デビュー11年目を迎えた鈴木このみから、またも熱い新曲が届いた。ニューシングル「頑張れと叫ぶたび」は、巨獣退治という“理想”とコストという“現実”の狭間で揺れる害獣駆除会社のリアルを描いた新感覚のTVアニメ『ブルバスター』のEDテーマ。その作品内にてそれぞれの立場で頑張るキャラクターたちに触発されつつ、今の彼女自身の赤裸々な気持ちや心情が刻み込まれた、力強い応援ソングだ。そしてカップリングには草野華余子が作詞・作曲を担当した野心的な1曲「ギリギリトライ!」を収録。久々の声出し解禁ライブを経て、さらにたくましく輝きを増す彼女が、今届けたい唯一無二のストーリーとは。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――7月に約3年ぶりの声出し解禁ライブ“鈴木このみ Standing Live 2023 ~CALL~”、“鈴木このみ Standing Live 2023 ~RESPONSE~”を開催されましたが、久々にみんなからの歓声を浴びたライブはいかがでしたか?
鈴木このみ 痺れました!(笑)。すごいライブになることは想像していたんですけど、実際に声を浴びるとやっぱりすごかったですね。私は声が出せなかった期間のライブにも、好きな部分はたくさんあったんですよ。みんなと一緒に声を出せないからこそ、視覚的にも色んな見せ方を意識して、演出や照明について以前よりもさらにしっかりと考えるようになったし、それは自分にとってもすごく良い影響だったんですね。ただ、それを踏まえたうえでも、やっぱり“みんなの声”が必要だなと改めて感じました。
――そもそも鈴木さんのライブと言えば、みんなで声を出すことで一体になれる楽曲が多かったので、もちろん声出しできないときでもみんなで盛り上がることはできましたが、やはり全然違うものはあるだろうなと思って。
鈴木 そうなんですよ。この3年間は多少遠慮するところもあって。例えば「DAYS of DASH」ではいつもみんなにマイクを向けて「せーの!」ってやっていたんですけど、(声出しNGのときは)マイクを向けること自体を控えるようにしていたんです。そういう遠慮の必要がないライブは久々だったので、「自分のライブはこうだった!」というのを思い出しましたし、ここ最近で一番、みんなに支えられていることを実感できたライブでした。やっぱり応援の力はすごいんだなって思いましたね。
――この夏は“Animelo Summer Live 2023 -AXEL-”も久々の声出し公演でしたが、やはり違いましたか?
鈴木 全然別ものでしたね。声出しだとその場の雰囲気がガラッと変わるので、その場でしか出せないものを出しやすいなと思って。去年は(1日目の)トリを務めさせてもらったこともありすごく気が張っていて、それはそれで限界突破した力を出せたと思うんですけど、今年はもっとライブハウスっぽいライブをやりたいなと思っていたので、しかめっ面ではない自分でいけたんじゃないかと思います(笑)。
――そのほかにも、長野の野外アニソンフェス“ナガノアニエラフェスタ2023”に出演されたんですよね。
鈴木 野外ってすごいですよね。その日は野外ライブに特化した楽曲を持って行ったんですけど、初めてライブ会場で土煙がたっているのを見ました(笑)。私はいつもステージでは水を用意しているんですけど、とても暑い日だったので、珍しくスポーツドリンクを準備して。予想以上に皆さんがくれるパワーは大きいなと思いましたし、ここからまたライブがさらに楽しくなっていく予感を持ち帰りました。
――やはり鈴木さんにとってライブは大切な場所なんですね。
鈴木 私は昔から歌うことで気持ちを発散してきたので、お話するのも好きなんですけど、ライブをしているときが一番みんなと交流できているような気がするんです。ライブは、お互いの「そうだよね!」という気持ちを交換できる場所だと思っていて。この3年間、声出しができなくても一緒にライブを守ってくれた人たちが、今、客席にたくさんいるんだろうなっていうエモさとありがたさを感じますし、封印が解かれたような気持ち良さもある。今は色んな気持ちがありますね。
――そのように2023年もライブ尽くしの鈴木さんが今回リリースする新曲「頑張れと叫ぶたび」は、みんなで声を上げてライブを作り上げている景色が浮かぶような楽曲に感じました。冒頭から“Wow Wow”とチャントのように歌うパートがありますし、全体的に力強い曲調で。
鈴木 確かに!この楽曲こそ野外で歌いたいですよね。
――こちらの楽曲はTVアニメ『ブルバスター』のEDテーマになりますが、作品自体にはどんな印象をお持ちですか?
鈴木 最初にお話をいただいたときに「おじさんたちが頑張る物語」ということを聞いて、「どういうお話なんだろう?」と思いながらシナリオを読み始めたのですが、実写作品でもおかしくないようなリアルな描写が多くてアニメなのにアニメじゃない感じがしました。予算削減とかのすごく現実的なお話が多いんですよね。でも、ロボットというアニメでしか再現できないような要素もあるので、その意味ではハイブリッドな作品だと感じましたし、私も社会人としての経験が増えてきたので、共感できるところがたくさんあるなと感じました。
――それこそ鈴木さんは今、ご自身が所属する個人事務所の社長でもあるので、本作で描かれる予算やコスト管理の話はより深く実感できたのではないでしょうか。
鈴木 いやー、わかりますね(笑)。理想を追いたいけど現実も見なくてはいけないっていう。でも、自分の感情も捨て難いわけじゃないですか。“憧れ”や“夢”みたいなところと、実際にそこに飛び込んでみたときに、外からはあまり見えなかった部分というのがしっかりと描かれているので、きっとアニメを観ながら「これ、わかるなあ」って共感する方も多いと思います。私も「大変なことはたくさんあるけど、頑張ろう!」って元気づけられました。
――先ほど「共感できるところがたくさんある」とおっしゃっていましたが、夢や理想を追う人、現実を見て行動する人、様々な立場のキャラクターが登場する本作のなかで、特に共感できるキャラクターを挙げるとすれば?
鈴木 各々に共感できる部分があるので、誰か1人を選ぶのは難しいんですけど……でもやっぱり社長(波止工業社長の田島鋼二)ですね(笑)。物語の後半にすごくグッとくる言葉があるので、それは放送されたらどこかで語りたいなと思っているんですけど、田島社長はやりたいこともあるし、でも守りたいものもあるっていう……その狭間で頑張っていて、すごくわかる部分が多いんですよね。
――同じ社長の立場としても共感できる部分はある?
鈴木 私は社長と言えども周りの皆さんに支えられながら進んでいるので、社長業をしっかりできているのかは自分でもわからないんですけど……でも、どちらかと言うと、自分の歌手としてのキャリアが11年目ということが、共感できる部分としては大きいかもしれないです。自分も恩を返したい人がたくさんいますし、ステージに立ったとき、客席に知っている人の顔が昔よりもたくさんいるし、浮かぶ顔が本当に増えたなと思っていて。そういうものが自分の背中をグッと押してくれるのはもちろんですけど、だからこそ鈴木このみという歌手を責任をもって表現したいと思って、足取りが慎重になることもあるんですね。キャリアを重ねることでどちらの重みも増えるということを知って。そういう部分で共感できるところがこの作品にはありました。
――そういった印象も踏まえたうえで、今回はどのような楽曲を制作しようと思われたのでしょうか。
鈴木 アニメの制作サイドから「応援ソングでお願いします」というお話をいただいたので、今回は私が人生の主役になる歌ではなくて、色んな頑張る人たちを応援する側の歌をうたおう、ということで制作を進めました。今まで鈴木このみは「頑張れ!」と応援されてきた側だったけど、「頑張れ!」という側になろう!ということをチームで話して。
――自分はむしろ今までも鈴木さんの歌声から力をもらっていたのですが、鈴木さん自身は“応援される側”という認識のほうが強かったんですか?
鈴木 これは最近ファンクラブ向けの配信でもお話したんですけど、私はみんなに「このみん」と呼ばれると力が沸くんですよね。普段の生活はあまり力強い感じではないけど、歌うときはスイッチが入って、ステージに上がると無敵のパワーが湧いてくる気がするんです。それはやっぱり、みんなの応援がそうさせてくれていると常々思っています。
――今回の楽曲は、鈴木さんとは初顔合わせとなる渡辺 翔さんが作曲を担当。歌詞は鈴木さんが自ら作詞しています。
鈴木 今回はチームの皆さんからご提案いただいて、翔さんに楽曲を書いていただくことになりました。私も以前から作品を聴かせていただいていたので、「むしろいいんですか?ぜひお願いしたいです!」ということで実現したんです。翔さんからは詳しくやり取りする間もなく、ドンピシャで素敵な楽曲をいただいて。歌詞は、スタッフの方から「今回は自分で歌詞を書いてみたら?」と言ってもらえて、最初は「私に書けるかな?」と思ったんですけど、シナリオを読んだら「確かにこの内容ならトライできるかも」と感じたので挑戦させていただきました。そのときはちょうど自分のデビュー10周年イヤーが終わりかけの頃だったので、お祭りが終わって日常に戻っていくような感覚で、これまでの10年も長かったけど、まだここから続いていくことを思うと「人生ってまだまだ長いんだなあ」という気持ちになっていたんです。やっぱり“働く”って長いじゃないですか。
――そうですね。基本、学生にように決められた期限があるわけではないですし。
鈴木 だからこそ世知辛い経験も増えていくだろうし。でも、そういうときに何かしらの応援があると頑張れるのかなと思ったんです。今回は“頑張れ”という言葉を使うことにもすごく悩んで。気軽に使ってしまいますけど、重い言葉でもあるじゃないですか。
――確かに、受け取る側の気持ちによってはプレッシャーや負担に感じることもあるかもしれません。
鈴木 そうですよね。でも、“頑張れ”と言ってほしいときもあるし、私としては、みんなの頑張っている姿を見て自分も頑張ってきたので、“頑張れ”のバトンをみんなでずっと回していくじゃないですけど、そういう気持ちでこの楽曲の歌詞を書きました。
――「頑張れと叫ぶたび」というタイトルもそうですが、サビの歌詞“頑張れと叫ぶ度に、何故涙が溢れ出すんだ”というフレーズは、本当に素敵な言葉だなと思って。
鈴木 ありがとうございます!このフレーズは一番最初に書いたワードでした。それまでも色々やり取りを重ねていたんですけど、このワードを一発目に書いた歌詞でOKをもらったんです。
――先ほど“頑張れ”という言葉を使うことにも悩んだとおっしゃっていましたが、このフレーズは鈴木さんのこれまでの活動の蓄積があるからこそ説得力をもって書けたんじゃないかなと。鈴木さんとしてはどんな想いでこのフレーズを書いたのでしょうか。
鈴木 最近、さらにスポーツが盛り上がっているじゃないですか。それを応援している人の「頑張れ!」というパワーがすごいなと感じていて。きっと誰かに対して「頑張れ!」と言うことで、自分自身が頑張れている部分があると思うんですよね。
――鈴木さん自身も、「頑張れ!」と応援することで涙が溢れそうなほど感情が昂る経験をしたことはありますか?
鈴木 今パッと思い浮かぶのは、身近な友だちが一生懸命頑張っていて、その子と話しているときは普通に「頑張ってるよね」みたいな話をしていたんですけど、帰り道に自然と涙が溢れてしまったことがあったんですよ(笑)。私は人前ではあまり泣けないタイプなので、多分溜まっていたものがブワッと流れ出したと思うんですけど。でも、涙が出てくるほど人のことを思う瞬間というのは、色んな人にも経験があることだと思うんです。きっとそういうのがこの歌詞に繋がったんだと思います。
――先ほどの話ぶりだと歌詞は結構やり取りを重ねて書かれたようですが、何を足掛かりに進めていきましたか?
鈴木 やっぱり翔さんの書かれたメロディが素敵なので、それに引っ張られた部分も大きいのですが、でも自分の赤裸々な気持ちを書いていった気がします。今回はそこまで作品のことを意識することもなく。きっと今の自分の書きたかったことと、『ブルバスター』という作品が、ちょうど合っていたんだと思います。狙って書いたというよりは、シナリオを読んだ直後に自分が感じたことを思うままに書いたところがあって。でも、とにかくワンコーラスの歌詞が大変だったんですよ、なかなかOKがもらえなくて(苦笑)。どうしても「頑張りたい」という気持ちが前面に出すぎてしまっていたんだと思います。この曲はそうではなくて「頑張れ」と言う側の歌にしたかったので、その塩梅が難しかったんですよね。しかも押しつけがましくない「頑張れ」にしたかったので、すごく悩みました。
――それは鈴木さん自身が普段から「頑張りたい」と思っているからなんでしょうね。
鈴木 そうなのかもしれません。でも、2番以降はサラサラと書くことができましたね。特に2Aの歌詞(“「どこまでいけばいいんだ」 僕もそう思うんだ 貼り付けた笑顔の裏 この目がとらえた 静かに戦う君の姿”)は書くことができて良かったなと思いました。ここはまさに、お祭りが終わって、日常に戻った自分の気持ちを残しておきたいなと思って書いたので。
――個人的にはDメロの“身勝手に膨らむ期待も ぎゅっと抱きしめる痛みも まだ諦めない理由も 何気ないあのページが あと少しの勇気 くれているから”というフレーズに、すごく鈴木さんらしさを感じて。
鈴木 おおー!書いた甲斐がありました。今回は作詞させてもらったことで、自分の気持ちも消化することができて、次の11年目がクリアになった感覚があったんです。10周年は“アニサマ”のトリを務めさせていただいたり、「自分の10周年を一緒に喜んでくれる人がこんなにいるんだ」っていう、自分の予想以上の喜びがたくさんあったし、でも、まだ叶わなかった思い、残したものもあって。それに対しての「みんなに申し訳ないな」という気持ちとか、色んな気持ちがワッと沸いたタイミングだったので、作詞をやらせてもらえてありがたかったです。
――レコーディングではどんなことを意識して歌いましたか?
鈴木 今回は歌も含めて「頑張れ」の塩梅の部分が課題になりました。暑苦しくならず、あくまでも爽やかに応援することを目指して。押しを強く「頑張れ!」と言われ続けると苦しくなることがあると思うので、歌も引き算を大事にレコーディングしました。
――レコーディングには渡辺 翔さんもいらっしゃったのですか?
鈴木 はい!翔さんも、編曲してくれたきっしー(岸田勇気)もいて、みんなでディレクションをしていただいて楽しかったです。サビは思い切りパワフルに歌ったのですが、特にA・Bメロは、あくまでも私は主役ではなく“応援する側”という意識で、丁寧に録っていって。“グラウンドに立っている側の人”ではなく“街をフラッと見渡している側の人”いう感覚を大事に録っていきました。
――先ほども言いましたけど、この楽曲、ライブでは絶対に盛り上がるでしょうね。
鈴木 でもめっちゃ緊張します!自分が作詞や作曲した曲は反応がすごく気になってしまって(笑)。きっとライブでみんなからの反応をもらってようやく「自分の曲になったなあ」という感覚になるんだと思います。
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