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INTERVIEW

2023.12.24

【特集】アイマスを愛する同期の絆が生んだ、「Thank You!」から「Rat A Tat!!!」に至る物語。TVアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ!』佐藤貴文×モモキエイジ スペシャル対談

【特集】アイマスを愛する同期の絆が生んだ、「Thank You!」から「Rat A Tat!!!」に至る物語。TVアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ!』佐藤貴文×モモキエイジ スペシャル対談

アイドルマスター ミリオンライブ!』シリーズの10年の夢の結晶であるTVアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ!』が、12月24日に最終回を迎えた。今回のインタビューでは、アニメオープニング主題歌「Rat A Tat!!!」の作曲を手がけた佐藤貴文と、作詞を手がけたモモキエイジにインタビューを実施。コンテンツとしての「アイドルマスター ミリオンライブ!」の始まりを告げた楽曲「Thank You!」を手がけた俊英コンビが10年を経て「Rat A Tat!!!」に至るまでの物語を聞いていく。

INTERVIEW & TEXT BY 中里キリ

※アニメ最終話までのネタバレを含みますので、ご注意ください。

【特集】アニメ『アイドルマスター ミリオンライブ!』夢を追うアイドルたちの“きらめく世界”に迫る

「アイドルマスター」を愛する同士の同期入社

◇佐藤貴文
バンダイナムコスタジオ所属のサウンドクリエイター。「アイドルマスター(765PRO ALLSTARS)」、「アイドルマスター シンデレラガールズ」「アイドルマスター ミリオンライブ!」に幅広く楽曲を提供。「ミリオンライブ!」では「Thank You!」「Welcome!!」の作編曲、「Dreaming!」「Brand New Theater!」の作曲など、作品を象徴するテーマソングを多数手がけている。

◇モモキエイジ
フリーランスの作詞家。「アイドルマスター ミリオンライブ!」では「Thank You!」「Brand New Theater!」の作詞を担当している。別名義に八城雄太があり、こちらは「アイドルマスター シンデレラガールズ」を中心に「BEYOND THE STARLIGHT」「Go Just Go!」「無限L∞PだLOVE♡」など多数の作詞を手がけている。

──まずは佐藤さんとモモキさんの関係性について伺えたらと思います。

モモキエイジ 当時はバンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)だったのかな?

佐藤貴文 そうですね。ゲームスの同期入社でした。

──2012年に発売の「あんずのうた」(「アイドルマスター シンデレラガールズ」双葉 杏のソロ曲)では作詞が八城雄太・佐藤貴文の連名、作編曲が佐藤さんの名義になっています。こちらが最初の共同作業という認識でいいでしょうか。

佐藤 はい、「あんずのうた」が最初になると思います。

モモキ そうだよね。

佐藤 入社して一緒に研修を受けているときから、何か一緒にやりたいという話はしていたんですよ。

モモキ でも、研修時代は一緒に曲を作ったりはしてなかったよね。自分は「アイドルマスター」に憧れてバンダイナムコに入ったんですけど、学生時代から作詞はやっていたので、ワンチャン歌詞を書けないかな、書きたいなという野心があったんですよ。だから学生時代に作ってた楽曲を佐藤くんに送りつけて、デモテープなんで聴いてください!みたいな売れないバンドマンのような活動をしていました(笑)。そういう経緯もあって、佐藤くんが「あんずのうた」をやるときに声をかけてくれた感じです。

佐藤 「あんずのうた」をやる前からもうね、「アイドルマスター」の曲をやりたい、やろうという圧を感じていて(笑)。

モモキ ギラついていましたね、当時(笑)。

佐藤 僕も似たようなもので、折角2人とも熱いものを持っているんだから、一緒にできる機会があるならやろうということで。

モモキ 佐藤くんも入社前から「アイドルマスター」が好きだったから。趣味アイマスなんですか? 私もです~、みたいな。

──意気投合をされたと。ちなみにお二人の「アイドルマスター」の入り口はどこになるんですか?

モモキ 私はXbox 360版の「アイドルマスター」(2007年1月25日発売)ですね。人生で一番遊んだゲームは「アイドルマスター ライブフォーユー!」(2008年2月28日発売)です。

佐藤 僕は元々、神前(暁)さんに憧れてこの業界に入ってるんですよ。当時はニコニコ動画が全盛期で「アイドルマスター」がすごく盛り上がっていたんですよね。そのシーンを通してコンポーザーの方々に入社前から憧れていて、神前さんもそうですし、LindaAI-CUE(石川哲彦)さんにもすごく憧れを持っていました。「あんずのうた」に“燃やすわ激しく”のフレーズがあるんですけど、それもLindaさん(が手がけた「エージェント夜を往く」の)リスペクトでした。

──モモキさんは八城雄太名義で「Never say never」や「S(mile)ING!」といった「シンデレラガールズ」の初期代表曲の作詞に携わったのち、劇場版「THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!」挿入歌の「ラムネ色 青春」や「アイドルマスター ミリオンライブ!」最初のテーマソング「Thank You!」をモモキエイジ名義で手がけられました。名義を変えた経緯や理由を伺えますか?

佐藤 やっしー(八城雄太)と僕がタッグを組むと「あんずのうた」のイメージがチラついてしまうので、「ミリオンライブ!」で心機一転新しい始まりの歌を作ろうとするときに、既存のイメージがつくことは避けたという感じだと思います。

──「ラムネ色 青春」と「Thank You!」は同時期に動いていたのでしょうか。

佐藤 「Thank You!」のほうが先で、モモキエイジという名義ができてから「ラムネ色 青春」はどちらの名義が良いかという話だった気がします。

モモキ うん、そうでしたね。

──「アイドルマスター」シリーズのCDリリースは日本コロムビアが担っていましたが、「アイドルマスター ミリオンライブ!」ではランティス(現バンダイナムコミュージックライブ)が担当しています。当時の総合ディレクターの石原章弘さんと当時ランティスのプロデューサーだった斎藤 滋さんに雑誌の「リスアニ!」でインタビューした際、「Thank You!」の座組はこれが「アイドルマスター」です、というイズムや魂を新しいチームに伝える意図があったと伺ったことがとても印象的でした。

佐藤 「ミリオンライブ!」という新しいコンテンツのテーマソングとして「Thank You!」を作るうえで、がむしゃら感を狙っていたと思うんです。それで、僕もやっしーもがむしゃらに向き合っていたんですよね。

──自分たちの制作姿勢が楽曲にもあらわれていた。

佐藤 そうですね。制作中にはボツもたくさん出しましたし、ボロボロになりながら作ったデモ音源を総合ディレクターの石原さんや、サウンドプロデューサーの中川浩二さんに聴いてもらいました。そのときに、石原さんに「やるやん」って言っていただいたんです。僕らは夢中で作っていたんですけど、そこに込められたがむしゃら感とか、「アイマス」が好きな気持ちに魂みたいなものを感じていただけたのかなと思いますね。

モモキ 「Thank You!」ってどういうふうに作りましたかとか、どういう想いを込めましたかって聞いていただく機会があるんですが、今10年以上経ったからこそ、あのときはこうだったのかなとか、言語化するとこういう意図が、とか話せるんですけど……当時の正直な心境を言えば、間に合わせなきゃ、成功させなきゃ、良い曲作らなきゃ、歌詞書かなきゃで頭がいっぱいですよね(笑)。当時の自分は、必死で頑張る(作中の)アイドルの女の子たちと今よりは年齢も近かったので、そういう姿勢には想いを重ねていましたね。まだ何もない自分たちがここから良いものを世に出していくぞという姿勢と、「ミリオンライブ!」も大草原の小さなテント(シアター)みたいなところから始まるという在り方を。そこに自然に感情移入したのは大きいのかなと思いますね。

──そこから「Thank You!」の“手作りの「ぶどーかん」”という奇跡のフレーズが生まれます。

佐藤 きっと、そういう想いから自然に出てきたんだと思いますね。

モモキ やっぱり当時のアイドルにとって、日本武道館という会場は1つの目指す場所というか。今は大きな会場も増えたり配信のライブなども行われるようになったりして多様化が進んでいますが、やっぱり私の中では武道館という場所に憧れが強かった部分はあったと思います。

──「Thank You!」というタイトルについても伺えますか。

モモキ 佐藤くんが石原さんに「やるじゃん」と褒められた一方で、私は歌詞の初稿を出したときに「なんで(Thank You!=)ありがとうなの?」と聞かれたんです。それは明確に説明できて、「ミリオンライブ!」ってちょっと特殊な立てつけだったと思っていて。765PRO ALLSTARS(以下、765AS)の13人も込みで、50人でスタートするのが「ミリオンライブ!」だよ、と聞いていました。すでに765ASはデビューしている感じだったので、そこから「初めまして」では空々しくなってしまうと考えたんです。真っ新な新人組も、経験のある765プロオールスターズも、両方が言って違和感のないメッセージにしないといけないなと思いまして。ライブを終えて、来てくれてありがとうってどの立場からでも言える言葉じゃないですか。新人組は応援してくれるみんなへ「ありがとう」、765ASは新しい場所で活動する私たちを追いかけてきてくれて、応援してくれて「ありがとう」って。最初でも、最後の瞬間にも伝えられる言葉が、この「Thank You!」でした。

佐藤 今でこそライブの一番最後の定番の楽曲になったけどね。

モモキ ね!本当に見るたび聴くたびにありがたいねって気持ちが湧いてきます。

佐藤 私たちが「Thank You!」だよね(笑)。

──ちょっと話が戻って、“手作りの”というのもキーフレーズだと思います。

モモキ 自分たちでライブを手作りしているような、なんなら背景の書き割りやポスターとかも自分たちで作るような、学祭のイメージだったんですよ。学祭って割とみんな経験したことがあって、私もステージに立ったときはお金がないから安い布を工夫して衣装を作ったりして。ライブやりますって告知をしながら、友達に頼んだりしていくなかでやっと人が来てくれるわけじゃないですか。そういういじらしさってすごく愛らしいし、一生懸命で。そういうものの結晶が、体育館のステージなんだけど、彼女たちにとっては武道館、ドームクラスのステージみたいな。そういうイメージでした。

佐藤 学祭のイメージについては当時すごく話していた気がします。

──いつか現実の武道館に行けたらというイメージはありましたか?

モモキ もちろん。この曲を引っ提げて現実の日本武道館のステージに立ったら、これはもうエモさしかないと思って。“THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 4thLIVE TH@NK YOU for SMILE!!”で皆さんが武道館に立ったのは現地で拝見させていただいたのですが、やっぱり涙が出ましたね。

佐藤 わかる。僕らからしても、思わず想いが溢れる光景でした。

モモキ ついに伏線回収されちゃったなと思いましたね(笑)。しかし“4thLIVE”で実際に日本武道館に立ってからも、大切に歌い継いでくれているから。頑張って作って良かったなと思いますね。でも、もちろん自分たちの力だけじゃないんですよ。楽曲を育てていくのは「ミリオンライブ!」という作品に関わるすべてのプロデューサー(ファン)や、スタッフ、キャストさんなので。そのすべてに「Thank You!」ですよね。

佐藤 やっしーが言う通り、楽曲ってリリースされてからも思い出と一緒にどんどん成長していくものだと思ってるんです。だから僕らが10年前に「Thank You!」を作ったときの想いと、今聴いて感じる想いは全然違うなと思いますね。

──アニメ『ミリオンライブ!』では、「Thank You!」の歌詞をトレースするような原っぱライブが描かれました。

佐藤 作品の10周年で迎えたアニメで、また新しいアコギバージョンとして描かれて。しかもそこで描かれる物語が、(春日)未来が少しでも早く歌いたいから、届けたいからというもので。こういう見せ方もあるんだっていう驚きもありましたし、未来の気持ちも「すごく分かる!」と感情移入しちゃいました。

モモキ ほかの既存曲についても、私が担当した楽曲なら「Brand New Theater!」とかも使うタイミングや使い方がこだわりと愛に溢れていて、文脈の中に置かれることでさらに輝くから、おいしい使い方をしてくれてるなと思います。

佐藤 「Brand New Theater!」の使い方は神がかってましたね。

──雪の屋上から劇場にカメラが移って、“サンキュー!ウェルカム!ドリーミング!”、“ウィーアー ミリオンスターズ!”で光が溢れる感じが素晴らしかったです。

佐藤 本当に綿田(慎也)監督はすごく丁寧に描いてくださって。僕らからしても新しい見せ方で描いてくださっていたので、本当に嬉しかったです。

モモキ ゲームの「アイドルマスター」シリーズでいわゆる“思い出ボム”ってあったじゃないですか。思い出ボムって映像でこういうふうに作るんだなぁって。

──すべてを収束させられたのは歴代テーマソングのタイトルやモチーフを入れ込んだ「Brand New Theater!」の歌詞があったからこそだと思います。

佐藤 綿田監督の中では、最後のあのシーンで「Brand New Theater!」を使いたいというのは初めから構想としてあったみたいです。だから、そこに至るまでのお話の中で「Welcome!!」と「Dreaming!」の楽曲もしっかりと使って、「Brand New Theater!」に繋げたいと考えてくださったそうです。本当に感謝しかないですね。物語ありきで楽曲を本当に大切に使ってくれていると感じます。なんでこのタイミングでこの曲なのかみたいな部分に、今まで作品と一緒に歩んできた人も納得できる必然がある。綿田監督神ですよ。

モモキ 本当に丁寧だなと思います。楽曲の使い方がBGM的じゃなくて、作中で流れている、歌っている楽曲として扱われていることが多いんですよね。

──物語の始まりのライブでも、「ToP!!!!!!!!!!!!!」一発で765ASの素晴らしさ、強さ、すごさが全部伝わってくる構成でした。

佐藤 楽曲が「ToP!!!!!!!!!!!!!」というのがニクいんですよね。

モモキ そこきたか!という感じですよね。

佐藤 僕からは「ToP!!!!!!!!!!!!!」がいいとお話はまったくしていないんですよ。最初に脚本を読んだときから、ここでは「ToP!!!!!!!!!!!!!」を使って描きたいという意図があって。サビ前の(天海)春香の「ガンバレ♪」をきっかけとして、未来の、そして全体の物語が動き出していく。明確な監督の意図を感じるので、あそこで「ToP!!!!!!!!!!!!!」というのは、すごく素敵だなと思いますね。

モモキ 春香から未来へ、未来から(最上)静香へっていう頑張れリレーね。

佐藤 バトンを繋いでいくことが物語全体を通しても丁寧に描かれていますからね。

新しい時代の扉を叩く音に隠された“原石”

──アニメ『ミリオンライブ!』オープニング主題歌「Rat A Tat!!!」について伺っていきます。印象に残るタイトルはどのように生まれたのでしょうか。

モモキ タイトルは私からですね。

佐藤 そうですね。

モモキ 最初にいただいた発注資料に、オーディションの課題曲ですと書いてあったんです。それにオープニング主題歌であるということをインプットしてぐるぐる考えていたら、765プロの雑居ビルのドアを、未来が「入れてください!どんどんどん、たのもー!」って叩いているイメージが浮かんだんですね。“rat a tat”というのは英語でドアを叩く擬音なんです。佐藤くんのデモ音源をもらったら、ラッタッタが入るキャッチーで覚えやすい繰り返しのフレーズは、意味のある言葉ではなく、ピカピカやキラキラみたいな音がいいなと思ったんです。それが融合して、“rat a tat”でいいんじゃないかとなった気がします。

──綴りにすると「at」が3つ入るのが、アイマス楽曲の定番の=@(アットマーク)に通じるんじゃないか、という考察があります。

モモキ それはプロデューサーさんたちが見つけてくれたんですよね。私はアイマス楽曲のタイトルの@って、アイドルになったぞ、M@STERの名にふさわしい在り方になったぞって意味だと勝手に思ってるんです。だから、これからアイドルになっていこうとしている彼女たちの楽曲のタイトルに@が入ってちゃいけないと思っていて。でも、プロデューサーさんたちが原石を見出してくれたことで、アイドルの@になっていくってことなんじゃないでしょうか。あくまでも私的な見解です(笑)。

──「Rat A Tat!!!」の楽曲制作はどのように進んでいったのでしょうか。

佐藤 綿田監督と、最初の打ち合わせでどういう方向で作りましょうかということを話しました。どういうところを狙いたいか、ということで掲げられたのは「新しい始まり」。アニメでも物語は「出会い」から描かれていくので。だから作るときに意識したことはがむしゃら感なんですよ。

──「Thank You!」のお話でも伺ったワードが出てきました。

モモキ 「Thank You!」から10周年だからね。がむしゃら感、出せました?

佐藤 そうなんですよ。あの頃のがむしゃら感を出さないといけない。だからもう「Thank You!」をかなりしっかりと聴き直しました。意識したのは、スケール感を大きくしない、駆け出しのアイドル、等身大のアイドルを目指したいということだったんですけど、実際どうすればいいかは本気で悩みましたね。「Thank You!」をたくさん聴いて分析したんですけど、やっぱり一番大事なのは初期衝動だなと思って。初期衝動をきちんと込められていればいいのですが。

モモキ こちらも同じことを感じていて、やっぱり「Thank You!」の当時は、その当時の在り方でガンとぶつかったら何かマッチした曲ができたんですよ。今は色んなものを俯瞰して見てしまうところがあるから、どうすれば再現できるか、どうすればがむしゃら感、若さ、ここから始まるんだ、この手に野心を掴むんだ、みたいなものをエミュレートできるか。人生で色々経験すると人間って落ち着いていくものだけど、この曲にはそんなものはいらないんですよ。ただ、そこはこれまで培ったもので全力で取り組むしかないですからね。だから、私はすごく理詰めで取り組みました。

佐藤 持てる技術は全力投球しましたね。編曲を半田 翼さんに依頼したのも、繊細さと攻めの姿勢が非常に素晴らしい作家さんだからで、初期衝動を強化するアレンジをしていただきました。あとは、綿田監督と話していくなかで第2話にあったオーディションシーンの構成や演出の流れ、見せたいメッセージをかなり詳細に伺っていたんです。なので、僕の中で初期衝動を表現するときに、オーディションに挑んでいく未来、静香、翼3人の感情に焦点を当てて、それを取っ掛かりにして作っていきました。

モモキ ここまでガチガチに曲展開、AメロはこういうシーンでBメロはこういうシーンでって作り方はあまりないよね。

佐藤 監督の頭の中ではすでにあのシーンのイメージが出来上がっていたんだと思います。サビはこうやりたい、そのあとのオチでこうやりたい、という構想が全部あったので。

──そういうイメージが共同作業者の中にあって一緒に作っていくのは、アニメーションならではの感じがしますね。

モモキ 確かに。

佐藤 本当に、アニメだからこそですね。今までの作り方と「Rat A Tat!!!」の作り方は結構違う感じです。

モモキ 実は、この曲の歌詞ってすごく難しかったんですよ。

──難しさのポイントを伺ってもいいでしょうか?

モモキ ありがたいことに「シンデレラガールズ」でも「ミリオンライブ!」でも、全体曲や周年曲を書かせていただく機会が多かったんですけど、例えば「シンデレラガールズ」の「無限L∞PだLOVE♡」であれば、迎えた(「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」の)8周年のノリやメッセージを込めて書いていくんですね。でも「Rat A Tat!!!」という楽曲は、いわば「ミリオンライブ!ゼロ」なんですよ。「Thank You!」も「Brand New Theater!」も「Crossing!」もない時空の楽曲なんです。それらに向けた伏線を仕込むこともできたと思うんですが、それは何か違うと思って……佐藤くんは「Thank You!」を聴き込んだと言っていましたが、私は逆になるべく「Thank You!」や「Brand New Theater!」の記憶を消して、真っ新な状態で作詞家として取り組んだらどうなるんだろうかと。完全に取り除くことは無理なんですけど、極力そこに近づけて。『「ミリオンライブ!」のあらゆる歴史の前に存在する楽曲』というのが1つの条件でした。そのうえでアニメのテーマ曲でもあるので、「ミリオンライブ!」感やキャッチーさも担保しないといけない。そして、この先を引っ張っていくメッセージにもしないといけない。

──複数のタスクとテーマがあった。

モモキ 「ミリオンライブ!」が10周年でアニメ化して良かったね!ではなく、これから先の「ミリオンライブ!」を見たい、未来は明るいんだよということを力強いメッセージで伝える歌詞じゃないといけない。そう考えていくと、すごく難しい歌詞だったんです。

佐藤 いくつもの条件があるというのはすごくわかるし、共感できますね。僕も最初はすんなりとは作れなくて、割と袋小路みたいな感じになったんです。だからもう自分の中では一度全部リセットして、「ミリオンライブ!」感を意識しすぎることはやめたんです。そこは僕とやっしーが作ることで自然に出てくるものだと思ったので。縛りはなくしていこうと。

モモキ お互いに色々考えているんだね(笑)。

佐藤 だから「Thank You!」を聴き込んだのも、初期衝動、根本にあるマインドを抽出したかったんだと思います。

モモキ 大変だったけど、やって良かったと思う。

佐藤 そうだね、最終的には良いものになったと僕も思ってます。

モモキ (作詞の)お話をいただいたときは嬉しかった。別にアニメのテーマソングを僕と佐藤くんの座組でやらなくちゃいけないわけではないじゃないですか。色々選択肢があるなかで、「Thank You!」だったりを作った2人のチームに任せてくれた。文脈を大事にしていくんだぞという意志を感じたので、それに応えなきゃいけないなと思っていましたね。

佐藤 僕も依頼していただいた側の人間ですが、そのときすぐに言ったのは「僕がやるならやっしーと一緒にやらせてください」ということでした。

モモキ ああ。同期で良かった(笑)。

佐藤 生みの苦しみがある楽曲になることは見えていたので。

──一緒に苦しもうと(笑)。

モモキ 道づれだったんだね(笑)。

佐藤 やっしーと一緒にやるときは、作業が一方通行にならないんですよ。曲ができました、歌詞お願いしますではなく、こんな話がきたんだけど、というところからフランクに話せたんですね。そういうところにやりやすさがあって、一緒にやることで生まれた楽曲だと思います。

モモキ 佐藤くんに感謝したいんですけど、歌詞を尊重して譜割をちょこちょこいじってくれたんですよ。なるほど、こういうメロディラインにするとすっきり聴きやすくなったな、みたいなところもあって。

佐藤 やっしーとやり取りするときは、デモ音源の完成度はあえてちょっと高くない状態で共有しながら進めているんですよ。だから、歌詞のインスピレーションを受けて譜割やアレンジに手を入れていくことはやっていますね。

モモキ コミュニケーションができているからこそ、いただいたものからちょっと外れてもこうしたほうが気持ちいいんじゃないかな、みたいな提案のチャレンジができたと思いますね。

次ページ:憧れの存在は神前 暁・yuraの神神コンビ

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