日曜の朝10時、テレビをつけると『アイドルマスター ミリオンライブ!』のアニメが流れる――プロデューサー(『アイドルマスター』ファンの呼称)たちが10年間待ち望んだ世界が、いま現実となっている。春日未来・最上静香・伊吹 翼を中心にした39人のアイドルの成長と765プロライブ劇場(シアター)の始まりを描いた本作は、TVアニメの放送に先立って実施された劇場先行上映でも高い評判を得た。
今回は、伊吹 翼を演じているMachicoに、劇中の様々なシーンを彩った楽曲について最初の印象からレコーディングの思い出、こだわりなどをたっぷりと語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 千葉研一
※アニメ最終話までのネタバレを含みますので、ご注意ください。
――劇中で翼が歌唱した楽曲について語ってもらおうと思いますが、その前に、誕生から10年を経てアニメ化された気持ちをお聞かせください。
Machico 「やっと叶うんだ……」という気持ちが大きかったです。ソーシャルゲーム版時代に4周年の記念PVとしてアニメーションで動いているアイドルたちが公開されて、きっとプロデューサーさんはついにアニメがくるって思いましたよね。でも、結局そこから6年経ってのアニメ化となりました。その6年の間は、私たちが煽ってしまうのはどうなんだろう?と、アニメについて誰も語れなくなった空白の期間があったんです。だから、胸を張ってプロデューサーさんに「アニメだよ!」と言えるのがとにかく嬉しくて。「やっと」って気持ちと「待たせてごめんね」って気持ちがありましたね。でも、実際に台本を見たら、6年前の自分だったら表現しきれなかった翼の表情もあったので、10年目だからこそ込められる想いや理解度をとにかく全力で演じて、届けて、プロデューサーさんにすべてを受け取ってもらおうと思いました。
――期待と不安の両方があるなか、蓋を開けてみたらすごく評判が良いですね。
Machico 安心しました……!私たちは自信を持って作っていましたが、待たせたぶん、演技もアニメの内容も相当なものじゃないとガッカリさせちゃうんじゃないかって不安もあったんです。でも、皆さんが楽しかったと言ってくれて、SNSのトレンドに入るのを見ながら、本当に良かったなと思いましたね。
――すっかり日曜の朝の定番に。
Machico この時間っていうのも良かったですよね。朝は意外と見やすい時間ですし、子どもたちのゴールデンタイムに流れることで、もしかしたら『ミリオンライブ!』がアイドルを夢見るきっかけになるかもしれない。深夜帯でないからこそのワクワクも大きくなりました。
――では、楽曲について聞いていきます。まずは、OP主題歌「Rat A Tat!!!」。楽曲をもらってレコーディングしたのは、かなり前だったそうですね。
Machico そうなんです。レコーディングは去年か一昨年だったと思います。気持ち的には「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」(以下、ミリシタ)の周年曲のような感じで受け取っていました。全員で歌う周年曲って、年数を重ねれば重ねるほど、“楽しいだけじゃない、アイドルをやるうえでの葛藤”といった要素も歌詞に落とし込まれるようになっていたんです。同時期に歌っていた「夢にかけるRainbow」は自分のプライド、個人の輝きを見せます!というものでしたし。でも、「Rat A Tat!!!」はただ前を見て、これから始まるワクワク感やピュアさを歌っているんですよね。(最初の全員曲である)「Thank You!」以来の明るさというか、すごく久しぶりな感じがしました。プロデューサーさんと声を重ねていく一体感もあり、「Thank You!」と同じように『ミリオンライブ!』を代表する曲になると思います。
――これまで翼としてたくさん歌ってきて、歌い方や表現方法の引き出しも増えたと思いますが、「Rat A Tat!!!」はどのようなことを意識したのですか?
Machico とにかく、「色んな人に届ける」ことですね。アニメのアイドルたちはこれからファンの人に出会っていくので、その人たちに向けて「わたしはここにいるんだ」「わたしを見つけて!」って気持ちで歌うことをすごく意識しました。それに、劇場の幕開けでもありますから、劇場の外まで届くように遠くにも届けることを意識しています。普段は歌詞を見ながら歌うことが多いんですけど、この曲は歌詞を覚えて、ブースの一番離れている壁の斜め上を見ながら、意識的にも視覚的にも「遠くへ飛ばすぞ!」って気持ちで歌いましたね。
――ちなみに、翼の歌い方は年数が経つにつれて何か変化も?
Machico どうだろう……キャラの声を作り込む、みたいな意識はそんなにしていませんが、歳を重ねたおかげで低音がすごく安定するようになってきましたね。今までは翼で低音を歌うとき、音を合わせるのに必死で表現が狭まっていたんですが、最近は自信を持って歌詞のニュアンスをつけられるようになったと思います。翼は「わたしが1番」というマインドが常にあるので、見せつけるように歌うとか。あと、「“跳ね感”をください」とディレクションされることが最近増えましたね。
――跳ね感は翼の特徴の1つですからね。
Machico 翼って、跳ねてはいるけど意識的ではなく自然に跳ねているので、ディレクターさんが納得する塩梅を自分の中で調節しながら、跳ねすぎない感じにしています。10年間、翼として色々な曲を歌ってきたからこそ「翼はこうやって歌うものだ」みたいな意識が固まっていたところに、第三者の目からディレクションがあると新たな気づきがあるので、ディスカッションは大切だなと思いますね。
――第2話のオーディションシーンでの「Rat A Tat!!!」はOPとは別で収録したそうですが、ここはどんなことを意識して歌ったのですか?
Machico 10年間積み上げてきた翼は一度忘れて、「クラスで1番」「みんなから歌が上手いと褒められるんですよ。どう?上手いでしょ?」ってレベルに抑えることをすごく意識しました。プロ一歩手前の自己満というか、自信に満ち溢れた、褒められすぎてこなしちゃう感じを意識したので、「歌っているだけ」に聴こえると思います。上手いけど、そこに表情がのっているかと言われたら、そうではないですし、あまり考えず、力まずに歌っています。あと、(アニメの)プロデューサーさんに愛想を振りまく、じゃないですけど、歌だけに集中していない感じも少し意識しましたね。
――この第2話のシーンがあったことで、「Rat A Tat!!!」は最初に聴いたときとアニメを見たあとで印象が変わったと話す人も多いです。Machicoさんは、今どのように感じていますか?
Machico 夢だけを見ている姿って、こんなに純粋で綺麗なものなんだっていう感動がすごくあって。彼女たちもお仕事の壁にこれからぶち当たっていくだろうけど、今は理想のアイドルになっていく段階。そういうときって不安は意外となくて、追いかけるのに必死だから一瞬一瞬を楽しんでいると思うんです。色んなことを経験した人間からすると、それが眩しくて、心を掴まれます。私も11年間この業界で働かせていただいて、真っ直ぐな気持ちだけではどうにもならないことを少なからず経験してきました。でも、諦めてしまったら楽しいことも全部なくなってしまう。だから、初心を忘れちゃいけないって思える曲になりましたね。
――物語に沿っていくと、次は第4話のBGMとして使われたアニメプロローグイメージソング「セブンカウント」です。
Machico 「セブンカウント」は、“8thライブ”(2022年2月12日、13日開催「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 8thLIVE Twelw@ve」)の前くらいに録った記憶があります。どんなシーンで使われるかはまだ全然知らなくて、とりあえずプロモーション映像で流れるよ、という話でした。レコーディングは私が1番手で、仲間との出会い、これから出会う人や経験を大切にできるような曲になればいいなと思って歌いました。翼は基本、明るい曲をいただくことが多いんですけど、私はバラードもめちゃくちゃ似合うと思うんですよ。だから、繊細で綺麗なのもいけるんやで!って見せつけたい気持ちもありましたね(笑)。
――翼は元気さや格好良さのある曲を歌うイメージがありますからね。
Machico そうなんですよ。今でこそオリメン重視になりつつありますけど、昔はオリメンなしで歌うこともあり、「瞳の中のシリウス」とかもすごく合うと思っていて。こういう曲を歌いたかったから、「セブンカウント」がきたときは嬉しかったです。
――続いて、第5話の原っぱライブで歌ったのが「We Have A Dream」と「Thank You! (Acoustic ver.)」。先輩たちの楽曲から「We Have A Dream」を選ぶのもすごいなと。
Machico 本当に。これからに向けた自己紹介ソングですからね。でも、まだまだこれからの子たちなのに、あんなに難しい曲を歌うなんて鍛えられるなぁって思いました(笑)。先輩たちの、特に昔の曲って譜割りやメロディが独特で覚えるのが大変なんですよね。一音にこんなにたくさん言葉入る?とか、「We Have A Dream」も個性がすごくて。翼はみんなと一緒に歌うときも絶対に「わたしが1番」という気持ちなので、彼女のちょっとお調子者でかわいいところをたくさんのせられるように、それこそ“跳ね感”強めで歌いました。
――対照的に、ジュリアのギターにのせて披露した「Thank You! (Acoustic ver.)」はしっとりと歌っています。こちらも新たに収録されたとのことですが、そもそも原曲のレコーディングは10年以上前ですもんね。
Machico 私は声優デビューが翼だったので、「Thank You!」は初めてキャラクターとして歌って世に出た楽曲で、驚くほど真っ直ぐに歌っているんです。今だったらもっと歌えるのにってすごく思いますね(笑)。
――10年経っての新規収録とはいえ、劇中の翼はまだまだアイドルになったばかりですから、その辺りはどう調整したのですか?
Machico 「Thank You!」に限ってはあまりアニメでの経験値は考えず、この10年間積み上げてきたバージョンの翼で歌いました。初期の「Thank You!」からの明らかな成長を残したい気持ちが強くて。かといって、アニメの翼とめちゃめちゃ差が出るのかと言われたら、そうではないと思ったので。成長で言えば、翼の初期ボイスなんて演技にもなっていないんですよ(笑)。でも、プロデューサーさんからは「初期ボイスを聞いてから今の翼を聞くと、Machico頑張ったんだなって思う」と言っていただけることもあって。なので、恥ずかしい気持ちはありますが、あのスタート地点があったからこその今なんだと、すべてを受け入れています。
――「Thank You!」は、途中からテントの外のみんなも手を繋いで一緒に歌うのが感動的でした。
Machico あそこで一気に仲間感が強まりましたよね。未来の「やりたい」がメンバーにとっての負担になったというか、仲間としての初めての壁だったと思うんですよ。それを経て、みんな笑顔で原っぱライブをできて良かったなと思います。
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