女王蜂のこの1年というと、昨年10月に発表した「MYSTERIOUS」(TVアニメ『後宮の烏』OPテーマ)以降、コンスタントにアニメ主題歌を発表し、アニメシーンにおいても強烈な存在感を改めて誇示してきた。作品とともに大きな話題を呼んだ前作「メフィスト」(TVアニメ『【推しの子】』ED主題歌)に続く最新曲「01」は、TVアニメ『アンデッドアンラック』のOPテーマとしてすでに多くの視聴者に衝撃を与え、同時に賞賛の声を得ている。“死”に真っ向から抗うような強靭なビートとギターサウンドに彩られた本作は、どのようにしてこの世に生まれたのか。そして女王蜂が転生を繰り返しながら、胸ぐらを掴んで貫く真意をアヴちゃんに語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――今年リリースの「メフィスト」に続いて、今回もお話をお伺いするのですが、実は「メフィスト」のインタビューのときにぁゔちさんは「MYSTREIOUS」(『後宮の烏』OPテーマ)、「バイオレンス」(『チェンソーマン』EDテーマ)、「メフィスト」(『【推しの子】」EDテーマ)を“魔の三部作”と呼んでいました。インタビュー上ではカットしましたが、それが“魔の三部作”ではなく、実は1曲加えて“魔の四部作”だった、というお話がありました。その1曲というのが、今回の……。
アヴちゃん そうなんです、「01」です。まさに昨年の『後宮の烏』のお話からここ1年くらいのリリース曲を、ギュッとまとめた制作期間で準備していました。
――短い期間で制作が続いていたなかで、今回の「01」の制作に入るときのアヴちゃんはどんなテンションだったのかなと。
アヴちゃん 『後宮の烏』のお話をいただいたときも、『チェンソーマン』のお話をいただいたときも、もちろん『【推しの子】』のときも本当に嬉しかったんですけど、今回『アンデッドアンラック』のお話をいただいたときは、「えっ、いいのかしら?」っていう。作品自体、以前からコミックスの表紙や扉絵がすごく気になっていて、2巻まで読んでいたんです。そこからちょうど色んな作品の制作も重なりあまり追えていなかったときもあったんですけど、実際にお話をいただいたときは、「少年ジャンプ」の少年性というか疾走感に対して、女王蜂に白羽の矢が立つその心とはなんなんだろう?というところにまず興味があって。それで最初に打ち合わせをさせていただいたときに、『アンデッドアンラック』原作者戸塚(慶文)さんの編集者の方が女王蜂のファンで、「アニメ化するなら絶対に女王蜂さんにやってもらいたいと思っていた」とお話をしていただいたんです。
――最初は作品の楽曲ということに、そこまでイメージが湧いていなかった?
アヴちゃん 正直、この『アンデッドアンラック』の血がたくさん出るところや、人の生き死にがすごく丁寧に描かれているところに女王蜂は絶対にハマるなと思いながらも、自分自身がお客さんとして読んだときに、この作品で自分の曲が主題歌を飾っているかというと、そこにインスピレーションはなかったというか。ただ、そこでファンの方からの白羽の矢がたったというのは、とても嬉しかったです。そして、それがどういう気持ちなのかという部分を聞いていくにつれて、本当に私たちのコアな曲が好きで、「その曲出る!?この人、めっちゃ女王蜂のこと好きやん!」って感じたときには、「01」というタイトルで曲を書こうという方針になっていました。この作品に自分たちが挑むとしたら、数字のタイトルの曲で、ギターサウンドで……ということは決まった状態でしたね。
――他者からの言葉で、この作品に対する女王蜂としての視界が一気に開かれたというか。
アヴちゃん 言い方がすごくアレなんですけど、アニメのタイアップが続いているアーティストっているじゃないですか。その一組として見られることに対して覚悟は決まってるけど、私たちは中身がパンパンに詰まっていて、アニメから一歩足が出ていざライヴとなっても、とても強い曲を書いてきた自負があるんです。そんな私にとっては、今回本当にファンの方が「絶対に女王蜂だ」と思ってくれて、その熱量をぶつけてきてくれたという事実に対して、「やっていればこんなときが来るんだな」って思ったというか。
――『【推しの子】』のときも横槍メンゴ先生がそうでしたし、いわゆる女王蜂に魅せられた人たちが内部にいて、アニメ作品に「女王蜂で」という熱量が続いている。それが今この1年間に続けて噴出したというのは興味深いですね。そしてそこから「01」というワードが導き出された。
アヴちゃん 言いたいことがずっとあるし、言わなきゃいけないこともあるので、書くということに対しては「終わらない、止まらない」と強く感じながら生きていて。「01」というタイトルを名付けたタイミングではオーディション番組(「0年0組 -アヴちゃんの教室-」)もまだ始まっていなくて、後々になってなんだかタイトルが色々な場面で絡んでくるなあくらいに思っていたんです。この前パリコレを歩きにフランス行ってきたんですけど、フランスのホテルでぼーってしていたときに、「1って(フランス語で)“un(アン)”じゃん、『アンデッドアンラック』の“アン”で1だったのかな……おお!」みたいな出来事がありました。びっくりしましたね。
――過去のインタビューでも、曲が生まれる過程で日常とのリンクが指摘されてきましたが、すごく不思議な出来事といいますか。
アヴちゃん 面白いですよね。自分としては、「書いたぞ、やった」という部分と、まだよくわからない部分が両方存在していて。出したは出したけれど、そこの裏付けのようなところは後々少しずつ自分のなかでもわかってくる感じ。話は変わってしまうんですけど、「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」という作品にお呼ばれして曲を書いて、ファイルーズあいさんに歌っていただいたんです(邪答院仄仄「おままごと」)。私としては1人を追い詰めれたらいいかなっていう歌詞を書いたんですけど、蓋を開けてみるとまず3人追い詰めてて、もっと開けてみると登場人物全員に喧嘩を売ってたっていうことがわかって。「わかってて書いたでしょ?」と言われたけど、全然そんなつもりはなかったんです。全部わかっててやってる人だと絶対思われれば思われる程、実際は自覚的なことのほうが少ないと思います。
――改めてお伺いしたいのが、曲を作る段階でタイトルのほかに、ギターが入った疾走感のあるサウンドというのは想定されていたわけですよね。
アヴちゃん はい。この1年間でアニメの主題歌として自分たちの作品が出ていくなかで、4作重なったときに、4作とも少しでも似ていたらそれは違うし、同じ人から生まれているけれど全部違わないといけないと思う。でも帰ってくるところは一緒でありたいという気持ちがあって、その曲たちを紐解いてみると、「舐めんな、ざけんな」ということしか歌っていないと思うんですよ。「それをどう伝えていくか?」というところに、美しい表現にしたものもあれば、すごくえげつないところまで深堀りしたものもあるし、要は“転生していく”ということなのかしら。そのうえで今回転生するなら、必要な転生は「疾走感」だったのかなと思います。
――なるほど。まず疾走感、そしてギターサウンドというものが出てきた。
アヴちゃん 普段はうちのギタリストのひばりくんが弾いてるんですけど、今回は私がバッキングギターを弾いていて。それで、レコーディング中に思いっきり弾いていたら弦が切れたんです。4弦の、結構太めの弦が切れちゃって、普通弦が切れたら止めるんですけど、「えっ、なんかこれよくない?」と思って、切れてもそのまま弾いていて。あとで聴いてみると、途中からチューニングも甘いけど、それも良い音色が響いていて、録り終わったあとに、「これでいい」じゃなくて「これがいいね」みたいな。切れてまでやるっていうことが、それこそここで話して初めて皆さんに伝わることかもしれないけど、切実なものを生んでいるよねという話になり、このテイクをそのまま生かすことになりました。
――ギターも最初はクリーンなアルペジオからどんどん厚みが増していく。それに応じて疾走感があるけどドラムのデカさなどビートも強くなっていく……という、1つ1つの音の選択がしっかり成されているように感じます。
アヴちゃん そうですね、嬉しい。私たちが疾走感を出すときに一番気を付けないといけないところだと思っているんですが、それは「若さ」だけではない、ということ。やっぱりバンドが担当するからこその疾走感ってある程度決まってきてしまうと思っていて、一生懸命やっているんだけど、どうしてもキュッとしちゃうというか、やればやるほど収まりが良くなってしまう。なので、今回選んだ音というのはサウンドを大きくするために選んだ手段なのかなと思います。
――少年性のある疾走感ではあるけれど、成熟したビッグなサウンドでもあるという。一方で、歌詞においては“死”というワードが登場します。そこは作品の世界観や、(出雲)風子とアンディから想起したものだったんですか?
アヴちゃん わたしは“死”って、生きていて常に感じていて。ここで“「死んだらどうなる?」”って書いているのは、死後の世界ってどうなるんだろうなというよりは、今死んで何がなくなるんだろうか、何ができなくなるんだろうか、私はどんな手を繋いできたんだろうかというのが全部わかる瞬間のことで、それが“死”だと思うんですよね。“できなかった”が最後に残るのはあまりにも嫌なので、私はしぶとく生きてかわいいおばあちゃんとして、「最後お葬式にこんなにいっぱい来てくれんのアゲー」と思いながら燃やされて終わるっていうのが希望みたいなところがあるんですけど。作品世界での死の扱い方って、そういった美しい死ももちろんあったけれども、「まだできたのにな」っていう、バトンを渡し切れなかった死みたいなところがある。みんなで手を繋げばできたはずなんだけどな……っていうことがどんどんできなくなってくるっていうことが“死”なのかなって、原作を読んでいて思って。
――なるほど。
アヴちゃん 「死にたい」とか「死ねばいいのに」って、どこか他力本願な気がするんですよね。私は「殺すぞ」って思ってしまう。どこまでも能動的に「自分である」ということを思っている人間にとって、この作品世界にある死の重きの置き方っていうのはほかの作品にはない何かを感じていて。すごくお洒落にするのか、それともお洒落からは少し離れるけれど実直にするのか、と悩んだ末に後者を表現しました。
――その実直さが神に抗うような力強さにあるわけですね。
アヴちゃん そうですね、一生抗うというか。その辺りを描いてオープニングに持っていくというのは、恐らく原作サイドが求めていた要素の1つでもあったのだと思います。本来、こんな素晴らしい機会をいただいたら薄まったほうが楽なのかも、とも思うんです。でも、私はそれをダメだと思う。自分がキャラクターとしてではなく物を作る人間として、その作品に対して何ができるかと考えたときに、なぞるだけではいけないし、良いように言葉を取って、作者の方やファンが喜んでくれているようなくすぐり方ができて終わりじゃ足りない。もっと地獄が見たいし、今回その戦いを許してくれたことがすごく嬉しいです。
――ボーカルの食ってかかる感じも容赦ないですよね。
アヴちゃん ね、怖いことしてるなって思います(笑)。
――アヴちゃんのボーカルもAメロからずっと強くて太いテンションのまま進んでいきますよね。
アヴちゃん このサウンドで生命力のないボーカルを乗っけるんだったら、やらない方がマシだなって思いました。歌詞に引っ張られて、そういうボーカリゼーションになったんだと思うんですけど、やっぱりこの生き死にを歌うときのボーカルという概念はあるんじゃないかなって。
――この世界観でそういう歌を選択されたと。
アヴちゃん すごく強いけど、高さにいきたくなかったんですよね。「メフィスト」とか、私たちの今までのアーカイブでそういうものをやってきたこともあるんですけど、実直さを描くのであればその表現だとなにかが薄くなるし、この歌詞は上から言われても全然響かないよなと思って。いわゆる「すごいボーカル」っていうものが前提にあると、自分の話にならないというか、「アヴちゃん、神様だ」で終わっちゃう。今回神様は敵なので、自分は絶対に神様になっちゃダメだ!と思って。なので、抗う側としてのボーカリゼーションですね。
――まさに今回は下から上に、サビ直前の“踏み出した01”のあたりの踏み込み方もそうですよね。
アヴちゃん そうですね。本当に深いところからグッと。
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