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INTERVIEW

2023.11.23

デビュー5周年のReoNaが新たな世界を切り開く――TVアニメ『アークナイツ 【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』のEDテーマ「R.I.P.」に込めた“怒り”と“絶望”を紐解く

デビュー5周年のReoNaが新たな世界を切り開く――TVアニメ『アークナイツ 【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』のEDテーマ「R.I.P.」に込めた“怒り”と“絶望”を紐解く

過酷な世界観と骨太なシナリオで人気を集める「アークナイツ」シリーズと、“絶望系アニソンシンガー”のReoNaが三度目の邂逅を果たす――。ReoNaのニューシングル「R.I.P.」は、2023年秋クールのTVアニメ『アークナイツ 【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』のEDテーマ。お互いの“正義”をかざしてさらに激化していく争いの“絶望”に寄り添うように歌われる、ReoNa史上最も“怒り”に溢れた、鈍く重々しいブラスロックチューンだ。

スマホRPG『アークナイツ- 明日方舟 -』中国版1stアニバーサリー主題歌「Untitled world」、TVアニメ第1期『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』のOPテーマ「Alive」に続き、今回は“アシッドジャズ”や“軍歌”といったキーワードを軸に、新たな世界に方舟を進めるReoNaが今見つめるものとは何なのか?その視線の先の“絶望”に迫る。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

“怒り”も“絶望系”の1つの表現に――「R.I.P.」が切り開く新しいReoNaの世界

――ついにTVアニメ第2期『アークナイツ 【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』の放送がスタートしました。ReoNaさんはゲーム版のユーザーでもあるそうですが、今回のTVアニメの感想はいかがですか?

ReoNa 第2期でアニメ化されるシナリオは、私が原作ゲームをプレイしてきたなかで一番号泣した部分なんです。その結末に至るまでのプロセスが、アニメの解像度でより鮮明に描かれているので、余計に心が痛くなることが多くて……今は登場人物たちの行く末を案じながら毎週観ています。

――ネタバレになるので詳しくはお話できないと思いますが、今回アニメ化される部分のシナリオのどんなところに心を震わされたのでしょうか。

ReoNa 「アークナイツ」の世界の根底にある“絶望”を作り出しているのは、主人公たちが所属するロドス(ロドス・アイランド製薬)側も、その敵として描かれるレユニオン(レユニオン・ムーブメント)側も、自分たちなりの“正義”を持って動いていることだと感じていて。例えばTVアニメの第1クールで戦ったメフィストにも自分の正義があるし、フィーネの物語もそうで、ロドスとレユニオンはどちらも鉱石病の感染者だから同じ痛みを知っていて、目指す場所は一緒かもしれないのに、なぜか食い違ってしまって、争い続けている。アニメの第2期では、そういった、どちら側も“正義”で、自分たちが傷つけている側の人にも血が流れていて、心があるということがより浮き彫りになるストーリーなんです。

――確かに、TVアニメ第1期の終盤で描かれたミーシャの命運は、生と悪の二元論では収まりきらない痛ましい物語でしたが、今回の第2部ではその部分がより深まっていくわけですね。

ReoNa 「アークナイツ」はレユニオン側のキャラクターも単純に悪者というわけではないことが多くて、キャラクターデザインやアーク(能力)も含めてすごく魅力的に描かれていることが、やるせない気持ちになるポイントでもあって。種族間のいざこざや同種族だからこそ抱える確執、感染者と非感染者の間にある高い壁、その1つ1つにいがみ合う理由があるし、それを知れば知るほど「アークナイツ」の世界観の解像度が高くなって、あの世界の歴史が見えてくるので、そういう部分にもすごく魅力を感じます。

――善悪で割り切れない価値観というのは現実社会にも置き換えて考えられるものだと思いますが、ReoNaさんもこれまで生きてきたなかで、そういった割り切れない理不尽さを感じたことはありますか?

ReoNa 学生のとき、どんなに人に好かれようと努力しても、どんなに人を傷つけないように努力しても、必死に生きてさえいれば必ず誰かの悪役にならざるを得ない、ということを感じたことがあって。その頃の私は、出来る限り人には優しくありたいと務めていたし、どんなに嫌な人だと感じた相手でも、その人の好きになれるところに目を向けるようにしていて、自分が何かを愛し続けることで、その愛が返ってくるんじゃないか?と思いながら過ごしていたんです。でも、やっぱり私のことを嫌いな人はいたし、私に心無い言葉を投げてくる人がいて。そういうマイナスな感情にさらされていたときに、たまたま何かのマンガで「必死に生きていると誰かの悪役になる」という言葉を目にして、それが自分の中ですごく腑に落ちたんです。そのときに、“正義”の反対は“悪”ではなく、また別の“正義”だということを実感して。だからこそ、「アークナイツ」で描かれている“正義”と“正義”が対立し合う構図が自分の中にスッと入ってきました。

――そういった意識も踏まえたうえで、今回のEDテーマ「R.I.P.」の制作に臨んだかと思いますが、とっかかりにはどんなテーマやキーワードがあったのでしょうか。

ReoNa 今回、1つ大きいテーマとしてあったのが“怒り”で、気持ちの軸としては“怒り”と共に作品と寄り添う楽曲というのがありました。それともう1つ、作品サイドとお話をさせていただいたなかで、レユニオンの足音を感じるような楽曲、いわば“軍歌”みたいなものというキーワードが出てきたんです。これから戦地に赴いて、もしかして死んでしまうかもしれない、誰かを殺してしまうかもしれないけど、それでも進むことしかできない絶望。力強いようで悲しい結末へ誘う行進曲“軍歌”、それを嘆き、揶揄するような、「ハーメルンの笛吹き」のような、間違った方向に進んでいるとわかっていても止められない絶望、地獄へ続く道のりを表現しました。そして「肺が潰れたって叫べ」という歌詞から、今回はホーンセクションを入れようとなって、“アシッドジャズ”というモチーフが出てきました。

――ReoNaさんとアシッドジャズというのは意外な組み合わせでしたが、その発想はどこから?

ReoNa アシッドジャズというのは、私や今回の楽曲を作編曲した毛蟹(LIVE.LAB)さんの音楽ルーツにはないものだったのですが、ディレクターさんのアイデアで、ロックに加え、アシッドジャズの要素を“抗う者”の音楽として表現、挑戦してみることになりました。最初は歌詞の“di-li-pa-pa du-pa-pa”というフレーズがホーンっぽい響きなので、ホーンをフィーチャーした楽曲にしようというところから始まって。それを毛蟹さんのフィルターを通して、ReoNa流のロックテイスト、アシッドジャズテイストがアレンジに加わっていきました。今回はサウンドがめちゃくちゃかっこいいと思っていて。特にアシッドジャズモチーフなら、ベースが花形だよねと、二村学さんにはアレンジが固まる前の段階から参加していただいて、一緒に作らせていただきました。

――作詞はハヤシケイ(LIVE.LAB)さん、作編曲は毛蟹さんということで、ReoNaチームとしては鉄板の布陣ですよね。

ReoNa 今回、渡邉祐記監督や株式会社Yostarの方々といった作品サイドの皆さんとお話をさせていただいたときに、毛蟹さんとケイさんも参加して、渡邉監督がどんな熱量と愛情を持って作品に向き合っているのか、「アークナイツ」という作品が持っている絶望や理不尽さをどう表現したいのか、直接受け取らせていただいたんです。そのときに渡邉監督がおっしゃっていた、「アークナイツ」という世界のやるせなさや絶望に対して、ReoNaが“怒り”で寄り添いたい、というところから楽曲制作がスタートしました。

――でも、以前にインタビューでお話を聞いたことがありますけど、ReoNaさんは怒るのが苦手なんですよね?

ReoNa はい、ものすごく苦手です。ただ、私自身の言葉で誰かに怒りをぶつけるのであれば、どうすればいいのかすごく悩みますけど、楽曲や歌詞だからこそ伝えられること・表現できることがあると感じていて。それこそ私が自分で作詞した「FRIENDS」で“I love you”という言葉を使いましたが、それも口に出して誰かに伝えるのは恥ずかしいけど、歌詞にしてなら伝えられるところがあると思うんです。その意味では、「どうやって歌で怒りを表現しよう?」というのはありましたけど、不安はなかったです。

――“怒り”というテーマは、ReoNaさんが標榜している“絶望系”としての表現の形の1つでもあるのでしょうか?

ReoNa もちろん今回の楽曲は「アークナイツ」という作品への寄り添いがあったからこそできたものですが、私の中では“怒り”もまた絶望の1つの形であって。“怒り”を表現できないことも絶望だと思いますし、“絶望系”という軸で言うと「代わりに怒る」ということでもあると思うんです。ムシャクシャしたときにカラオケとかで誰に聴かせるでもなく歌って発散するだとか、学校や会社に向かうときに心を奮い立たせるために音楽を聴くだったりとか。そういう自分の代わりに心を言葉にしてくれる寄り添いみたいなものが、この楽曲にもあればいいなと思いながら歌いました。

――レコーディングでは、実際に“怒り”ややり場のない理不尽な気持ちを意識したのでしょうか。

ReoNa すごく意識しました。タイトルの「R.I.P.」という言葉は「rest in peace」という意味で、亡くなった方に対しては「安らかに眠ってください」という意味になりますけど、生きている人に対して使うと皮肉になってスラング的な意味もあるので、その言葉をどう怒って歌うか。“怒り”という意味では以前に「JAMMER」という楽曲でも表現したことはありますけど、怒って歌う経験が多いわけではなかったので、言葉自体が持つ怒り感をしっかりと伝えられるように考えました。でも、楽器のレコーディングを見学させていただいたのが大きくて。特にブラスの音。金管楽器はキラキラした音色で高らかなイメージが強いですけど、今回はそれだけでなく荒野を感じさせるような演奏をしてくださって。その鈍く光った音を聴いたうえで歌をRecできたので、しっかりと“怒り”を込められたように思います。

――歌詞のどんな部分に特に“怒り”を感じましたか?

ReoNa “なぁ”というフレーズに怒りや苦悩が詰まっていて、この言葉をどう表現するかはすごく考えました。ここはBメロの終わりとも言えるし、サビの頭とも言える場所になるので、そのジャンクションとしてフックになるポイントだと思うんです。ただ、「なぁ」という言葉自体は同意を求めるニュアンスなので、別に怒っていなくても使う言葉でもあるじゃないですか。なので怒っているニュアンスを出すのが難しくて。特に一番最後に出てくる“なぁ”に関しては、煽る感じと言いますか、思いの丈をぶつけるときの“なぁ”を意識して歌いました。でも、きっとケイさんは怒るとき、“なぁ”って言うんだろうなと思って(笑)。すごくケイさんらしい言葉だなって思いました。

――ちなみに第1期のOPテーマ「Alive」は“生”を否応なく感じさせるタイトルで、今回の「R.I.P.」は逆に“死”を想起させるタイトルになっています。その対照性についてはどのように感じましたか?

ReoNa 「Alive」のあとに「R.I.P.」がくる対極性や皮肉感というのは、ケイさんはもしかしたら意識しているかもしれないです。

――それとこの楽曲、TVバージョンは「R.I.P. -TV ver. α-」と「R.I.P. -TV ver. β-」の2種類ありますが、これはどんな意図で?

ReoNa 単純に楽曲の切り出し方が違う2種類があって、アニメの展開に合わせて切り替えて使われることになっています。「R.I.P.」は“もしも神様がいるなら”のところがアニメに使われていたり、特別な構成になっています。アニメの世界を結んでいくエンディングの役割として、必要な要素を特別に編集して、さらに物語に合わせて2パターン用意することになりました。きっとアニメのお話が進むにつれて楽曲の印象も変わると思いますし、アニメでは特別な編集になっているからこそ、作品から楽曲を知った方にはぜひフルコーラスを聴いていただきたいです。

――MVもかっこいい映像に仕上がっていますよね。ReoNaさんを取り囲むバンドメンバーはホーン隊やコーラスを含めて全員女性で固めていて。

ReoNa きっかけは、楽曲制作をしている時に、アシッドジャズやロックの色々なアーティストの楽曲を聴いたり、MVを観ていたりしていた時に、とてもかっこいい女性ドラマーがいまして。それがとても印象に残っていて。去年サウジアラビアのライブで初めて女性ドラマーの今村舞さんとご一緒させていただいたことともきっかけに、今回は全員女性でMVを作ってみようとなりました。女性として音楽業界を長年戦い抜いてきた大先輩である女性ミュージシャンの皆さんに、女性の持つかっこ良さや勢い、色気を映像で添えていただきたくて、ご一緒させていただきました。

――撮影はいかがでしたか?

ReoNa 皆さん顔見知りの方々ばかりだったので、現場は女性ミュージシャンの同窓会みたいな感じでした(笑)。でも、いざ演奏が始まると皆さんすごくかっこいいし、疑似ガールズバンドをさせてもらった感じで、すごく楽しかったです。ReoNaとして今までにない映像になったと思います。皆さんめちゃくちゃかっこいいので、女性が持つかっこ良さを隅々まで観てもらいたいです。

――ReoNaさんもかっこ良かったですよ。

ReoNa ありがとうございます(笑)。

次ページ:「NHK みんなのうた」との出会い、もう1つの「VITA」、毛蟹が描く新しい“絶望”の歌

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