INTERVIEW
2023.11.27
2013年にインディーズで自身の音楽活動をスタートさせ、翌2014年にメジャーデビュー。2023年にアーティスト活動10周年を迎えた豊永利行が、記念アルバム『Charactanswer』を完成させた。収録楽曲全曲の作詞・作曲を豊永が手がけ、自身がこれまで演じてきたキャラクターへの想いを形にした本作。「声優」と「アーティスト」、その2つの顔を融合した1枚について聞いた。
INERVIEW & TEXT BY えびさわなち
——アーティストとしての活動が10年を迎えられましたが、それ以前からご自身で音楽に触れてきた機会はあったかと思います。思うままに制作をしていた頃と、プロフェッショナルとしての活動を始めて以降、音楽へ向かう姿勢に変化はありましたか?
豊永利行 姿勢は変わりましたね。一番変化があったのは、ほかの音楽を聴くときの姿勢。昔はシンプルに楽しんでいただけでしたが、デビュー後はコード進行や楽曲の構成力を意識しながら音楽を聴くようになったことが一番の違いかもしれません。
——ライブパフォーマンスについてはいかがですか?
豊永 ほかの方がやられているパフォーマンスを気にして見るようになりました。MCの繋ぎであったり、煽りだったり、そういったものを気にして見るようになったので、昔のように純粋に、ただ楽しむ見方ではなくなったかな、と。そこからヒントを得たり、自分だったらこういう風に表現をしたいな、といった情報の取捨選択をする見方をするようになった部分はあると思います。改めて考えてみると、舞台もそうでした。お客さんとして見ていても、役者としての自分ならこうすると分析をしながら観てしまうので、それと同じスタイルになった感覚ですね。
——感覚的だったものがロジカルになる感覚?
豊永 まさにそうですね。
——10年前に、プロのアーティストとして活動することを決断した際のことを改めて思い出していただくと、10年やってきた今では当時のご自身のことはどのように見えますか?
豊永 最初はイレギュラーだったんです。花澤香菜さんと共にやっていた「デュラララ!!ラジオ 略して デュララジ!!」で、バレンタインのお返しに花ちゃんに歌をプレゼントするという非常にキザったらしいことをやりまして。そこからラジオチームの方たちが「(曲が作れて)音楽をやっていないならインディーズでやったら?」と言ってくれて、「やるなら手伝うよ」という流れから「じゃあやってみようかな」というノリでスタートした感じでした。今思い返すと、「よくやったなぁ」という感じですね。
——思いも寄らなかった感じだったのでしょうか?
豊永 心のどこかで、いつかやれたらいいな、という想いはあった気がするんです。自分の中で。ただ「そうはならないだろう」という気持ちでもあったと思うんですね。そこからインディーズで活動していくことになったときに、自分が「趣味の延長でいいですよ」と謙遜して断っていたら始まっていないだろうと思うと、あのときに「なんでもやります!」という姿勢で仕事をしていて良かったなと思います。若さとか色んなことが複合されていたからこそ、実際に行動を起こすことが出来たし、動き出せたのだろうと思いますから。そこは「俺、頑張ったね」と言ってあげたいです。
——10年活動してきた今、改めてその“始まりの1曲”となった「花」に対してはどんな想いがありますか?
豊永 「花」に関しては、自分で言うのもなんですが、処女作にしては良い曲が出来たなという感覚があります。スタートアップというか、最初の第一歩目が、ありがたいことに「デュララジ!!」を聴いてくださっていたお客様からすごく良い評価をいただけていたので、「よくこの曲が書けたな」と思いますし、逆に言うと誰かのために書いた曲の力ってすごいんだなって思いました。自分のために曲をずっと書いてきた今、改めて分析すると、もしかしたら自分は「誰かのことを考えて作る曲」のほうが向いているのかもしれないな、と感じたんですよね。楽曲をプレゼントしたり、その人に対しての想いを込めた曲を考えるのも、また良い曲が作れる理由なのかもなと思います。
——声優さんなどへの楽曲提供もされていますよね。
豊永 小野大輔さんや木村良平さん、小野友樹さんに上村裕翔さんにも書かせていただきましたが、その制作手法は自分の根本の部分で好きなやり方なのかなと思いますね。
——そんな豊永さんが10周年を機に制作されたのが、これまで演じてきたキャラクターへのアンサーソングを制作して歌うというコンセプトアルバム『Charactanswer』。アルバムを制作することに至った経緯と、今作への意気込みをお聞かせください。
豊永 これまでは差別化という所に意識が向いていて、声優業、役者業と音楽アーティストというものを曲の中身で結びつけるということはあまりしていませんでした。ただ、今回は自分にしかできないこと、そしてまだ誰もやってないだろうキャラクターとの紐付けをできたらいいなと思い、これまで僕が演じてきた作品のキャラクターの中から7名を選出し、今回のアルバムを制作してみよう考えたんです。声優かつシンガーソングライターで、キャラクター達へのアンサーソングを書いた人は恐らくいないと思うので、前例のないコンセプトのアルバムになったんだろうなと思っていますね。
——どのキャラクターへのアンサーソングを歌うのか。どのように決めたのでしょうか。
豊永 ファンクラブの皆さんに「これまで豊永が演じた中で好きな役/キャラクター」アンケートを取らせていただいて、その回答を参考に今回の7名を選出しました。
——それこそ、たくさんの作品、キャラクターと出会ってこられた豊永さんですが、声優として1人のキャラクターに向き合う際にモットーとされていることを教えてください。
豊永 モットーというか、導入かもしれないですが、どうやったら血を通わせられるかとか、どうしたらその人物が生きていることを感じさせられるかとか。そういったことをまずは考えます。そこから作品全体のスケール感を考えたり、監督が目指しているもの、自分がその役割を担うことで生じる責任、そういうものを最初は考えます。あとは肉づいていくものですね。それは現場で生まれていくものではあるので、あまり決め打ちでいかないことも大事にしています。現場で生まれるものに対して臨機応変に対応できる余白を残しておくことだったり、役作りにおいてはそういう感覚を重要視していますね。でも今回のアルバムに関しては向き合い方が違っていて。それが面白かったです。
——そうなんですね、どのような向き合い方だったのでしょうか。
豊永 曲を作るにあたっては、キャラクターを中に入れるのではなく、俯瞰から見ていたんです。また少し違う見方が自分の中にはありました。
——それこそ、小野さんや上村さんに作る感覚とも違いました?
豊永 はい、少し違う感じがしますし、不思議な感じでもありましたね。自分の中の「卒業アルバム」を見返しているような感じというか。そのキャラクターは自分ではないけれど、卒業アルバムに写っているのは自分の演じたキャラクターなので、自分だけど自分ではないという感覚になることが多かったような気がします。
——これまでキャラクターとして歌うことで出会うクリエイターさんもいらっしゃったかと思います。そうしたクリエイターさんでご自身の音楽に影響を与えた方はいましたか?
豊永 大きく影響を与えたというよりは、それぞれのキャラソンを歌う際に、もちろんクリエイターさんはそれぞれ違う方なので、その都度自分の中に吸収していくという自分の中のクリエイター脳が存在していたことは確かで。最近だと、「華Doll*」という作品で楽曲の制作をされているはまたけしさんは鬼畜ともいえる難易度の曲を作るんですよね。そんななかでも、シンプルなのにコードのスケールの進行の仕方が尊敬しますし、同じ「華Doll*」のzakbeeさんも「アオペラ」でもご一緒させていただいていますが、アカペラの曲の構成の仕方やお洒落な要素も勉強になります。あとは「DIG-ROCK」のサウンドプロデュースをされているmyuさんにも影響を受けています。僕はジャズテイストな曲が好きなので、そういった楽曲に出会えたときにはめちゃくちゃ影響を受けることが多いですね。「このコードの変化、好きだなぁ」といった感情をもらうのですが、それを自分なりに表現をしようとすると難しいなということがわかったりもしました。そこで改めて作曲家の方々のすごさに脱帽するところはありますね。
——そういったところで受けた影響は、キャラクターに向けて楽曲を作るときの音楽表現の引き出しとして開くことはありましたか?
豊永 一番大きいのは「A3!」の有栖川誉の曲を作っていたときですね。誉さんに関してはワールドミュージックを取り入れて、色々な要素をおもちゃ箱のように入れようと思っていたんです。それで自分の頭の中にある様々な楽曲を絞り出して作っていったのですが、そのなかには自分の引き出しだけでは足りないものもあり、それを引き出すためにも色んな国の曲を聴き歩くこともしていましたから。ポルカとかも含めて、使う楽器もこれまで知らなかったものを知ることができましたし、新しい引き出しを作ることも出来たなと思います。ただ、今回は作品に対してのリスペクトを込めてもいたので、その作品の音楽性もインスパイアして取り入れました。だから豊永節は入っているけれど、全体の楽曲のジャンルや雰囲気についてはすべての曲でこれまで開けたことのなかった表現の引き出しを使ったと思います。『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のポップへのアンサーソングにあるようなオーケストレ-ションをここまでのスケールでやったこともなかったですし、『Free!』の椎名 旭への曲でもノリノリなジャジーな感じは自分の作品として出すことはなかったんですよね。好きではあるのですが、これまではそういったサウンドを自分に作り出す力がなくて諦めてもいたので、そのあたりを作品と自分の演じていたキャラクターの力を借りてようやく具現化出来ました。
——『ALIVE』のSOARA・大原 空くんはそもそもバンドのメインボーカルなので、作りやすかったのではないでしょうか。
豊永 そうですね。今回面白かったのは、作品の中で歌っているキャラクターの曲は歌いやすかったことですね。ほかにも「B-PROJECT」の金城剛士とか。もちろん「キャラソンにならないように」ということをベースにしているアルバムとして作りましたし、あくまでも「豊永利行が歌っている」作品であることは踏襲しましたが、キャラソンをたくさん歌っている空くんや剛ちんというところは、そのキャラクターを背負っていることを意識しているだけで歌いやすかったです。腑に落ちないこともなくて、それは新しい発見でした。
SHARE