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INTERVIEW

2023.10.11

『陰実』2nd seasonOPテーマ「grayscale dominator」の制作風景や“噂”を生むライブ作りやステージングについて、OxT(オーイシマサヨシ×Tom-H@ck)が語る

『陰実』2nd seasonOPテーマ「grayscale dominator」の制作風景や“噂”を生むライブ作りやステージングについて、OxT(オーイシマサヨシ×Tom-H@ck)が語る

アニソン界を席巻するオーイシマサヨシTom-H@ckによるユニット、OxTがTVアニメ『陰の実力者になりたくて! 2nd season』OPテーマを手がけた。そのタイトルは「grayscale dominator」。1年前に放映された1st seasonOPテーマの「HIGHEST」を踏まえたうえで、『陰実』の魅力をさらに楽曲に落とし込まれてもいる。その制作風景や、ライブイベント“OxTの日”でお披露目を果たした際の印象などをオーイシマサヨシとTom-H@ckが教えてくれた。トップランナーとしての気概に満ちた2人の言葉から見えてくるものは何か?

INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)

作品や主人公が持つ多面性を楽曲や歌唱で表現

――1st seasonに続いて2nd seasonでも主題歌を担当されますが、ちなみにどちらも合わせてのオファーだったのでしょうか?

Tom-H@ck うっすらと、1st seasonの「HIGHEST」を作っている最中にはお話をいただいたような記憶がありますね。なので制作段階で、2作とも、という意識はありましたが、どちらの曲も独立して考えた楽曲でフラットに作っています。「HIGHEST」では、僕は作曲だけ(編曲はKanadeYUK)でしたから俯瞰で見られる立場で制作に携わっていましたし、それに対して今回の「grayscale dominator」は、1st seasonのときでは映像に対してどのように「HIGHEST」が乗せられていたのかなども確認して、アップデートしながら僕が編曲しています。

――今回はTomさんが編曲も、というところはどういった理由があったのでしょうか?

Tom それはシンプルに、作曲と編曲を自分で手がけるというデビュー時からのスタイルに戻った、というだけですね。やっぱり自分で両方ともやりたいという想いが強くなったので、やらせていただきました。

――楽曲の制作にあたっては『陰の実力者になりたくて!』(以下、陰実)のどういった面をピックアップされましたか?あるいは音楽プロデューサーの若林 豪さんからのオーダーは何かありましたか?

Tom 1st seasonで求められた音楽は鋭角的な部分が強いものでした。ただ、『陰実』ってコミカルとシリアスとの間で場面が目まぐるしく変わるようなところがあるんですよね。なので、今回は音楽的にも幅を出したいと思い、1st seasonのデジタルロックとは違う雰囲気でやろうという考えでした。だから、ラフなデモでOKが出てから完成までの2ヵ月くらいは、どうすれば作品が持つグラデーションを出せるかと試行錯誤しましたね。その結果、ジャズとロックをフュージョンさせたような音楽になりました。完成版を聴いたとき、アニメ制作サイドも若林さんも驚いていましたね。最初に作ったデモは1st seasonに近いアレンジで、そこからコード進行にしても何から何まで変わっていたので。ただ、面白かったのは、今入っているイントロのギターは僕がスピーディにデモを作った段階から入っていたもので、これもあとで変えようと思っていたんですけどそのギターフレーズがカッコイイ!となったので、原形を留めたままになりました。そのことがかなり印象的に残っていますね。

――YouTubeで音楽大学を開講されているTomさんですが、音楽理論的に工夫したところがあれば教えてください。

Tom たくさんあるんですけど、コード的に一番難解なのはBメロ。実はAメロとサビに関してはコード進行が一緒なんですよ。それは、アニメの主題歌にはある程度大衆性みたいな部分が必要だから、という考えからで。つまり、BメロがAメロとサビにサンドイッチされている構成になっています。やっぱり『陰実』という作品はさっきお話したように様々な色合いを見せるので、良い意味での定まらない感じが欲しいと思ったんです。特にサビのメロディーの音はフラットファイブのスケールノートという、ブルースとか、あとは昔のヴィジュアル系の曲によく使われていたものを今回用いていて、そのフラットファイブの音を伸ばし、かつコード進行が当たらないように構築する、ということをしてみました。

――オーイシさんは楽曲を聴いたとき、どのような印象を受けましたか?

オーイシマサヨシ まず、THE・バンドサウンドだな、って思いましたね。1st seasonの「HIGHEST」はすごくテクニカルで、リズムの取り方も特殊で、なおかつリズム隊はエレクトリックドラム的なアプローチだったんですけど、今回は生バンドが躍動しているトラックだと感じました。「そっちで攻めるんだ」と思ったことが印象に残っています。それと、すごく歌いやすいメロディーだったんですよね。Tom君らしいメロディーではあるんですけど、どこか旧き良きJ-POP臭がするというか、なぞりやすいメロディーという感覚があって。ヴィジュアル系がよく使っていたフラットファイブコード、というお話もありましたけど、懐かしさもありつつ、口ずさみやすく、日本人の口と耳にフィットするメロディーだったので、すごく楽しく歌わさせてもらいました。実際、ライブ(“OxTの日~2023”)でも歌いましたけど、喉に負担がなくて(笑)。

Tom (笑)。逆に歌うのが難しいのかと思っていました。

オーイシ メロディーの跳躍はすごくあるんですよ!ただ、そこをファルセットでなぞることによって喉の負担が少なく、逆に浮遊感を楽しめたり、自分のボーカルテクニックを試せたり。難しいマップを自分のボーカリングでクリアするようなゲーム感覚を味わえましたね。なおかつ全部のメロディーがキャッチーなので、歌っていてすごく楽しいですね。

――オーイシさんとしては、歌うときにどのようなイメージや考えを巡らせましたか?

オーイシ あえてファルセットを多用したというのは、(主人公に)表と裏の顔がありますよ、という妖艶な雰囲気を出せればいいと思っていたからで、世界のアニメファンにもイメージが広がっている『陰実』の2nd season、というところはありました。実際には、メロディーの最高音はすべて地声で到達できるものだったんですけど、そこはあえてファルセットポイントをたくさん作らせてもらいました。

――Tomさんがオーイシさんのボーカルを聴いたときの感想というのは?

Tom これは初めて言うんですけど、最近、オーイシさんの入れてくれた歌がどれくらい生き生きしているかで僕の作曲能力が試されていると思っているんですよ。で、今回の曲に関しては、オーイシさんも喜んで歌ってくれたのかな、と感じていて。聴いた瞬間、素直に「すごく良いボーカルだな」という印象を受けたことを覚えています。生ドラム、生ピアノ、生ベースを録ったあと、編曲の最後として僕がギターを入れる作業があるんですけど、ひずませていたのをやめて、クリーンなサウンドでのアプローチにしようと思ったんですね。それも、ボーカルを聴いて、もう楽曲が最初から最後まで成り立つと思ったからの判断でもありました。あと、普通はギターを右と左で重ねるんですけど、今回重ねたのはサビだけで、あとはもうずっと1本にしています。それもオーイシさんのボーカルを聴いてから決めたところでした。

――ボーカルは今回も宅録だったかと思いますが。

オーイシ はい、自宅で全部録っています。

――レコーディング作業の中で感じたことを教えてもらってもいいですか?

オーイシ そうですね。OxTのボーカルレコーディングはいつも1日がかりなんですよね。複雑なメロディーもあるので、メロディーに対して自分がどういうプランでやるかというボーカルアレンジの設計にはすごく時間がかかるし、実際に録り始めるのはさらにそのあとなので。今回はコーラスの量が少なめではありましたけど、それでもコーラスが1本入ったら2本録りしないといけないとかそういった感じなので、今回も1日がかりだったと記憶しています。でも、そんななかでもすごく筆が乗った感覚はありましたし、さっきのTom君の話は本当に初めて聞いたんですけど、まさに今回はめちゃくちゃ楽しく、生き生きと歌わせてもらったところはありますね。

――hotaruさんによる歌詞については、どのような印象をお二人は持ちましたか?

Tom horaruとはもう30年以上一緒にいる幼馴染なので、いつもはあえて厳しく言いますけど(笑)、今回すごく良い歌詞を書いていますよね。すごく大好きです。チェスに例えているところもですけど、聴いた人が歌詞を日常生活に当てはめて背中を押してもらえる、そんな歌詞でもあると思います。バランスがすごく良くて、完成度が高い歌詞になっていますね。

オーイシ チェスをモチーフに、全体的に芯の通った素敵な歌詞だと思うんですけど、一応僕も歌詞を書く人間として「こういう言葉をチョイスしてくるんや」というところが結構ありました。特にサビのド頭、一番キャッチーでなければいけないわかりやすい言葉を選びがちなところで、普段はおよそ耳にしない“全ては盤上支配するGame”を持ってきたところがhoraru君らしいテクニックだと思いました。実際に録音して、音源として上がってきたものを聴いたらすごくパワーのあるパンチラインになっていましたし、そこで1曲として成り立っているとも思いました。それこそチェスに例えれば、“盤上”が最善手だったんだ、と思わせられるような、すごく整った歌詞だと感じましたね。

次ページ:海外を経て、日本で人気を得た作品をまとっていく

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