翔

渡辺 翔

ーー翔さんのテキストから作っていくという方式ですが、セルフ指示書を作るときも時間をかけてやるんですか?

渡辺 翔 悩むときはありますよ。大体それを作るときは1日くらいしっかり時間をかけるので。例えば、ちょっと失礼にあたるかもしれないですけど、受けたオーダーがしっくりこないことってあるんですよね。「これ、このまま作っても良い結果にならないな」というのは過去の経験からもあるんですよ。今の時代にこれをこのままやったとて、とか。先方が言っていること的には正解だけど、最終的に世に出たときに正解にならないかもしれないなって思うときもあるので。そういうときは、仕事をくださった方も喜んでくれて、歌っている人も聴いた人も嬉しいと思ってもらえるようなところを、再度自分の中で積み上げる作業する。そういうときは結構悩みますね。オーダーに反することをしようとしてるわけなので。

渡辺拓也 もちろん発注する側もそれを楽しんでる可能性もありますし。これだけの情報を投げて何が返ってくるだろう?とか考えるプロデューサーの方もいます。これからコンペに参加しようとしてる新人の子たちも、今の話ってすごいヒントがあると思っていて。コンペの発注書に頼りすぎちゃって、99点の曲作っちゃうくらいだったら、自分の100点出したほうが、そのコンペに通らなくても自分の100点の作品は残るので。言ってしまえば、99点の曲はその先一生世に出ないから。

黒須 僕もそうなんですけど、誤解を恐れずに言えば発注書は一回ばっと読むだけとか、参考曲はもう一回聴くだけくらいにして。何回も繰り返し見ちゃうとイメージがついちゃったりもするので。参考曲もあって、その曲に寄せていこうと思えば全然寄せられるんですけど、それはやっぱり面白くないし、得てしてそういう曲って結局形にならないんですよね。まずは発注書を一度だけ読んで参考曲も一度だけ聴いて、「あ、なるほど、こういう内容ね」ってそのガワだけを理解して把握したうえでやったほうが楽しいですし、そこでどこかに「俺っぽいな」みたいなところを盛り込むようにはしていますね。

渡辺拓也

渡辺拓也

ーー発注に対してどう自分の色を出すかが重要であるなかで、今回のオーディションの課題は形式が自由ですよね。そこで応募者の皆さんはどう自分の色を出せばいいのかなと。

渡辺 翔 今の世代は本当になんでも書ける人たちばかりじゃないですか。そのなかで強い軸があってそれを守るのがいいのか、多少ブレてでも数を作っていったほうがいいのか、どっちなんだろうなって。僕も若い人と接することがありますけど、昔だったら「もっとあれもこれも作れないとマジでやっていけないよ」みたいな感じだったけど、今はどうなんですかね?

渡辺拓也 これから一歩抜きん出る人って、強い武器を持っている子だと思うんですよ。100人いるなかでバーンって5人くらい抜きん出ている人はいる。でも、その強い武器しか持ってない5人がこの業界で何年食えるんだろう?とは思うんですよね。その1個の武器を持って自分の作風と合うアーティストと出会えればいいですけど、そうじゃなかったときにどうアドバイスしていいのかっていうのは悩むところですよね。「色々やったほうがいいよ」って言うのか「自分の1個の武器を突き抜けるべきだよ」って言うべきか。

渡辺 翔 「色々やったほうがいいよ」ですべてが崩れちゃう人もいそうだから、あまり言いづらいなって思うときもある。難しいですよね。

渡辺拓也 でも今の子の武器ってもっと「鋭利な武器」な気がするんですよね。それは色々流用できるのか、そこはまだちょっとわからないですね。

渡辺 翔 うん、基本今の音楽は何かしらのミクスチャーというか、このジャンルとこのジャンルのミックスみたいなものが基本入っている。例えばファンクなら、ファンクのど真ん中を作れるからそこからの汎用性が効いた音楽が作れる部分もあるけど、ミックスされたジャンルからやっていくと、時代の流れが変わったときに対応が難しくなる可能性もありますよね。

渡辺拓也 アーティストだったらいいと思うんですけどね。時代変わっても自分たちの好きなものをやって、また時代が回ってきたら売れればいいだけなので。でも作家をやろうとしたときに、そういうときに残るのはやっぱりメロディの強さなんですよね。ジャンルは色々あれども、僕らの世代ってメロディが強くないと生き残れなかった時代だから。

次ページ:作曲の要、強いメロディを生み出すためには?

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