INTERVIEW
2023.11.06
アニメやアイドル楽曲を中心に数々の名曲を生み出し続けている作曲家・俊龍による音楽プロジェクト、Sizuk。今年1月にTVアニメ『冰剣の魔術師が世界を統べる』のOPテーマ「Dystopia」でデビューを飾って以降、次々と新曲を発表してその動きを活発化させるなか、早くも6th デジタルリリース「REVERSI」が届けられた。2024年にTVアニメ第2期の放送が予定されている『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』(以下、『キミ戦』)のイメージソングとなる本作は、ベテランの只野菜摘が作詞を担当、歌唱は「Dystopia」「anemone」「蒼い孤島」に続いて4度目のSizuk楽曲への参加となるAYAME(from AliA)が担当。俊龍楽曲ならではのドラマチックかつキャッチ―なメロディ、AYAMEの鮮烈な歌声が耳に残るアップチューンに仕上がっている。『キミ戦』という作品にどのように寄り添った楽曲なのか。AYAMEがレコーディング秘話を語ってくれた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――AYAMEさんがSizukで歌唱するのは今回で4度目になります。Sizukチームや俊龍さんとの関係性や距離感は、当初と比べてどのように変化しましたか?
AYAME 最初の「Dystopia」のときから比べると、さらに仲良くなっていると思います!というのも最近のSizukの現場では、まず私が「今はこれが面白いんですよ」というお話を俊龍さんとSINOさん(Sizukの制作スタッフ)に1時間くらいしゃべり続けて、そのあとにレコーディングに入るという流れなんですよ。きっとエンジニアさんとかは「いつ始まるんだろう?」と思いながら見ていると思うんですけど(笑)。でも、レコーディングはメンタルに左右されるところがあるので、みんながどんな気持ちなのかわからないままレコーディングに入ると声に不安が出たりするんですね。なので、実は結構大事なことなんです。
――そうやって、その日の雰囲気やテンション感を掴んだうえで歌われると。
AYAME それと最近は、歌の面で自由にやらせていただいていることが多くて。特に今回の「REVERSI」に関しては、皆さんに「良いね!」と褒めていただけることが多かったです。私もここまでSizukとして何度も歌ってきたので、自分の中でSizukで出すべき歌が見えてきたんですよね。俊龍さんのメロディに対して私はどう歌うべきなのか。それがより明確になってきたからこそ、あまりディスカッションをしなくても進められるようになったのは、当初から変わった部分だと思います。緊張もほどけましたし、どんなことを求められているかも理解できるようになったので、その意味では共通言語ができてきたのかもしれないですね。
――今の「Sizukで出すべき歌が見えてきた」という発言は重要なポイントだと思って。AYAMEさんは、普段AliAのボーカリストとして様々な楽曲を歌っていますが、そのときと比べてSizukの歌はどう違うのでしょうか?
AYAME AliAの場合、疾走感のある楽曲に対しては基本的に地声やミックスボイスで、(音程に)カツンと当てるような歌い方のほうが合うことが多いんですね。Sizukの場合はファルセットが似合うところが多くて、今回の「REVERSI」に関しても「ここはファルセット、ここは地声だな」というのを感じますし、Sizukの楽曲はその選択ポイントがすごく多い印象です。私はそれまであまり裏声を使わないタイプだったので、こんなにもパワフルな曲調だけどファルセットのほうが合うなんて、Sizukで歌うまで感じたことがなかったんですよ。その意味ではボーカリストとしての引き出しを増やしてくれたプロジェクトだと感じますね。
――Sizukというプロジェクトに対するご自身の向き合い方、スタンスにも変化はありますか?
AYAME 最初は単純にお声をかけてくださって嬉しい気持ちが強かったですけど、今はチームの一員としてこのプロジェクトがどこまでいくのかがすごく楽しみです。これだけたくさんの楽曲を歌わせていただいているので、今は「SizukといったらAYAMEだよね」と思ってもらえるような歌をうたっていきたいですし、責任感も強くなったように感じていて。それと、私はもちろんバンドも好きなんですけど、こういうプロジェクトだからこそ出来ることは無限大にあると思うので、私自身も色んなことをやらせていただけると嬉しいですし、レコーディングで「こんなこともしたいですよね」というお話をするくらい、このプロジェクトに対しては前向きで楽しさしか感じていないです。
――そんななかで今回の新曲「REVERSI」のお話をいただいたときの印象はいかがでしたか?
AYAME 「ついにきたな!」と思いました(笑)。というのも、Sizukの楽曲は毎回難しくて、良い意味で「手強い敵がきた!」という気持ちになるんですよね。ただ、この楽曲に関しては、最初に聴いた瞬間から「あっ、好き」と思ったんですよ。その音源には仮歌さんの歌が入っていたのですが、それを聴きながら頭の中では自分が歌っているところが想像できて、一回聴いた段階でこの楽曲はどう歌えばいいのかがパッと浮かびました。もちろん(メロディの)跳躍が多いので、めちゃくちゃ難しい曲やん!とは思いましたけど(笑)。
――この楽曲は『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』(以下、『キミ戦』)のイメージソングになりますが、アニメはご覧になられていたのでしょうか?
AYAME はい。私は戦闘系のアニメが大好きで死ぬほど観ているので(笑)、この作品も周りの誰よりも先に観ていたんですよ。キービジュアルを見て「戦いそうだけど、もしかしたら2人(主人公のイスカとヒロインのアリスリーゼ)の恋心とかも描かれるのかな?」みたいな印象で観始めたら、「えっ!?そういう設定!切ないじゃん!」って興奮してしまって(笑)。この作品は戦闘系で括れないくらい深い部分があるし、私は少女マンガが大好きなので大歓喜してしまいました。
――イスカとアリスは敵対する国でそれぞれ最強戦力と呼ばれる存在で、その2人が争い合う中で徐々にお互い惹かれていくストーリーですものね。
AYAME しかも戦闘の描写も疾走感があるし、1人1人の心の動きや恋模様も細かく描かれていて。それだけでなく、何が正しさで何が悪なのか、ということも描かれていて、私の普段の考えや歌詞に書いていることと共感できる部分も多かったんです。2人はお互い敵同士の立場なのに惹かれ合っていて、でも自分の正義もある。きっと好きな気持ちは悪ではないのに、それが悪になってしまったり、でも「本当にそれは悪なの?」と感じてしまったり、ずっとグルグルしているんですよね(笑)。そこは考えさせられる部分でもあるし、観ている側としても入り込んでしまうことが多々ありました。
――恋愛要素という意味では、いわゆる「ロミオとジュリエット」的なドラマチックな関係性が描かれるのに加えて、2人の利害が一致して共闘するシーンもあるので、ライバル同士が手を繋いで戦う少年マンガ的な熱さもあります。
AYAME そうなんですよ!背中合わせで戦うところはワーッ!となるんですけど、なのにスッキリしない気持ちもあって。「もう仲良くなればいいじゃん!」って思うんですけど、結果、そうはならないもどかしさがまたいいんですよね。
――そういう2人の複雑な関係性が、この「REVERSI」という楽曲にはしっかりと落とし込まれていますよね。
AYAME 特にサビの頭の部分(“消え去るもののかわりに 始まるものを信じる”など)はそうですよね。「REVERSI」というタイトル自体もそうですし。私はDメロが特に好きで、あの一度落としたあとにどんどん上がっていく感じは王道ではあるんですけど、そこでシーンがパッと切り替わる感じが楽しくてしょうがなくて(笑)。しかもそこからサビのテンションに戻っていく感じもたまらなくて、今まで出会った楽曲のなかでも1位2位を争うくらい好きなDメロです。私は元々、昔ながらのJ-POPらしい“Aメロ→Bメロ→サビ→Dメロ→ラスサビ”という展開のDメロが大好きなんですよ。それを彷彿とさせつつ、俊龍さんならではの味になっているので天才だと思いました。
――Dメロで雰囲気が変わる感じは、まさにリバーシ(オセロ)のように情景が反転するような感覚があって、お互いに敵対心と恋心を抱く2人の関係性や両面性が見事に表現されているように思います。
AYAME この部分で後ろのサウンドがきれいなピアノに切り替わるのも好きですし、“そっと 紡がれる物語 それが 戦いの隙間でも めぐり逢った視線が すれ違った瞬間 かわった 怒りが 光に”という歌詞を含めてハッとなりますよね。そのDメロの流れから出てくる“共犯者のよう”というフレーズも、アニメの内容を考えるとグッときて。私も歌い方を2人(イスカとアリス)の気持ちに寄せたところがあるので、そこは情緒がおかしくなりそうでした。
――どういう心情ですか(笑)。
AYAME いや、だって切ないじゃないですか!特にアニメの第1期では、最初の頃は2人の関係性もまだもどかしかったですし。だからここでは、私の中の恋心を全開にして歌いました。アリスが胸の前に手を当てて目を瞑って歌っているのを想像して、そこから手を差し出しているような気持ちになって。なのでここはある意味、セリフを言っているような感覚で歌いました。
――作品の内容に寄り添って歌い方のアプローチを組み立てていったんですね。
AYAME この楽曲に関しては、特に声色はこだわったポイントで、場面ごとに歌い方を変えたところが多いですね。歌詞とメロとバックのサウンド全体を見たら、私がどう歌うべきかを指示してくれているんですよ。「ああ、こうすればいいんだよね」というのが全部伝わってくるから、楽曲とセッションしているみたいな感覚でした。自分でも完成音源を聴いて、ちゃんと変わっていることがわかるくらい変化をつけたのは初めてかもしれないです。
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