映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』主題歌やTVアニメ『豚のレバーは加熱しろ』EDテーマで今、注目のアーティスト・Myuk。彼女のシングル発売を記念した“Myuk「Gift」リリース記念!「リスアニ!」共同企画 公開インタビューイベント”が11月8日に行われた。音楽評論家・冨田明宏によるインタビューで、YouTubeでファンにも一般公開されるというスペシャルな企画だったが、残念ながら見逃してしまった方や、もう一度振り返りたいという方のために、生配信の再現記事をお届けする。
INTERVIIEW BY 冨田明宏
TEXT BY 金子光晴
Myuk 時刻は20時になりました。チャンネルをご覧の皆さま、こんばんは。Myukです!早速配信を始めていきたいと思うのですが、ゲストのこの方と一緒にお話をしていきたいと思います。冨田明宏様です。
冨田明宏 あはは、“様”をつけてもらって嬉しい(笑)。リスアニ!から参りました、音楽評論家の冨田明宏です。よろしくお願いします。Myukさんの番組にお邪魔する形になって……すみません、おっきいおじさんが入ってきちゃいましたけど(笑)。
Myuk いえいえ、すごく楽しみにしてました。よろしくお願いします。
冨田 そんな私、リスアニ!から来たんですけど、来年の1月に開催される“リスアニ!LIVE 2024”というのがありまして、Myukさんご出演いただくということで。
Myuk ありがとうございます!すごく光栄です。リスアニ!LIVE、もちろん存じ上げていたので、お話をいただいたときに「出演できるんだ!」という実感がなかったんですけど、リスアニ!さんにお世話になるたびに少しずつ実感が沸いてきました。しかも、日本武道館という、音楽をしている者であれば誰でも憧れるような場所ということで、初めてなのですごくドキドキで、何か感じてもらえるような歌がうたえたらなと意気込んでおります。
冨田 今からこんなに意気込んでもらえるなんて、すごく嬉しいです。リスアニ!って、“アニメ音楽メディア”というのを標榜していて、そのメディアがやるライブなので、メディアとして“今、聴いてもらいたい、届けたい”というアーティストにご出演いただくというのをずっと、10年以上続けてきたんですよ。まさに、Myukさんはそういうアーティストだなと思っていました。
Myuk ありがとうございます。そう言っていただいて嬉しいです。
冨田 ライブといえば、11月5日にワンマンライブがありましたね。振り返っていかがでした?
Myuk 11月5日に下北沢の方でライブをさせてもらったんですけど、初めてのフルバンドでのライブで、私が初めてステージ上で5人でライブをさせてもらいました。サポートメンバーの皆さんの音楽の向き合い方に背中を押されながら、1stステージと2ndステージの2公演を行ったんですけど、それぞれの公演でお客さんがあったかくて、優しい空間を作ってくださったので、お客さんやステージ上のメンバーにすごく元気をもらったような、私にとってはすごく有意義な1日だったと思います。
冨田 やっぱり、1人でステージに立つのとバンドでは違いますか?
Myuk はい。これまでライブを定期的に行っていたんですけど、最初はギターの方と、次はピアノの方と一緒で、前回はキーボード、ギター、ベース。今回、初めてフルバンドでという形だったんですけど、すごく楽しかったです。
BGM Gift/Myuk
冨田 「Gift」が聴こえてまいりました。今流れている、10月18日にリリースされた映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」の主題歌「Gift」ですが、改めてこの曲、いかがでしたか?
Myuk 初めて私が映画の主題歌を担当させていただくということで、歌だけでなく作詞のほうもさせていただいて、すごく思い入れのある1曲になりました。映画のほうも、主題歌を担当していなくてもきっと大好きな作品になっていただろうなと思うくらい、温かくて優しい作品で、この作品に携われたことがすごく光栄だなと思っています。
冨田 私も映画を拝見したんですが、心が温かくなるし、考えさせられるようなこともあったりしますし、とにかく色彩が美しい作品でしたね。改めてどんなところが見どころだと思われましたか?
Myuk 私は公開されてから2回観に行ったんですけど、なんといっても色んな動物のお客様たち、キャラクターが登場するのがとても一人ひとりに魅力があるなと感じます。考えさせられるというのも大きな特徴だなと思うんですが、秋乃さんという主人公の奮闘する姿、お仕事されている方や学生さんの日常生活に繋がるようなセリフだったり、誰かに想いを伝えたいという一生懸命な姿に背中を押されるのが素敵なところじゃないかなと思います。
冨田 人との向かい方や人を想う気持ち、気持ちの届け方と笑顔の大切さが、あの色彩感覚で描かれていて、すごく躍動感があるし、面白い作品なのでぜひ観ていただきたいですね。
冨田 こちらの楽曲、tofubeatsさんによる作曲で、作詞はもちろんMyukさんですが、tofubeatsさんとは元々関わりがあったと聞いたんですけど?
Myuk はい。この作品のお話をいただく1ヵ月前くらいなんですけど、私の大学のゼミが音楽の分野のゼミで、tofubeatsさんが特別講師としていらっしゃって、音楽制作やルーツをお聞きするという機会があったんです。それでオンライン上ではあるんですが、面識があって、お話を聞かせていただいたので、まさかそのときは一緒に作品を作らせていただくことになるとは思っていなくて、このお話をいただいたときはすごくびっくりしました。
冨田 すごいご縁を感じますね。僕もtofubeatsさんとは10年以上のお付き合いになるんですけど、彼は例えばジャンク品みたいなものを使ってサンプリングして曲を作っていくじゃないですか。普通の作曲の講座じゃ参考にならないすごいクリエイターだと思うんですけど、その講座ってどうでした?
Myuk 私はヒップホップの分野には疎いんですけど、そういうお話だったりとか、初めてライブを観に行かれたときのお話とか、私の身近にはないような音楽の話を聞けてすごく刺激になりました。
冨田 ファンの皆さんはご存知だと思いますけど、Myukさんは子どもの頃に民謡をやられていて、シンガーソングライターのアーティストたちに影響を受けて活動を始めるという流れですよね。そこには確かにtofubeatsさんっぽいヒップホップやサンプリングの文化がないから、すごく興味深く聞けたわけですね。
冨田 そんなご縁があったtofubeatsさんから楽曲が届くわけじゃないですか。最初に聴いた印象はいかがでしたか?
Myuk 最初にデモをお聴きしたのが今年のお正月くらいだったんですけど、ちょうど私が地元の熊本に帰省しているときで、地元の風景を見ながらすごくリラックスした状態で聴かせていただいて歌詞を制作していきました。最初の印象としては、すごくポップで明るい印象でした。でも、少し冬を感じると言いますか、明るさと温かさが共存しているような、この作品に合いそうだなというのが第一印象でした。
冨田 歌詞も冬っぽい雰囲気が出ているじゃないですか。それは聴いた瞬間に浮かんできたものが活かされているわけですか?
Myuk 最初の冬をイメージした歌詞は、「北極百貨店のコンシェルジュさん」のシーンがありましたし、冬の季節が多いなと思ったのと、公開時も冬ですし冬に聴いていただける曲になるといいなと思っていました。
冨田 なるほど、その辺のイメージとも合致していたんですね。最初のデモと今の状況って全然違うと思うんですよ。特に、ボーカルのコラージュがたくさん入っているのは最初には想像できてなかったと思うんですけど、tofubeatsさんとの楽曲制作の中で印象に残っていることはありますか?
Myuk レコーディングもtofubeatsさんが立ち会ってくださって、直接ディレクションをしていただいたんですけど、監督さんの要望にも「あまり感情を入れずに、淡々と歌う感じで」というのがあったので、そういうお話を一緒にさせていただきながらレコーディングをしていきました。tofubeatsさんは「自由に歌ってください」という感じで言ってくださって、そこから語尾の収め方とか細かいところを指摘してくださったんですけど、でも自由に楽しくレコーディングさせてもらいました。
冨田 「淡々と」というのは確かにありますよね。このリズムの中で歌をスッスッスツと置いていく。でも景色が移ろっていくような歌詞の表現もあるので、心の中に優しい気持ちが入っていく曲になっていますね。
Myuk ありがとうございます。私自身はどちらかというと、前は感情を出しがちなところで歌っていたんですけど、感情を出すことと心地良さは逆なんじゃないかと思っていて、そこがMyukになってからはすごく考えたところでした。監督さんに「淡々とあまり感情を出し過ぎないところに魅力を感じた」と言っていただいて、そこがすごく悩んだ部分でもあったので嬉しかったですね。
冨田 心地良さはすごくありますね。映画をご覧になると感じていただけると思うんですけど、余韻としてのこの曲の存在の尊さをすごく感じたんですよね。どんな想いで作詞をされたのか、この作品からどういうものを受け取って言葉にしていったのか、その辺はいかがですか?
Myuk 原作を読まさせていただいたときに、(主人公の)秋乃さんに私も共感して背中を押されました。秋乃さんだけじゃなくてお客様一人ひとりが大切な人に向かって、本当に純粋に、真っ直ぐに、自分の感謝や想いを伝えたいということでどんどん行動して、言葉を伝えていくということが“贈り物”のようだなと思ったので、それを“Gift”ということでこの曲に込められたらいいなと思って、そこは一番大事にして作詞をしていきました。
冨田 百貨店が舞台になっていて、人のことを想って何かを探すのをお手伝いするという仕事が描かれているからこそ、この「Gift」という言葉はぴったりだなと思いました。その作品性だけじゃないところの気持ちとしても、想いがあるだけでそれはもう「ギフト」であるというのが伝わってきました。この曲以外考えられないなと思うくらい、ハマっているなと思ったんですよね。
Myuk そう言っていただけるとすごく嬉しいです。
冨田 歌詞を書くときにこの作品の資料ってあったんですか?
Myuk 原作を2巻読ませていただいて、そこから歌詞を書いていくという感じでした。
冨田 特に印象に残ったシーンはありましたか?
Myuk 歌詞にも取り入れさせてもらったシーンがあるんですが、香水を探すシーンがありまして、ネタバレをしそうになるので詳しくは言えないんですけど(笑)、そこで匂いを見つけるのが素敵だなと思って、2番のAメロの“くすぐる花の香り 想い出す人がいたよ”という歌詞はそのシーンから取り入れさせてもらいました。
冨田 良いシーンだし、良い話なんですよね。映画として一綴りの物語になっていますけど、原作は短編で完結していく物語なので、ぜひそちらもご覧になっていただけたらと思います。この映画について好きなシーンを、話せる範囲で伺いたいと思うんですが、いかがですか?
Myuk クジャクさんが大好きです。
冨田 若干、迷惑行為みたいになったところがありましたけど(笑)。
Myuk そこが大好きなんです(笑)。ちょこちょこ登場するんですけど、まだ観られてない方はぜひ注目してみてください。
冨田 歌録りのところでは「淡々と」とおっしゃってましたけど、ボーカルをカットアップしたコラージュしたところがありますよね。ここはいかがでした?
Myuk レコーディングのときに、最初に聴いたデモからは変化していって、tofubeatsさんの色がどんどん加えられていくのを体感して、すごく現代的なサウンドでもあって、この「北極百貨店」の百貨店の建物の様子とマッチするなぁと。あとは私の声もすごくポップに、爽やかに仕上げてくださって、すごく素敵な1曲にしていただいたなと思います。
冨田 9月30日には完成披露試写会が実施されまして、Myukさんは登壇されてパフォーマンスもされたということでしたけど、いかがでしたか?
Myuk 本当に忘れられない1日になりました。初めて完成披露試写会というところに登壇させていただいて、そうそうたる声優陣の方々とお話しさせていただいたんですが、主演の川井田夏海さんはじめ皆さん気さくで素敵な方で。楽屋もすごく和やかであったかくて、アフレコ現場もこういう雰囲気だったんだろうなと想像すると、作品の一部になっている気がして、すごく嬉しかったです。
冨田 パフォーマンスはいかがでしたか?
Myuk 初めてお客さんの前で「Gift」を歌わせてもらったんですけど、作品の上映のあとに映像もバックで流してもらいながら歌ったので、そこで初めて作品を観てくださった方と、生で曲を聴いてもらったのでそれも嬉しかったですし、緊張しました(笑)。
冨田 普段、ライブするような場所じゃないところで歌うのは緊張しますよね。
Myuk でもすごく素敵な場所だったので、幸せな気持ちで歌わせてもらいました。
冨田 幸せな気持ちだったのはお客さんもまったく同じでしょうね。「さっき(映画で)流れてたやつ!」みたいな。
Myuk そうなっていたら嬉しいです!
冨田 そして、CDのカップリングには「Gift(Acoustic version)」も収録されていて、これがまた、素晴らしい!改めてどういうアレンジになったと思われますか?
Myuk こちらはヴァイオリンとヴィオラとチェロで、原曲のtofubeatsさんの現代的で爽やかでポップなサウンドとはまったく異なって、すごくクラシックな要素たっぷりの、シンプルだけどすごく壮大なアレンジにしていただきました。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの皆さんと一発録りでライブみたいな感じでレコーディングさせてもらったんですけど、生で音を聴きながら歌わせてもらえてぜいたくなレコーディングでした。
冨田 一発録りって、本当に特殊な事例じゃないとほぼやらないじゃないですか。一発録りって緊張感もありますし、セッションのムードもあると思いますけど、そのあたりはよかったですか?
Myuk 一発録りの緊張感も含めて、贅沢さを感じながら歌わせてもらって、一発に込めるのがすごく嬉しかったですね。すごく素敵なアコースティックバージョンに仕上がったなと思います。
冨田 あ、そうそう。MVも公開されておりまして、こちらはインディアニメータの獏井さんとのコラボレーションということですごく素敵な映像作品になっていると思いましたが、上がってきた時の印象はどうでしたか?
Myuk 私も大好きで、何度も拝見させてもらっているんですけど、絵のタッチが優しくて。季節が色づいていく感じとか、おじいちゃんとかおばあちゃんとか女性とか出てくるんですけど、表情がすごくやわらかくて、作品の世界観と雰囲気にもすごくマッチしたMVを獏井さんに制作していただいて、すごく嬉しいですね。
冨田 定点でバス停を撮っているシーンでも、日常を描いているのになんだかちょっと涙が出てきそうになるような場面があるじゃないですか。
Myuk そうなんですよ。歌詞の流れとかも考えてくださって、そういう場面展開にもしてくださったと思うんですけど、歌詞がぐっと入ってくるような映像が1カットずつあって、そこも歌詞を書いた者としてすごく嬉しかったです。
冨田 映像作品としてクオリティが素晴らしいと思いましたし、この曲があってあの映像が生まれたんだなというのがすごくよくわかる一体感みたいなものを感じました。
Myuk 絵のタッチが優しいだけじゃなくて、よく見るとポスターだったりとか、最後「Gift」という文字が出てくる本を読んでいる描写とか、細かいところに着目すると「これはこうなんじゃないか」という考察もできたりするんじゃないかと思うので、ぜひ何度も観ていただきたいMVになっています。
SHARE