REPORT
2023.12.30
初のアルバムにして2枚組の大作『PRESENCE / ABSENCE』を5月にリリースし、夏には同作を携えての全国ツアーで全国6都市を回るなど、2023年も様々な形で自身の音楽表現を届けてくれた声優・楠木ともり。その充実した1年の締め括りとなるライブ“TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023『back to back』”が、24歳の誕生日当日となる12月22日に、神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで開催された。ライブタイトルの“back to back”とは“背中合わせ”を意味する言葉。直前に配信リリースされた同名の新曲「back to back」と共に、彼女が改めて自身と“背中合わせ”の関係にあるファンへの想いを伝える、大切な一夜となった。
PHOTOGRAPHY BY 西槇太一
TEXT BY 北野 創
毎年の恒例行事となっている楠木のバースデーライブだが、今年はワンマンとしては最大規模の会場での開催。なおかつ今回はライブに向けた新曲が事前に発表され、例年以上に期待が高まるなか、照明が暗転し、ライブはアンビエント風のSEで幕を開ける。その神秘的なサウンドは、これまでのライブでも聞き覚えのあるものだが、それにアレンジが加えられて徐々にスピードが速くなっていくと、そこからシームレスに繋がる形で1曲目「ハミダシモノ」に突入。ステージ中央に備え付けられたステップの最上段に立つ楠木の姿がバッとライトに照らし出され、鮮烈な登場を演出する。
前回のツアー“TOMORI KUSUNOKI LIVE TOUR 2023 『PRESENCE / ABSENCE』”では、アルバムのアートワークとシンクロした生花と造花をあしらったステージセットだったが、今回は鉄骨トラスなどが置かれた無骨でクールな雰囲気のステージで、背面に吊られた5面のスクリーンが各楽曲のイメージに合わせた映像を映し出す。そしてテクニカルかつエモーショナルな演奏で楠木の歌を支えるのは、菊池真義(Gt)、幡宮航太(Key)、宮本將行(Ba)、高尾俊行(Dr)の4名。彼女のライブではお馴染みのメンバーだ。
彼女のメジャーデビュー曲でもある人気曲「ハミダシモノ」(TVアニメ『魔王学院の不適合者』EDテーマ)を初っ端で披露して会場を沸かせると、続けざまに激情的なアップチューン「熾火」を投下。ピアノの印象的なイントロを経て、楠木が「いくぞ、横浜!」と呼び掛けると、客席からは大きな歓声が。ときに低くかがみ込み、ときに髪を振り乱し、感情のアップダウンを身振り手振りでも表現しながら激しく歌う、楠木の一挙手一投足から目が離せなくなる。
その後、手短かに挨拶し、大きな会場を見渡して「こんな景色は初めて見ます」と喜ぶと、続く「presence」では言葉にならない衝動を爽快に解き放つ。楠木の動きに合わせて客席も手を振り、「オイ!オイ!」と声を上げて盛り上がる。そこからmeiyo提供のカラフルなポップナンバー「StrangeX」に繋げ、柔らかなウィスパーボイスと“321”や“Upside Down”といった歌詞に合わせた愛らしい手振りで、観客をストレンジな世界へと誘う。ササノマリイとの共作曲「もうひとくち」では、ワウギターとリズム隊による溜めの効いた演奏が黄昏色のメロウグルーヴを紡ぐなか、チョコレートのように甘く繊細な歌い口で複雑な乙女心を表現。サビでは幡宮がコーラスを担当して、男女のやきもきとした関係性を描いた楽曲にひと匙の甘みを加えていた。
そして、今のシーズンにぴったりの“冬”を舞台にした楽曲「narrow」を歌唱。ドリーミーなサウンドと、車のテールランプが並ぶ様を模したスクリーンの映像が、イルミネーションに包まれた冬の夜の街並みを想起させるなか、楠木は切々としたボーカルで楽曲の世界観を描き出す。その後のMCで「冬は“narrow”、夏は“眺め(の空)”でいきたい」と語っていた通り、彼女の冬のライブの定番曲として、これからも長く愛されることだろう。
「ここからは落ち着いた曲を」ということで、それまでのライブで総立ちになっていた観客に着席を促したのち、アコースティック編成で2曲を届ける。まずは彼女のバースデーライブでは恒例となっているカバーソング。今回取り上げられたのはAimer「Deep down」。楠木がマキマ役で出演するTVアニメ『チェンソーマン』の第9話EDテーマとしても知られる楽曲だ。闇の中に青いライトが射しこむステージ上で、言葉の1つ1つを丁寧に、かつエモーショナルに紡いでいく楠木。フレットレスベース特有の浮遊感のある響きやリリカルなピアノと共に、ゆっくりと深淵へ沈み込んでいく。続いて披露されたのはCö shu Nieが楠木のために書き下ろした「BONE ASH」。パーカッションや強く打鍵されるピアノが感情の高まりを後押しするなか、彼女はファルセットを交えながら優美かつ狂おしいまでの表現を見せつけた。
そして、しばしの沈黙を置いて、「バニラ」が歌われる。白いライトが作り上げる光の景色、大河のように大きくうねる演奏、ノスタルジックな感傷を纏った繊細で力強い歌唱。特に終盤、落ちサビで彼女1人がスポットライトに照らし出され、ラスサビと共にステージが一気に光に包まれる照明演出と、胸元に手を当てて一拍空けた後に、優しく紡がれた最後の一節“添えよう”という言葉は、残り香のように深い余韻を与えてくれた。
SHARE