INTERVIEW
2023.11.14
声優・降幡 愛が初のフルアルバム『Super moon』をリリースした。2020年、「CITY」を含むミニアルバム『Moonrise』で衝撃のデビューを果たして以来、名プロデューサー・本間昭光とのタッグで、シティポップサウンドを下敷きに80’sサウンドを鳴らしてきた。そうした彼女の3年の軌跡を1枚にコンパイルするとともに、そこから生じた彼女の変化を時系列に示したのが本作である。作詞を含む降幡の世界観が、月が昇るように現れ、そしてそれが欠けては満ちていく――そんな彼女の変化の過程を詰め込んだフルアルバムを、彼女はどう捉えているのか。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――アーティストデビューから3年、ついに1stフルアルバムのリリースとなりましたが、今のお気持ちは?
降幡 愛 赤裸々に話すと、この3年でフルアルバムというものをあまり意識していなかったんです。でも、心境的には3年間やってきてこれだけ曲数増えたんだなというのと、応援してくださっている皆さんがいるからこそ今回の1枚が出来たという感謝を込めて、それを形にすることができたのは良かったなという気持ちがありますね。
――これまではミニアルバムをはじめコンセプチュアルな制作が多かったですが、今回はそれらを1枚にコンパイルするような作風になりまして、やはり趣きが異なるといいますか。
降幡 ミニアルバムなどを通して、1曲1曲フィクションなものを書いていくような制作を行った3年だったんですけど、このアルバムではリード曲の「Super moon」は割と自分の心境というか、初めて今の気持ちみたいなものを入れたりしているんですね。なので、いつも歌詞で書いていたフィクションからは歌詞の構築を変えたりしたので、また新しい側面を見せることができたのかな、と。
――まさにそこが大きな変化ですよね。あるいは3年経って降幡さんの中で新たに芽生えてきたものでもあるのかなと。
降幡 そうですね。本間さんとの共作で、詞先で進んでいった楽曲からまた形を変えて、メロディーがあるものに歌詞をつけるという作業も増えたりもしたので、この1枚で制作の仕方もガラッと変わったかなと思います。
――これまでフィクショナルな世界観を詞先というかたちで作り上げてきたのが、今度は曲先で自身の想いを語るというのも興味深くて。
降幡 これまでは本間さんを含めてチームの話を聞きながら、私なりのこういう80’sやノスタルジックな曲を作ってきたんですよね。ただ、ここ最近は新しいものも取り入れたいというか、自分らしさみたいなものも少しずつ入れていくというか……私自身の音楽の向き合い方も変わりつつある、ちょうど真ん中みたいなアルバムなんですよね。
――アルバムは最初に発表された「CITY」から主にリリース順に収録されていて、まさにその変化の過程がわかる内容ですよね。このジャケットのように、月の満ち欠けのようでもあり。
降幡 ほんとほんと、初回限定盤のジャケットみたいに、グラデーションのように変わっていく。
――ちなみにこの曲順はどのように決めたんですか?
降幡 本当に録った順なんですけど、変に組み替えると気持ち悪くなっちゃうかなというか、正直に順番通りの方がいいのかなと思って。
――結果として降幡さんの心境の変化というものをアルバムの流れで知ることができる構成になりましたよね。あと、アナログ好きの降幡さんからして、既初の音源中心のA面、その先の新曲を含むB面のようなイメージもあるのかなと。
降幡 本当にそうですね。特に「PLAY BOY」「Fashion」あたりからその変化があるような感じがします。それこそ「CITY」は私も懐かしいというか、ここから始まったんだよなっていうインパクトはすごかったと思います。あと、フルアルバムを出す前にはカバー楽曲を制作していたので、そのときの自分のオリジナルというのも探り探りで、どうしていこうかなという想いもあり、そのあたりからもう少し自分の色を出していきたい気持ちはあったかもしれません。それがアルバム後半にかけて出ているのかなと。
――まさにこの3年間、どういう音楽性を辿ってきたのかがわかる1枚になっていますよね。
降幡 そうですね。まさに、「こういう人です」っていう感じです。
――さて、本作では「CITY」から「東から西へ」までのお話は過去のインタビューで伺ってきましたが、今回はその先からの楽曲をお伺いできたらと思います。まずは「-PROPORTION- Ⅲ」について、こちらはすでにライブで披露されていた楽曲ですよね。
降幡 そうです。1年前くらいにやった“3rd Live Tour 〜愛はハイテンション〜”のテーマソングで、音源化はこれが初めてになります。これは本間さんに作っていただいて、「Ⅲ」とあるのも、何曲か作ってボツになって、やっと3回目くらいで出来たんです。なので、この前にもう1、2曲あったんですけどしっくりこなくて、改めて本間さんにお願いして作っていただいた楽曲です。
――その過去のプロトタイプから歌詞のアプローチは変わっていないんですか?
降幡 元々ライブのために書いてあったので、アプローチ的には同じですね。そのライブのタイトルが“愛はハイテンション”だったので、踊りたくなるようなものをイメージした曲になっていますね。ライブでも、ダンサーさんを交えて踊ったり、ジュリアナ扇子を振る感じだったので、当時のクラブのお立ち台のイメージで踊るしたたかな女性みたいな感じが出たかなって思います。
――歌詞も当時の女性が言いそうなワードですよね。
降幡 そうなんですよ。わかるかな今の子……みたいな(笑)。80年代のバブリーな感じ。
――続いては「PLAY BOY」と、ちょっとファンキーなサウンドになりましたね。
降幡 「PLAY BOY」に関しては、デビューミニアルバムの「シンデレラタイム」という曲があるんですけど、それを作る手前で候補に挙がっていた曲なんですよ。そこで曲作るにあたって、「あの曲ってまだデータありますか?」と本間さんに聞いて、そこからブラッシュアップして出来上がったのが「PLAY BOY」で。当時からサウンド的には洋楽っぽい雰囲気で、3年間活動をしてきたなかで、改めてこういう曲もやりたいな、そういえばこういうテイストの曲を本間さん作ってくれていたな、という感じで。
――なるほど。ちょうどカバーアルバム『Memories of Romance in Driving』のあたりで洋楽的なアプローチにも向かっていましたが、まさにデビュー当時にはなかったアプローチを経て「PLAY BOY」を作っていったと。ちなみに歌詞はその当時からあったんですか?
降幡 いえ、当時は「シンデレラタイム」の歌詞をお渡ししていました。当時2曲出来たうちのもう1曲だったので、今度は詞先ではなくて音から作っていきましたね。
――その歌詞もしっかり降幡さん流の、プレイボーイなんだけど……というイメージの世界観ですよね。
降幡 そうなんですよ。受け取り方は皆さんそれぞれでいいんですが、ただの遊び人の男の話じゃないよな、みたいな部分があって。今回の4thライブツアーが“USAGI”というタイトルなんですけど、プレイボーイっていうウサギをモチーフにしたブランドあるじゃないですか。ウサギをテーマにしたくて、歌詞にも“ただのうさぎなんだ”と言っていたりもするんですけど、そういうイメージから、スクエアから飛び出していきたいっていうのが今年のテーマでもあって、そういう変化のきっかけになった曲でもありますね。新しめの曲なんだけど、昔から繋がっている曲。
――昔からのマテリアルにウサギという現在のテーマがついてきたわけですね。
降幡 今回の『Super moon』もそうなんですけど、元々自分のアーティストとしての在り方が“月関連”というのもあって、そこから「月といえばウサギ……ウサギめっちゃいいな!」ってなって。そこから「バナナといったら……」みたいな感じで、連想ゲームみたいにプレイボーイに行き着いたといいますか(笑)。
――次はYUSAさん、沢井美空さん、blue but whiteとの制作となりました「Fashion」です。
降幡 沢井さんもYUSAさんも、私と同年代の女性なんですが、制作もすごく楽しくて。やり取りも本間さんのときとは違ってオンラインでやっていったんですけど、色々とお話しながら作っていきました。歌詞もYUSAさんと共作というか、元々あったものに対して自分がこういう世界観にしたいと相談をしながら書き加えていった感じでしたね。
――サウンドとしても非常にガーリーな印象が強く、コーラスの多さもそのキュートさに良い効果を与えていますね。
降幡 今まではライブでもお世話になっているミキティ(会原実希)がコーラスを担当してくれていたんですけど、自分で全部コーラスもやるという大ボリュームなレコーディングでしたね。声色も今までは大人っぽく歌うことが第一だったんですけど、今回は歌詞にのっとってかわいらしく、なおかつ英語が多いので英語のグルーヴ感を大事にしていきました。
――本間さんとのタッグとは異なる新たな座組というのもあって、ここでのサウンドもボーカルも印象が変わってくるパートになります。続いての「シャンプー」も同じくYUSAさんと沢井さんとのタッグですね。
降幡 この曲は結構すぐに出来上がったんですが、特に私が作りやすい物語性が強い曲になりましたね。女の子の思いを馳せるというか、そういう歌詞をバーッと書いていきました。
――先ほどの「Fashion」もそうですが、沢井さんの作曲はメロディが高いといいますか、普段より高音を聞かせるボーカルになりますね。
降幡 そうなんですよ。普段は低いところで深い音域を歌うことが多かったのですが、「Fashion」からは自分的には上の音が多くなったので、そこは苦労しましたね。
――あと、このあたりの「PLAY BOY」以降の歌詞には英語が増えてきていますね。そこは意図的にそういうパートを作っていった?
降幡 そうですね、英語を入れたい欲がすごく出てきちゃって(笑)。自分の流行りですけど、昔はカタカナ英語とか造語とか、いわゆるシティポップみたいな感じのイメージでしたけど、今は自分の中の流行りが洋楽的な方面に向いているのかも。
――そこもまた変化であり、それが徐々に「Super moon」に近づいていっている……というような流れですね。そして次は大陸的なサウンドが印象的な「夜のグラデーション」です。
降幡 これは曲をいただいたときにアレンジの話になって、私から「チャイナっぽい感じのアレンジお願いできますか?」って相談して、そういう方向性のアレンジにしていただきました。
――なるほど。中国的なアプローチは「桃源郷白書」など過去の楽曲にもありましたが、そこまでストレートというよりは、歌詞にもあるような夜の繁華街的な印象ですよね。
降幡 そうですね。ハングオーバーじゃないですけど、ちょっと酔っているようなイメージだったので、千鳥足みたいな感じで。
――たしかにビートに心地良くノる感じのボーカルが印象的ですね。
降幡 そうですね、歌詞も“ユラユラクラクラ・・・”とか、いただいたものから外れないように音感やリズム感を大事にしていきましたね。
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