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INTERVIEW

2023.10.06

『アリスとテレスのまぼろし工場』音楽:横山 克 インタビュー/様々な要素を組み合わせた緻密な「音作り」のこだわりと、岡田麿里作品についての想いに迫る

『アリスとテレスのまぼろし工場』音楽:横山 克 インタビュー/様々な要素を組み合わせた緻密な「音作り」のこだわりと、岡田麿里作品についての想いに迫る

インスタレーションも楽器に シデロイホスは音楽にも効果音にも

――横山さんは作品によって、様々な新しい楽器を見つけてこられていますが、今回はシデロイホスを楽器として使用されています。しかもこれは映画パンフレットによると、副監督の平松禎史さんの案だったそうですね。

横山 平松さんは音響演出もされるくらい、音楽にもお詳しい方なんです。

横山 工場が舞台でもあったので、金属音を使おうというイメージは僕にもあって、最初は公園で鉄棒の音をサンプリングしてデモとして使っていたんです。そうしたら平松さんが、音響彫刻のインスタレーションであるシデロイホスを教えてくださいました。僕は存じなかったのですが、音を聞いたときに確かに荒廃した感じがして『まぼろし工場』の世界に近いなと感じました。それで本番用にとなったときに、やはり本物のシデロイホスを録らなければということになり、調べてみたところ、安曇野のちひろ美術館にあることがわかりました。偶然にもここは僕の実家の近所で、両親もその前の週にそこでシデロイホスを演奏していたんですよ(笑)。そこで美術館ご協力のもと、録音させていただきました。普通に叩いたのであれば、音自体はデモの時にそこら辺の鉄を叩いた音と大差はないわけです。ただ、シデロイホスという造形になっていたことで、色んな叩き方をした音を収録することができました。そうしたら、音作りの作業の中で音響効果の上野(励)さんが、ひび割れの音にも当ててくれたりもして、音響効果にも紐づく形になりました。今回の音のメンバーは仁さん、上野さん、ミキサーの根岸(信洋)さんと、ほかの作品でもご一緒しているチームでやらせていただいたので、コミュニケーションが非常に良くできましたし、密に連携を取りながらシデロイホスを多様な形で使うことができました。

――作中のドラマティックな場面で使われる「Her Name Is Saki」は、ピアノからアコギ、ストリングス、そしてボーカルが入って展開し、最後に力強く集結していく作中の中で屈指の長尺の楽曲です。こちらはどのように作られましたか?

横山 自分に寄せたというか、自分が好きな感じをひたすらやってみたような形ですね。この「Her Name Is Saki」は、映画の尺の真ん中で物語が展開するターニングポイントの曲です。どちらかと言えば実写音楽の劇伴のようなアプローチを、アニメに持ち込んでいった形です。一般的にアニメのほうが、短い尺でわかりやすい音楽を当てていくことが多くて、ブロックで音楽を張っていくというイメージかな。ただ、岡田さんの作品は、いわゆる生々しさも含め、非常に実写的な表現がありますので、実写で作りそうな音楽をここに入れていきました。情報量としても濃いですよね。ただそれが、じわじわと見えてくる。正宗が受ける衝撃って、だんだんと感情線が上がっていくように強まっていくじゃないですか。音楽用語でいうと、ポコ・ア・ポコ、クレッシェンドみたいな感じだと思って作っていきましたね。

――またパンフレットにはシンガーソングライターの海羽さんが「希望を表現するための3つ目の軸」として挙げられています。「WE ARE ALIVE」でもクリアな声を響かせている彼女の歌声を、横山さんはどのように感じて起用されたのでしょうか?

横山 海羽さんは初期の重要なパレットの1つでした。偶然、渋谷で路上ライブをして歌っていた彼女の声が印象的で、お声がけさせて頂き、デモの段階から録らせていただきました。当時は10代で、現在は20代なのですが、作品の中では両方の声を混ぜて使っているんです。先ほどの中高生の合唱の話のように、10代でしか出せない声と、現在のシンガーソングライターとしての声を対比したくて、仕掛けを作ってみました。仕込む期間が長い作品だったので、様々なことができました。

――そして、エンディング曲は中島みゆきさんの「心音(しんおん)」ですが、その知らせを聞いてエピローグの曲を作られたそうですね。

横山 主題歌を中島みゆきさんにお願いしたと聞いたときには、とても衝撃的でした。しばらくすると、ジワジワと実感が湧いてきて・・・曲を聞かせていただくと、中島みゆきさんらしさが溢れる曲に仕上がっていました。「心音(しんおん)」はとても壮大な曲ですが、入口は優しくて、このままいくのかなと思わせて、ちゃんと盛り上がるんです。だからその前段階として、中島さんの曲の冒頭部分に繋がるようなエピローグの曲が必要だと考えました。あとは昔の出来事を思い出すような感じというか、「物語であんなことがあったよね」という心情のまま「心音(しんおん)」に入れるように工夫しました。最初は優しい曲調に合わせてスタッフロールが流れますが、中島さんが最後の盛り上がりをしっかりと担保してくださるので、その感情のカーブに上手く繋げることを意識しました。

――最後に、長い時間をかけて今回の作品に携わった感想をお聞かせください。

横山 個人的に、岡田さんの作品を観ることを毎回とても楽しんでいます。岡田さんの考えていることを具現化すると、もしかしたらこれまでのアニメの流れに一石を投じるものになるんじゃないかなと思っていましたし、今回もそうなればいいなと思っていました。今、アニメの作品数はものすごく多くて、そのなかには岡田さんの作品も僕が参加した作品もあります。現実的には、そのすべてが一石を投じるものではないのですが、岡田さんは並々なら覚悟で映画の監督を務められています。ただそれは、監督が多くの作品で色んなことを経験したからこそできることだと思うんです。作品って、いっぱい作ると色んな経験が蓄積されてゆくんですよね。この作品にはそうした素晴らしさがあり、ゲームチェンジャーになれる可能性を秘めているのかなと思いました。


●作品情報
『アリスとテレスのまぼろし工場』
全国公開中

【キャスト】
榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲/八代拓 畠中祐 小林大紀 齋藤彩夏 河瀨茉希 藤井ゆきよ 佐藤せつじ/林遣都 瀬戸康史

【スタッフ】
脚本・監督:岡田麿里
副監督:平松禎史
キャラクターデザイン:石井百合子
演出チーフ:城所聖明
美術監督:東地和生
色彩設計:鷲田知子
3Dディレクター:小川耕平
撮影監督:淡輪雄介
編集:髙橋歩
音楽:横山克
音響監督:明田川仁
音響制作:dugout
製作プロデューサー:木村誠
アニメーションプロデューサー:野田楓子、橘内諒太
企画・プロデューサー:大塚学
制作:MAPPA
配給:ワーナー・ブラザース映画 MAPPA
主題歌:中島みゆき「心音(しんおん)」

<作品情報>
変化を禁じられた世界で、止められない“恋する衝動”を武器に、未来へともがく者たちの物語

製鉄所の爆発事故により出口を失い、時まで止まってしまった町で暮らす14歳の正宗。いつか元に戻れるようにと、
何も変えてはいけないルールができ、鬱屈とした日々を過ごしていた。ある日、気になる存在の謎めいた同級生・睦実に導かれ、
製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは、言葉を話せない、野生の狼のような少女・五実ー。
二人の少女とのこの出会いは、世界の均衡が崩れる始まりだった。止められない恋の衝動が行き着く未来とは?

Ⓒ新見伏製鐵保存会

関連リンク

公式HP
https://maboroshi.movie

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