祖父がヤクザの組長である瀬名垣一咲の片思いの相手は、彼女の世話係でもある若頭・宇藤啓弥。その恋を振り切り普通の恋をするべく高校に入学した一咲を追いかけ、過保護な啓弥は年齢を詐称して同じ高校へと進学する――そんな2人の恋模様を描いた人気少女漫画「お嬢と番犬くん」がアニメ化。そんな胸きゅんラブストーリーのオープニングを、オーイシマサヨシが歌い上げる!久々の少女漫画原作アニメのオープニングを担当することとなったオーイシにとって、挑戦的な1曲となったと語る「好きになっちゃダメな人」について話を聞く。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
——ニューシングル「好きになっちゃダメな人」ですが、こちらはTVアニメ『お嬢と番犬くん』のOPテーマ。少女漫画原作の主題歌を制作するということで、まずはどのようなことから始められたのでしょうか。
オーイシマサヨシ 久しぶりの少女漫画原作のタイアップだったんですよね。なんだったら『月刊少女野崎くん』以来かもしれない。シンプルに面白い作品なので、原作を読み始めてから「この物語の主題歌が書けるのは嬉しいな」と思いながら曲を書いていきました。
——男性の目線で見る少女漫画の世界観。どんなところが面白いと感じられますか?
オーイシ 女子と一緒ですよ!キュンキュンするところは変わらないと思います。男性でも女性でも。例えば主人公に自分を重ねるような、そういった共感性とはまた違いますけど、「ヒロインがかわいいな」とか「男だけどこんな恋がしたかったな」とか、色々な見方がありますよね。あと、そういえば久しぶりに少女漫画を読んだかもしれない、すごく楽しかったです。
——楽曲を制作する際に、物語のどんな部分をテーマとしてキャッチされたのでしょうか。
オーイシ 「ロミジュリ」ですね。身分の違う男女が恋に落ちてしまうっていう。本当はダメなのに、いけないのに、というところが落としどころとして一番フィットした感じでした。ただ、そこまでロジカルに考えたわけでも、「このあたりがロミジュリだな」という俯瞰でもなくて、書いている最中はすごく物語に没頭していたので、書き終わってから「そうか。これは“ロミジュリフォーマット”なんだ」と、気づいたような感覚でしたね。でも『お嬢と番犬くん』という物語以外にも、現実世界でも「好きになっちゃダメな人」って経験している人も少なくないと思うんです。小学校のときに担任の先生に恋心を抱いたことや、僕の場合だと幼稚園の頃に数ヵ月後に引っ越すのがわかっている女の子のことを好きになってしまったこともありますし。そういうふうに、それぞれの人が主人公になっている物語ってあると思うので、広くていいテーマなのかなと思って。この曲は珍しくタイトルが先に浮かんだんですよ。普段は最後にタイトルを決めるタイプなのですが、最初にタイトルが浮かんだな、という感じでした。
——そんな『お嬢と番犬くん』の楽曲に「これは絶対に必要だ」と思った要素を教えてください。
オーイシ 絶対に必要だと思ったのは、“ヒロイン目線”。それは僕だけじゃなく、ディレクターさんやアニメ制作サイドもそうですが、男性アニソンシンガーが男目線で歌うのではなく、ちゃんと一人称を「わたし」にして、ヒロイン目線で恋を、心情を紐解いていくことが在り方として正しいかなと思いました。逆に「これはやっちゃだめだな」というファクターもあって。それは楽曲の主人公役が、「好きになっちゃダメだと思われる側」になってしまうこと。上から目線で描いたらいけないということは思っていました。なので、僕の曲の中でもヒロイン目線というところで初めて「わたし」という一人称で書いた曲になりましたね。
——アレンジでこだわったのはどのような部分ですか?
オーイシ 暗い曲にはしたくなかったんです。すごく透明感がある曲で、「好きになっちゃいけない人だ」という想いだけ見ればネガティヴだけど、好きという気持ちは間違いないから、ちゃんと幸せを感じる音で包み込みたいと思ったので、ストリングスやコーラスでハッピーな感じの音階を使ってサウンド作りをしていきました。
——OP映像からも、恋をしているからこそのハッピーは伝わってきました。
オーイシ 究極の自虐ソングですよね。「好きになっちゃダメなんだけどなぁ」っていうところ。「ダメだなぁ、わたし」という曲にしたかった。でもそこにはちゃんと好きな人との幸せな時間や、好きになったという素敵でキラキラした気持ちは存在していると思うので、歌詞もそうですがサウンドでも暗くならないように作っていったように思います。あとは、これが仮に実写化されても耐えうるような、アニソンだけどポップソングとしてちゃんと集約できるような楽曲を考えて作りました。オファーをいただいたときの「こんな感じにしたい」というオーダーシートも、「実写映画やドラマになってもおかしくないような主題歌を」ということだったので、そこを念頭に置いて作っていきました。
——その手法に違いがあるということですか?アニメソングと実写作品のテーマソングとで。
オーイシ 明確に違うのは“テンポ感”です。この曲、オープニングにしては結構テンポ感がゆっくりしている曲ですよね。跳ねのリズムなので人によっては軽快な感じに聴こえますが、速度的にはミドルバラードくらいのテンポ感なんです。これは僕にとってもトライでしたし、珍しい曲なのかなと。速いテンポで獲得できる印象ってあると思うんですよ、「なんだか明るいな」とか「アニソンっぽいな」とか「爽やかだな」とか。テンポが速いことによって勝ち得ることのできるイメージをかなぐり捨てて、ともすれば映画のエンディングでかかっていそうな曲を意識したかなと思います。アニメのOPソングとしてはちょっと遅めな、珍しい曲ですね。
——アニメソングとも違い、ポップサウンドに落としこんだというこの曲ですが、歌唱についてはいかがでしたか?
オーイシ そもそも「わたし」という一人称を使っているので、どことなく声は、例えば『SSSS.GRIDMAN』を歌っているときよりも優しくはなっていますし、キーもそれほど高いわけでもないので、抑えたキーで歌える等身大で歌唱が出来たかなと思います。それにボーカルの質感も結構、普段とは違うなと思っていて。ファンの方々はそのことに敏感に気づいているようで、「この曲はカタカナのオーイシマサヨシというより漢字の大石昌良にありそうな曲だ」とか「大石昌良の声だ」と言われることが多くて、なかなか鋭いなって思いました。漢字の大石昌良はアニソンを歌わない体で、どちらかというと情報番組のOP曲やJ-POPシンガーソングライター然としているので、この曲の手法としてもそちらに寄っているのかもしれないです。
——そのあたりは、レコーディングに臨む際も意識されたのでしょうか。
オーイシ 意識はしていました。ただ、あまり意識しすぎるとカチコチになってしまうので、そこの塩梅はありましたが、いつもとは違う感じでのボーカルアプローチにしたい、サウンドアレンジをしたい、という想いはありました。
——MVはアニメーションで、お洒落ムービーになっていました。こちらはご覧になっていかがでしたか?
オーイシ ああいうYouTubeライブってありますよね?チル的な音楽をずっと流しているチャンネルというか。今回は、あえてそういうアニメーションっぽい感じにしています。5年、10年後でも聴けるような、そんなMVにしたいというイメージを伝えて作っていただきました。動きをめちゃくちゃにつけるというよりは、ずっと素朴に淡々と画面が流れていくような感じにしています。
——そして打って変わって、アニメのオープニングはキュンキュンする映像で。
オーイシ いやあ、キュンでしたね。ど頭でヒロインの一咲ちゃんの子ども時代から始まりますが、すごくキュンキュンしますよね。原作寄りの絵のタッチでアプローチしているのがお洒落だなって思いました。先ほど「テンポが遅い」という話をしましたが、僕自身にとってもトライのある楽曲だったので、実はどんな風に仕上がってくるのかなという若干の不安もあったんですよ。今までとは違う感じの楽曲だったので。でも、第1話で皆さんと同じタイミングで初めてOPムービーを見て、ほっとしましたね。
——オーイシマサヨシの曲としてはテンポの遅い曲ですが、この曲、ライブではどんな風にパフォーマンスしたいですか?
オーイシ 振付師さんに手振りをつけていただいたんです。それを一緒にやりながらライブをしたいですね。それに、跳ねのリズムなので手拍子をしたりしながら一緒にノリを楽しめる曲になったらいいなぁと思っています。ちなみに、今回振りをつけてくださった振付師さんが、たまたま『推しの子』で僕が書いた劇中歌「サインはB」の振りつけをしていた方だったんです!全然知らないままにオファーした方だったのですが、「実は僕、大石さんと関係があるんですよ」って言われて、お話を聞いたら「『サインはB』、僕が振りつけました」って。こんなことあるんですねって驚きました(笑)。世間は狭いですね。
SHARE