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INTERVIEW

2023.12.08

アニメ劇伴におけるMONACAの新境地を開拓!チームでの制作から生まれる化学反応を語る――TVアニメ『カミエラビ』音楽:MONACA(岡部啓一、広川恵一、高橋邦幸、オリバー・グッド、井上馨太)座談会

アニメ劇伴におけるMONACAの新境地を開拓!チームでの制作から生まれる化学反応を語る――TVアニメ『カミエラビ』音楽:MONACA(岡部啓一、広川恵一、高橋邦幸、オリバー・グッド、井上馨太)座談会

原案を「NieR:Automata」のヨコオタロウが務めたオリジナルアニメ作品『カミエラビ』。その期待に違わぬダークな魅力を存分に発揮した世界観設定やストーリーが展開されている本作だが、劇伴を手がけたのはMONACAだ。アニメファンにとっては主にアイドル作品や日常系の作品で知られる音楽チームがこうしたダークな作品を手がけることに驚きがあるかもしれない。しかし一方で「NieR:」シリーズなどのゲーム作品ではこうした強みを持っていることでも知られている。そこで『カミエラビ』ではどのようなアプローチで楽曲作りにあたったのか、MONACA代表の岡部啓一、広川恵一、高橋邦幸、オリバー・グッド、井上馨太らに集まってもらい、それぞれの個性と本作におけるMONACA流の化学反応の生み出し方について話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

アニメ劇伴におけるMONACAの新境地を開拓

――MONACAさんはこれまでも『NieR:Automata』など、ヨコオタロウさんの作品で劇伴を手がけられてきましたが、今回『カミエラビ』という企画には最初にどんな印象を受けましたか?

岡部啓一 最初にお伺いしたときにはすでに、世界観やキャラクターデザイン、ストーリーは出来上がっていた状態でした。ヨコオさんの作品らしい、ちょっとダークなテイストでしたので、具体的にイメージしやすかったですね。それが実際に形になっていくに従って、脚本のじんさんのカラーも入っていき、今まで僕らが関わってたヨコオさんの作品とはまた一味違うものになりそうだなと感じました。

――音楽に対するオーダーはどんなものがありましたか?

岡部 今回、全体のカラーとしてはエレクトリックで、ちょっと攻めた感じにしたい、というお話がありました。それとともにキャラクターたちの心情描写はベーシックな劇伴らしいところもあり、この二軸で提案させていただきました。ベーシックな音楽作りの良さはもちろんありますが、「攻めたものを」と言われると、クリエイターとしての腕の見せどころだとモチベーションが高まりますね。MONACAはアニメのファンの方にとっては、アイドル作品の歌モノを多く手がけているので、そうした曲たちを弊社のカラーとして認識してくださっている方が多いと思うのですが、一方でゲームから知ってくださった方にとっては、先のヨコオタロウさんの作品の劇伴などでちょっとダークなイメージを持たれているようです。そんななか、今回の『カミエラビ』はアニメ企画でありつつ、普段はゲームで作っているような音楽にするプロジェクトで「尖ったものを作ってほしい」と言っていただけたので、普段と違う経験もできるだろうなと思いました。それぞれのカラーを合わせることで、独特の世界観ができるかなと想像しつつ、MONACAとしてどんな布陣で臨むかを考えていきました。

岡部啓一

岡部啓一

――多くの劇伴制作の場合、個人の作家の方が担当をされますが、MONACAさんのように集団で制作される場合は、どのように割り振られていくのでしょうか?

岡部 MONACAでは先程も少しお話したように、歌モノも劇伴も制作します。音楽作りと一口にいっても、それぞれにポイントが結構違うので、作曲家はそのどちらかに専念する事が多いのですが、僕は両方ともやったほうがいいと思っていて。というのも、それぞれ異なるポイントを求められるので、それを経験することによって対比ができたり、音楽の特徴が浮き彫りになったりして、結果的に作家にとって良い勉強になるわけです。それに、従来的には得意だと思われていないようなことでも、試してみたら意外と面白いものができたみたいなことってあるんですよね。なので、MONACAでは歌モノ要素が強い作品でも、劇伴寄りの作家に担当させることもあります。今回の広川(恵一)はまさにそうですね。歌モノやアーティスト作品が得意だと思われていますが、今回の劇伴にそうしたテイストを入れられる良い機会だなと考え、声をかけました。帆足(圭吾/制作メンバーだが都合によりインタビュー不参加)と高橋(邦幸)は『ニーア』シリーズや『結城友奈』シリーズも一緒に作ったのですが、2人とも劇伴の制作経験も豊かなので、劇伴らしいテイストの曲を割り振っています。広川や、若手のオリバー(・グッド)と井上(馨太)にはちょっと攻めたエレクトリック寄りのものを割り振った感じですね。

――そのうえで、統一感はどのように図っているのでしょうか?

岡部 弊社には共有サーバーがありまして、各作家が作った曲を自由に聴くことができます。そこで「今回の作品はここまで尖らせていいんだな」と、塩梅を考えながら作っていきます。最初に経験値の高い広川や高橋の曲がアップされていたので、若手のオリバーと井上はその辺を聴いたうえで色々とイメージしながら作っていけるし、匙加減も測ることができたと思います。

――メインテーマは岡部さんが書かれていますが、これはこの作品の音楽の方向性を示すために最初に書かれた形でしょうか?

岡部 書いた順番としては僕はちょっと後出しくらいのタイミングだったんですよ。僕もみんなの曲を聴いたうえで、なるほどねと思いながら書いていきました。ただオーダーとして、テーマ曲のモチーフを使う曲も数多くあったので、メインテーマはアレンジしやすい曲に仕上げる必要がありました。メロやフレーズ感がしっかりないとバリエーションを作ることができなくて、アレンジしづらくなってしまいますから。なので、ほかの曲と比べて比較的わかりやすく、ポップ寄りの曲になったかなと思います。

――では、それぞれ皆さんがお得意な部分とご担当された楽曲についての解説を伺えればと思います。

岡部 じゃあ、MONACAでの古株から順に説明してもらいましょうか。

広川恵一 最初に「この作品は攻めた音楽で作りたい」という話をいただいたので、僕の場合はその担当として呼ばれたのかなと思いました。劇伴のメニュー表の担当のリストを見たときも「音楽として成立するギリギリの、ノイズやガラスの割れるような音を多用した感じ」(M44「絶望の先」)と書かれていて、やり甲斐を覚えました。これもデモの段階で「ちょっとやりすぎかな?」くらいの音源を出したのですが、それも好評をいただき「そこまで許されるんだ」と驚きましたね。

広川恵一

広川恵一

岡部 「攻めた曲を」と言われたときの匙加減って、本当に難しいんです。今回は実際に出したときにそのまま受け入れられた珍しいケースでした。

広川 そうですね。あとは、日常っぽい劇伴曲もあって、「日常系、穏やかに、感情フラットに アンビエント系にはしたくない」(M04「平和な生徒たち 学校の日常」)と書かれていました。一般的なアニメの場合、日常曲はフルートやピアノを使った朗らかな曲が定番なのですが、全体がシンセサウンドみたいな話もあったので、そこで大きく乖離が生まれないバランスで調整して、一癖・二癖持たせるように意識して作りました。

高橋邦幸 僕も最初にお話を頂いたときに「全体のサウンド感はちょっとノイジーでダークで、攻めてください」と言われました。ただ、広川さんや井上くんは普段から尖った音色や間の使い方がとても上手いので、僕も同じ方向性で攻めるのは多分たぶん上手くいかないなと思ったんです。というのも、普段の僕は比較的オーソドックスな曲であったり、空気のように一歩引いて存在して、感情を誘導する曲を作る役割が多いんです。だから、攻めるにしても別のアプローチでできないかなと思って、今回は何かで汚していく手法を採りました。

――「汚していく」とは?

高橋 例えば、プラック音1つでも、音程をわざと少し外したり、ブーンと揺らしてみたり、ピアノなどもあえてアンプで歪ませたりですね。本編最後のほうで出てくるM77「神の力(依怙)」という曲があるんですけど、これは無力感・絶望感・圧倒感がテーマだったんです。ただ、この作品は音楽が全体的にアグレッシブなせいで、今更ちょっと攻めたくらいでは圧倒感が出ないなと思って、もう思いっきり汚してみました。シンセのコードが内部でウネウネ動いていたり、弦も演奏者の方から「これはわざとですよね?」と確認されるほどぶつけてみたり(笑)。とにかく破綻しているとさえ言えるほど騒がしい音楽になって、大丈夫かな?と若干心配でしたが、みんなそれぞれの得意な方法で攻めていて、様々な音楽が集まった結果として、むしろ統一感が出たのではないかと思いました。

高橋邦幸

高橋邦幸

――高橋さんにとっても新しい扉を開かれたんですね。

高橋 そうですね。武器が増えたみたいな感じにはなりますね。最初に僕と広川さんで劇伴のデモを提出したのですが、メロウな曲、バトル曲、カミエラビのアプリを開いたときのタッチみたいな曲など、温度感の異なる曲をいくつか出したところ「全部格好いいです」と言われたので、これで曲の幅に当たりを付けられたのも良かったなと思います。

次ページ:チームで音楽制作をすることで生まれる化学反応

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