――今回の劇伴制作において苦労した点はありましたか?監督から伝えられたイメージも詳細で、『プリキュア』シリーズに入り込めた感覚を持てたというお話でしたが。
深澤 それはもう、プレッシャーですね(笑)。
――そこは変わらず(笑)。他の作品でもプレッシャーを感じる方ですか?
深澤 それは全然ないです。なんでだろう?でもプリキュアはなぜか責任がずっとつきまとう感覚があります。全然違う話ですけど、ついにレコーディング現場で『プリキュア』をリアルタイムで観ていた奏者さんに出会って。「観ていたので嬉しいです」という話をしました。そう思うと、エリック(・ミヤシロ)さんはずっとやられているわけですし、かと思えば、お子さんが見ているという奏者の方もいらっしゃるので、やっぱりすごい作品だと思いますね。
――年月の積み重ねを感じるとプレッシャーに繋がりますね。
深澤 そう思います。(歴代プリキュアが勢ぞろいする映画のキービジュアルを指差して)こういうのを見ると。
――「プリキュアオールスターズ」シリーズならではの難しさというのは?
深澤 その意味でのプレッシャーもありました。ただ、先ほどもお話ししましたけど、どう作ったらどう見えるとか、各キャラクターをどう進めていくかというところを、頭であまり考えずに作ることができたのは、受け入れられてもらったからこその安心感だと思います。それでプレッシャーが消えるわけではないんですけど……特に8分半の曲を作るときは本当に「どうしよう……」となりました。
――その、誰もが期待しているシーンで流れる「プリキュア、よみがえる想い」ですが、観る方の期待に応えるために何か工夫された点はありましたか?
深澤 キュアブラックたちが出てきてから、最後にプリキュアたちが勢揃いするということで、音楽でも人数感を出したくて、演奏をダブらせました。手法としてはメジャーなんですけど。
――ダブらせるというのは、一度録った演奏を重ねるということですか?
深澤 同じ楽曲を2度演奏して、それを録って重ねました。それはデモの段階から井上さんともご相談させていただいていたことで、普通はストリングスだけを重ねることが多いのですが、今回は参加した全員の演奏をダブらせてもらいました。エンジニアの小岩(孝志)さんに仕上げていただいたあと、5.1チャンネルでそのシーンと音を合わせて観たときは、もう、「うわーっ!」ってなりました……なんかすごい幼稚な表現になってしまいましたけど(笑)。ただ、普通にダブらせても人数感が増すのではなくトラックが2本あるだけ、という感じになるんですね。なので、そこはエンジニアさんとも相談して、どういった形で演奏をするべきかのプランも組み立てました。1回目と2回目のレコーディングで演奏自体を少しずらしてもらったのですが、それ以外にも例えば奏者のポジションを変えて録るとか。
――座る位置を変えるということですか?
深澤 はい。他にも皆さんから色々なアイデアを提案いただいて。マイクを変えてみたり、譜面台に音を当てて反射や反響を変えてみたり。そうやって1回目の録音とは環境を少しずつ変えて録ってみたんですけど、確認のために重ねたものを聴いたときに「よっしゃ!」ってなりましたね。どうしても幼稚な表現しか出てこないですけど(笑)。
――作曲の段階でも何か工夫したところはありましたか?
深澤 やはりプリキュアたちが集ってくるシーンでは人数の厚みが欲しかったので、レジェンドの集合を意識して、各セクションがフィーチャーされるようなスコアにもしています。スコアの時点で楽器1人ずつが立つように書いて、ミックスでもそこは意識してもらいました。ブラスに関しても、各奏者の方に「自分がリードだと思って吹いてください」とお伝えしました。普通の編成の場合、リード奏者が強く前に出て、2番手が引いて支えて、3番手がさらに引いて支えて……というポジションになることが多いのですが、ダブらせる手法と同じく、オケの人数感を増すための積み方をしました。ただ、一方で回想シーンも挿入されるので、そこは観ている人が考えて理解するのを邪魔しないようにシンプルな曲をつけました。あえて何も語らない時間というか、「何が起きているんだろう?」という整理が必要だと考えたんです。
――個々の楽器も立たせたことで劇伴としては非常に華やかになったと思いますが、そこは歴代のプリキュアたちが揃う場面に負けないように、という感覚でしたか?
深澤 プリキュアたちが勢揃いすると聞いていたので、その画に負けない音が必要だとは思いました。ただ、TVシリーズのときも感じましたけど、絶対に(プリキュアが)勝ってしまうというか、一体になれてしまうんですよね。だから何をやっても大丈夫なんです、『プリキュア』は。主題歌に関しても、「今までにない感じだね」と言われたとしても、でもやっぱりプリキュアの楽曲としてスムーズに受け入れられることが多いじゃないですか。なのでよほどのことがない限り、「これは違う」ということにはならないと思います。愛さえあれば。
――『プリキュア』への愛さえあれば。ただ、そうなると作り手としては、「今までにない」というところに挑戦したい気持ちも出てきませんか?
深澤 めっちゃあります!それしかないかも。もちろん、“異質”を狙うのは間違いだとは思いますけど。ただ、『ひろプリ』の劇伴を担当したときは、今までのシリーズにブラスをメインとした劇伴はなかったので、放送が始まるまでは受け入れられるかどうかすごく怖かったんです。でも、ブラスが入っていることでヒロイックなところが素敵だという感想を見つけてホッとしましたし、愛があれば、作品に対して思いっきりぶつけられるというのは、今までの歴史があるからだと感じました。今思い返しても他の選択肢はなかったと思います。
――では、クライマックスの8分半もこれしかない楽曲を用意できた感覚ですか?
深澤 でも、あのシーンは無音でも持つかもしれない8分半だと思っているんです。なので、ただただシーンに集中して観てほしいです。そこに寄り添える劇伴になっていたら正解ですね。ダブらせたり奏者の位置を変えたり、人数感を出す工夫はしていますけど、とにかくプリキュアたちの想いがすごいですし、そこに観る方々もシンクロしてほしいです……やっぱり『プリキュア』はすごく強いんですよね。クリエイターがちゃんと愛を持ったうえであれば、どんなチャレンジやトライもできる作品というところが、『プリキュア』のすごさだと思います。
――最後にひと言お願いできますか?
深澤 やはり今まで、引き継ぐ、繋ぐ、責任へのプレッシャーなど、過去から受け取ることについてたくさんお話しさせていただきましたが、それを受けて(プリキュアの)“これから”というところにも、またとても楽しみになりました。
●リリース情報
『映画プリキュアオールスターズF』オリジナル・サウンドトラック
発売中
■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら
【CD】
品番:MJSA-01372
価格:3,300円(税込)
<CD>
01. 急襲!プリキュア登場
02. スカイミラージュ! トーンコネクト!(Movie version)
03. For “F”(映画サイズ)
歌:石井あみ・Machico
作詞:青木久美子 作曲・編曲:森いづみ
04. おかしな出会い
05. 危機との遭遇
06. ホウキに乗って
07. 華麗なる戦い
08. 困った対立
09. 誰かを思う水辺
10. 果実を求めてまっしぐら
11. きっと大丈夫
12. 未知なるプリキュア
13. 不安な夕暮れ
14. その名はキュアシュプリーム
15. お湯に流して仲直り
16. 笑顔のキャンプ
17. あこがれを胸に
18. 星空の下で
19. 列車を捕まえろ
20. プーカの不思議な力
21. それぞれの旅~再会を信じて
22. 崩れ落ちる大地
23. にぎる手のぬくもり
24. アークのもとへ
25. やっと会えた!
26. 明かされる真実
27. 激闘の記憶
28. 無窮の力
29. もう終わりにしよう
30. ヒーローとは
31. くじけない決意
32. プリキュア、よみがえる想い
33. All for one Forever
歌:吉武千颯 & 礒部花凜/北川理恵/駒形友梨/Machico/宮本佳那子
作詞:こだまさおり 作曲・編曲:森いづみ
34. ふたりで…
音楽:深澤恵梨香(Except:Track03,06,07,10,15,16,18,23,33)
Track06,07=作曲・編曲:高木 洋
Track15,18=作曲・編曲:林ゆうき
Track10,16,23=作曲・編曲:寺田志保
■初回特典:
・キャンバスブロマイド(スーパーアート6色印刷)
・「ひろがるスカイ!プリキュアLIVE2023」先行抽選応募券
©2023 映画プリキュアオールスターズF製作委員会 ©ABC-A・東映アニメーション
『映画プリキュアオールスターズF』オフィシャルサイト
https://2023allstars-f.precure-movie.com/
プリキュア音楽&映像商品公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/precure_marv
深澤恵梨香 オフィシャルサイト
https://www.erika-fukasawa.com/
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