アニメーション映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』の主題歌「Gift」が注目を集めるなか、11月にシングル「ひとりじゃないよ」をリリースしたソロアーティスト・Myuk。同作の表題曲はTVアニメ『豚のレバーは加熱しろ』の書き下ろしEDテーマで、曲中の「君」に向けた真摯な愛情が胸を打つ壮大なミドルナンバーに仕上がっている。
来年1月に1stアルバム『Arcana』をリリースしたあと、同月27日には“リスアニ!LIVE 2024”への出演、2月には全国4ヵ所を回るリリースツアーを回るなど、精力的な活動を続ける彼女は、2023年にどんな気付きを得たのだろうか。「ひとりじゃないよ」の話題を中心に、彼女が今Myukとして歌いたいことについて語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 沖さやこ
――11月に開催された“Knockin’ On Night Door Vol.5“にて、初のフルバンドでのライブが実現しました。新たにドラムが加わると、歌う感覚も変わりますか?
Myuk 最初はドラムに合わせられるのか不安だったんですけど、いざリハーサルでみんなでバッと音を鳴らして歌ったら、色々と考えていたことが全部吹き飛ぶくらい楽しかったです。ドラムを聴きながら歌うことの安心感も大きくて、ライブ当日もすごく楽しめました。フルバンドの凄さを感じましたね。
――“Knockin’ On Night Door”はライブごとに少しずつサポートメンバーが増えていって、今回フルバンドになったんですよね。MCでそのことを「ひとりじゃないよ」の歌詞の内容に絡めて話していたのも印象に残りました。
Myuk 「ひとりじゃないよ」がEDテーマに起用されているTVアニメ『豚のレバーは加熱しろ』(以下、豚レバ)は、ファンタジー要素が多くて楽しめるだけでなく、世の中の不条理さや、社会の構造について考えさせられる作品だと感じていて。そのなかで、生きることへの葛藤や叫びに光を当てて、問題提起をしてくれる優しい作品だと思ったんです。そのメッセージ性に寄り添って歌詞を書いていくなかで、「自分はこういうことを曲に乗せて伝えたかったんだな」「こういうことを歌で言いたかったんだな」と気付かせてもらえました。
――それが孤独に対するご自身の気持ちだったということでしょうか?
Myuk 『豚レバ』は孤独がテーマの作品ではないんですけど、キャラクターがみんなすごく魅力的で、とても楽しい話である反面、みんながみんな相手に対してすごく強い思いを持っているんですよね。相手を思うがゆえに孤独を選んでしまう。キャラクターそれぞれのセリフや行動に共感できる部分があったので、誰か1人に絞った目線で歌詞を書くのではなく、キャラクターそれぞれが抱えている不安、葛藤、強い思い、優しさを散りばめた歌詞にできたらなと思ったんです。あと、人が「1人」を選ぶことには2種類あると思うんですけど……。
――そうですね。歌詞にも色んな感情の“ひとり”が出てきます。
Myuk そうなんです。1人で映画に行ったり、本を読んだり、家でゆっくり過ごしたりするポジティブなものだけでなく、「自分と一緒にいたら相手は幸せになれないんじゃないか」と感じて、寂しくて辛い気持ちを抱くことで、1人を選ぶ人もいると思うんです。でも本当に相手が「この人と一緒にいたら幸せになれないのかもしれない」と思っているのかどうかはわからないですよね。だからこそ「自分はこの人と一緒に笑っていたい」のように、自分自身を思いやることが相手を思いやることに繋がっていたらいいなと思うんです。
――そうであってほしいですね。でも、相手を大事に思うがゆえに自己犠牲をしてしまう人は少なくないですよね。
Myuk 『豚レバ』のキャラクターは、みんな少しずつそういう自己犠牲の要素を持っている気がして……。それで原作を読んだときに、共感できるところと共感できないところを書き出していったんです。そのうえで自分がどう思うのかを考えていった結果、「自分を大事にすることが相手を大事に思うことであってほしい」というテーマに行きつきました。自分を優先することが、相手の孤独を打ち消すきっかけになってほしいですし、素直でいるのが一番だと思うんです。
――Myukさんが思う「孤独」とはどういうものでしょうか?
Myuk 「この感覚は誰にも理解してもらえない」とか、「自分は人とは違う」とか、「分かり合える仲間がいない」とか、そういう精神的な孤独が一番怖いというか、人の心を蝕んでいくものだと思います。でもそういう人が孤独から抜けだしたら、前よりももっと広い視野で物事見ることができたり、相手に優しくなれたりとか、その人だけの強さが得られるとも思うんです。私自身は孤独を感じたことはないんですけど、それは聴いてくれる人や、支えてくれる人がいると感じられているからで。
――『豚レバ』の登場人物に対する気持ちや、Myukさんがよく感じている気持ちが混ざり合うことで、「ひとりじゃないよ」は出来上がっていると。
Myuk はい。タイアップ曲として書き下ろした曲ももちろんライブで歌っていくので、自分が今一番言いたいことを歌うということも大事にしたいんです。だからタイアップ曲の歌詞を書くうえで、作品のキャラクターの抱えている気持ちと自分自身の感情をすり合わせていくのは本当に大事だなと思っていて。キャラクターの想いを通して、自分と向き合って……歌詞を書いている間は、本当に毎日そのことばかり考えていました。
――Myukさんがステージの上で「ひとりじゃないよ」と歌うと、ライブを観ているお客さんへのメッセージとしても響くと思います。
Myuk そうなったら嬉しいですね。でも、この歌詞で書いていることをお客さんを目の前にして言葉で伝えるのは難しくて(苦笑)。だからこそ強いストレートな言葉をタイトルに持ってきて、歌だからこそ伝えられるものを大事にしています。普段上手く言葉にできないぶん、歌では強くありたいんですよね。やっぱりサウンドの影響はすごく大きいと思っていて、例えばすごく明るいメッセージを歌っていても、曲調がすごく暗かったら言葉の意味が変わって聞こえると思うんです。メロディのわずかな起伏の違いで、言葉の余韻やぐっとくるものは変わるので、そういう歌でしか伝わらないニュアンスが素敵だなと思うんですよね。アレンジによって聴こえ方も変わってくるので。
――「ひとりじゃないよ(Acoustic version)」は、その冴えたる例ですものね。
Myuk そうですね。「ひとりじゃないよ(Acoustic version)」は、1stコンサートツアーでご一緒させていただいたバイオリン、チェロ、ピアノの方たちと一緒に一発録りをさせていただいたんです。だからライブみたいな感じで録らせてもらって、本当に贅沢でした。やっぱり生音はもちろん、楽器が自分の目の前にあることでも気持ちがグッと入るんですよ。楽器と一緒に曲の世界に入っていく感覚があって、「ひとりじゃないよ」という曲にとって、とても良いことだったなと思います。
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