リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

REVIEW&COLUMN

2023.12.13

菅野よう子が新たに提案する『COWBOY BEBOP』の音楽とは?――本人選曲・編集によるアナログ盤3タイトルの注目ポイントを徹底解析!

菅野よう子が新たに提案する『COWBOY BEBOP』の音楽とは?――本人選曲・編集によるアナログ盤3タイトルの注目ポイントを徹底解析!

今年でTV放送から25周年を迎えた、渡辺信一郎監督によるオリジナルアニメ『COWBOY BEBOP』(以下、『ビバップ』)。日本だけでなく海外での評価も高く、2021年にはNetflixで実写ドラマ化されるなど、今なお絶大な人気を誇る本作において、大きな役割を果たしたのが、菅野よう子の手がける音楽だ。スーパーバンドのシートベルツを率いて、ジャズを軸に様々なジャンルを横断する作風は唯一無二。TVシリーズのOPテーマ「Tank!」をはじめ、作品の枠を超えて愛され続けている楽曲も多い。

それらの名曲たちが、ついにまとまった形でアナログ化。12月13日に一挙リリースされる。なかでも目玉となるのは、アニメ版のサウンドトラックや関連CD全7タイトルを集大成した11枚組ボックス『COWBOY BEBOP LP-BOX』だが、今回注目したいのは、菅野が新たに選曲・編集した3タイトル。それぞれコンセプトの異なる内容で、なかには初音源化の貴重な楽曲も収録されており、『ビバップ』の音楽を新たな視座で楽しむことができる。それら3タイトルの注目ポイントについて、じっくり解説していきたい。

TEXT BY 北野 創

『ビバップ』音楽の新たな定番集――『TANK! Gold COWBOY BEBOP』

新規で編まれたコンピレーション盤3タイトルのうち、2枚組LP『TANK! Gold COWBOY BEBOP』は、ジャズやブルース系の楽曲を中心に『ビバップ』らしさを最も体現した内容に。収録内容は、当時大ヒットを記録し、第13回日本ゴールドディスク大賞「アニメーション・アルバム・オブ・ザ・イヤー」も受賞したTVアニメのサントラ第1弾『COWBOY BEBOP』(1998年)がベースになっている。特にA面の冒頭4曲、「TANK!」「RUSH」「SPOKEY DOKEY」「BAD DOG NO BISCUITS」と続くところは、曲順も『COWBOY BEBOP』とまったく同じで、要はこの流れこそが、菅野よう子が考える理想の『ビバップ』音楽の立ち上がりということなのだろう。ただし、今回のアナログ盤では1曲目が、Netflix版サントラのために菅野が自らミックスし直した「TANK!(Flix Mix)」に置き換えられているので、『COWBOY BEBOP』のCDを持っている人はぜひ聴き比べてみてほしい。

また、アナログ盤ならではの選曲が成されているのも本作の大きなポイント。レコード盤はA面・B面のそれぞれに溝が刻まれていて、片方の面を聴き終えたら盤面を物理的にひっくり返さないともう片方の面を聴くことができない性質上、アルバム全体に対してだけでなく、盤面ごとに始まりと終わりが存在することになる。だからこそ、面ごとに1つの流れやストーリーを意識した選曲もできるわけで、今作では各面ごとで起承転結が作られている印象が強い。A面で言えば、前述の4曲でブラスロック~ジャズ~ブルース~スカといった『ビバップ』らしい賑やかで雑多な一面を見せ、その後に哀愁のトランペットソロ「COSMOS」、そして神秘的なアンビエントジャズ「ROAD TO THE WEST」でしっとりと締める構成が素晴らしく、まるでレコードの各面ごとに1話完結型の秀逸な物語を見ているような感覚になれる。

その意味で言うとC面(Disc-2のA面)も、陽気な趣きの「CAR 24」、パーカッシブな「The EGG and I」、まどろみの無国籍ギターミュージック「WALTZ for ZIZI」(菅野は劇中に度々登場するじじい3人組、アントニオ、カルロス、ジョビンをイメージしてこの曲を作ったという)といった気楽に楽しめる3曲を経て、後半の3曲はスパイクの過去とビシャスとの因縁が描かれるTVアニメでも屈指の人気エピソード「堕天使たちのバラッド」で使用されたシリアスな楽曲「RAIN」「Green Bird」「AVE MARIA」でまとめる、前半と後半で対照的な内容になっている(「RAIN」は劇中では使用されなかったスティーヴ・コンテ歌唱バージョンではあるが)。

他にも、宇宙的なシンセサウンド、泣きのサックス、トライバルなパーカッション、民族音楽的なコーラスが高まりを生む人気曲「SPACE LION」や、ニューオーリンズファンク「TOO GOOD TOO BAD」、山根麻以が歌うブルースロック「Don’t bother none」などを収録。D面のラストはブルースハープをフィーチャーした「DIGGING MY POTATO」でフェードアウトしていく放浪感を含め、これぞ『ビバップ』と言える粋な楽曲集になっている。

多彩な曲が楽しめる『The Real Folk Blues Legends COWBOY BEBOP』

『ビバップ』の音楽と言えば、ジャズだけに捉われない自由奔放な音楽性が大きな魅力になっているわけだが、そういった菅野流の無国籍ミクスチャーミュージックの要素が2枚組LPにギュッと凝縮されているのが、『The Real Folk Blues Legends COWBOY BEBOP』かもしれない。言わずもがなの名曲である山根麻以が歌うTVアニメのEDテーマ「THE REAL FOLK BLUES」に始まり、ストレートアヘッドな4ビートジャズ「Clutch」、スパイミュージックさながらの緊迫感とクールさに満ちた「SPY」、ワルツ調の軽やかなサウンドに日本語ラップが乗る「Time to know ~ Be waltz」など、A面・B面はTVアニメと劇場作品『カウボーイビバップ 天国の扉』(2001年)から多彩な楽曲を織り交ぜて展開していく。

また、『TANK! Gold COWBOY BEBOP』と比べて、歌もの曲の比重が増しているのも『The Real Folk Blues Legends COWBOY BEBOP』の特徴で、第24話「ハード・ラック・ウーマン」でエドたちとの別れをエモーショナルに彩ったスティーヴ・コンテ歌唱の名曲「CALL ME CALL ME」、エド役の声優・歌手である多田 葵が歌う寂しくも愛らしいフレンチテクノポップ「WO QUI NON COIN」などを収録。なかでもC面は、山根麻以のソウルフルな歌声が炸裂する『カウボーイビバップ 天国の扉』のラストを飾ったナンバー「Gotta knock a little harder」で始まり、同じく山根が歌ったTVアニメ最終話「ザ・リアル・フォークブルース(後編)」のEDテーマ「BLUE」で締め括る構成になっており、ここで1つの物語が完結するようなフィナーレ感が演出されている。

そしてD面ではレアな楽曲が登場。エド役の多田がTADA ED AOI名義で歌う「さすらいのカウボーイ カウボービバップのテーマ」は、OPテーマ「Tank!」に歌詞を付けてエドが歌った体で作られたもの。初出は2002年にリリースされたCDボックス『COWBOY BEBOP CD-BOX』のおまけ8cmシングルで、現在は入手困難になっているので今回のアナログ盤収録は嬉しい限り。とぼけた味わいの打ち込みアレンジになっていることも含め、エドらしくも菅野らしくもある楽曲と言えるだろう。さらに貴重な音源がD面の最後に収録された「piano solo <Live>」。これはシートベルツが2001年8月に行ったライブ“EARTH GIRLS ARE EASY 最期のウィークエンド”のアンコールで菅野が弾いたピアノソロの音源で、流れるように紡がれるメロディと変幻自在のタッチに、『ビバップ』音楽の源流を垣間見ることができる。かつてDVD「FUTURE BLUES」にそのライブ映像が収録されていたが、ここはアナログ盤でじっくりとひよこ隊長の演奏を味わいたいところだ。

次ページ:『Songs for the Cosmic Sofa COWBOY BEBOP』から広がる『ビバップ』の世界

SHARE

RANKING
ランキング

もっと見る

PAGE TOP