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INTERVIEW

2023.11.21

ニューEP「私が笑う理由は」に込められた、歌い続けるために手に入れたASCA の“新しい声”、そしてASCA自身の強い想い。

ニューEP「私が笑う理由は」に込められた、歌い続けるために手に入れたASCA の“新しい声”、そしてASCA自身の強い想い。

活動6年目に突入するASCAが、自身の2枚目となるEP「私が笑う理由は」をリリースする。2月に行った声帯ポリープの摘出手術、そして5周年を記念して行われたツアー「ASCA 5th ANNIVERSARY TOUR 2023 −ⅤⅤⅤ−」を経た今、ASCAの心持ちはかつてとは大きく異なるという。彼女の変化とは?何が彼女を変化させたのか?新EPの収録楽曲へのこだわりをじっくり伺いながら、ASCAの“今”を紐解いていく。

INTERVIEW BY 北野 創
TEXT BY 許士明香

変化を恐れずに、新しい声と共に歩んでいきたい

――まずは大阪を皮切りに行われた“ASCA 5th ANNIVERSARY TOUR 2023 −ⅤⅤⅤ−”お疲れ様でした!ツアーを振り返っての感想はいかがですか?

ASCA あっという間でした。6月に開催した「ASCA LIVE 2023 “No Voice, No Live”」から声出しが可能になったのですが、今回は大阪や名古屋でも皆さんの声を聞くことができて、とにかく嬉しかったです。

――ツアータイトルにある“−ⅤⅤⅤ−”は、5周年のⅤ(ローマ数字の“5”)と、エンジェルナンバー“555”を意味していたそうですね。

ASCA “555”の持つ意味は、“人生の転換期”。2月に声帯ポリープの摘出手術を受けたのですが、それまで私の中に、ずっと恐怖心があったんです。ポリープを避けるように歌っていたために思うような表現ができず、歌への大好きな気持ちが揺らぎ、いつしか怯えるようになってしまっていて。このタイトルは、そこから抜け出して、変化を恐れず進んでいきたいという思いを込めてつけました。

――実際このツアーを経て、抜け出すことができましたか?

ASCA ファンの皆さんの声を聞いたことで、「抜け出せた」とより強く思えましたね。最終公演のスペシャルゲストとして来てくださったBURNOUT SYNDROMESの熊谷和海さんが「こんなに温かいフロアはないよ」とおっしゃっていたんです。第三者から見てもそう感じるくらいに、私は温かな愛で支えられているんだと改めて知ることができたことが、とても大きかったです。

――なお、以前はポリープを避けるようにして歌っていたとのことですが、術後の歌い方に変化はありしましたか?

ASCA それが、一度ついた癖は簡単には治らず……。5月28日のファンクラブイベント(第2回“AME社員総会”)で絶対に歌を披露したかったので、術後すぐにリハビリを兼ねてボイトレの先生と一緒に癖を取る訓練をしたんです。もう、うまくいかないことが悔しくて、泣きながらの練習でした。でも、練習ではできなかったのに、当日になってやっと掴めた感覚があったんですよ。

――それは、ファンが目の前にいたからこそ?

ASCA そうだと思います。あと、私の周りにいるスタッフのみなさんの存在も。今のチームは技術面だけではなくメンタル面を気にかけて、サポートしてくれる方も多いんです。本当にありがたいことですよね。

“人は鏡”に囚われすぎず、無理をしない自分を映し出す

――11月15日にEP「私が笑う理由は」がリリース。表題曲は10月より放送中のTVアニメ『豚のレバーは加熱しろ』のOP曲でもあります。作詞をする際に原作を読まれたそうですが、作品の印象はいかがでしたか?

ASCA とにかく面白すぎました。ここ最近の私は、マンガは読むけれど小説を手にする機会が減っていて、活字だらけのものを読めるのだろうかと思っていたんです。でも、いざ読み始めたらページをめくる手が止まらなくなって。

――主人公が豚というのも、斬新ですよね。

ASCA そうなんですよ! 転生して豚になった主人公が、ジェスという美少女に出会い献身的にお世話されながら旅をするという、あまりにも羨ましすぎる世界線のお話。でも、読み進めていくと、切なくなったり、温かな気持ちになったり、深いお話だと気づかされるんです。ちなみにアニメでは豚さん役は松岡禎丞さん、ジェス役は楠木ともりさんが声を務めているのですが、二人の掛け合いが本当に素晴らしくて……! これが毎週観られるなんて幸せだと思いながら、現在進行形で楽しんでいます。

――なお楽曲を制作するにあたり、アニメ制作サイドからはどのような発注が?

ASCA 作品の初めてのアニメ化という意味も込めて、“旅の始まり”を感じられるものにしてほしいと発注をいただきました。作曲は、古川貴浩さん。初めてご一緒しました。この曲ではブラス系を入れたいと思い、トランペットを入れていただきました。旅の始まりにぴったりですし、これまでのASCA楽曲にないテイストになって、とても気に入っています。ちなみにこの曲、実は手術前の最後に録ったんです。

――そうなんですか⁉︎ とても晴れやかな印象を受けたので、術後かと思いました。

ASCA この曲には苦労を絶対に滲ませたくなかったので、そう言っていただけて安心です……! レコーディングでは何度もリテイクを重ねたんですよ。というのも、手術前というのもあるし、私の声の持つ成分のせいかもしれないけれど……なんだかどうしても暗くなってしまって(笑)。でも、古川さんがボーカルディレクションに入ってくださって、技術的なアドバイスをいただきながら進められたおかげで、思っていたよりもスムーズに録ることができたんです。

――歌詞はどのように書いていきましたか?

ASCA 原作を読んでいて、ヒロインのジェスに共感した部分を、自分の過去とリンクさせつつ書いていきました。ジェスは生まれた時から差別される“イェスマ”という種族です。笑うべきところで、自分の本心に関わらずちゃんと笑うような、決められた道をはみ出すことなく歩んできたような子。でも、そんなジェスが豚さんと旅を始めてから心から笑えるようになっていきます。その様を見ているうちに、私の中にずっとある「人は鏡」というキーワードとリンクしたんです。

――「人は鏡」は歌詞の中にも登場するワードですね。

ASCA 子供の頃、本の中で出会った言葉です。“「人は鏡」だから、自分が笑えば相手は笑うし、不機嫌な顔をしていたら周りも暗い顔になる”ということが書かれていて、無表情なタイプだった私は、ハッとさせられたんです。「自分の周りが楽しくなさそうなのは、自分に原因があるのかも」って。そこから「人は鏡」は、私の中の大事なテーマになりました。でも、その言葉に縛られすぎて、苦しくなった時期もあって。笑いたくもないのに笑う、元気じゃないのに元気なふり。一人になった途端にどっと疲れが出ちゃうようになって。

――先ほど言っていた「笑うべきところで、自分の本心に関わらずちゃんと笑うような子」というジェスへの印象と重なりますね。

ASCA そうなんです。この歌詞では、「人は鏡」だから、誰かを笑顔にするために笑うけれど、その笑顔は無理をしているわけじゃない。誰かのために頑張ることはとても素敵なことだけど、もっと自分を大事にしてもいいよ。無理をしないでいいんだよ、というメッセージを込めました。そして豚さんにとってのジェス、ジェスにとっての豚さんのように、この曲を聴いた人が心から笑える人に出会えたらいいな、と。私にも、そういう人に出会えたらいいなという願望も込めて。

――MVでは、バラの花を抱きしめるASCAさんの姿が素敵でした。

ASCA MVは、楽曲の明るい部分を描くというよりは、そこに込めた想いを見せていくような、内面にフォーカスした映像になっています。花はASCAの一つのテーマでもあるんです。これまでもファンの皆さんを花に例えた歌を作ったことがありましたが、今回はバラを持っている絵があって、大切に思っていることや寄り添っていきたいという想いが伝わるといいなと思っています。

――そのほかの収録楽曲についてもお話しを聞かせてください。2022年7月に配信リリースされていた「サウイウモノニ」(ゲーム「INFINITY SOULS」主題歌)が待望のCD収録になりますね。

ASCA このEPのテーマにぴったりだと思い収録していただきました。たとえば歌詞の「雨に打たれたって 風に吹かれたって 旅路を行こう」の部分。“今の喉と共に変化を恐れず進んでいく”という私の想いと、この曲の歌詞に込めたものを比べた時に、根幹にある伝えたいものは実は変わっていないんだということに気づいたんです。

――そして3曲目の「眠くて眠くて本当に無理です。」は、タイトルからして気になるファンク調の楽曲です。

ASCA 実はこの曲は前からあって、リリースタイミングを伺っていたんです。いつだったかな……チームの方との他愛もない会話の中で、「最近どんなことを考えている?」と聞かれて、「眠くて眠くて本当に無理ですね」と答えたのが、曲が生まれたきっかけで(笑)。

――そのままですね(笑)。

ASCA あの時期、やらなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに寝てしまうことが多く、自分で自分が心配になるほどで……それを歌にしようと(笑)。SNSなどを見ると、意外とそういう人が多いんですよね。夢と現実をさまよっているような不思議な世界観にしたくて、パンクなサウンドにしていただいたり、歌い方もフレーズや音に合わせて表情を変えていきました。「無理無理無理無理です」の「無理」を一つ一つ言い方を変えてみたりして。“−ⅤⅤⅤ−”ツアーで初披露したのですが、振りを付けたりもしたんですよ。今後もライブで楽しめる曲になるといいなと思っています。

――4曲目の“Steller”も、ライブで大盛り上がりでしたね。

ASCA ASCAとしては初のEDMです。これまでと系統が違いすぎて、反応が気になっていたのですが、盛り上がっていただけて嬉しかったです。初披露はサウジアラビアだったのですが、皆さん一緒にジャンプをしてくれたりもして。その手応えを持って日本でのライブで披露したのですが、ツアーのラストの頃には一緒に跳んでくださる方もかなり増えたように感じています。私はEDMが好きなので、今後もこういう皆と一緒に楽しめる曲を増やしていきたいと考えているんです。

――期待しています!そして5曲目は「No Voice, No Live」。6月のワンマンライブと同じタイトルの楽曲ですね。

ASCA ワンマンライブのために作った新曲で、手術後に作った最初の曲でもあります。手術を経た今だからこそ紡げる言葉、浮かぶ音色があると思って、作曲の段階から関わらせていただきました。今、当時のメモを見ているんですけど、仮のタイトルが「どうせ」なんですよ。

――この歌詞には、ASCAさん自身のエピソードが入っていたり?

ASCA そうですね。術前と、小さい頃のエピソードを元にしています。子供の頃、普段怒らない母がものすごく怒ったことがあったんです。それが、私が「どうせ」という言葉を使った時でした。当時の私は小さかったし、怒られる理由をあまり理解していなかったんです。そして声の不調が続くようになってから、「どうせ」と思うようなことが増えて……どうせ私の言葉は誰も聞いていないし届かないって。でも、術後の休養期間中に自分と向き合い、「どうせ」と言っていることで本当に応援してくれている人の声を見逃してしまっていると気づいて、あの時の母の怒りも理解できたし、脱却したいと思ったんです。同時に、私を支えてくれているファンの方が寄せてくれる言葉に、「無理しているのかな」「しんどさを抱えているんじゃないかな」と感じることもあって。この曲は“私はしんどくても歌うことをやめなかったし、ファンの方たちの存在のおかげでずっと歌い続けたいと思ったし、これからも歌う。だから一緒に生きていこう”という、ファンの方へのメッセージという側面も大きいんです。

――支え合う関係のようで、素敵です。それと、この曲の歌はいつもよりブレスが多めなのも特徴的で、新しい歌い方を模索しているようにも感じました。

ASCA そうですね。歌詞も強いですし、これまでの私だったら声を張っていたと思います。でも今回はとにかく無理をせずに、これからも歌い続けていくために、穏やかに表現を楽しむ曲にしたいなと思いました。

次ページ:2024年、ASCAはまだまだこんなもんじゃない!

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