孤独や痛みに寄り添う、強く優しい声が温かく包み込む。2024年1月14日(日)よりWOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』第2シーズンがスタート。エンディングテーマは第1シーズンに続いて、明楽役を演じる坂本真綾が彩っている。
デジタルシングルとしてもリリースされる「抱きしめて」は、ニューヨークを拠点にジャズピアニストとして活躍中の大江千里が作詞・作曲を担当。生楽器の繊細な音色と共に温かなことばが紡がれる穏やかさの中に強いメッセージ性を感じるバラードとなっている。『火狩りの王』への想いや、「抱きしめて」の制作エピソードを教えてもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ
――『火狩りの王』第1シーズンの物語を振り返ってみると、どのような思いがありますか?
坂本真綾 明楽というキャラクターは途中から出てくるので、アフレコ自体も何回かしか合流はできず、あっという間に終わってしまったなという印象があります。小説を先に読んでいたので、あの重厚感のある物語を映像にまとめるのは大変だろうなと思っていたんです。でも作品のイメージそのままに丁寧に映像化されていて。「すごいな」って思いながら見ていました。
――文字で読んでいる時と映像になった時とで、また違ったイメージが膨らむかと思います。
坂本 そうですね。原作を読んでいた時から想像はしてはいたのですが……例えば、蜘蛛はどんなものなのか、(狩り犬の)かなたやてまりは動くとどんな感じなのか。てまりってチワワなんだ、とか(笑)。私の中ではマルチーズだったんですよ。小説にも挿絵がありましたけども、より一層発見があったので、面白かったですね。特にアクションシーンは、文字で読んでいても面白いんですけど、誰が鎌で狩って……という三行くらいの情報量を一秒で描けるのがアニメなので。スピード感という意味でも楽しめるようになっていたのかなと思っています。
――てまりのことをマルチーズだと思っていた、というエピソードにふふっとなりました。
坂本 (笑)。脚本の押井守さんも犬がすごく好きで。他の作品でもこだわって犬を描かれている印象があります。私も犬が大好きなので、原作を読んでいる時に「かなたのこういう描写、実際に見たら泣いてしまうなぁ」と想像を膨らませていました。てまりはこの世界では今は珍しいとされる元愛玩犬。狩り犬としては小さくて……といった表現を読んだ時に「マルチーズかな?」と思っていました。そしたらチワワでした(笑)。そこは押井さんとは解釈が一致しなかったところで。
――作品について、坂本さんが押井さんとお話されることも?
坂本 作品について詳しくお話することはなかったです。最初から最後までアフレコに立ち会われているわけではないので、今日は押井さんがいるなと思うと、なんとなく緊張していました。明楽について「もっとこうして」というディレクションがあれば言ってほしいなと思っていたんですが、特にそういったリクエストはなく、安心されて帰っていく、という感じで。ディレクションに関しては、西村純二監督と音響監督の若林和弘さんからのリクエストをメインに受けていました。
――第1シーズンに引き続き、第2シーズンのお話を受けたときはどのようなお気持ちがありましたか?
坂本 長い作品なので1クールでは終わらないだろうなとは思っていて。第2シーズンがはじまるというお話を聞いて楽しみにしていました。明楽としては後半のほうがメインになってくるのかなと。第2シーズンでは原作に出てくるあんな場面や、こんな場面も待っているんだろうなと思うと、さらにワクワクしましたし、しっかりやらなきゃなと、身が引き締まる思いでした。やはり明楽はすごく素敵なキャラクターなので、原作者の日向理恵子先生や監督が思い描くような明楽像に近づきたいなと。この作品に出てくる人たちはそれぞれに魅力があって。先々の展開についてはお話ができないのですが、みんなが明楽のことをすごく信頼してくれるんですよね。例えば、クンは無条件に「お姉ちゃん」と呼んでくれて、いつも心配してくれていたり、灯子も「明楽さんが火狩りの王になれば……」と言ってきたり。そのくらい、人としても火狩りとしてもみんなが頼ってついてきてくれる。人情味も優しさも力もある魅力的なキャラクターだからこそ、見てくれている人たちもそれに思わず納得してしまう、そういった人物像に私もしたかったんです。そういった明楽の魅力をどうやったら出せるかなって。
――第2シーズンのエンディングを彩るのは「抱きしめて」です。大江千里さんが作詞・作曲を手掛けられていますが、どのような経緯で実現されたのでしょうか。
坂本 監督に第2シーズンのエンディングのイメージをうかがったところ、第1シーズンとガラリと変わって、やさしい、ほっこりする、かわいい……そういうキーワードが出てきたんですね。『火狩りの王』は全体的にとってもシリアスな雰囲気の作品ですし、物語はどんどんクライマックスに向かっていくわけで、第2シーズンのエンディングに“ほっこり”は合うのかな?と、ちょっと心配になったんですけども……監督としては、本編ではスリリングで重く激しい場面が出てくるからこそ、エンディングでホッと一息ついてほしいという気持ちがあるんだろうなと。また、私としてもせっかくやるなら第1シーズンとは違った表現で、この世界を表してみたいなと思っていました。それで、緊張感の強い「まだ遠くにいる」から変わって、生の楽器の音で構成された優しくて明るいバラードを想定しました。大江千里さんは私自身、子どもの時から聴いてきたアーティストさんで、大江さんであれば、年代や時代を選ばず、みんなの心にスッと入るポップスの王道のような曲を書いてくださるかなと。それで『火狩りの王』という作品のこともよく知っていただいた上で、書いていただきました。
――大江さんは時代ごとにさまざまな曲を発表されていますよね。
坂本 私が小学生くらいの時に……私だけではなく、きっと日本中の人が聴いていたとは思うのですが、私もCDを持っていて、繰り返し聴いていて。また、大江さんが別のアーティストの方に提供された曲も大好きでよく聴いていました。今回、楽曲を発注する時は大江さんがニューヨークにお住まいなのでリモートでの打ち合わせだったんですけども、お顔を見て、お話できる機会をいただけるとは……自分でもこういうご縁がつながるとはビックリしたのですが、どこかで、ずっと知っている人のような気持ちがあったので、不思議でした。
――キーワードなどをお話されたのでしょうか?
坂本 そうですね。こういった楽曲にしていきたいと、監督の思いも含めて聞いていただきつつ、アニメを見たことのない人にとっても、灯子たちのように、自分たちが選んだわけではないけれど、過酷な環境で暮らす人たちに思いを馳せるような曲にしたいと考えていました。この曲の制作に着手したのはウクライナの戦争が始まってから1年近く経った頃でしたが、毎日のように子どもたちが泣いている映像が飛び込んでくるのを見て、本当に心を痛めていました。この物語は、人類最終戦争後の世界が描かれていますけども、まさに今、現在進行形で灯りのない夜を過ごすことに怯え震えている子どもたちがいると思うと、決してファンタジーの中の出来事ではないなと思い、大江さんにも「不安な夜に温かいもので包んであげられるような曲になれば」というお話をさせていただきました。もちろんそれは簡単なことではないけれど、せめて音楽にできることって何だろうと考えた時に、誰もが抱く「明日がどうなるのかな」みたいな不安な気持ちから、「新しい日がはじまるよ」って前を向くきっかけになるような曲になれば良いなと。
――大江さんから届いた曲を聴いたときはどういったご印象がありましたか?
坂本 まさに毛布のように温かい曲というイメージのまま作っていただいたなと。今回は作詞も作曲も大江さんにお願いしていて。詞だけ読んだ時には明るい希望を抱かせるような印象があったのですが、メロディと一緒になったときに、それだけではない切なさや、優しさの中でも胸をキュッと掴まれるような寂しさを感じるようなところがあって。一色で描けない、いろいろな表情を見せる曲だなという印象を持ちました。
――坂本さんの柔らかな歌声と生のサウンド感もあって、隣で歌ってくれているような印象がありました。
坂本 言葉が聴こえてくる楽曲なので、この言葉がまっすぐに伝わる歌になればいいなと思っていたんです。レコーディングでは「ああしよう、こうしよう」という作為的なものはあまりなくて、ただただ素直に、言葉を大切にしながら伝えるという印象で歌っていました。大げさに歌い上げるという曲ではないので、まさに目覚めたばかりの誰かに、そっと話しかけるような近い距離感で歌っているようなイメージでした。
――映像と共に届けられるのが楽しみなのですが、ご覧になられたのでしょうか?
坂本 はい、見ました。色彩豊かな第1シーズンのエンディングと共通する雰囲気がありつつ、より色のトーンも優しく、万華鏡のような色使いが印象的でした。出てくるキャラクターたちの表情も、第2シーズン本編はどちらかというと険しい顔になってしまう場面が多いんですけども、その人たち本来の持つ、優しく穏やかなものでした。
――早く見たいです。では第2シーズンの見どころについても改めて教えてください。
坂本 第2シーズンははじまった瞬間からクライマックスというような感じで、最後まで緊張感が途切れることがなかったです。小説をまだ読んでいなくて、アニメからこの物語に触れている人にとっては、意外なことも起こるかと思います。「この物語、あと◯話で本当に終わるの?」ってくらい、激しい展開が続いていきます。物語のテンポもどんどん速くなっていくのですが、それと同じくらい問題も山積みで、この世界はどうなってしまうんだろう、灯子たちはどんな答えを出すんだろうと、はらはらと見守っていく感じなんですよね。第1シーズンではどこか運命にで翻弄されてたどり着いた首都という感じでしたけども、自分たちはどうしていくのか、どんな未来に向かうべきなのか、さらに能動的に考えて行動していく姿が見られるようになるのかな、と。明楽はすでに大人ですけども、巡り合った子どもたちとの関係の中で、責任感が増していきますし、家族ではないけれど、深い絆でつながった人たちを……守るものが出来た人の強さが芽生えてきて、それが見えてくるのかなと。ちょっとひやひやするところもありますが、それを楽しんでいただきたいなと思っています。
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