INTERVIEW
2023.12.17
バンダイナムコエンターテインメントが企画・製作を手掛けるTVアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ!』が長年のファンをも唸らせるこだわり抜いた演出で評判だ。それは『ミリオンライブ!』に精通し、数多くのアイドル作品に携わった経験を持つ監督のタクトと、それを画面上に描き出す白組の技術の両輪が成し遂げたものだった。ステージングはもちろん、ドラマパートでもしっかりと存在感を放つキャラクターたちの演出をいかに実現していったのか――綿田慎也監督と塩谷大介CG監督(白組)の対談で語ってもらった。演出家たちの生の熱い声に耳を傾けてほしい。
INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
取材協力:中里キリ
※アニメ最終話までのネタバレを含みますので、ご注意ください。
――『アイドルマスター ミリオンライブ!』(以下、ミリオンライブ!)は非常に多くのアイドルが登場し、歴史も長くそれぞれにプロデューサーと呼ばれる熱心なファンが付いており、監督もそのうちの1人だと伺っています。そんなご自身としてはこの作品をアニメ化するうえで、どんな視聴者の顔を想定して臨まれましたか?
綿田慎也 まず最初に念頭にあったのは、従来の『ミリオンライブ!』を応援してきてくれたプロデューサー(ファン)の方々でした。そしてこのコンテンツがアニメ化し、劇場やTV・配信で公開されるということで、新規の視聴者に対してどうアピールするかも同軸で考えていきました。そのバランス感は僕がこれまで監督を務めた『ガンダムビルドシリーズ』と近い感覚がありますね。あれらの作品は、従来のガンダムファンやガンプラファンに通じる要素はありつつも、それらを知らない方にとってもシンプルなエンターテイメントとして観てもらえることを打ち出していた作品でした。その経験もあったので、今回のバランス作りにおいては、改めて何かを模索するということもなく、これまでの経験値から打ち出していけると思いつつ、この作品に臨みました。
――また、多くのキャラクターが登場するなか、シリーズとしてのお話の軸を作りつつ、それぞれのアイドルにも見せ場を数多く用意する必要があり、その多寡にも心を砕いたのではないかと思います。
綿田 そうですね。大変といえば大変でしたが、それは当初からの課題でもあったので、避けるつもりはありませんでした。その差配は自分だけで行ったものではなく、白組の皆さんやミリシタチーム、バンダイナムコエンターテインメントの方たちから様々なアイデアをいただきました。むしろ、それらをまとめる脚本の加藤(陽一)さんが一番苦労されたと思います。これだけのキャラクターを登場させ、比較的短い尺の中で特徴を出し、視聴者に印象付けをしなければならない。特に第4話と第5話には加藤さんの手腕が顕著に出ていると思います。
――具体的にどんな部分でしょうか?
綿田 大きいところでいえば、全体のテンポ感です。ワチャワチャした感じは出しつつも、渋滞せずに整理されているので、スッキリと楽しく観ることができます。第4話のAパート、色んなアイドルが矢継ぎ早に出て自己紹介をしながら、お話として転がしていき大ごとになって、最後に爆発する一連の流れ。あれだけの情報量をまとめてしまえるのは、プロ中のプロの仕事です。ドラマの段取りはまさに加藤さんが『アイカツ!』でお手の物でしたから、ライブシーンをどのようにドラマに落とし込んでいくかの話はしやすかったですね。あとは数回聞いただけで覚えてしまうようなワード、「現場大臣さん」とか「原っぱライブ」とか。そういったところにライターとしての強みが出ていると思います。
――続いて、塩谷さんに伺います。白組でこの作品を制作すると決まったときには、どんな印象を受けましたか?
塩谷大介 まず、この作品を作ると社内に知らせたときに、様々な部署から「実はPなんです」という告白が届いたんです(笑)。そのなかには実際にこの作品に携わってくれたスタッフもいますし、別作品に入っている人から「(中谷)育のモデル、すごくかわいく作ってくれてありがとうございます」と、メッセージをもらったこともありました。
――本当にどこで止めてもかわいく見えるほど、モデルを作り込んでいますよね。様々な部分を突き詰めていかれたのではないかと思います。
塩谷 そうですね。止め絵でも見栄え良く見えるようにというのは、弊社で過去に制作した『revisions リヴィジョンズ』の頃からこだわっていたことでした。モデルの段階から突き詰めていますが、止め絵でキマって見えるには、やはりポージングの綺麗さが大事なんです。各人の特徴やシルエットといった、キャラクター性を1人1人、しっかり落とし込むようにしています。これは各話の作業に入る前のプリプロ段階で固める必要があります。アニメーターが各話の作業の中で個性を捉えてしまっては、1本の作品としてバラバラになってしまいますからね。(伊吹)翼なら立ち止まっているときの重心の取り方とか、(福田)のり子なら腰に手を当てるといった、人となりを示すポーズを全アイドル52体分作って、その段階でキャラクター性が崩れていないかを自分のほうでチェックしていました。最終的にはレイアウトで崩れていないか映像の流れの中で監督に見ていただきました。
――塩谷さんご自身としてはどのように各自のキャラクター性を掴んでいきましたか?
塩谷 プロフィール、過去のアニメ作品やミリシタのカードイラストなどはもちろん見ながら掴んでいきましたが、今回特徴的だったのは演者さんの声ですね。モデルがある程度できてきたら、「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」(以下、ミリシタ)」のメインコミュの声を聞きながら、モデルのチェックをしていました。「この声に対してこのモデルの顔は合っているのか?」と、禅問答のようなことをしていましたね(笑)。それを52体全員に対して行っていました。
綿田 声優のオーディションでは、キャラ絵に対して「この演者さんの声で合っているかな?」と、何人ものテープを聞き続けることはありますが、それと逆のことをされていたんですね(笑)。
塩谷 正面と横顔を見続けて、コミュの声を聞き続けていると、自分の中で妄想が膨らんで、このポージングや表情で正しいのか、そうでないかが見えてくるんです。そこにすべての情報を結合させて作り上げていくという手法を採りました。
――この作品のアニメ化において、すでに演者さんの声は正解の1つとして固定されていますから、それがリファレンスとして機能するんですね。
塩谷 はい、それはもう絶対揺るぎないものなので。演技力もスゴいですし、たとえモデルがまったくの無表情であっても、顔の動きが生まれてくるように見えるんです。
綿田 その辺り、CGでの制作ならではの良さというか、プレスコからアニメーションを構築していくという、音への敏感さを感じましたね。作画だとどうしても絵コンテ、つまり視覚情報から芝居付けをするので、細かすぎるところは拾わないことが多いです。田所(あずさ)さんに、「息づかいがアニメーション芝居になっていた」と喜んでいただきましたが、まさにそういうところは明確にCGの強みが出ているところの1つだと思います。ほかにも物理的な限界が作画にはどうしても生じてしまうんです。例えば、ロングショットで5~7人になると、動画をスキャンする段階で目の線の位置が潰れたりズレたりして、そうするとキャラクターの感情ラインがまったく変わってしまうんです。もしそれをやろうとすると、演出さんが仕上げまで進んだデータを自分で細かく直して対応する、なんてこともあります。そうしたエラーが起きる場所を2Dよりも抑えられ、高い精度で演出に当たれるのはCGのありがたい部分でした。
――ロボットやアクション主体の作品でなくても、CGだからこそ表現可能なレイアウトや芝居というものがあるんですね。この作品にはCGモデラーの方とは別に「3Dキャラクターデザイン」でクレジットされている方がいたことが気になりました。どんなお仕事をされましたか?
塩谷 この作品では、まず社内のデザイナーがデザインをして、そこから3Dキャラクターデザインの梅澤(純一)がもう一度ブラッシュアップするという贅沢な作り方をしています。髪の毛1本までそのままCGに落とし込むようにディティールを高めていく作業を、梅澤と私で行いました。1%の差で調整したりするといったレベルのことを、アイドル52体に対して行っていったんですね。やはりCGでは、指針を最初に作っておいたほうが一気に集中して作れるので、それも狙いとしてありました。これは料理と一緒で、事前のレシピを完璧にしないとあとから調整する際様々な不具合が発生する元になります。それを元に作成した CG を監督にチェックしていただき、目の間を1ピクセル、ズラしたほうが絶対かわいいとか監督と話し合いながら、ほんの僅かな調整を重ねていました。
――綿田監督はこれまで、演出家として様々なアイドル作品に参加されてきましたが、それらのキャリアで培ってきたものを今回の作品にどのように投入してきましたか?
綿田 それで言えば、“すべて”ですね。『アイカツ!』、『ラブライブ!』、『プリティーリズム』の各シリーズ作品や劇場版、その他の作品もそうです。この作品をご覧になった方が、「あの部分は『アイカツ!』っぽいよね」とか「この部分は『ラブライブ!』っぽいよね」と言ってくれることは、自分にとっては嬉しい言葉です。菱田(正和)さん、(佐藤)照雄さん、京極(尚彦)さん、酒井(和男)さん、木村(隆一)さんら、これらの作品で勉強させてもらったことを、今回自分なりに応用させて演出していったつもりではいます。ライブシーンに関して言うと、ほかにもアイドル作品が数多くあり、それぞれのコンテンツが持っている強みというものがあるなか、ほかと違う特徴を持たせていかないと差別化できないなと考えました。この作品ではライブシーンにおいてMV的なものを減らし、ライブステージに特化した形にしています。それは、僕自身が今までやってきた作品を参考にしたからこそ、そこから少し外したものにしようと考えたからでもあります。結果的にそれが原作ゲームの「ミリシタ」との親和性に繋がり、「ミリシタ」でやっているライブステージとも差別化ができる、一石二鳥な形に落とし込むことができました。
――塩谷さんからご覧になって、綿田監督のこだわりが強く表れているところはどんなところでしょうか?
塩谷 もう、本当に様々な箇所にあると思いますが、特に表情についてこだわられていましたね。ショットワークに入ってからも、口の上げ下げや、「もうちょっと笑み感を強く」といった指示。あとはキャラクター性や、そのときの心情説明ですね。例えば第9話ですと、浜辺で歌う静香を千早がカメラで撮ったときの切り返しの千早の表情。ここは当初はカット頭から笑みのある表情だったのですが、監督の指示を受けてカットの最後の最後に僅かに微笑むくらいに調整しました。そうした繊細な気持ちの移ろいにこだわられているんだなと思いました。ライブシーンでもカットの切り替えタイミングをリズムに合わせて細かく、1フレーム単位で「もう少し削ろう」といったように、本当に細かく見ていただいたことは記憶に新しいです。
井出アニメーションプロデューサー(白組) 綿田監督はその場面で喋らないキャラクターに対する芝居付けもすごく考えていて、目線や所作1つとっても、「この子はこのシチュエーションだとこういった動きになる」といった指示を細かくいただきました。この作品は登場人物の数が多いので、少ない尺の中ででも、それぞれのキャラクター性をどう見せるかが大変でしたが、そうしたキャラクターへの解像度があるからこそ、しっかり伝わる作品になったのではないかと思います。
――大勢のキャラクターを一度に展開させるという点では、第7話はアトラクション然り、ボリューミーな内容でした。
綿田 水着回があることは当初から決まっていたので、水着用の別モデルは白組さんのほうで用意していただきました。
塩谷 やっぱり肌を露出するので、ボディバランスが普段着のシルエットと違うんです。これまた1人1人作っていきました。
綿田 数値も単にプロフィール通りにしてしまうと、キャラクターのイメージ通りには見えないんですよね。そこは、これまでのキャラクター性を鑑みて調整していきました。アトラクションについては、’80年代バラエティ番組的なものをベースに(笑)。様々な案が出されたなかで、アニメ作品として可能な競技を選別していきました。この話数の和気あいあいとした感じは絵コンテや演出担当の力が大きいですね。
塩谷 1話ごとに、「このお話は……」と冒頭に説明していただいて、演出打ち合わせでは1カットずつキャラクターの方向性を確認して進めていきました。リモートでの打ち合わせを採用したので、演出だけでなく、関わるスタッフ全員に聞いてもらい、監督がどうしたいのかを個々に落とし込んでもらいました。それにより、各スタッフがより演出の方向を深く知ることができましたね。
7 話は水着アクション回になります。話数の話をいただいた際はこれまでの話数と大きく異なる雰囲気で、どのようにすれば見ごたえが有り、水着のアイドル達が魅力的に映るか悩みました。作打ちで綿田監督に話数の方向性を確認し、模索しながら、水着の立ち姿や仕草を私服衣装以上に大きく付け、それぞれのアイドルの個性を出すように心がけました。
また、アクション性の強い話数になりますので、幾つか外連味の強いダイナミックなカットを入れています。特に最終関門の海美が攻略するアスレチックステージには力を入れました。
メリハリや外連味を強く入れるため、この辺りの動きは手付けアニメーションに拘っています。冒頭の三段ジャンプやポール登りと、海美の身体能力で軽々と登っている様に見せつつも、これまでの仲間の思いを背負って必死にゴール目指しているという熱さも動きや表情の中に入れられているかと思います。
また、背景で特にこだわった箇所は、シーンごとの海の見え方です。話数全体を通して、ほとんどのカットで海が写っており、お話全体の雰囲気も密接に関わってきます。見え方の差は、カットごとに技術的な部分で時間をかけました。冒頭の舞い上がっているキャラ越しの海のカット、ピンチに瀕しているときのキャラ越しの海の見え方など、深さの違いも含めシチュエーションごとの変化を出せるように工夫をしました。冒頭のカットではキラキラした美しい海。途中では波のスピードや大きさを上げて、登場するアイドルたちの心情や状況の雰囲気を表しています。エンディングでは夕焼けの雰囲気もあるのですが、番組が終わっていくどこか寂しさと温かさが出るよう、フレアの見え方などに変化を出しています。それぞれのシーンでの役目を持った海の作成は、技術的にも雰囲気作りとしても時間をかけた部分です。
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