REPORT
2023.10.05
早見沙織が9月18日(月・祝)に東京・国際フォーラム ホールAにて、全国6都市を回るアルバムツアー「HAYAMI SAORI Tour 2023 “白と花束”」のファイナル公演を迎えた。表と裏、光と闇が同時に存在し、はじまりと終わりが結びついた無限(エンドレス)を表すメビウスの輪がいくつも存在しているような不思議な時間となっていた。本稿では、その様子をレポートする。
TEXT BY 永堀アツオ
メビウスの輪を1つずつ整理していくと、まず、開演前のBGMとして、ピアノの弾き語りと“ラララ”というハミングによるデモ音源が流されていた。続いて、ピアノに少しだけ弦が入ったトラックへと変化。このデモ音源の完成系である「はじまりの歌」は約2時間後、本編の最後に歌われた。そして、開演時間となり、場内が暗転。青く揺らめく光の中でバンドメンバーと、最終公演のみのスペシャルゲストである弦楽カルテットがステージに上がり、深い海の底のようなインストナンバーを演奏。続いて、バックライトに照らされた早見が白いワンピース姿で登場したが、このインストは、本編10曲目「フロレセンス」を歌い終えた早見が着替えのためにステージを降りた際にもリプライズされ、“深淵”を意味する17曲目「Abyss」にも繋がっていた。これが2つ目の輪だ。
改めて、まずは10曲目までを振り返ってみると、ライブは、最新アルバム『白と花束』の前作となるミニアルバム『GARDEN』の収録曲である「やさしい希望」「garden」からスタートした。「やさしい希望」で“確かなはじまり”を示した彼女は、スラップベースに合わせてクラップが湧き上がったシティポップ「garden」で“私だけの庭”をカラフルに表現。「東京の皆さん、こんばんは!」と挨拶すると、観客全員から凄まじいボリュームの「こんばんは」という声が返ってきた。「冒頭から皆様の大きなエネルギーを持ったお声と美しい光がビシバシ、このステージに届いております。私も今日は気合を入れて最終公演を作っていきたいと思いますので、皆様も全力でぶつけてきていただければと思います」と意気込みを語ったあと、「全力すぎて2曲目で取れた」という靴のストラップを直し、『白と花束』の収録曲である「エメラルド」へ。
“希望”と“新たな始まり”という石言葉を持つ変拍子のジャズナンバーでは、今回、初めて製作された花束の形をしたペンライトによって、会場全体がエメラルドへと染められた。また、ステージ上には、生花が生けられたポールやドライフラワーの花輪や花束が飾られていた。この3曲で、彼女は、いつでも帰ってこれる、自分の心の中にある庭から外へと足を踏み出し、枯れた花もある現実の花束を持って、光とともに進んでいくという、『GARDEN』から『白と花束』への流れを体現して見せたのだ。
90’S R&Bのムードを湛えた「瀬戸際」からは艶やかなヴォーカルと豊かなグルーヴで観客の体を心地よく揺らした。ピアノの調べによって夜がさらに深まり、「ESCORT」ではエレキベースがタテになり、ジャズの4ビートへと変化する中で、ブルーとピンクの照明がまるでカップルのように踊り、「yoso」では観客が高く掲げた手を前後に振り、盛大なシンガロングとクラップが沸き起こった。
MCでは5年ぶりに国際フォーラムのステージで、久しぶりの声出し解禁ライブであることを報告。また、アルバムのタイトルについて、「光の集合である白と、様々なアーティスト、クリエイターの皆様に楽曲を提供していただいて、1つ1つがまったく個性の違うお花のように咲き誇っている。そんな1曲1曲を花束という意味を重ねた」と説明し、アルバム収録曲「ここでここで」では切なくもキュートなラブストーリーを展開し、生命の歌である壮大なバラッド「Tear of Will」では美しいハイトーンを高らかに響かせ、“光差す新たな日”へと導いてみせた。続く、ヘヴィーなロックナンバー「祝福」では彼女の表情が見えないほどのトーンの落ちた照明の中で“希望だけが残る旅路”へと足を進め、“開花”と“蛍光のダブルミーニングである4つうちのエレポップ「フロレセンス」では、痛みや怒り、弱さをしっかりと心臓に刻みつけながら、ポエトリーリーディングによって、雨が上がって虹がかかったことが知らせ、“夜明け差す方へ”というフレーズに辿り着き、バンドインストへとなだれこんでいった。
ブルー系のドレスに着替えて再登壇した早見は、「4日前に、2番の歌詞をつけたことを思い出しまして。ステージの景色を見ながら、そして、歌ったり、それ以外の表現もしたりしながら、この先の未来を思って作った曲です」と語り、4年半前のツアーで、各会場でワンコーラスずつ作り、当時の最終公演地となった国際フォーラムで歌詞がつき、ワンハーフまで完成していた「curtain」のフルサイズをグランドピアノの弾き語りで披露。“終わらぬ未来を見ていたい あなたと隣で一緒に”というフレーズには、この日、一番と言っていいほどの大きな拍手が送られた。これが3つ目の輪だ。
先のMCでも語っていた通り、早見にとっての全国ツアーは2019年4月に開催された「早見沙織 Concert Tour 2019 “JUNCTION”」以来4年半ぶりとなっていたが、4年半後、同じ会場で「curtain」を観客に向けて贈ったのは偶然ではないだろう。
ここで、「Abyss」と<はじまり>を裏テーマとして、セットリストやライブの構成を考えたことを明かし、アコースティック編成で「glimmer」を歌唱。椅子に座って歌う彼女の歌声は“暗い空から手のひらを伸ばす”ように次第にスケールを拡大していき、遠い空から注ぐ“光”へと到達。そして、早見クイズで観客とのコミュニケーションを楽しみ、「まだまだここから盛り上がっていける人!」という問いかけを合図に後半戦へと突入。
7月12日に配信リリースされた新曲「plan」、<孤独や生きづらさを感じる人の心に寄り添い、光となる音楽を届ける>をテーマに掲げた最初の曲である「透明シンガー」という青春を想起させるアップナンバーで観客のテンションを一気に引き上げ、カオティックなサウンドから夜明けが浮かび上がる「残滓」、絶望の淵から希望を辿るヘヴィーでパンキッシュなジャズナンバー「視紅」、深い深い海の底から水面に煌めく光を見つめる「Abyss」でライブはクライマックスへ。「アルバムの中に込めた光は決して眩い光だけではなくて。強く光ってるものもあれば、弱々しいものもあって。光もあれば、闇もあって。いろんなものを抱えながら、それでも、ここからまた歩き始めたいなという思いを込めて、このアルバムを作っていました。これからも皆さんに、真っ直ぐにお届けできるように、歌って、表現していきたいと思います」と語り、アルバム『白と花束』の一番最後に収録されていた「はじまりの歌」で、“明日は来ると信じ続ける”という希望を胸に一緒に日々を重ねていきたいという願いと、“始めよう 何度でも ここから”というメッセージを届け、ライブ本編は幕を閉じた。
本編の最後をアルバムのラストナンバー「はじまりの歌」で締めた彼女は、アンコールの1曲目にアルバムのオープニングナンバー「Ordinary」を持ってきた。4つ目の輪は、「アルバムをエンドレスリピートしてます。#エン束 という言葉も生み出していただいた」というファンの反響から触発されたもの。「他愛もない1日1日が重なっていって、ここで交わって、同じときを過ごせたことを本当に嬉しく思うし、ここからそれを源に、新しく毎日を始めていきたい」という想いを込め、今日という1日を噛み締めるかのように胸に手を当てながら歌唱。「Jewelry」ではステージを右に左に動きながら、観客に向かって手を振り、“大丈夫”というフレーズを届けると、再び大合唱が巻き起こった。そして、前に進む決意を込めた「Guide」によって、会場全体が優しく温かい光で包み込まれる中でライブは大団円を迎えた。
最後、5つ目の輪は、ファイナル公演で実現したダブルアンコールにあった。アンコールではリメイクしたツアーTシャツを着て、ポニーテールにしていた早見が、ダブルアンコールではライブのオープニングとまったく同じ衣装に着替え、ヘアスタイルも戻していた。バンドによるイントロの演奏中はステージに青い光が照らされ、彼女が逆光の中で登場するという、照明の演出もまったく同じ。これはどういう意図があったのか。本人からの説明はなかったが、“確かな「はじまり」を示している”というフレーズがある「やさしい希望」ではなく、“「はじまり」が遠く光る”と歌う「Awake」での“はじまり”もあったのかもしれない。とにもかくにも、この、ループというだけでは足りない、いくつもの輪がもたらしてくれた、どこか不可思議で心地良い余韻から今もまだ抜け出せないでいる。
■「HAYAMI SAORI Tour 2023 “白と花束”」セットリスト
9月18日(月・祝)@東京・国際フォーラム ホールA
M1.やさしい希望
M2.garden
M3.エメラルド
M4.瀬戸際
M5.ESCORT
M6.yoso
M7.ここでここで
M8.Tear of Will
M9.祝福
M10.フロレセンス
M11.curtain
M12.glimmer
M13.plan
M14.透明シンガー
M15.残滓
M16.視紅
M17.Abyss
M18.はじまりの歌
EN1.Ordinary
EN2.Jewelry
EN3. Guide
EN4. Awake
早見沙織 オフィシャルサイト
https://hayamisaoriofficial.com
早見沙織 Official X
https://twitter.com/hayami_official
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