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INTERVIEW

2023.10.05

『無職転生』との邂逅を経て新たなステージへ――OPテーマ「spiral」も収録されたアルバム『10/4』に込めた想いとパンクバンド・LONGMANが語る

『無職転生』との邂逅を経て新たなステージへ――OPテーマ「spiral」も収録されたアルバム『10/4』に込めた想いとパンクバンド・LONGMANが語る

愛媛出身、男女ツインボーカルの3ピースパンクバンド・LONGMANが絶好調だ。TVアニメ『無職転生Ⅱ ~異世界行ったら本気だす~』のOPテーマ「spiral」が好調なチャートアクションを記録するなかでリリースとなる、約3年半ぶりのメジャー2ndフルアルバム『10/4』には今のLONGMANだからこその新たな挑戦をたっぷりと詰め込まれている。

アルバムは“10/4の色んな人の日記”がコンセプト。また、“ポップ・パンクをメインストリームに”というスローガンの元で制作に挑んだという。ポップ・パンクの新たな金字塔が生まれる瞬間に、我々は立ち会っているのかもしれない。

INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ

『無職転生』との邂逅を経て新たなステージへ

──「spiral」が大ヒットしていることについて、皆さんはどのように感じられていますか?

ひらい 「spiral」は新しいLONGMANを意識した曲調なので、それが受け入れられて良かったなと。ただ、浮かれることなく、あくまで通過点として受け止めています。とても嬉しいことではあるのですが、逆に身が引き締まる思いですね。

さわ 同じく背筋が伸びる思いです。Xでエゴサをするのですが、「spiral」をきっかけにLONGMANを好きになったというコメントも拝見して。中にはライブに来てくれた子もいますし、サブスクの月間リスナー数が一気に増えたんですよ。きっと色々な人が聴いてくれていると思うので、「spiral」で知ってくれた人たちをどうライブに連れてくるか、ってところを考えています。

ほりほり 友人の知り合いが「spiral」からLONGMANのライブ映像に辿り着いて、「想像以上に激しい」「ライブに行って大丈夫なのかな?」と少し不安になったという話を聞きまして。そこのギャップが今回のアルバムで埋められるんじゃないかなとは思っています。

ひらい 「わかる人にわかればいい」というのは卒業したいなと思っていて。前衛的だけど大衆にも受け入れられている、という立ち位置になっていけたらなと。今回のアルバムは“ポップ・パンクをメインストリーム”に、というスローガンの元で作っていたので……そういう意味では、「spiral」のあとのこのアルバムが勝負になるだろうなと思っています。

──アルバムにも収録されている「spiral」の制作について聞かせてください。『無職転生』第2期OPのオファーを受け、どのような気持ちで制作に向かっていったのでしょうか。

さわ 『無職転生』と言えば、大原ゆい子さんのイメージがとても強かったんです。主題歌がLONGMANという情報が出たとき「大原ゆい子さんじゃないんだ」という声もやはりあって。

ひらい でも、それは言われると思っていました。第1期を見ながら曲を作っていたのですが、大原さんの曲がすべて素晴らしくて……相当良いものを作らないと受け入れてもらえないだろうなと思っていました。そういう意味では、一旦受け入れられて本当に良かったなと。

ほりほり 『無職転生』で主題歌を担当することが決まってからアニメを観始めたんですけど、ハマりすぎてしまって(笑)。僕はめちゃくちゃアニメに詳しいタイプではないんですが、僕のような普段はアニメを見ない人たちにも刺さるような世界観があるなと。その世界観に上手くマッチできる曲を作れたらとは思っていました。

──制作はどのように?

ひらい アニメ制作サイドと綿密にやり取りをしながら作っていきました。デモの段階では6曲作っていたんです。そこからさらに絞っていって、最終的に「spiral」に。ツアー中だったので大変ではあったんですけどが、充実した制作でした。具体的なリクエストをいただけたことで、新たな扉を開くことができましたね。

──今回もずっと真夜中でいいのに。や緑黄色社会などを手がけるNaoki Itaiさんが編曲で参加されています。Itaiさんの存在というのも大きかったのでは?

ひらい めちゃくちゃデカかったですね。バンドサウンド以外のピアノ、バイオリンはほぼItaiさんが担ってくださっていて。しかもItaiさんも『無職転生』が好きだったんですよ。だから雰囲気をより作品に近づけてくださったので、非常にありがたかったですね。

さわ 頭の水の音もItaiさんが入れてくださっていて。私たちだけだったら、あの音は入れられていなかったと思うんです。あの音のおかげで『無職転生』の世界観とのリンクが生まれたなと思いました。

ひらい しかもアニメ映像も雨が稲穂に落ちる瞬間にしてくださっていて、感動しました。それに、第4話までは毎回違うパターン。めちゃくちゃ愛を感じましたね。

──「spiral」が出来たときの感覚って覚えていらっしゃいますか。

ひらい 「イケる!」と思いました。良いものができたと。

さわ 「(ひらいに対して)天才だ!」と思いましたね。実際にLINEですぐに「天才!」って送ったんですよ(笑)。歌詞もルーデウスに寄り添ったものになっていて。『無職転生』のいちファンとして嬉しかったです。

ほりほり 僕も純粋に「良いな」と思いました。日本語詞の乗せ方がより上手くなった気がしました。元々(平井が)日本語詞を歌うのが苦手って言ってたんですよ。

ひらい 日本語よりも英語のほうがやりやすかったんですよ。日本語だと、一文字でダサくなってしまうところもあるじゃないですか。それで苦手意識を持っていました。

ほりほり 全然苦手意識を持つ必要はないんじゃない?と思いました。そういう意味でも変化があったと思います。

“ポップ・パンクをメインストリームに”

──先ほどアルバム『10/4』は「ポップ・パンクをメインストリームに」がスローガンになったというお話がありました。それは「spiral」がきっかけだったのでしょうか?

ひらい アルバムを作り始めたのが今年の2月くらいだったんですが「spiral」と前作の「ライラ」(アニメ『ラブオールプレー』EDテーマ)の存在が大きかったです。Itaiさん、江口(亮)さんが編曲に入ってくださったことで、パンクを基盤にした自分たちの曲に今まで以上に可能性を感じるようになりました。「spiral」や「ライラ」で学んだことも入れています。

──本作は“10/4 の色んな人の日記”というコンセプトとなっていますが、それはどういう意図で?

ひらい 今までとは違うことをしたい、という想いから「コンセプトアルバムにしよう」と。そのときに色々なアイデアが出たんですよ。そのなかでさわちゃんが出した、「色んな人の同じ日の日記をドラマのように作るのは?」というアイデアが面白いなということになって、発売日である10/4……つまり秋を意識して曲を制作していました。歌詞も、自分の経験ではない、ある種小説を書くような感覚で書くことができて。自由度を高く作れたなと、今になって思いますね。

──バンドは生き物だとよく言いますが、LONGMANは変わることを恐れずに進んでいるバンドなんだなと。それは本作を聞いても思いました。

ひらい 核となる部分は変わらずに、上手いこと変わっていきたいなと(笑)。それはバンドとしての1つのテーマですね。今までのパンクロックをただ踏襲するのではなく、自分たちで新しいものを加えて、唯一無二の曲を作りたいという想いがあって。やっとそれが、少しずつ形にできるようになったのかなと。

──J-POPの力も借りつつ。

ひらい そうですね。それと、リズムはHIP HOPも参考にしています。

──それこそ10曲目の「Chei」にはラップも入ってますものね。

ひらい (アメリカの)マシン・ガン・ケリーというパンクアーティストが僕はすごく好きで。マシン・ガン・ケリーがHIP HOPが出自なので、HIP HOPのリズムにパンクサウンドを乗せていて。勉強になりますね。コロナ禍で時間もあったので、色々なインプットもできました。

──今回のアルバムで最初に出来た曲というと?

ひらい デモ自体は4、50曲くらいあったんですよ。そのなかからみんなで話し合って。

さわ 「こっちの雰囲気をこの曲に入れてみようか」とか。雰囲気やバランスを整えたうえで考えていきました。このアルバムを作るとき、「絶対にライブに繋がる1枚にしたい」という想いがあったんです。

ひらい 当時はまだコロナ禍だったので、色んな部分で崖っぷち感を感じていて。「自分たちの好きな曲を入れよう」と、出し惜しみなくベストな曲を入れました。それと、このアルバムが出る頃にはきっとコロナ禍も落ち着いているだろうという希望もありましたね。それであればライブで楽しめるものにしたいなと。

──では、曲のことについて具体的に聞かせてください。お馴染みの“LONGMANはじまるよ!”から本作も始まっていて。「Opening」から、ライブへ誘うものとなっていますね。タイプライターの音も入っています。

さわ 頭のタイプライターの音は、今回のコンセプトをイメージして入れたものです。今までのアルバムも大切で大好きなんですけども、今までやってきたからこその、一番良いLONGMANの“Opening”が出せたなと感じています。

──「Opening」に続く「Festa」は2人の声から始まるLONGMANを象徴するような曲ですね。学園祭を舞台にした物語です。

ひらい 昔観た「リンダ リンダ リンダ」という映画のワンシーンに、文化祭でTHE BLUE HEARTSのコピバンシーンがあるんですよ。あれがめちゃくちゃ良いなと。そのイメージで作ってきました。

さわ 「Festa」は今の中高生の心を動かす部分があると思っていて。大人になった人たちも、昔を思い出して淡い気持ちになってもらえたらなと。私自身、中学校の学祭で1個上の先輩のステージを見て感動した経験があったんです。いつか学校のイベントでバンドをやってみたい!と思って、その後、高校の卒業ライブでCHARCOAL FILTERのコピバンをして。今バンドをやっているのも、あの経験があったからかも、と思っています。

──さらに「ライラ」に続くというのも良いですね。同じ青春ではあるけれども……。

ひらい ただ楽しいと、悔しいけど頑張ろう、という1日があって。色々な1日がありますね。

──3曲目「プロローグ」はサウンドプロダクションが現代的と言いますか。2人のボーカルがより活きていますね。

ひらい 今までは1番を作ったらそれの繰り返しでCメロをつけるという形でしたが、去年くらいから1番と2番の内容を変えていて。最近のJ-POPがそういう傾向なので「おもろそうだな。でも大変やろうな」と。いざ自分もやってみたら楽しかったですね。飽きずに聴けるし、ツインボーカルの良さも活かせるので、それも発見でした。

──“あとどれくらい続くのかな”のCメロでは、ひらいさんの声が一行ごとに変わっていくことも印象的でした。

ひらい そうなんです!1オクターブ上げていってます。さわちゃんに歌ってもらってもいいのかなと思ったのですが、そこは決意表明でもあるから1人で歌ったほうが説得力があるかなと思っていました。

──「spiral」のあとはラブソングの「Break up」は日本語ということもあり、9曲目の英語詞によるラブソング「I LOVE HIS SONG I COULD DIE」とは違った雰囲気に。私の一番好きな曲です。

ひらい わ、それは嬉しいですね。マイナー調で日本語でラブソングで……っていうのは自分たちの中での挑戦だったんです。サウンド的にはすごくカッコよくて。特にドラムの音が刺激的で、僕もお気に入りです。パラモアをちょっと意識していました。

──この曲には「10月4日」という言葉が唯一入っていますね。

ひらい 入れてしまいました(笑)。どこかには入れたいなと思っていて。でも安直かなとも思ったんですけど、イメージしやすい歌詞を書きたいなと。

さわ ひらいさんから「やりすぎかなぁ」って連絡がきたんですよ(笑)。でも、「いいよ、絶対に入れよう!」と。ほかの曲にも言えることなのですが、主人公を想像できるところも良いなって。それが楽しいなと思っていました。

ひらい 色々な人の1日=人生でもあると思うんです。一人ひとりの人生を描けたらなと思っていました。

次ページ:映画のような満足感のある曲に

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