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INTERVIEW

2023.10.27

YOASOBIの作品への解釈力と確かな努力――TVアニメ『葬送のフリーレン』OPテーマ「勇者」フリーレンの旅を描く音の展開、歌詞を一言一句逃さず伝えるための歌声

YOASOBIの作品への解釈力と確かな努力――TVアニメ『葬送のフリーレン』OPテーマ「勇者」フリーレンの旅を描く音の展開、歌詞を一言一句逃さず伝えるための歌声

今期、大注目のTVアニメ『葬送のフリーレン』のOPテーマを担当するのは、様々なタイプの作品に対して確かな解釈力を発揮しつづけ、厚い信頼を獲得してきたアーティスト・YOASOBIだ。2人はこの作品に対してどのようにアプローチをしてこの「勇者」を作り上げたのか。話を聞くと、フレーズや音の1つ1つにおける繊細かつ非常に丁寧に仕上げたようすが浮き彫りになった。このインタビューで語られた想いとともに、ぜひフルコーラスでじっくりと味わってほしい。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

作品をリスペクトしつつ、新たなOPテーマの形を作れた喜び

――Ayaseさんは『葬送のフリーレン』は元々原作コミックスのファンだったそうですね。どんなところが魅力的に映りましたか?

Ayase 綺麗な絵柄やストーリーももちろん魅力的ですが、この作品はやっぱり“言葉”ですね。フリーレンが語る言葉や、かつてヒンメルが言っていた言葉もそうですし、1つ1つのシーンにおける言葉が、しっかりと読者の心に残っていくマンガだという印象がありました。

ikura 勇者ヒンメルの想いや貫いてきた精神、そして身の回りの人に与えてきた言葉が繋がれていく感じ。読んでいて、そうした精神というものはやっぱり残っていくんだなと、読んでいて思いました。その人がいなくなったときに残るのは、誰かに与えたものだったり、与えられたものだったりと、目に見えないものが受け継がれていく。いなくなってしまってからも誰かにとって光になっていくというのは、読んでいて真理だなと思いました。日々生活しているなかでも、そういった大切な人の言葉によって生かされているなと思う瞬間があるので、今回の楽曲「勇者」も、彼が残してくれたことに対して思っていることに強く共感しながら歌っていきました。

――楽曲作りについてはどのようにアプローチされましたか?

Ayase 元々原作のファンでずっと読んでいたことがまずあり、その上で楽曲用原作小説の『奏送』をいただきまして、ここには管楽器などがたくさん出てくるので、そういったところを拾いつつ考えていきました。アニメ化してオープニング映像とともに流れてきたときに、どんな楽曲だったら格好良くワクワクするかという視点も入れつつ作っていきました。作曲については、今までまったくやったことないリズムを試みました。エスニックな空気感やレゲエに近いリズム感はほかの曲でも試みたことはありましたが、このリズムは初めてです。

――それを試みようと思ったのはどんな理由から?

Ayase 『葬送のフリーレン』の壮大なファンタジーの世界観を表現したい、と思ったときに浮かんだリズムとメロディーを思ったままに書いていった形です。その意味で、かなりストレートに作れましたね。異国情緒的なこともそうだし、民族っぽい雰囲気だったり。踊り子が緩やかに舞っているような感じにしたいなと思って書いた結果として、この形になりました。

――ファンタジー作品の場合、楽曲作りの幅の広がりは感じられましたか。

Ayase そうですね。楽曲としての幅ももちろんそうですけど、作品をしっかりとリスペクトしつつ、アニメのオープニング楽曲として新しい形に挑戦出来たと感じているので、個人的にも楽しかったです。その意味での幅が見せられたかなと思います。

――ikuraさんは、仕上がってきたサウンドを聴いてどんな印象をお持ちになりましたか?

ikura Ayaseさんが『葬送のフリーレン』の物語と、楽曲用原作小説『奏送』を読んだうえで、オープニングとしてこの道を選んだのだという、確固たる意志を強く感じて素晴らしいなと思いました。楽曲が始まるところは、フリーレンが一つの旅を終えて、また歩き出した足音が聞こえてきそうな感じのするリズム。走り出すというよりも、一歩を踏み出すような力強さを感じて、とても素敵だと思いました。小説のなかにも様々な楽器が出てきたりと色々な描写があるなかで、自分が思い描いていた景色や楽器の音色が、まさにそのまま飛び込んできたんですよね。小説全体のことを音に落とし込んだ、『葬送のフリーレン』に寄り添った楽曲になっていると感じています。

――レコーディングについては、どのようにプランニングされて臨まれましたか? 

ikura まず、フリーレンが喋っている様子を想像しました。彼女はどんな声色なのかとか、かわいらしい感じの可能性もあるし、でも見た感じはやっぱりクールな印象だから意外と低めなのかな……と、色々と考えを巡らせ悩みましたが、実際にレコーディングブースに立って、冒頭の歌い出しのところから声色とニュアンスを話し合いながら作っていきました。レコーディングに行く前は歌詞の読み込みだったり、楽曲用の原作小説と、『葬送のフリーレン』の原作コミックスを読んでのイメージを膨らませて、いくつかのパターンを想像するという形でした。

――歌い方について意識されていたことを曲の展開に沿って教えていただけますか?

ikura 最初のパートは、ちょっと語り部っぽく、ストーリーテラー的な立ち位置で物語を説明しているようなところもあるので、あまり感情を乗せずに歌っていきました。

――そして“それでも君の”からフリーレンの感情が広がっていきますね。

ikura このパートからフリーレンの視点で、彼女の言葉として発していくので、ニュアンスを調整しつつ挑んでいきました。ただ、1番のサビではまだそこまで感情を顕にしていない印象でした。フリーレン自身、「これは何なのだろう、でも確かに胸の中で動いてるものがある」というような、迷いがありながらも葛藤しているという、絶妙なバランス感を探っていきました。フリーレンは、あまり感情的にならないイメージのキャラクターなので、少し冷めているというか、感情を抑えてるほうがグッとくるポイントでもありました。このあたりは、歌詞の一行、一文字レベルで「フリーレンが今、この気持ちで歌ったらどういうことになるのか」と細かく突き詰めて歌っていきました。

――そして、2番からはいかがでしょうか?

ikura 2番でスピードが早くなる部分の“それすら未来でいつか”という部分を聴いたときに、この曲の空気感が変わるような印象を受けました。今まで色んな楽曲を歌ってきて、徐々に感情が溢れ出すような表現もしてきましたが、こうしたイメージを歌にするのは初めてだったのでより慎重に録っていきました。ここから景色が1つ変わるような歌声として届いてたらいいなと思っています。終盤、特に落ちサビからのラスサビは歌声でも皆さんの心を持っていきたいポイントでした。ここはフリーレンが「この気持ちに突き動かされていたんだ」、「これが大切だったんだ」と、気づいた瞬間の感情の高ぶりを表現できたかなと思います。

――Ayaseさんは、今ikuraさんがおっしゃった辺りのパートはどのように考えて構築されていきましたか?

Ayase サウンドメイク的に言うと、1サビまではフリーレンが「もっと人間のことを知ろうとすべきだった」と思い旅に出る状況を説明しています。そして2番からフリーレンの旅が始まります。楽曲用の小説『奏送』が原作になってるので、まだほかの仲間たちには出会っていないのですが、色んな描写でもあるように、割とコミカルな旅をしていたりもするので、色々な人との出会いや景色を見たりという旅のおかしさや楽しさ、奇天烈さを表現できればと考え、色々な音の展開をしている感じに仕上げました。

一言一句、逃さずに伝えられる歌声を目指して

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