REPORT
2023.10.13
10月1日(日)、幕張メッセ 幕張イベントホールにて『TrySail Live Tour 2023 Special Edition“SuperBlooooom”』が開催された。最新アルバムを引っ提げた“SuperBloom”ツアーの追加公演にして千秋楽、“Special Edition”と銘打たれた本公演のレポートをお届けする。
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな(SHERPA+) 大庭元
TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)
長きに渡る制限を越え、TrySail(麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜)にとって声出し解禁ツアーとなった今回。3人のこれまでの歴史すべてを振り返る「リスアニ!Vol.52 TrySail音楽大全」のインタビューにおいても自分たちの強みは「ライブの楽しさ」と語り、声出しのできない環境においても揺るがないパフォーマンスを彼女たちは作ってきたという。そして今回いよいよTrySailのライブが本来の姿を取り戻す。開演前の会場はその期待で満ちていた。
宝石箱を開くように、お伽話が始まるかの如くオーバーチュアとライティングが会場を包む。そして「SuperBlooooom!!!」の掛け声と共にツアーファイナルは始まった。「いくよ、せーの!」と呼びかけると一瞬で客席のボルテージは最高潮に。スパンコールが印象的なピンク、青、黄色の衣装に身を包んだ3人を、同じく3色のペンライトが迎え入れる。最新アルバムは「全曲主役級」と本人たちが語るほどに個性に溢れ、タイトル曲「SuperBloom」はそれらを牽引する、空間を圧倒的な楽しさで制圧するパワーを秘めていた。
麻倉ももが「私たちのライブが帰ってきました!」と叫び2曲目の「Re Bon Voyage」へ。4thアルバムのリード曲でこちらもTrySailのコンセプトである航海や旅をモチーフした楽曲。3人揃いのポーズや振りが多くありながらも、並んで目に留まると各々の個性が特に際立つ。全身にキュートを行き渡らせ、指先のシルエットにまで気を配られた麻倉もも。客席のテンションに呼応するように、歓声を浴びれば浴びるほど大きくなる夏川の挙動。そして楽しいもシリアスも、かっこいいもかわいいも圧倒的な自我のフィルターを通して表現される雨宮。三者三様のパフォーマンスに圧倒されながら、4thアルバムにおいても並びの曲順だった「Favorite days」。雨宮の「今日はスペシャルエディション、スペシャルに遊んでいくよ!」の声に会場は更に盛り上がりを見せる。花道を駆け、センターステージでメンバーと客席がお揃いの振付。「Hey boys! girls!」の掛け声に合わせてのコール&レスポンスで益々一体感が高まる。続く1stアルバム『Sail Canvas』収録の「Baby My Step」では、次々に主役が入れ替わるようなトライアングルフォーメーションで観る者を楽しませてくれる。初々しくも止まらない4つ打ちのビート、さらにノンストップで「マイハートリバイバル」へと繋がって、スラップベースが唸るディスコファンクに合わせてメンバーも客席も全力で踊る。矢継ぎ早に続くラストスパートばりのラッシュに、最早「狂騒」と言って差し支えない空気が会場を包んでいた。
オープニングから一度たりとも立ち止まることなく、最初のセクションのラストを飾ったのは「adrenaline!!!」。彼女たちの初期の代表曲でありながらも、「だからこそ頼り過ぎたくない、この曲だけだと思われたくない」とセットリストから遠ざけたこともあるという。しかしライブを続けるうちに、この曲で出会ってくれた人やその日にしかライブに参加できない人のことを想い、再び大切な曲として生まれ変わったと「TrySail音楽大全」で語ってくれた。そんな想いが結実した、久々に本来の姿で歌われる「adrenaline!!!」は、間違いなくかつてを超える楽曲強度を備えていた。
驚くべきことに、ここでようやく初のMC。彼女たちは「序盤から飛ばしたけど大丈夫?」「こっちはビショビショです」「この後も覚悟しとけよー」と笑い合うが、6曲連続でアッパーな楽曲をパフォーマンスした直後とは思えない余裕の表情に見える。「今回のツアーはとにかくみんな疲れるので、協力が大事!」と麻倉ももが語り、会場全体で円陣を組むことに。「もちょ、そら、ナンス、幕張、Sail Out!」と叫んで会場が1つとなった。
圧倒的なステージを見せつけた彼女たちだが、ここで「自己紹介を忘れていた」という可愛らしいハプニングも。それを受けて「初めましての人もいるかもしれないから」と1人1人が初対面に向けての挨拶を始める。
麻倉は「初めましての皆さんよろしくお願いします!麻倉ももです!今回のツアーはあっという間に終わります。本当に体感10分。最後まで全部を出し切って、明日の仕事なんかクソ食らえだー!」と本ツアーの楽しさを語る。雨宮は「初めましての人に向けて自己紹介しますと、私は暴れるお姉さんです。私に負けないように楽しんでくださいね。でも古参の人は新参の人を思いやって、古参の人のことは……私が思いやってあげるから」とそのスタンスが伝わる挨拶。夏川は「今回のツアーは体という体、声という声を使うライブになります。皆さんの全力を見せてくださいね。天さんに準えて言うと、私は叫ぶお姉さんです!負けない声を返してください!」とTrySailの煽り担当らしく会場を盛り上げた。
そうしてメンバーと客席の結束が深まり始まったのは、キュートに振り切った5thアルバム曲「ちゅるちゅわ」。メインステージに戻り、続いてもウィスパーボイスのボーカルが際立つ「はなれない距離」と続く。ホールでのライブながら、耳元で囁かれるような近接感や、メンバー同士が目を合わせて行うコミュニケーション、寄り添いあって歌う仲睦まじいシーンの数々に客席が沸く。そしてデジタルリリースされた「flower」はTrySailとファンの関係性のようにも受け取れるラブソング。たくさんの「ありがとう」を伝えながら、1つ1つ大切そうに言葉を紡いでいった。
温かな空気が流れるなか、雨宮にスポットが当たり残る2人は退場。悩殺セットリストからシームレスにソロ楽曲パートに突入していく。雨宮のソロ曲は「マリアに乾杯」、本人作詞作曲によるラテン歌謡ナンバーだ。曰く山本リンダを意識したヘアアレンジを施しているとのことで、ビジュアル面からも客席を引き込むパフォーマンスとなった。続いて登場したのは夏川。田淵智也による提供曲「ハレノバテイクオーバー」で観客と共に獣の咆哮の如く叫び、ほんの1曲でライブを自分色に染め上げた。ヒリついた高揚感のなか、ふんわりとピンク色のオーラを身に纏った麻倉ももがステージに降り立つ。思春期の甘酸っぱい悩みを歌う「ユメシンデレラ」が始まり、柔らかな空気の変化と合間に挟まる「ねぇ 付き合って」のセリフには感嘆の声が上がった。
麻倉がステージを去り、雨宮・夏川の歌い出しで最新アルバム曲「Mermaid」が始まる。その名の通り人魚の恋のような儚い想いを歌うダンスナンバー。歌い出しの一節を2人が歌い終える頃には麻倉が早替えを終えて帰還し、3人でのパフォーマンス。レーススカートがはためく銀色の衣装に着替えたTrySailが、悲恋を情熱的に歌い上げた。
衣装チェンジを終え、再びMCの時間に。SNSで募集したトークテーマが、ライブのコンセプトに準えて「ジュエル」としてステージに隠されており、それを見つけてトークをするという趣向のコーナーだ。まずは「ツアーで起きたハプニング」について。夏川は大阪公演のMCなのに福岡名物の「むっちゃん万十を食べたい!」と言ってしまった話。雨宮は本番直前に衣装の背中部分を破いてしまい、それを反省してダイエットに成功した話。麻倉は衣装のパーツが着ている服の中に入りこんでしまいスタッフに探させてしまったエピソードを披露。麻倉がパーツ探しを再現するため夏川の衣装に触れた際、「ももちゃんにスカートめくられると思った!」と夏川が慌てふためき崩れ落ちる場面も。雨宮はその状況を「あの子、自分で行くのはいいけど来られるのには弱いんですよ」と解説してくれた。
今回のツアー最後となるジュエル(トークテーマ)は、スタッフから「久しぶりの声出し可能なツアーを無事走り切ったということで、会場の皆さんとスタッフでTrySailにツアー完走おめでとうと言ってあげたい」というもの。それを受け、センターステージでTrySailを囲むように一斉に労いの言葉がかけられる。雨宮がパタパタと顔を仰ぎながら「絶対このあともライブ成功させなきゃね。まだ途中だから」と涙を抑える一幕も見られた。
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