INTERVIEW
2023.10.23
人気アニソンアーティストが多数所属するソニーミュージックの音楽レーベル・SACRA MUSICと、インディーゲームパブリッシャー・Phoenixxによる「ゲーム音楽を世界に届ける」ためのプロジェクト・SACRA GAME MUSICがスタート。その第一弾ティザーソングとして、Sawa Angstromの「Xi Huan Ni(シーファンニー)」がリリースされた。
SACRA GAME MUSICでは、今後定期的に様々なゲームを集めたサブスク&ダウンロード配信リリース作品のティザー映像が用意され、そこにSawa Angstromが毎回異なるオリジナル曲を提供するという。ゲーム×音楽をテーマにしたSACRA GAME MUSICの設立や、「Xi Huan Ni」の楽曲制作は、一体どのような形で進んでいったのだろう。SACRA MUSICを統括するソニー・ミュージックレーベルズの栁氏とPhoenixxの代表・坂本氏、Sawa Angstromのメンバーに話をそれぞれ聞いた。
INTERVIEW & TEXT 杉山 仁
――SACRA GAME MUSICはアニソンシンガーを中心に様々な人気アーティストが在籍するSACRA MUSICとインディーゲームパブリッシャー・Phoenixxによる共同プロジェクト。このプロジェクトが始まったきっかけを教えていただけますか?
栁 SACRA GAME MUSICはPhoenixx さんとの協業でSACRA MUSICの中に新しく生まれた、ゲーム音楽のためのプロジェクトです。今年の2月頃、僕とPhoenixxの坂本さんとで食事をする機会があったんですが、そこで坂本さんからゲーム音楽・ゲーム音楽クリエイターの活躍の場を広げることについてのお話を聞くなかで、お互いにアニソンやゲーム音楽を「世界に届ける」ことについて目線が一致していると感じまして。また、我々SACRA MUSICはアニソンをJ-POPとしてではなく「A-POP(Ani-POP)」としてわかりやすく括ることで、より世界の方々にアニメ音楽の魅力を届けていこうとしていますが、それならゲーム音楽も「G-POP(Game-POP)」として紹介することで、よりわかりやすく世界にその魅力を伝えられるかもしれない、という話で意気投合したんです。その後、3月に開催された“TOKYO INDIE GAMES SUMMIT”にもSACRA MUSICとしてスポンサーで参加させていただき、お付き合いがはじまりました。
坂本 インディーゲームでは、3人ほどのクリエイターがグローバルで通用するゲームを作ることも多いのですが、ゲーム音楽のクリエイターはゲームより目立ってはいけないけれども、音楽として存在感を出さなければいけないという意味で、とても難しい技術が求められます。ですが、才能のあるクリエイターが多くいるにもかかわらず、ゲーム音楽の魅力がそれ以外の場所まで伝わる機会は、一部の大ヒット作品を除いてまだまだ多くはありません。僕は元々ソニーミュージック出身ということもあり、こうした課題についてクリエイターから相談をもらう機会も多かったんですよ。僕らだけでサポートしても事業としてダイナミックにならないので、「やるのであれば大きなレーベルと共同でやるべきだ」と思っていました。ちょうどそのとき、栁さんとご飯を食べる機会ができたんです。
――その結果、お互いに抱えていた問題意識や課題が上手く一致したのですね。
栁 世界でアニメ・アニソンのフェスが行なわれているのと同じように、ゲームフェスやeスポーツの大会なども世界各地で開催されています。そういう意味でも、アニメとゲームは似て非なる存在であると同時に、近しい位置にいて共存できる関係なんじゃないか、と思いました。僕らもゲーム音楽をサポートすることができれば、サブスクリプションサービスにより多くのゲーム音楽を加えて、たくさんの方に聴いてもらううきっかけを作ることができると思いましたし、坂本さんがそのときに話されていた「ゲーム音楽のクリエイターが、将来的にJ-POPやA-POPの楽曲を作ってもいいんじゃないか」という話にも共感できたので、「一緒にやっていこう」ということになりました。
――近年はメディアミックス的にアニメもゲームも展開する作品が多いですし、アニソンアーティストの方々がゲームの主題歌を担当することも増えていると思います。そういう意味でも、両者の距離はより縮まっているように感じますね。
栁 そうですね。コロナ禍が落ち着き、一度は閉じてしまっていた状態から世界が一気に開けて、ノーボーダーになったのも大きいと思っています。それぞれに理由は違っても、どちらも言葉の壁を越えているという意味で同じだな、とも感じていますね。
坂本 自分が今年の夏に体験したドイツ・アニマジックの際の“SACRA MUSIC FES.”でも、SACRAちゃん(SACRA MUSIC公式マスコットキャラクター)のハッピを着てライブを狂喜乱舞している外で、大手ゲームメーカーがブースを出していたり、インディーゲームが置いてあったりしたんですよね。そこで来場者の皆さんが遊んでいる姿を見たときに、「こんなに距離が近くなったんだな」「ゲーム音楽も一緒に広がっていけるんじゃないか」と確信したことは印象的でした。逆もしかりで、ゲームイベントでアニソンやゲーム音楽を奏でるバンドが出てきてもいいかもしれない。メンタリティ的には近いと思っていた両者の距離が、実際により近くなっていると感じます。
――SACRA MUSICでは、どんなことを目指していきたいと考えているのでしょうか?
栁 「89秒に魂を込める」アニソンの方法論に、劇伴音楽のようにゲーム音楽を作っている方々のやり方がミックスされていったり、そこからニュースターが現われてくれたりするとすごく面白いと思っているんです。記憶に新しいYOASOBIの「アイドル」しかり、LiSAの「紅蓮華」やAimerの「残響散歌」しかり、澤野弘之さんの楽曲もそうですけど、世界に勝負できる・色々な方々に聴いていただけている音楽のネクストが現れるような状況が出来ればと思っています。また、サブスク配信などカタログとして、これまではゲーム音楽の中でしか聴けなかった音楽を、日本のみならず世界との接点を作れるのなら、それもすごく意義があることだと思っています。
――ゲーム音楽の魅力を広め、そこから出てくる新しい才能をサポートしていく、と。
坂本 ゲーム音楽はジャンルや作品によって大きく音楽性が変わりますし、喜怒哀楽がある楽曲が多くて、1つの作品の中で色々な感情の起伏を作ることができるのも魅力の1つなんですよね。だからこそ、そこで生まれた音楽はゲーム以外の場所でも楽しんでもらえるだろう、と。SACRA MUSICさんと協業することで、日本が生み出すインディーゲームの音楽の魅力を、世界に持っていくための可能性を探っていきたいと思っています。
栁 アニメとゲームとでジャンルを越えて相互交流が出来るといいですよね。極論ですが、例えば海外のゲーム作品にSACRA MUSICの所属アーティストが楽曲を提供するということも、権利関係をしっかりとクリア出来れば実現は可能です。また、世の中にはアニメ派生のゲームもあればゲーム派生のアニメもあるように、その壁もどんどんなくなっていると感じています。そうした場所から次のヒット曲を作ってくれるアーティストたちがきっと出てきてくれるはずなので、そういう人たちが、僕らのアーティストとコラボレーションして楽曲を作ったりできるような展開も生み出せたら、と思っていて。坂本さんのほうでも、今、ゲームを使った新しいクリエイター発掘の仕方を考えてくれています。ただゲーム音楽をサブスク配信するだけではなくて、色んなトライアルをしていきたいですね。
――今回、SACRA GAME MUSICの立ち上げに際して京都の3人組エレクトロニックグループ・Sawa Angstromがメジャーデビューをし、SACRA GAME MUSIC第一弾ティザーソングとして「Xi Huan Ni」をリリースしました。お二人が思うSawa Angstromの魅力を教えてください。
栁 ティザーソングに使用している「Xi Huan Ni」は、「こんなゲームが発売されますよ」というトレイラーのBGMとして異なるオリジナル楽曲を付けようという、SACRA GAME MUSICの展開の第一弾です。様々なゲームのティザー映像をまとめる役割として、Sawaの新曲が流れることを想定しています。Sawaの音楽はどこか8bit感やゲーム音楽感が感じられる瞬間もありますし、ライブも前衛的ですごく面白いと感じたんです。元々海外でのライブを目指して結成したという話も、SACRA GAME MUSICに合うと思っています。楽曲に魅力を感じて、ライブを観に行ってメンバーと握手をしたときに「これで契約ですね」と彼らに言われて即決しました(笑)。
――(笑)。それくらい、Sawaの皆さんに才能を感じたということですね。
栁 もちろんです。良い意味で今っぽい、先を行っているような感覚を受けましたし、ライブではメンバーがみんな機材をいじっている姿も面白いなと感じたんですよね。それで、惚れてライブを観に行ったら、ライブも素敵だったので「ぜひ一緒にやりたい」、と。
坂本 こういう楽曲ができるアーティストは最近なかなかいないと思いますし、「彼らの音楽はゲームの中に存在してもいいんじゃないか」と思っていたこともあって、栁さんに「こういうアーティストもいますよ」と紹介をしました。そうしたら、すぐにライブを観に来てくれて、SACRA MUSICさんとお互いに協力してやっていこうという話になりました。
栁 彼らを紹介してもらって、「Xi Huan Ni」を聴いてめちゃくちゃ良い曲だな、と思ったときに、サブスク配信する既存ゲームのティザー映像を作って、そこに音楽を当てはめることを思いつきました。“78億 はみでたワンナイト”という歌詞は、SACRA GAME MUSICのテーマともすごく合っていますよね。また、かつて一人のアーティストが同じCMソングに色々な楽曲を提供していたり、ドラマで同じアーティストの曲が多数使われていたりするのが個人的に大好きだったこともあり、このアイデアを思いついたのかもしれません。Sawaを知ったことで、SACRA GAME MUSICのアイデアも連鎖的に広がっていった感覚です。
■プレイリスト「SACRA GAME MUSIC 公式プレイリスト」
https://SACRA.lnk.to/GameMusic
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