INTERVIEW
2023.10.28
およそ2年半ぶりにリリースされる、angela11枚目のオリジナルアルバム『Welcome!』は、この間にリリースされた楽曲に加え、新たに新作TVアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』EDテーマの「Welcome!」と、お笑い芸人・ミュージシャンのはなわとangelaがコラボしてangelaの地元・岡山県を歌った「OK! 岡山」が収録される。この強力な注目トピックを中心に2人に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
――ニューアルバム『Welcome!』には、コロナ禍の中に作り進めてこられた楽曲が収録されています。これまでのアルバム作りとは異なる状況だったかと思いますが、振り返ってみていかがでしたか?
atsuko 世界的にも世間的にも色々なことがあったこの数年間でしたが、そうした中でアコースティックギターを始めて「Alone」という曲を作ったり、ツアーに向けた「アロハTraveling」という曲を作ったりと、振り返ってみると、未来を見ながら作れていけたという思いがありますね。
KATSU コロナ禍というこれまでにない特殊な状況で、暗いニュースもあったり、周りに困っていた人も多かったのですが、1万歩譲ってあの状況で1つだけ良いことがあったとしたら、それは十分な制作期間を設けることができたことかなと思います。以前であればあり得ないような、細かい音1つ1つに時間をかけて作っていけたので、その意味では同業者や玄人にも聴いていただきたいアルバムになったなと思います。
――そうしたなか、アルバムには2曲の新曲が収録されています。まずはタイトルトラックでもある「Welcome!」について伺います。これはTVアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』EDテーマですが、お話を受け取った時の最初の印象はいかがでしたか?
atsuko 原作のコミックスをいただいて、まずはギャグコメディ作品に携われることを喜びましたね。加えて、EDテーマ担当とのことだったので、良い意味で「遊べるな」と思ったんです。普段よりも自由さや心の余裕を持って向かえる気がして、そこで試みたのがエレクトロスウィングという音楽ジャンルでした。KATSUさんは以前からこのジャンルで曲を作りたいと繰り返し言っていたのですが、作品とのマッチングがなかなか果たせないままでした。それが今回『でこぼこ魔女』の原作を読んだ時に、これなら合うんじゃないかと思い、曲作りを進めていきました。KATSUさんからしてみたら、満を持してこのジャンルにチャレンジできるという思いだったでしょうね。
――ではKATSUさんにエレクトロスウィングというジャンルの紹介とその魅力を伺います。
KATSU エレクトロスウィングというのは、1950~60年代のジャズのスウィングをサンプリングして、現代の4つ打ちビートを乗せた音楽です。ヨーロッパのほうでは、「次に来るのはこのジャンルだ」と言われ続けて十数年、未だに来る気配は見えません(笑)。ただ、僕はレトロフューチャーのダンス版みたいなところがすごく良い音楽だと思っていて、温存していたんです。それを『でこぼこ魔女』の、褒め言葉としての「アホっぽさ」と絶対マッチするなと思って、今回当ててみたというわけです。
――歌詞の世界観作りについてはどんなところを重視されましたか?
atsuko 今回は家族愛をテーマに歌詞を書いてみました。原作がなかなかのギャグ作品だったので、お遊びも入れながら『でこぼこ魔女』の世界を表現していきたいなと思って。作品にまつわるフレーズを組み込みつつ、お客さんも合いの手を入れられるような部分を作ってみたりしました。始まりは結構マイナー調で始まるので、「暗いのかな?」と思わせて、サビではドーンと楽しさを感じるように作っていきました。
――歌のほうで今回特に注意したところは何でしょう?
atsuko グルーヴに乗るところを意識しました。跳ねている曲って難しいんですよね。歌詞を詰め込んでいる部分もあるので、そこで上手くリズムに乗れないと、モッサリ聞こえてこの曲の楽しさが伝わらないんです。レコーディングのときも、自分の体を叩いたりしながらノッて歌うようにしました。あと、楽しい曲というのは、喉だけで歌ってもその楽しさが録音されないんです。オケと歌のキャッキャ感がズレてしまうと、気持ち悪いんですよね。そもそも私の声ってシリアスめなので、3倍くらい頑張らないと(笑)。楽器チームのアレンジされた曲の楽しさに負けないくらい、心の底から本当に楽しいと思える笑顔で歌いました。
――言葉遊びや韻の踏み方、サビの早口などに、先ほどおっしゃったようなEDテーマらしい「遊び」が随所にありますね。
atsuko そうですね。この曲の一番の「遊び」はサビの間の20秒の間奏ですね。ここにスペイン語の掛け合いを入れています。そもそも、何で間奏があるのかというと、エンディングなのでここに次回予告を入れたいというオーダーがあったからなんです。それならばTVサイズで延ばすのではなく、元の楽曲から20秒分長く作ってしまおうということで、ここを設けました。そのときに、よくあるピアノソロやギターソロにするのではなく、何か日本語以外の言葉の掛け合いを入れようと。そこで以前、REAL AKIBA BOYZのライブに出演したときにご一緒したスペイン人のシンガー・AiRyAさんに翻訳と掛け合いをお願いして収録をしました。
KATSU TVではここが次回予告になるのですが、CDや配信音源では『でこぼこ魔女』的な「私のこと好き?」みたいな内容の掛け合いになっています。ライブの時はここを振付の時間にしたりさらに延ばしたりと、色々遊べるというわけです。
――もう1曲の新曲についても伺わせてください。『OK! 岡山』は、お笑い芸人・ミュージシャンのはなわさんとのコラボ楽曲です。angelaが楽曲提供を受けるというのは初めてのことですが、まずは、はなわさんとの接点を教えてください。
atsuko あれは遡ること25年前……。当時の私はangelaのダンサーをやってくれていた、みっちゃんの住む団地の一部屋を借りて暮らしていました。そこで鍋パーティをやるとなったときに彼女のダンサー友達だった前田 健さんが、同じ事務所の友達として連れてきたのがはなわさんだったんです。前田さんは、後にあやや(松浦亜弥)のモノマネで大人気になりますし、はなわさんはボキャブラ天国や佐賀県の歌で大人気になりますが、当時はその場にいる誰もが何者でもなかった頃でした。
KATSU そこで何をしゃべったかは、正直あまり覚えていないんですけど、マエケンさんが鍋をどんどん味変していったこととか、東京に来て初めて近くで見る芸人さんの一言一言がすごく楽しくて、始発までみんなで過ごしたことを覚えています。
atsuko という話をですね、私がこの前、NACK5の「FAV FOUR」という、はなわさんがパーソナリティをされているラジオ番組にゲスト出演した時にお話したんです。「僕たち初めましてですか」と聞かれて、「いえ、実は25年前に一度だけ鍋パを……」とお話したところ、何と覚えていてくれまして。
――それもすごいお話ですね!
atsuko 「マエケンさんに連れて行かれて、誰かと鍋をやったんだけど、あれがどこだったのか誰だったか……。でも時々、ふと思い出すんですよね」って。それ、私とKATSUさん(笑)。それで盛り上がって、ゲスト枠をぶち抜いて40分くらいお話をし続けて、連絡先を交換して、「もし何か一緒に何かやれることがあったらいいですね」とお話をしました。ただ、そういう話って実際にはなかなか進むことってないじゃないですか? でもその後、我々angelaが、出身である岡山県の岡山市と西大寺の観光大使になりまして、となると、ミュージシャンとしては、これは岡山の歌を作らねばならんと思ったんですよ。もちろん、私たちも自分たちだけで岡山の歌は作ることはできます。ただ、出身者が岡山上げの曲を作るのだとあまりに普通だということになり……。
――ああー、そこで「佐賀県」や「埼玉県のうた」など、数々のご当地ソングをはなわさんに!
atsuko そうなんです。しかも、「佐賀県」と「明日へのbrilliant road」の発売日が本当に同日で、我々はデビュー日も同じ、いわば同期なんです(笑)。というわけで、お願いをしたところ快く引き受けてくださったというのが「OK! 岡山」を作ることになった発端です。
――曲の制作の話を伺っていないのに、ここまでですでに面白すぎます(笑)。
atsuko 我々から、「岡山あるある」をネタ帳にして提供して、それから歌詞を書いてきてくださって、私の生まれ育った西大寺のことは自分で書く部分もあったので、そこで打ち合わせをして作っていきました。
KATSU 彼もすごく岡山のことを勉強してくれていて。例えば、岡山後楽園という日本三名園は、僕の実家から自転車で10分くらいの距離なんですけど、そこが「千入の森(ちしおのもり)」と呼ばれていることは僕も知らなくて、そういったことも盛り込んでくれたりして、逆に彼に教えられた形でした。タイトルも「OK! 岡山」にして、なんでもOKという朗らかな県民性をフィーチャーしつつ、晴れの国であるところを打ち出すようお願いをしたんです。ところが、はなわさんは以前、「OK! 岡山」という曲を作っていたことがわかりまして。
――えっ?どういうことでしょうか?
atsuko 多分、営業に行った先で、色んな地域の曲を即興で歌われているんですよね。以前、岡山にも来たことがあったそうで、その時に作っていたそうなんですけど、ご自身でも覚えていなかったんです(笑)。
KATSU この曲の存在を伝えたところ「いいっすね、それ!」みたいな反応だったのに(笑)。それで、その曲にある「フルーツ王国と呼ばれるけど 実は生産量 1位じゃねー」というフレーズとか、最後の「晴れの国なのに今日は雨」が、すごくインパクトがあったので、僕らの「OK! 岡山」にも引用してもらいました。曲が出来上がったときには、岡山がより好きになった感じでしたね。観光大使なのに(笑)。この曲を聴いたことでリスナーも岡山に興味を持ってもらえたらすごくいいなと思います。
――逆に観光大使のangelaだと、はなわさん的なディスり笑いのネタを作りづらかったかもしれませんね。
atsuko そうですね。良いことしか言えなくて面白くない曲になっていたかも。そういう意味でも、はなわさんが良かったんです。ディスりつつ最後に上げてくることで、高低差が出てより曲が鮮やかになる。レコーディングも一緒にしたんですけど、すごく耳に残る声と真似できないけど真似したくなる独特の節回しなんです。
――ボーカリストである専門家からしても?
atsuko そうですね。専業の歌手とも違う、独特の歌いまわしと滑舌の良さがあって。
KATSU 歌手というよりも、やっぱりメッセンジャーなんですよね。
atsuko この歌詞って、やっぱり聞いてすぐ頭の中で想像するところに面白さや良さがあると思うんです。そのパワーが尋常じゃない。本当にメッセンジャーですね。
――編曲についてKATSUさんはどのように組み立てていきましたか?
KATSU はなわさんといつも一緒に作っている小林俊太郎さんというピアニストの方がいて、今回もチームごと入っていただいてアドバイスをいただいて、はなわ節を込めてもらって、僕が最後にまとめていった形です。
atsuko ほぼ最初のデモの段階で弾いていたフレーズで出来上がっていたので、そこからブラッシュアップしていった感じです。
――atsukoさんご自身の歌入れはいかがでしたか?
atsuko はなわさんが先に録って合わせていく形だったのですが、彼の滑舌が良すぎたので、KATSUさんが厳しかったです(笑)。もうちょっとコミカルに歌ったバージョンでやってみようとか、色んな声色でやってみようとか、歌詞が一番聞き取りやすくなるように探っていったりとか、そういう意味ではいつもの歌入れとはちょっと違いましたね。よりメッセージ性を伝えるところに集中して、探しながら進めた感じですね。
KATSU これもはなわさんの歌から教わったことなのですが、こういった曲において一番大事なことは「間」なんですよね。だから歌のディレクションというよりも、笑いのディレクションでしたね。しかも、それは繰り返せば繰り返すほど、計算されたものになったりして、面白さがわからなくなってしまうんです。何回か録りましたけど、結局使ったのは最初のテイクでしたね。
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