INTERVIEW
2024.01.27
現在放送中のTVアニメ『俺だけレベルアップな件』にて劇伴とOPテーマを手がけている作曲家・澤野弘之。本作で素晴らしい劇伴を聴かせる一方で、SawanoHiroyuki[nZk]としてもグローバルな活躍を見せる韓国の5人組ボーイグループ・TOMORROW X TOGETHERとの強力タッグが実現した。自身のクリエイティブに新たな変化が生まれつつあるなかで作られたニューシングル「LEveL」について、そしてその先を見据える澤野弘之の2024年について語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――澤野さんの2024年最初の音楽作品の1つとして、TVアニメ『俺だけレベルアップな件』が放送開始となりました。このインタビューは放送前に行っていますが、PVで確認する限り、バトルものによく合う澤野さんらしいスケールの大きいサウンドを聴くことができました。
澤野弘之 ありがとうございます。根本的な部分はこれまでと大きくは変わらないんですけど、自分がハリウッドの音楽から影響を受けたサウンドの作りが根本にあるので、そうしたものを求められて今回の話もいただけたのかなと思っています。
――確かに、澤野さんの音楽がよく合う世界観の作品の印象がありますよね。
澤野 『俺だけレベルアップな件』だからこうしないと、というものを意識したわけではなくて、自分の音楽を作品に対して素直にぶつけていけばいいなと思っているところはあります。なので、基本的には変わらないんですけど、PVが発表されたときに海外の方も反応してくれているのを見て、全世界で興味を持ってもらえる作品なんだろうなと思いましたね。
――もとより澤野さんの音楽は海外でも支持が厚いですが、今回はより一層感じるものがあったと。
澤野 サウンドトラックのメロディを作る際も日本人的な歌い上げるようなメロディを作るよりも、ハリウッド的な大きくメロディーをとるような作りにできないかなというのは、自分の中で意識してたところはあるかもしれないです。
――確かに、印象に残ったのはメロの大きさですよね。壮大なオーケストラの中でも細かく叙情的なメロディを聴かせる場合もありますが、今回はそこを大きく聴かせていくのかなと。
澤野 がっつり意識するというより少し頭をよぎる程度ではありますけどね。あとは単純に、自分が劇伴を作り続けていくなかで、今後はこういう大きなメロディの取り方をしていくのも重要なのかもしれないと思っていたところもありますね。
――ご自身の劇伴作りの資金石の1つになるかもしれないと。そうしたなかでOPテーマの「LEveL」もSawanoHiroyuki[nZk]が手がけることになりましたが、今回タッグを組むのが韓国のボーイグループ・TOMORROW X TOGETHERというのもまた驚きで。ちなみに澤野さんはTOMORROW X TOGETHERなど、K-POPは普段から聴かれますか?
澤野 普段からすごく意識して聴いてきたわけではないんですけど、TOMORROW X TOGETHERや韓国のアーティストはアメリカとかで活躍している方たちが多く、サウンドも海外を意識して作られている。そこは自分も同じ感覚で音楽を作っているほうなので、音楽的な部分でも韓国のアーティストがやっていることは普段からかっこいいなって思っていました。
――そうしたなかで、TOMORROW X TOGETHERとのタッグが決まったときのお気持ちはいかがでしたか?
澤野 以前、偶然MTV(音楽専門チャンネル)などで流れていたのを観ていて、音楽的にも割と洋楽寄りのアプローチをしているなって思っていたのがTOMORROW X TOGETHERだったんですよ。そのことがなんとなく頭にあって、今回のコラボについての提案の中に偶然TOMORROW X TOGETHERの名前が出たので、「こんな機会じゃなきゃやれないな」と思って。
――海外でも活躍されているボーイグループをフィーチャーするという点が楽曲作りに影響はありましたか?
澤野 TOMORROW X TOGETHERに歌ってもらうことをすごく意識して作ったというわけではないんですが、海外のユーザーが興味を持ったり、それこそTOMORROW X TOGETHERも海外にたくさんのファンがいるからこそ、サウンド的にも洋楽っぽいグルーヴ感を自分なりに出せたらいいなとは考えていましたね。リズムやメロディーの立たせ方も強調して作れたら、という部分はありました。
――冒頭、パーカッシブなリズムから入っていくのも印象的ですよね。
澤野 あと、今思い出したんですけど、「どういう曲を作ろうかな」って考えていたときに頭をよぎったのが、デスティニーズ・チャイルドだったんですよね。
――お、デスチャですか。
澤野 そうそう、デスティニーズ・チャイルドでパーカッションから始まる「Lose My Breath」という曲があるんですよ。だいぶ古い曲だけどそれを今風に自分が解釈して作ったらどうかなとか思って、パーカッションのリズムで始めたのを思い出しました。
――今回はパーカッションもそうですし、ベースラインも含めて非常にリズムが強い印象です。またそこに乗るボーカルも、特にサビはパワフルさもあって色気もあるTOMORROW X TOGETHERの魅力が出ていますね。
澤野 オケ録りまでは立ち会っていたんですけど、歌のレコーディングはTOMORROW X TOGETHERのチームにお任せだったんですよね。だから出来上がったもの聴かせていただいた時に、やっぱりかっこいいなと思いました。特に彼らは英語の表現もかっこよく魅せることができるアーティストだなと思っていたので、そういう部分は特によく出ていましたね。あとチームのアイデアとして、サビなどに色んな声を散りばめていて、そういうアイデアを入れてくるのも面白いなと思いました。
――なるほど。ちなみに今回の作詞は澤野さんとBenjaminさんとの共作になっていますが、日本語のパートは序盤だけで、フルコーラスのほとんどは英語になっていますね。
澤野 本当は英語だけでいきたかったんですけど、そこはスタッフとも話をして日本語も入れよう、ということになりました。じゃあ、久々に自分でも書いてみるかと。ちなみに海外でアニメが配信されるときのオープニングはすべて英語詞になっています。
――さらにグローバルな展開が期待される作品とのタッグになりましたので、今後の反響がすこぶる楽しみですね。
澤野 そうですね。日本の音楽が韓国でどう聴かれているか詳しくはわからないですけど、本当に良い機会をもらえたなって思います。韓国の漫画原作ということで、今回TOMORROW X TOGETHERと組むことができたし、韓国や海外の人たちにも音楽や作品を届けられる機会に結び付いているのは、すごくありがたいことです。
――ちなみにTOMORROW X TOGETHERのメンバーにはお会いしましたか?
澤野 会いましたよ。レコーディングのあとだったかな?彼らが日本でライブをやったときに呼んでいただき、ご挨拶しました。
――勝手な妄想としては2組のステージ上での共演が観てみたいですね。
澤野 そうですね。そういう機会もあればいいなとは思いますけど、まずはこうやって一緒にやれたこと自体が、僕自身もすごく刺激になりました。やっぱり日本人の歌が乗るのとはまた違う。声の乗り方というか、それによってサウンドの響きも「こんなふうになるんだ」という新たな気づきもありました。
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