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INTERVIEW

2023.10.08

『映画プリキュアオールスターズF』劇伴作家・深澤恵梨香、クリエイターとしてのあらゆるチャレンジを受け止めてくれる『プリキュア』の強さと愛を語る

『映画プリキュアオールスターズF』劇伴作家・深澤恵梨香、クリエイターとしてのあらゆるチャレンジを受け止めてくれる『プリキュア』の強さと愛を語る

『プリキュア』シリーズ20周年記念作品にして5年ぶりの“オールスターズ”作品となる『映画プリキュアオールスターズF』。総勢78名の歴代プリキュアに加え、映画オリジナルのプリキュアまでもが登場する今作だが、音楽を担当するのは放映中の『ひろがるスカイ!プリキュア』(以下、『ひろプリ』)の音楽も手がけた深澤恵梨香。『ひろプリ』での劇伴でシリーズに新風をもたらした彼女が、フィルムスコアリングでプリキュアたちが縦横無尽に活躍するシーンへ巧みに色付けしていった。特に8分36秒という長尺の曲「プリキュア、よみがえる想い」では信頼する奏者と楽器の力を借りて、壮大かつ深遠なクライマックスに寄り添っている。
そんな深澤に制作の裏側にある想いを聞き、その中で彼女なりの「プリキュアとは?」の答えにも辿り着く。

INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司

プーカの強い意志を表すために選ばれた楽器

――まずは、田中裕太監督からのメニュー出しについて伺いたいのですが、監督から受けた映画についての説明がとても詳細だったそうですね。

深澤恵梨香 はい。今回は劇伴を12曲書かせていただくことになり、そのメニューリストや資料をいただいたのですが、フィルムスコアリングということで監督から楽曲に対するとても細かなプランを話していただきました。その説明がまるで1本の映画を見ているかのようで、「こういうシーンがあります。それから曲がかかる中でこういう話になっていって……」という感じで、長い時間をかけて映画の流れを最初から最後まで丁寧に追っていただきました。その監督の言葉によって自分の感情も持っていかれながら、どのようなシーンで使う楽曲を求めていらっしゃるのかを理解することができて。最後に監督から「どうですか?」と聞かれたときに、具体的な質問ではなく「感動しました」と言ってしまったほどでした(笑)。

深澤恵梨香

――劇伴のことよりも物語に夢中になれたんですね。

深澤 そうですね。そもそも映画について語っていただく前にも「プリキュアとは何か?」という大きなテーマを監督からお聞きしていたんです。今回の映画に登場するオリジナルキャラクターのキュアシュプリームは、まさにそういうことを考えさせてくれる存在で。監督はこれまでの『プリキュア』シリーズに多数参加されてきた方なので、今改めて考える「プリキュアとは何か?」というテーマを、今回の映画で表現したいということでした。それを聞いたとき、自分とも想いが一致したように思いました。

――どういった点で共感されたのでしょうか?

深澤 単純な“らしさ”ではない、というところだと思います。20周年記念作品ではあるけど「今、私が思うプリキュア」というところで音楽を作っていい、という風に感じられました。以前のインタビューで、『ひろプリ』に参加するときはすごくプレッシャーを感じていたと申し上げましたが、それは新しく『プリキュア』シリーズに関わるにあたって、今までの音楽の各先生方の想いに限らず色々なものを「引き継がなければいけない」という気持ちが強かったからで。でも、今回の映画の劇伴制作を終えたときに、ようやく(『プリキュア』シリーズの)一部になれていると実感できました。あの……私、ショップやイベントにめっちゃ行くんですよ。

――『プリキュア』の?

深澤 はい。ショップに行くと今までのキャラクターが展開されている中に『ひろプリ』のソラちゃんたちもいて、“繋がり”を目で感じ取れるんですよね。『ひろプリ』のグッズもたくさん買うんですけど、他のお客さんたちはそれぞれに思い入れの強いタイトルのグッズを手に取りながら話していて。そういうのを聞いた瞬間にも自分が『プリキュア』に入り込んでいることを感じますね。

――『プリキュア』が愛されていることや、そのシリーズ作品に参加したことを改めて実感できるんですね。その意味では、今回の映画の劇伴制作では頭で考えずに楽曲が浮かんでくることも増えましたか?

深澤 そうですね。言われてみれば、今までは頭で全体の構成を考えていたところ、感情的というか能動的というか、作品の中に入り込めている意識はありました。ただ、TVシリーズでは水野(さやか)さんが選曲をしてくださっていますが、今回は映画ならではというところでフィルムスコアリングなんですよね。

――作った劇伴曲をシーンに合わせて選んでもらうのではなく、尺も含めてシーンに合わせて楽曲を作ることになります。

深澤 なかでもみんなが期待しているであろう、初代たちレジェンドが登場して盛り上がるシーンの曲(「プリキュア、よみがえる想い」)は、8分半もあるんですよね。そのシーンは絵もストーリーも本当に素晴らしいので、お客さんの感情と一緒にどうやって8分半寄り添って最後に「うわぁ……!」となってもらえるかを大切にしたくて。そこは尺も長いので見せ場として頑張りたくて、監督からのお話を参考に、映像資料を見ながらシーンを想像して、計算しながら作りました。

――フィルムスコアリングで制作するにあたり、まず気をつけたのはどういった点でしたか?

深澤 劇中のシーンでは色々なことが起きるので、そのすべての物事に対して曲を付けていくと説明過多になってしまうんですよね。お客さんが初めて観たとき、一瞬でも(観客の)感情よりも先に(劇伴曲が)行かないように、というところは意識しました。ネタバレではないですけど、その後の展開を(音楽で)予感させてしまう可能性があることを監督は気にされていて、感情よりも音楽が先走ってしまっていると「ここまではまだ」というお話もいただきました。

――『ひろプリ』のときはメインテーマから着手されたということですが、映画ではどの楽曲から書き始められたのでしょうか?

深澤 最初に書いたのは、キュアシュプリームとプーカそれぞれのテーマ曲(「その名はキュアシュプリーム」と「プーカの不思議な力」)でした。この2人は、劇中で観ている人の印象がどんどん変わっていくので、メロディをアレンジして作中で何度か流したいというお話を監督からいただいて。なので、なんとなく「あ、プーカのテーマだ」「キュアシュプリームの曲だ」と思ってもらえるように、すごくシンプルな曲にしました。メロディを覚えてもらえないとバリエーションを増やしてもわからないので。

――キュアシュプリームとプーカの曲に関してはどのようなイメージで作り始めましたか?

深澤 ストーリーを監督から聞いたあと、資料を観ながら楽曲を作り始めたのですが、あえて2人の登場シーンまでしか観ないで書き始めました。というのも、一度全部を通して観てから書くと、どうしてもその後の展開や結末を知っている分、狙った感じになってしまうと思ったので。なので、そのシーンを観たお客さんのピュアな心理に当てることを意識して書きました。

――深澤さんから見た、キュアシュプリームとプーカの第一印象というのは?

深澤 キュアシュプリームはすごく神聖な感じで登場して、不思議な雰囲気はありつつも神々しいし、絵も綺麗なので、「新しいプリキュアが登場!」というイメージで楽曲を作ったのですが、監督からは「もう少し何者かわからない感じにしてほしい」と言われて、実はリテイクになったんです(笑)。新しい仲間が来た感じというよりは、不穏でもないし(ソラたちがプリキュアかどうかを)疑ってもいないんだけど、「あの人は……?」という風にしてほしいということで。プーカは……泣いちゃいますよね。

――泣いちゃいましたか。

深澤 (プーカのテーマ曲の)レコーディングのときにも資料映像を流していたのですが、プーカがかわいそうでかわいそうで。しかもすごく強いですよね、プーカは。

――第一印象からかわいそうな部分を感じましたか?それともかわいい部分を?

深澤 プーカは登場シーンではなく、その背景に何かがあると感じさせるところで初めてテーマ曲が付くんです。それが「かわいそう」から始まるのですが、そこからラストに向けていくつかのバリエーションを作りました。ただ、最後のバリエーションになる「ふたりで…」に関しては、それまでの楽曲とは違う楽器、ホルンで同じメロディを演奏してもらうことで、「かわいそう」から始まったプーカのこれからを表現しました。ほんの2小節だけではあるのですが。

――“これから”を表したいときにホルンを選んだ理由というのは?

深澤 「ふたりで…」はエピローグ的なシーン、プーカが“許し”を見せてこれからの話をするとき流れるのですが、そのときのプーカに強い意志を感じたんですね。プリキュアたちの絆を受け取ったキュアシュプリームがプーカと一緒に前を向く、その真ん中にある強い気持ちみたいなものを表すためにホルンを選びました……今、お話をしながら気づいたのですが、私は気持ちが動かされるような場面を表現したいときはブラスを入れるみたいですね。『ひろプリ』のメインテーマもそうですし。

――深澤さんにとって強く感情を揺さぶるために必要な要素がホルンだった?

深澤 きっとそういうことなんだと思います。『ひろプリ』の劇伴レコーディングのときは、作品のテーマが“ヒーロー”ということで、パァーン!と吹いてくれる方が良かったんですよね。それで(トランペット奏者の)エリック・ミヤシロさんにお願いして。でも、今回はもっと大きく歌う感じが欲しくて、ホルン奏者の濱地(宗)さんにお願いしました。クレジットに載っているのは濱地さんだけなのですが、セクションは4人いて、『ひろプリ』の「ヒーローの出番です!」で吹いてくださった方にも参加してもらっています。ただ、今回はあの曲みたいに前向きに許すという感じではなくて。濱地さんは、音が素晴らしくて。

――深澤さんにとってプーカを表現する上で、濱地さんのホルンの音が必要だったということですね。

深澤 そうなんですよね。歌うようなというか、大きな感じというか。でも、きっと私の周囲の人がこの記事を読んだらすごく笑うと思います。

――ただ、ホルンを選んだのは感覚的なもので、頭で考えてホルンを選んだわけではないんですね。

深澤 そうですね。感情的なところを表現させるときはピアノとかストリングスとか、あとはアコギとか色々とありますけど……ホルンで心情が表わされている楽曲は少ないと思うんですよね。でも、自分でも今「なるほど」と思いました。その意味ですと、『ひろプリ』で2回目の劇伴レコ―ディングをしたときも、心情を表す曲をホルンのソロから始めていますね、私。ホルンの単旋律から始まる感じで。それはディレクターの井上(洸/『プリキュア』シリーズを担当するマーベラスの音楽プロデューサー)さんにも驚かれたところで、「そこホルンなんだ!?」と言われましたね。管楽器にしても、オーボエのような楽器の方が心情を表すことが多いと思うので。

――一般的にはもう少しメロディアスで歌うような楽器の方が多いと感じます。

深澤 自分でも今、気づきました。ソラちゃんが「行かなきゃ!」となるときはトランペットが響きましたけど、今回のプーカはそういう華やかさを出したいわけでもなかったので、ホルンを選んだんだろうなって思います。

――深澤さんは、歌い手やミュージシャンに合わせて譜面を“あて書き”することで知られていますが、今のお話を聞くと、コードや音楽理論のように奏者や楽器を組み込んで作曲されているような印象を受けました。

深澤 確かにコード感といったところよりも楽器について考えることが多いかもしれません。不穏さや緊迫感を表したいと考えたときも、楽器や、その裏にいる奏者の人が頭の中にあるので。そういえば「ふたりで…」のミックスが終わったとき、「あ、そうか。これで今後ソラちゃんたちに音を新規でつけることはもうなくなるんだ」と思って寂しくなったんですよ。でも、この映画の劇伴曲でこっそり、『ひろプリ』のメインテーマの欠片を入れているところがあって。ソラちゃんたちがしゃべるシーンに合わせて1フレーズくらい。『ひろプリ』担当なのもありますが、やはり、繋がれた彼女たちの“今”が光る瞬間があってもいいなと、作品として思いまして。

次ページ:クリエイターのチャレンジやトライを受け止める強さを持つ『プリキュア』

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