2018年にシングル「NEW WORLD」でアーティストデビューを果たした内田雄馬。「未体験の世界へ」「君を連れていくよ」と高らかに歌い上げたあの日から5周年を迎えたが、5年前のことを思い出すと「まだまだ迷いもある時期だった」と語る。そして、声優デビューから10年目を迎え、自身について考え抜いたことがア-ティスト・内田雄馬にも相乗効果として繋がっていったとも話す。自身の想い、届けたいもの――それを見つけて制作した3rdアルバム『Y』は自身の頭文字を冠した1枚。「今まで作品で最も僕らしい」と内田も口にするそのアルバムについて聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――アーティストデビュー5周年!今の心境をお聞かせください。
内田雄馬 あっという間です!でも5周年を迎えて、ここまでアルバムも3枚リリースしているというのは、かなりいいペースな気もしています。体感時間としては2年くらいなので、「5年」と聞くとほかのアーティストさんなら、結構なキャリアだな、という気持ちになるかもしれませんが、まだまだ新人のように常に挑戦の気持ちでいます。とはいえ、そもそも僕は声優の仕事を始めて10年になるので、その半分の時間をアーティストとしても活動してきたと思えば、確かに長いですよね。声優で考えると、5年前の作品ってすごく最近だったように感じることもあります。
――5年前の、デビューしたばかりの自分自身に、5年を経た今、声をかけるならどんな言葉を掛けたいですか?
内田 「とりあえず、そのままいけ!」です。
—――なるほど!当時、迷いはありましたか?
内田 山ほどありました(笑)。当時の僕はやりたいことはたくさんあるけど、自分がどう動くべきなのか明確なイメージができていなかったんです。性格的にもプラスを求めるよりもマイナスを消していくことが好きで。「こうしたい、ああしたい」という思いは出てくるけれど、恥ずかしいとかマイナスに見えてしまうかもしれない、と傷つかない方向にまとめるくせがあったんです。アーティストとしても活動を始めた当初は「これをやりたいです」と自分から提案したこともほとんどなくて、むしろ「ロックはあまり得意じゃなくて、ダンスボーカルのほうが好きです」くらいのことをプロデューサーに伝えただけだったので、アーティストとして本当に活動できるのかなと不安に思っていました。でも、楽曲のリリースやライブをやらせていただくなかで、自分がどうしたいのか?内田雄馬はどういうアーティストなのか?というイメージを僕らの音楽を聴いてくれる皆さんやチームスタッフの言葉を聞くことで自分の形を認識することができたんです。作ってきたと思っていて、最近は自分の意思やイメージを伝えられるようになりました。だからこそ、過去の自分に「そのままいけ!」と言えるのかなと思います。
――近年の変化こそ、5年の“結果”?
内田 特にここ1年は、自分の意思を言葉にすることを意識してきました。アーティスト・内田雄馬の、“みんなで楽しいことに挑戦しよう”というテーマや、聴いてくれた人が何かに挑戦するときのパワーになる楽曲を作りたいという想いをより届けたくて。そのためには、自分が何を思っているのかを言葉としてもちゃんと届けられるようにしないといけないなといつも感じています。お客さんに対してそこを伝えることで、アーティスト・内田雄馬としての誠実さがより伝わるのではないかと考えていて。「すべてを忘れて楽しいことやろうよ!と歌ってるのではなく、色んな現実共に、今とこれからを生きていく力を届けたいというメッセージもがベースにあります。
――約2年ぶりのフルアルバム『Y』が完成しました。アルバム制作に向けてのテーマなどはどのように決めていかれたのでしょうか。
内田 今回は6ヵ月連続リリースの配信シングルを収録するということもあったので、どういうふうに組み立てていくかはチームで色々と話し合いをしました。今回は3枚目のアルバムで、僕の名前の頭文字である『Y』をタイトルに冠する。これまでも1枚目の『HORIZON』には地平線で「一」を、2枚目の『Equal』は「二」と線でイメージしてきたなか、『Y』は「三」本線で。そこに掛けてタイトルはつけたのですが、さっき話をしたように自分の気持ちや考えていることを入れていきたいと思ったアルバムなんです。これまではどちらかというと、アーティスト・内田雄馬的な考え方を前面に押し出して作ってきたのですが、今回は声優をやってきて感じたことや自分自身の思っていることも織り交ぜていきたくて。実際に僕が書いているものではなくとも、作る段階からそういったテーマはちゃんと伝えて作りたいと思いました。内田雄馬の感じていることが反映されているアルバムにしたいなというのは、『Y』というタイトルが決まったときから抱いていた思いです。
――ご自身と音楽が近しい1枚になったのですね。
内田 そうですね。色々なアプローチで今までも作っているんです。1枚目は物語的で、本人性というよりも楽曲の世界観の中で僕が歌うものだったし、2枚目はどちらかというとアーティスト・内田雄馬らしさが出ていたなと思うんです。今回の3枚目は僕自身でも作詞作曲をしてみたし、自分の言葉で伝えられないだろうか、ということを考えた音楽制作だったので、今まで以上に内田雄馬感があるのかな、と思います。アーティストらしさより、内田雄馬らしさを感じます。
――声優としての10年を経たこともきっかけに?
内田 自分の言葉で何かを伝えたいと考えて3年くらい経ちましたが、この期間は自分の意思や考え、自分の言葉や「自分とはどんなものなのだろうか」と考え続けて、今、ようやく形になった感覚です。それはやっぱり仕事を続けてきたからこその変化なので、この10年があって辿り着いた『Y』だという想いはあります。声優って能動的な仕事ではないんです。作品やキャラクターがあって成り立つのものなので、1から100を自在に再現する人だけど、0から100を作る仕事ではないんです。まずは10年、続けられるかもわからない業界で、10年お仕事をいただけるかどうか。ありがたいことに10年続けてこられて、この先同じことを20年、30年と続けていくとなったときに、色々と考えて。若い時にはいただいたものをラリーするように、反射で返すように身体能力で応えてきたのですが、30歳にもなると経験は増えるが身体的にはしんどくなってくることも多くて。さらに若手もどんどん出てくる業界ですし、60代を越えても10代の役ができる方だっていらっしゃる。そういう業界のなかで自分の立ち位置がどんどん変わってきているんですよね。そんななか、僕自身はちゃんと年を重ねて、ちゃんとステップアップしていきたい、ステージアップをしていきたいとここ3年くらい考えていたんです。最初は主役という役回りで、支えられながら一直線に進んできたところから、今度は支える側になって全体を上げていく役割へと変化しながら先へ進んでいく。もちろんそれぞれの人の合った場所があって、ずっとセンターにいる人もいれば、まわりを支えてくれるような人もいると思いますが、僕も自分に合ったステージを見つけて、そこでステージアップをし続けていかなければ、と思っていたので、それを考えるには30歳はいい時期だったと思います。すごく大きなきっかけの1枚になりました。
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