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INTERVIEW

2023.11.18

“圧倒的違和感のCG”、予測絶対不可能な「デスポップ」を描くための「誰も言わない言葉」の紡ぎ方――TVアニメ『カミエラビ』監督:瀬下寛之×脚本:じん スペシャル対談

“圧倒的違和感のCG”、予測絶対不可能な「デスポップ」を描くための「誰も言わない言葉」の紡ぎ方――TVアニメ『カミエラビ』監督:瀬下寛之×脚本:じん スペシャル対談

「カゲロウプロジェクト」のじん、『シドニアの騎士』の瀬下寛之、『炎炎ノ消防隊』の大久保 篤、そして「NieR:Automata」のヨコオタロウという、著名クリエイターをフロントに据えたアニメオリジナル企画『カミエラビ』。制作の中核をなす、瀬下監督とじん(シリーズ構成・脚本)の対談が実現した。クリエイターの化学反応がいかに生まれていったのか、それぞれの創作への姿勢や現代性の掴み方、本作ならではの特長について語ってもらった。本作をきっかけに別企画でもコラボするほど相性抜群の2人。真剣な創作論でありながらも、笑いの絶えない対談となった。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

著名クリエイターを化学反応させるプロデューサーの裏技!?

――まずはこの豪華クリエイター陣のコラボによる企画がどのようにスタートしたのかをお聞かせください。

瀬下寛之 2018年9月に独立してCGスタジオを設立した際に『カミエラビ』でプロデューサーを務めるスロウカーブの尾畑(聡明)さんから「ヨコオタロウさんと一緒にアニメを作りませんか?」とお話をいただきまして。独特な世界観を創出するクリエイターとして着目していましたから、「ぜひやりたい」と。ただ、ヨコオさんもお忙しい方なので、企画会議は難しいということで、月1回の飲み会を開く形にして、そこで「もし良いアイデアが出たら、それを貯めてアニメにしようか」くらいのノリでスタートしました。

瀬下寛之

瀬下寛之

――堅苦しい会議ではなく、そういったリラックスした環境だからこそ出てくるアイデアがありそうですね。

瀬下 それを1年ほど続けた結果、アイデアが生まれすぎて氾濫しまして(笑)。1つ1つは面白いんですけど、一貫したストーリーとしてまとめるには相当大変な、膨大なアイデアの塊、混沌の泉みたいなものになったんです。尾畑さんは「これ、もうアニメにできますよ!」と言ってくれるのですが、僕もヨコオさんも「そうかぁ……?」と思ってました(笑)。そうこうしていたら、尾畑さんが「脚本家さんが見つかりました!」と、絶妙なタイミングで合流してくれたのが、じんさんでした。

じん 僕が加わったのは2020年で、その段階で尾畑さんのやりたいことは決まっているような感覚は見て取れました。ただ、新参としての僕の役目として、まずはその膨大なアイディアを見渡して、色々と意見を伝えるところから入っていきました。

瀬下 じんさんが「お二人とも、これを一体どうしたいんですか?」と質問をされるのですが、飲み会なので僕もヨコオさんも気持ちよく酔っ払っていて、楽しげに「アニメにしたいですっ!」って答えると、じんさんが「……」でしたね(笑)。

じん キャラクターが死ぬシーンや凄惨なシーン、悩みや葛藤も多いので、最初は「殺し合いなんてやめて、もっと女子高生がゆる~くキャンプするような話にしません?」と言ったりして(笑)。って話しても誰も聞いてくれない(笑)。尾畑さんは尾畑さんで、「何かこう、ドカーンとか、あるんだよね」と言うので、内心「うわぁ……、フワフワしてる!」と(笑)。その頃は、アイデアも結構沼化していたので、それを固めていく作業から始めました。最初は建て付けの部分が多かったのですが、ヒアリングをしていくと、テーマ性も明確になっていきました。僕が受け取ったこの企画の本質的な部分は「無情な世界におけるヒーロー譚」。それを渇望しているというか、完成させたいのだろうなという印象でした。ただ、このヒーロー譚は、単なる勧善懲悪的なものではなく、ある種、大人になって頭が良くなってしまったうえでも納得できるヒーロー像の提示だったのかなと解釈をしましたね。

瀬下 僕もヨコオさんも、「僕らのようないい年齢のおじさんでも、これほど不条理を感じるんだから、若者はもう本当に大変だろうね、この現実世界って……」といった感覚が少なからずありまして。じんさんは膨大なアイデアの中から、そういった感覚のエッセンスというか、言葉を見つけ出して、ストーリーラインにまとめ上げてくれました。その読解力・把握力・理解力のスゴさ。じんさんでなければ不可能だったと思います。その後、シナリオとしてまとめ上げるスピード感も抜群でした。

じん

じん

「カゲプロ」から10年間以上、磨き続けてきた「誰も言わない言葉」の紡ぎ方

――じんさんに伺います。この作品の主人公であるゴローや周りのキャラクターの会話がとてもリアルで、セリフには生々しさを覚えました。「カゲロウプロジェクト」をじんさんが発表されてから10年以上経って、なお今でも現代の若者にフィットするビビッドな感覚の言葉を生み出せるのはなぜでしょうか?

じん 「言葉」という部分を拾っていただいて、大変ありがたいです。それは脚本のみならず、歌詞にも通ずる部分かなと思います。僕が「カゲロウプロジェクト」を始めたのは19歳だったのですが、その頃は商業的な作品づくりの場において箸にも棒にもかからなくて、ある意味で見切りをつけるところから始まっていたんです。だから前提として、「自分の好きにやろう。たとえ誰に認められなくてもいい」と思っていて。別の言い方をすると、褒められたい・認められたいという感覚がないから、保身もしない。ダメで当然というところからスタートしました。僕は歌詞を書くときにトレンドなことを書いたり言ったりしないのですが、それは「流行るものはほかの誰かが言ってる」から。むしろ僕が書きたいのは「みんな思っているはずなのに、誰も言わない言葉」です。例えば、いじめられっ子がいたとして、その子に対して皆が何も声を上げられなくて悔しい、というような状況。僕はそれを言葉にしたいと思ってきたんです。それは、「カゲプロ」から10年経った今でも、というよりも、そうした創作のスタイルを10年続けてきたからこそ、より明確になってきたのかなと思いますね。

――今回の『カミエラビ』でも、そのような背景からセリフを紡いでいるんですね。

じん はい。『カミエラビ』においては、僕はすでに行き先が決まっている船のクルーだったので瀬下監督、ヨコオさん、尾畑さんのやりたいことが重要であると考えました。それを実現するなかで、作家として自分を表せるのはどこかと考えたら、やっぱり「セリフ」だったんです。今作ではすごく想いを込めて台詞を書いています。時に赤裸々であったり、今まで言われなかった言い方を、いかにセリフとして作ることができるか。それが先ほどの「誰も言わない言葉」です。「そういう言い方をすると嫌われるから、言わないようにしていた言葉」を、あえて言おうと心がけていました。

――そういった言葉を探そうとするときは、ご自身の中に入っていくのか、様々な観察から見つけるのか、どちらかといえばどの傾向にありますか?

じん 僕は昔から周りをすごく見てしまう性格で。その結果、世の中に違和感を覚えて動けなくなったり、学校に行けなくなってしまったこともありました。今でも、例えばネットでニュースを見たときに、他人との意見の違いに敏感なんです。そこが自分の創作における、ある種のメソッドに非常に関わりの深い観点なのかなと思います。今回の『カミエラビ』においても、加害者・被害者という観点があったときに「これはどちらの側が被害者なんだ?」と考えることってあると思うんですよ。そこにおける他人と自分の考え方の違いやジレンマを全力で描いています。ですので、僕に共感してくれたり、僕のような考え方を一部持っていらっしゃる方は、そこに気づいてくれるのかなと思います。

次ページ:ただのデスゲームを超えたグラフィカルな「デスポップ」

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