作曲家の俊龍による音楽プロジェクト・Sizukが、この冬、2つのアニメ作品のタイアップ曲を連続リリースした。AYAME(from AliA)が歌唱を担当する7thシングル「Lover’s Eye」は、現在好評放送中のTVアニメ『結婚指輪物語』のOPテーマ。こだまさおり(作詞)×松田彬人(編曲)とのコラボレーションによる、勇ましさと儚さを併せ持ったドラマチックなアップチューンだ。そして8thシングル「Cotton Days」は、ハコニワリリィのKotohaが歌う、同じく現在好評放送中のTVアニメ『異世界でもふもふなでなでするためにがんばってます。』のOPテーマ。こちらでは磯谷佳江(作詞)×佐藤純一(編曲)と手を組み、華やかな躍動感の中にシリアスさも帯びたナンバーに仕上がっている。これらの新曲に込めたこだわり、そして始動から1年を迎えたSizukの活動について、俊龍に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――2023年1月にSizukが本格始動してからちょうど1年が経ちました。俊龍さんにとってどんな1年でしたか?
俊龍 今までは職業作曲家として作曲や編曲、ときには作詞を行ってきましたが、Sizukではさらに踏み込んで、俊龍としての活動だけでなく新たな屋号を持つような1年でした。今までは直感で作ってきた楽曲について自分で語る機会も増えたので、その意味でも刺激をたくさん得ることができました。
――新曲をリリースするたびに、SNSなどを通じてご自身の言葉を発信されていましたよね。YouTubeのクリエイターミーティングの生放送を行うこともあれば、X(旧Twitter)のスペースでファンの方を交えたトークの場を設けたりもして。
俊龍 スペースは自分の中でかなり大きな出来事で、普段自分の作った楽曲を聴いている方とコミュニケーションを取ることがなかったので電波を通じてではありますけど、直接「あの楽曲が好きです」といった言葉を聞くことができて、より頑張っていきたい気持ちになりました。時にはみのりん(茅原実里)も会話に参加してくれたり、作曲家の先輩が会話を聞いてくれたりもして。正直、最初に制作担当の方からスペースの提案をされたときは二の足を踏んでいたのですが(苦笑)、実際に始めてみたら意外とリラックスして話すことができました。毎回1~2時間程度なのですが、結構あっという間に時間が過ぎますね。
――俊龍さんはSNSも一切やっていないので、ファンとしては直接お話ができて嬉しかったと思います。2023年はカバー曲を含め6曲のデジタルシングルをリリースされましたが、現時点での手応えはいかがですか?
俊龍 実際にリリースされたりMVが公開されるたびに感動しますし、楽曲ごとで再生数や数字に差が出ても意外と気にならないなと思いました(笑)。1stシングルの「Dystopia」はたくさんの方に聴いていただいていますが、それ以外の楽曲も思い入れに差はなくて、どれもすごく大切な楽曲です。あとは海外の方からもよく聴かれているという話を制作の方からも聞いているので、アニソンは日本のみならず世界の方からも反応があるんだなと改めて感じました。
――この1年間の活動の中で、想定外の変化や新しい気づきなどはありましたか?
俊龍 やっていること自体はあまり変わらないのですが、皆さんが興味があるのであれば自分がどういう気持ちでその楽曲を作ったのかをお話してみようかな、というモードにだんだんなってきました。例えばアニメのタイアップ曲の場合、もちろんアニメや原作のことを考えながら制作するわけですが、自分はそこにプラスして、何かしらの仕掛けやブレンドをサウンドやメロディに加えることが多くて。今まではそれを誰にも言わずしれっとやっていたのですが、こうやって取材していただいたりするなかで話せるようになったのは、自分的にも変わったところだと思います。
――それでは今回の新曲の制作エピソードもたっぷりお話いただければと思います。まず、7thシングル「Lover’s Eye」はTVアニメ『結婚指輪物語』のOPテーマになりますが、アニメのどんな部分を意識して制作を進めましたか?
俊龍 『結婚指輪物語』は主人公のサトウが世界を守るために、それぞれ違う国で生まれた違うバックボーンを持つ5人のヒロインと結婚する物語ということで、作品サイドからはそういう逃れられない運命に自分から飛び込んでいくような「決意」や、サビの歌詞にもある「守りたい」といったキーワードをいただきました。そこからオープニングらしい「荒々しさ」や「勇ましさ」も意識しつつ、それだけではない「守りたい気持ち」や「優しさ」が感じられるものを意識して作っていきました。
――その「守りたい」や「決意」といったキーワードは、主人公のサトウ側の目線を意識したものだったのしょうか。
俊龍 主人公もそうですが、各ヒロインのサトウを想う気持ちや自分の国を守りたい気持ちも意識しました。ここからは自分の中の裏テーマなのですが、やはり想い人がいたら独り占めしたいのが当たり前だと思うので、きっとこの作品のヒロインたちも世界を救うためには仕方ないこととわかっていても、ほかのヒロインへの対抗意識や嫉妬心が多少はあると思うんですね。そういうモワッとした気持ちもメロディに込めるようにしました。まあ「それは解釈が違います!」と言われるかもしれないので、制作サイドには楽曲が完成するまで黙っていたのですが(笑)。
――あくまで俊龍さんが感じる作品の要素として、そういった心情も楽曲で表現したかったと。
俊龍 そうですね。ただ、こだまさおりさんが書かれた歌詞も、主人公目線だけでなくヒロイン目線で聴いたとしてもグッとくる内容になっているんですよね。こだまさんとは過去にも主にランティス作品でご一緒させていただくことが多くて、そういった女性目線の心の機微を描かれるのが得意な方という印象があったので、今回は当初からこだまさんに歌詞をお願いしたい気持ちがありました。特に楽曲の最後の部分、“Engagement, I swear on your eyes”という歌詞が入っているところは、サビの“守りたい”とはまた違う大切な言葉を書いてくださるだろうことをイメージして、あえて少し変わった音階のメロディを入れるようにしました。
――作詞家の方が書かれる言葉をイメージしながらメロディを紡がれるんですね。そのほかに印象深い歌詞のフレーズはありますか?
俊龍 1番Aメロの“繋がる指先 始まりの鼓動”ですね。ここと冒頭のコーラスの部分は最小限の楽器と歌声で構成しているのですが、始まりの部分というのは「このアニメを観てみよう」とか「この楽曲をフルコーラスまで聴いてみよう」と思ってもらえるかどうかのキーの部分になると思うんです。そこに指輪をカチッと合わせて契約する場面を想像できる歌詞をハメてくださり、AYAMEさんの歌い方も相まって、まさにここから物語が始まることを表している言葉だと感じました。
――作品の内容を象徴しつつ、続きが気になるフレーズでもあると。
俊龍 その通りだと思います。それと楽曲タイトルの「Lover’s Eye」は自分が提案させていただいたのですが、これは「見つめ合う恋人たちの瞳」というイメージもありつつ、「ラバーズアイ」と呼ばれるアンティークジュエリーから取ったものなんです。近世のイギリスで流行った、大切な人や想い人の瞳の絵をアクセサリーにして身に着けるというものなのですが、結ばれてはいけない相手に自分の瞳を描いたジュエリーを贈ることもあったそうで、結構濃い情念があるジュエリーだったみたいなんですね。これも今回の作品のモチーフとしてはドロドロしすぎと言われそうだったので、制作陣には言わなかったんですけど(笑)。ただ、各ヒロインの心の中にある情念も表現したかったので、このタイトルにしました。
――編曲は松田彬人さんが担当されています。
俊龍 Sizukを始めるにあたって、新しくコラボしたい方々も何人かいたのですが、それとは別にまたご一緒したい方というのもいらっしゃって。松田さんもその1人で、それこそ自分がまだ編曲を別の方にお任せることが多かった時期からよくお世話になっていました。当時は色んな方に編曲していただいたのですが、特に松田さんとElements Gardenの藤田(淳平)さんは、かっこいい系の曲をよく編曲してくださっていたんです。直近では『アサルトリリィ』の「Neunt Praeludium」(一柳隊)を編曲していただいたのですが、それがすごく激しいけど弦楽器の息遣いがわかるアレンジで、今回はその「Neunt Praeludium」のアレンジを想像しながら作っていたので自分的にはこの楽曲は松田さん一択でした。
――松田さんはストリングスの扱いに長けている印象が強いですが、それを想定してのお願いだったと。
俊龍 そうですね。弦の生々しい演奏とデジタルの融合というか、どちらの要素も感じられるけど、散らばることなく1つの物語になる感じがいいなと思っていて。松田さんは劇伴のお仕事もたくさんやってらっしゃるので、ぜひお願いしたいなと思いました。この楽曲では、1stシングルの「Dystopia」とはまた違うかっこよさを出したいと思っていたんです。「Dystopia」が鋭角的で速い球をビュン!と投げる感じだとすれば、「Lover’s Eye」は彩りが豊かで、聴いてくださる方がより広く色んな気持ちを感じてくださるようなイメージで作っています。
――この楽曲の歌唱を担当されたAYAMEさんのボーカルも、「Dystopia」の突き抜けるようなパワフルさとはまた違って、より女性的なしなやかさが感じられます。
俊龍 今回はもちろんサトウ目線でもあるのですが、各ヒロインの目線も意識してもらっていて、「もし自分がヒロインだったとしたら?」というイメージで歌ってもらいました。かっこよく開放するところもありつつ、先ほどお話したAメロやコーラスの部分では感情を押し殺して、全体的に押し引きを意識してもらっています。コーラス部分はデモ音源を作っているなかで思いついたアイデアで、AYAMEさんに歌ってもらったらどうなるのか興味もありサビの力強さとは違う感じで歌声を作っていただきました。
――ほかにこだわったポイントはありますか?
俊龍 今までAYAMEさんに歌ってもらった1stシングルの「Dystopia」と2ndシングルの「anemone」、6thシングルの「REVERSI」に関しては、サビのコード進行が同じ方向性のかっこよさだったのですが、この楽曲はそれとは違うかっこよさ、女性が男性を想う、もしくはその逆の気持ちを表現できるようなコード進行にしました。AYAMEさんもレコーディングのときに「このコード進行、そろそろ歌いたかったんです!」と言ってくれて、「自分もそれを考えて作ったんだよね」という話をしましたね。
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