伊藤美来、通算11枚目のニューシングル「点と線」は、ソロアーティスト活動7年目にしてまだまだ新たな可能性があることを予感させる、意欲的な作品だ。表題曲はTVアニメ『星屑テレパス』のOPテーマとして制作された、星空の景色が浮かぶ壮大なエレクトロニックナンバー。浮遊感と透明感に満ちたサウンド、流星のように降り注ぐ歌声が、宇宙という“夢”を追いかける女子高生たちの物語を優しく彩る。そしてカップリングには、本格的なブラジル音楽~サンバに挑戦した「空色ミサンガ」を収録。これまで声優・アーティストとして多くの夢を叶えてきた彼女だからこそ歌える歌、この先さらに叶えたいい夢、27歳の抱負に迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回の新曲「点と線」は、“アニサマ(Animelo Summer Live 2023 -AXEL-)”のステージで披露したのが、楽曲自体の初解禁だったらしいですね。
伊藤美来 そうなんです。誰も聴いたことのない楽曲を数万人のお客さんの前で歌うということで、すごく緊張しました。でも、(会場の)さいたまスーパーアリーナがすごく広いこともあってか、自然のエコー感も含めて声が広がっていく感じがして、この楽曲が本来持っている宇宙感というかフワッとした良さがより出たんじゃないかと思います。アップテンポな楽曲とはまた違う意味でライブ映えするんだなあと思って。お客さんたちの反応を見ていると、「あれ?何拍子?」みたいな感じでノリ方に戸惑いもあったかもしれませんが(苦笑)、皆さん理解しようとしながら聴いてくれているのが感じられて嬉しかったです。
――まさに宇宙や星空のような、煌びやかでスケール感のある楽曲になっていますが、そこはTVアニメ『星屑テレパス』のOPテーマを意識してのことだったのでしょうか。
伊藤 はい。『星屑テレパス』は、宇宙を夢見る女の子たちがロケット作りに励む物語なので、その部分に寄り添いつつ、私自身のアーティスト活動としても、今までとは違うことに挑戦する意味で、こういう楽曲になりました。
――『星屑テレパス』という作品自体にはどんな印象をお持ちですか?
伊藤 原作を読ませていただいたのですが、「まんがタイムきらら」で連載されている4コマ漫画ということで絵がすごくかわいいですし、キャラクターもみんな個性的で、コミュニケーションの苦手な主人公(小ノ星海果)がみんなと関わることで変わっていく成長物語でもあるので、色んな要素が詰まっていて読み応えがありました。夢に向かうひたむきさも感じられて、すごく素敵な作品なので、主題歌を任せてもらえることが嬉しかったです。
――しかも今回の楽曲は、作詞を渡部紫緒さん、作曲・編曲を坂部 剛さんが担当されていて。このお二人のコンビによる楽曲は1stアルバム『水彩 〜aquaveil〜』のリード曲「ワタシイロ」以来ですよね。
伊藤 久しぶりにお二人にタッグで楽曲を作っていただきました。楽曲の詳細を発表したときに、ファンの方から「この2人の楽曲、超楽しみ!」と反応をいただいたくらいで、私もこのお二人の楽曲なら絶対に間違いないと思っていたのですが、逆に「しっかりと歌いこなさなくては……!」というプレッシャーも大きかったです(苦笑)。
――最初に楽曲を受け取ったときの印象はいかがでしたか?
伊藤 不思議な楽曲だと思いました。でも、歌詞をしっかりと読み込んで1つ1つの音を聴いていくと、お二人のらしさも入れていただいているように感じましたし、なおかつ、大人になった私が歌うことも意識してくださったのかなと思って。「ワタシイロ」を歌った頃の私はまだ20歳そこそこで、初めてのアルバムのリード曲でもあったので、レコーディングではそれはもうわちゃわちゃとしてしまったんです(苦笑)。当時の私からしたら「ワタシイロ」は高度な楽曲で、歌い方やリズムの取り方といった技術面で苦戦してしまって。そんな私のことを、お二人は優しく見守ってくださっていたので、今回は大人になった私を見せられたらと思っていたんです。そうしたら楽曲自体も大人っぽいものになっていたので、もしかしたらその気持ちはお二人も一緒だったのかなあと思いました。
――今回のレコーディング現場にも渡部さんと坂部さんはいらっしゃったのですか?
伊藤 はい。今回も温かく見守ってくれていました。お会いするのは久しぶりだったのですが、「大人になったねえ」というお言葉もいただいたんです。ほかにも、今回の楽曲は作品や宇宙のイメージだけでなく、歌詞のテーマにある“繋がり”や、私自身のことも汲んで書いていただいたというお話をしてくださいました。実際に歌ってみると、特に高音部分の伸びや響きは、私の声で歌うからこその良さを考えたうえで作ってくださっているように感じて。ディレクターさんも含めて、きっと私よりも私の歌声の良いところを理解してくれているんじゃないかと思います。
――伊藤さんの楽曲としては新鮮な曲調ですが、ご自身にとって挑戦になったポイントはありますか?
伊藤 楽曲自身の音の少なさとリズムですね。全編3拍子の楽曲はこれが初めてで、しかも音が少ないからこそリズムの取り方がわからなくなったり、歌うときにどのタイミングで入ればいいのか、音をどこまで伸ばせばいいのかがわかりづらくて。構成も不思議な楽曲なので、そこを自分のものにするのが大変でした。
――メロディに関しても、サビは高音が多くて歌いこなすのが難しそうです。
伊藤 そうなんです。音が高いので、ほぼファルセットで歌っているのですが、そこも優しい声色にすることで浮遊感を表現するようにしています。音が高いところでもきれいに伸ばすように歌うのが難しかったですね。
――『星屑テレパス』の世界観や物語とは、どのように寄り添った楽曲だと感じますか?
伊藤 歌詞の中に“宙(そら)”や“星”“光”といった宇宙を感じさせるワードがたくさん入っているところもそうですが、この楽曲は“繋がり”と“夢”がテーマになっているんです。最初は“不安な胸”だったところから、どんどん前向きになって強くなっていくところは、主人公が最初は不安だったけど色んなキャラクターたちに出会って、手を繋いで1つの目標に向かっていく、この作品のストーリーを反映しているように感じました。
――確かに“夢”は、この作品や楽曲にとって大きなキーワードになっています。
伊藤 夢を“追いかける”ことや“憧れ”といった気持ちが描かれているんですよね。それは高校生の彼女たちだからこその部分だと思いますし、そういう気持ちを後押しできるような楽曲でもあると思います。
――伊藤さんもこの作品の主人公たちと同じ年代、高校生の頃に声優の世界に足を踏み入れたわけで。確か今年で声優デビュー10周年になるんですよね?
伊藤 はい、実はこっそり10周年です(笑)。
――例えば伊藤さんも、この作品に触れるなかで、夢を追いかけて一歩踏み出した当時の自分のことを思い出したりはしましたか?
伊藤 私は高校生のときに事務所のオーディションを受けて合格をいただいたので、この主人公の子たちと同じ年代のときは、確か研修を受けていた頃で。自分で言うのは恥ずかしいですけど、夢に向かって私なりにぎらついていました(笑)。「絶対に夢を叶えたい!」と思っていたし、「時間がない!」という謎の焦りも感じていて。なので、夢を叶えたいけどなかなか上手くいかない気持ちはすごくわかりますし、私もその時期に自信がなくなってしまったときは周りの友だちや家族にすごくたくさん助けてもらったので、主人公が周りの人の影響で前を向くところにも共感できました。きっと誰しも少なからず夢を抱く経験はあると思うので、この楽曲はアニメや私自身のことを知らない人にも共感してもらえるような内容になっていると思います。
――ちなみに、伊藤さんは自分の夢を叶えるためにぎらついていた頃から10年経った今、その当時思っていた夢は叶っているのですか?
伊藤 もう、叶いすぎています(笑)。事務所に入った頃、最初に叶えたい夢と目標をノートに20個くらい書き出したんですよ。「歌を歌う」や「ステージに立つ」もそうですし、ほかにも「主演をやる」「男の子の役をやりたい」「悪者の役をやってみたい」「朗読劇に出てみたい」「CMをやりたい」「ナレーションをやりたい」とか……、よくよく思い返してみると、その当時に書いていたことは、この10年の間にほぼ経験させてもらったかもしれないです。「吹き替えをやりたい」という夢は、厳密に言うとまだアニメの吹き替えしか経験したことがないので、いつか実写の吹き替えも叶えたいですね。
――ほかにまだ叶っていない夢は?
伊藤 「車の免許を取る」や「舞台に出る」とかですね。それと当時は書いていなかったけど、今叶えたい夢は「フルバンドでソロライブをやる」です。でも、改めて考えると、これってすごいことですよね……私は本当に恵まれているなと思います。周りの皆さんや応援してくださっている皆さんのおかげで、たくさんの夢を叶えることができて。この10年にすごく満足しています。
――「点と線」というタイトルも印象的ですが、伊藤さんはこのタイトルをどう解釈して受け止めていますか?
伊藤 線は点と点が繋がってできるものなので、この楽曲や作品のテーマでもある“繋がり”を象徴する言葉なのかなと思いました。点と点が線になって、みんなが繋がって、そこから夢にも繋がる道があって。人と人もそうですし、物事もそうですし、何かと何かが繋がって閃きが生まれることもある。すべては点と点が結び合ってできていると思うんです。なので色んな意味が考えられるなあと思いながら歌っていました。それ以外にも、“星座”や“流星群”のイメージも浮かびますし、色んな背景や風景が目に浮かぶようなタイトルだと思います。
――そういった印象を踏まえたうえで、レコーディングの際には、どんなイメージを思い浮かべて歌いましたか?
伊藤 この歌詞に書かれているのは、『星屑テレパス』に登場するキャラクターたちの心情にも重なるのですが、それを私が同じ目線で歌うのは違うと思ったので、彼女たちを後ろで見守っているような存在として、その背中を押してあげられるようなイメージで歌いました。同じ位置に立っているというよりは、ちょっと離れたところで応援しているような、優しいけれども「いけるよ!」って強く後押しするような気持ちと言いますか。苦しいことがあっても「そうだよね、不安だよね」と肯定しながら、夢に向かっていく姿に想いを馳せるようなイメージがありました。
――歌詞に照らし合わせると、それは“宙(そら)”の目線なのかもしれないですね。それとこの楽曲、主線の歌以外にもコーラスやハーモニーがたくさん入っていますよね。
伊藤 めちゃくちゃ入っています!確かレコーディング現場で当初の予定よりも何本か足されて、音を覚えるときに耳と脳みそが大変で、頭がプシューってなりそうでした(笑)。コーラスは伸ばす長さが大事で、何拍伸ばすかがきっちり決まっていたんです。なので拍を数えて確認しながら歌ったりもして。でも、コーラスのおかげで楽曲に奥行きが出たので、たくさん録って良かったなと思いました。
――ちなみに、この楽曲の歌詞に“宙(そら)見上げれば 不安な胸に希望 静かに灯る”というフレーズがありますが、伊藤さんは自分の不安を解消するためにルーティンとしていることはありますか?
伊藤 「人に話を聞いてもらう」とか、「頭を一旦リセットさせるために散歩する」とか、この10年で色々と試してきたんですけど(笑)、その中で私に一番合っていると思ったのは「エッセイを読む」でした。
――「エッセイを読む」ですか。
伊藤 偉業を成した人、芸能人の方、普段は主婦やOLをやっている一般の方、色んな人の人生を読んでみるっていう。エッセイには、その人が普段感じること・思うことが書かれているので、その人の生活を垣間見ることができますし、自分とは全然違うことで悩んだり楽しんだりしているのを見ると、自分とは全然違う人生に触れることで自分の視野が広がる感じがして。自分自身の人生を客観視できるようにもなりますし、その人たちが自分の不安を乗り越えられたのであれば、私が抱えている不安もきっと乗り越えられるんじゃないか、という気持ちにさせてくれるんです。「もし失敗しても、世界は広いんだしどうにかなる!」っていう。なので「エッセイを読む」は私のメンタルケアに必要なものだということを、2023年に発見しました(笑)。最近はエッセイばかり買って読んでいます。
――自分でもエッセイを書いてみたい気持ちは?
伊藤 ……ちょっとあるかも。でも、文章を書くのは好きなんですけど、いきなり本1冊分を書くのは相当な文章力とボキャブラリーが必要だと思うので、月1の連載コラムとかから始めてみたいですね。
――ぜひ「リスアニ!」で連載してほしいですね。
伊藤 いいんですか!?ぜひやりたいです(笑)。別に日々すごいことが起きているかと言われたら何もないんですけど、仕事以外のことで感じたことや思ったことを日記みたいに綴るのはいいなあと思うし、憧れがあります。きっと拙いものになると思いますけど、色んな方のエッセイを読んでいると、書きながら自分の心の中の整理をしているんだろうなと思うんですよね。そういう整理整頓の仕方も面白そうだなと思っていて。また1つ、新しい夢ができたかもしれないです。
――「点と線」のお話に戻しまして、MVも今までの伊藤さんとはまた違った雰囲気の、アーティスティックな映像に仕上がっていますね。
伊藤 まさに。「点と線」という楽曲がアーティスティックで今までにない挑戦だったので、MVも同じように新たな伊藤美来を見せたいということで、楽曲の世界観に合わせて、衣装やメイクも攻めたものにしていただいて。大人っぽいビジュアルでも成長や変化を表現していただきました。
――衣装やメイクで個人的なお気に入りポイントを挙げるとすれば?
伊藤 白いアイラインとその近くにあるラインストーンは、目元でも「点と線」を表現しているんです。髪の毛にもラインストーンを付けて星空っぽくしていたり、実はピアスも星型になっていて、細かいところでも「点と線」を意識しているのがお気に入りです。衣装も今まであまり着たことのない形のチュールドレスで、後ろがすごくかわいくて、アヒルのお尻みたいにポコッと出ているデザインなんです!ぜひMVでチェックしてほしいです。
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