『86―エイティシックス―』のシンエイ・ノウゼン役や『ようこそ実力至上主義の教室へ』の綾小路清隆役、『青のオーケストラ』の青野 一役など主人公として物語を引っ張ることも多い声優・千葉翔也は、「アイドルマスター SideM」のHighxJoker・秋山隼人役や『ヴィジュアルプリズン』の結希アンジュ役、『パリピ孔明』のKABE太人役など音楽をメインとした数多くの作品やコンテンツでの歌唱にも定評がある。そんな彼が、満を持してソロアーティストとしてデビュー!そもそも音楽好きでもあり、キャラソンに対しても歌唱表現にこだわりを持って向き合ってきた千葉が、自身の作品ではどのような音楽を作り上げ、放つのか。1st EP『Blessing』に込めた想いと楽曲制作での心情などアーティストとしての姿勢を聞いた。
INTERVIEW BY TEXT BY えびさわなち
――千葉さんが「音楽が好きだな」と思った原体験をお聞かせください。
千葉翔也 物心ついたときから母親が持っていたアルバムを聴くなど幼い頃から音楽は常に側にあったのですが、ライブに実際に行くようになったのは高校時代で、ONE OK ROCKさんの公演に行ったりしていました。学生時代には軽音部だったのですが、当時はアーティストさんの楽曲カバー演奏をしている人がいて、それをみんなで見て、盛り上がっているのも楽しくて。ほかにはない経験だな、と感じて「音楽が好きだ」という想いが育まれたと思います。
――お芝居を通じて「歌う」ことに向き合ってこられた時間も長くなってきたかと思います。ご自身の中で「音楽の喜び」を感じられた作品や体験を教えてください。
千葉 クラシックを題材にした『青のオーケストラ』という作品で主人公の青野 一を演じていたときに、すごくありがたい体験ができました。僕が演じていた青野 一は天才少年と言われていたけれど何年かバイオリンを弾くことを辞めていて、あるきっかけで再び弾くことになるんですね。彼のバイオリンシーンを実際に演奏してくださっているバイオリン奏者の東 亮汰さんが弾いた「カノン」を聴いたときに全然素養のない自分でも心から感動できるという体験があって。それを作品の中で色々な楽曲を通じて繰り返し感じることができたんです。特別な知識や経験がなくても純粋に音楽で感動できるんだ、と大人になって感じられた体験でした。
――まさに「音楽の喜び」との出会いですね。では「歌う」ことについてはいかがですか?
千葉 キャラクターソングという意味では声優として色々と歌わせていただいていますが、特に『ヴィジュアルプリズン』のライブは印象に残っています。キャラクターにまつわる楽曲が毎話、劇中やエンディングで流れる作品で、曲が難しかったのもあるのですが、僕が演じる結希アンジュのソロ曲「Wing with wind」は古川 慎さん演じるギルに対しての気持ちを乗せた楽曲だったんです。作品を理解しているとより楽しめる曲でもありつつ、あれはアンジュからギルに対する気持ちそのものなので、キャラクターソングよりキャラクターソングしているというか。気持ちをそのまま歌えばこの曲になった感じの楽曲だったんです。それをライブでやったんですね。『ヴィジュアルプリズン』のライブは千葉翔也としてしゃべることはなく、結希アンジュというキャラクターとして登場して帰っていくものだったので、「あの曲は本当にアンジュのもので、それを聴いている人は本当に今、目の前にいるんだと感じたことで「キャラクターソングってコンテンツの産物というより本当にそこに存在するものなんだ」と改めて感じられる時間ではあったので、いい経験だったなと思います。同じく『東京カラーソニック!!』でもキャラクターとしての朗読をして、それをきっかけとしてキャラクターソングを歌わせてもらう、という時間があったのですが、そういうものがあると音楽と作品・物語の両方を楽しんでいただけるので、いいなぁ、と思います。
――今、挙げていただいただけでも千葉さんの様々な音楽のチャンネルを使って表現をしていらっしゃるかと思いますが、キャラクターとして歌う際に意識されていることを教えてください。
千葉 キャラクターを演じているということが先行していることもあって、まずは第一声を聴いて違う人だと思われないように、ということを意識しています。あとは「曲を表現する」ことよりも「キャラクターが歌っている曲を表現する」ことだと思っているので、例えば元気な役ならビブラートを使ったりしゃくるような歌い方をしたりするのではなく、表現として豊かではなかったとしてもキャラクターらしさが伝わる歌い方をすることが多いです。そのキャラクターが“仕事”として歌っている曲と、そのキャラクターを表す曲として作品が提示している曲でも歌の表現方法は変わると思っていて、“仕事”として歌っているならその歌唱はミスがなく正確であるべきだと思っているんです。アンジュや、『東京カラーソニック!! 』で演じている小宮山 嵐は歌が上手い設定なので、そこでは削る作業よりも足す作業が多くて、キャラクター性を象徴するような曲だったらそこにあまり対象物のない感じにするようにしています。
――作品を通じて出会った音楽でご自身に影響を与えたものはありましたか?
千葉 『パリピ孔明』のKABE太人や『Paradox Live』のロクタでラップをやることになったときに、たくさんヒップホップの曲を聴いたんです。その中で吸収したものを自分からアウトプットするのですが、言葉でこんなに表現って面白くできるんだということを強く感じたし、どうやら自分はヒップホップが好きらしいということにも気づきました。インプットをしようと思って色々と聴くのですが、ヒップホップを聴いた日は調子がいいんですよね。ロックを聴いた日よりも調子がいいかもしれない(笑)。肩の力を抜きつつ言葉がスッと入ってくる感じというか。それは新しい扉を開いてもらいました。1st EP『Blessing』に収録した「感情論」でラップをしているのですが、「好き」という気持ちで新しいものに触れたからこその曲ですし、出会えて良かったなって思っています。
――今回1人のアーティスト“千葉翔也”として歌うこととなりました。改めて“千葉翔也”として歌うこととなり、どんな音楽で自身を表現しようと思われたのでしょうか。
千葉 最終的にバンドサウンドでいこう、ということはスタッフさんと話していました。それは僕がバンドサウンドが好きなこともそうですし、声が合うという考えの元でスタッフの皆さんも考えてくださっていたようで。その軸には“若さ”や“新鮮味”といった自分のお芝居の良さや僕らしさがあって、それをちゃんと曲の中で表現したうえでほかの音楽と差別化できればいいのかな、と思っていました。制作を進めるにあたって歌詞などの部分に対しても、いただいた楽曲を歌うというよりも、みんなで納得がいくまで話し合いもさせてもらいました。歌詞をいただいた段階で、何人かで気になるところはあるかという話をして、もしもそこであれば解決をしてから進んでいくようにしましたね。あとは声優でアーティスト活動もする人はあまりトラックダウン(ボーカルや楽器の演奏パートなどをまとめて1つの音源にする作業)には立ち会わないらしいですが、その現場にも参加させていただいて、自分の声を生かしてもらいつつも「こういう部分を残したい」とか「ここはこうしてほしい」といったことも言葉にさせてもらいました。
――千葉さんは音楽がお好きなだけに、やりたいこともたくさんあったのではないかと思います。取捨選択もそうですが、散らばっていたものを形にするためにどういった作業が必要になりましたか?
千葉 好きな音楽で言うと、激しいもの…極端に言ってしまうとデスボイスがあったり、ずっとブレイクダウンしているようなドラムも好きなのですが、いろんな声優アーティストの方のライブを拝見させていただいて色々と勉強をさせていただきました。そこで思ったのは自分がやりたい音楽だけをやるのではなく、「デビューしましょう」と言ってくださったチームの皆さんの言葉や「これが見たい」と思ってもらえている音楽をやっていきたい、という想いです。
――そんななかで今回はEPという形態での制作となりました。どんなテーマで楽曲を集められたのでしょうか。
千葉 1枚を通してのコンセプトは最終的に浮かび上がってきたという感覚があるのですが、制作の初期は1曲1曲ざっくりとしたテーマだけを決めていきました。例えば「Hi-Five!」という曲なら「アップテンポにしよう」ということだけが決まっていて、どういう意味合いの曲にしたい、ということは僕とスタッフさんで意見を出し合って、それを元に楽曲を集めていただきました。「Hi-Five!」はハイタッチという意味で、ライブに来てくれた人がライブのあとも楽しく過ごせるような、日常の色々なシーンの中でもライブを思い返して元気になれる曲にしたいということをお伝えして、最終的に作家さんから提案いただいたのが「ハイタッチ」というイメージだったという曲で。コンセプト的なものは僕から発信しつつ、スタッフさんと話していきながら作りました。
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