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REPORT

2023.10.01

京都の空に響いた、日本が誇るアニメシーンを彩る劇伴音楽――“京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023”ロングレポート

京都の空に響いた、日本が誇るアニメシーンを彩る劇伴音楽――“京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023”ロングレポート

日本が世界に誇るアニメカルチャー。主題歌を歌うアーティストが海外でのライブで大歓声に迎えられることや日本語の歌詞での大合唱が巻き起こることなどは、そうしたライブを経験してきた数多くのアーティストの言葉から広く知られるが、実は海外のアニメコンベンションやイベントで非常に大きな関心を集めているのが「劇伴」である。アニメのシーンを彩った楽曲たち、物語を雄弁に語る音の粒子。そうしたものへのリスペクトを体感した一人の劇伴クリエイターが「日本で生まれた劇伴音楽を日本で奏でなくては!」と奮起し、生まれたのが世界初の劇伴音楽フェスである。

その発案者である林 ゆうきが劇伴フェスの「エピソード0」である“京伴祭”を風雨の中の上賀茂神社で無観客での開催をしたのが2022年のこと。後に東京でも“東京伴祭”を開催し、いよいよ本格始動を果たしたこのフェスが京都に帰ってきた。京都発のアニメコンベンション「京まふ」の協力のもと、京都・梅小路公園で開催された劇伴による野外フェス“京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL-2023”を現地よりレポートする。

TEXT BY えびさわなち

劇伴音楽をフェスで、しかも野外で開催したい――京都出身の作曲家・林 ゆうきがその開催場所として選んだのは京都水族館、そして京都鉄道博物館も近い梅小路公園。まだまだ酷暑と呼べるほどの日差しと灼熱の気温のなか、登場した林。イベント公式グッズの扇子を手にし、同じく公式グッズの手ぬぐいを首にかけて立つと「こんにちはー!」と大きな声を出す。芝生に座って開演を待っていた観客から「こんにちはー!」と声が返ってくると、笑顔を見せ、イベント開催への熱い想いを届けると、そんなイベントの最初の出演者であり、共にイベントを開催する仲間でもある宮崎 誠を紹介。大きな拍手が巻き起こり、宮崎のステージがスタートした。重厚なSEの響く中でステージへと姿を現した宮崎は手にしたギターから印象的なリフをかき鳴らし、アニメ『ワンパンマン』より「正義執行 第二撃」の音がイベントの始まりを高らかに宣言したのだった。

林 ゆうきの盟友がクラップで梅小路公園を1つに!

ストリングスの美しくも勇壮な音色とオーディエンスの鼓動を逸らせるようなビートが京都の街へと広がっていく。アグレッシヴながら琴線に触れるようなピアノの旋律に胸を掴まれた梅小路公園にステージと会場一体となってのクラップの音が響き、ライブは「Genos fights」へ。サイタマの弟子にして実力派のジェノスながら、物質的にも性格的にも硬派な性質を見事に表現したアッパーでラウドなエレクトロチューンが真っ青な京都の空へと昇っていく。ライブはそのまま叩きつけるようなビートで響く「Metal Bat」で熱を放つ。真っ直ぐな金属バットを彷彿とさせる、ストレートでパワフルなナンバーに会場からは拳が上がる。続いたのは「Fubuki」。地獄のフブキそのままに、ファッショナブルな空気とビッグバンド感のあるサウンドが軽快に響き、サックスの中村有里のソロにオーディエンスは釘付けだ。序盤から息をもつかせぬ怒涛のライブで魅せる宮崎。

ライブは、続く作品アニメ『Fairy gone フェアリーゴーン』の世界へと客席を誘う。「EASTALD」は作品の象徴でもあるドラマティックな1曲。物語の舞台でもあるイースタルドの名を冠にし、妖精の軍事利用によって終戦した統一戦争の過酷な歴史から、焦土から立ち上がる人々の想いまでもが宿る叙事詩的な1曲を、ストリングスの壮大なハーモニーとバンドの音とで紡ぐエモーショナルな時間だった。

このイベントが大好きだと言う彼は、続けて絶賛放送中のアニメ『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』の楽曲を披露。劇伴を作る前に原作を一気に読み切ってしまったという宮崎。会場に向けてクラップを求めるようにアクションすると、一斉に腕が上がり、大きなクラップビートが刻まれるなか「ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~BGM」で軽快なビートと威勢の良い掛声とで紡ぐ、お祭りのようなテンションで会場を沸かせた。『ゾン100』のエレクトロを軸にした軽やかなBGMでは、観客も体を揺らしてビートにノる。

勢いそのままにステージはアニメ『SPY×FAMILY』のメインテーマ「STRIX」が響くと、会場に来ていた子供たちが手を上げて喜ぶ姿が。現代版スパイ大作戦的なスリリングさとフォージャー家ならではの艶あるゴージャスなジャズナンバーが梅小路公園を席捲する。ストリングスが静謐な音を紡ぐと「Looks like a nice family」が会場に染みわたるように響く。優しさと光に満ちた1曲が、家族連れの多い会場にその温かみを感じさせた。さらに躍動感ある「Bondman」で金管楽器の軽快な音と跳ねるリズムで楽しませた宮崎は、曲の終わりに自身の音楽観を語り始める。なぜ音楽を作るのか――それは誰かが少しでもハッピーな時間を過ごせるように、笑顔になれるように、という想いがあってのことだ、と劇伴祭でより強く感じるようになったと話すと、最後はアニメ『サクラクエスト』から「Wisteria」を響かせる。物語の舞台でもある田舎町の野間山の景色や、そこで暮らす人々の呼吸までもが聞こえてきそうな、ドラマティックなサウンドを生楽器の演奏で聴かせる至福の時間。宮崎の音楽が会場に集う観客を、配信で見ているファンを幸せな笑顔で包んだのだった。

古都・京都で響く、古を宿す音楽

アニメや文化を支援している京都市長と林とのステージ上での対話を挟み、2番目の登場となったのは岩崎 琢だ。

京伴祭初登場となる岩崎。甚平姿の岩崎が手にした扇子を高く上げると、吹奏楽のように重厚な金管楽器の音が響き出す。アニメ『天元突破グレンラガン』から「お前のXXXで天を衝け!!」だ。デジタルダンスビートと荘厳なストリングスの音とが絡み合い上昇していく1曲を、大きく腕を揺らしながら聴かせる岩崎に、会場のオーディエンスも立ち上がり、跳ねる。オーケストレーションされながらも軽快なビートが印象的な1曲は日を浴びる野外会場にとても似合う。

そんな岩崎サウンドは2曲目にして会場の空気を一変させる。アニメ『ヨルムンガンド』の「The first step to escape from complex」の異国感あるイントロからのラウドなデジタルサウンドは、野外フェス会場を一気にダンスミュージックのグルーヴのるつぼへと連れて行く。ガンアクションで魅せるシリアスでスリリングな世界観を一気に体感させる、岩崎らしい表情と展開のあるエレクトロ交響曲とも呼べる1曲のあとにはスペシャルゲストとしてビーカリストのロータス・ジュースを呼び込んでアニメ『文豪ストレイドッグス』から「you are very good for nothing」が響く。会場のビジョンには芥川龍之介とナサニエル・ホーソーンのバトルシーンが。ブレイクビーツと英語ラップとサックスとで聴かせる1曲を、リズムマシンを手にフロントまで出てきた岩崎とロータスのパフォーマンスで鳴らした。

続けて、もう1人のスペシャルゲスト・福岡ユタカを招き入れると、アニメ『刀語』から「Bahasa Palus」を放つ。自身の声を楽器として扱い、エフェクトをかけて独特の音を生み出す福岡と岩崎が紡ぎだすオリエンタルな旋律、ロータスのラップとが絡み合い生まれる唯一無二のグルーヴで生み出す『刀語』のサウンドが古都・京都を侵食していく。

続けて畳みかけるようなデジタルビートが疾風のように響くなか、アニメ『ノラガミ』の「野良譚」が梅小路公園を駆け巡る。日本の神を題材に現代和風ファンタジーバトルを彩った1曲が、七福神発祥の地でもある京都に広がっていく。和楽器を思わせる音が紡ぐ旋律と現代的なダンスビート、そして福岡の声の波動で響かせる熱いアッパーチューンにオーディエンスも躍り出していた。サンバのビートと岩崎のホイッスルから幕を開けたのはアニメ『魔法科高校の劣等生』の「code break」。躍動するサウンドで軽やかにステップを踏む岩崎とロータス、観客も芝生の上で跳ね、軽快なロータスのラップにオーディエンスが手を振る。そんな岩崎のステージのラストを飾ったのはアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 戦闘潮流』の「Overdrive」だ。ジョジョの戦いの日々をスタイリッシュに、しかし熱い潮流の如く彩った1曲が晴れ渡る京都の空へと広がっていった。

京都の空に響け!「Never seen landscape」!

3番目に登場したのは、加藤達也。岩崎に同じくイベント初出演となる劇伴作家だ。ステージセンターに置かれたキーボードに着席すると、加藤のチームメンバーとしてボーカリスト・Zinee&isseiが紹介され、1曲目はアニメ『Dr.STONE』から「STONE WORLD」を披露。まるで不思議な世界へと迷い込んだような、ファンタジックな旋律で紡がれるナンバーで会場は一気に千空たちの目覚めた滅びの先の世界へ。男女の二色のボーカルとケルトの風を思わせる音が広がっていく。ストリングスの音色と重なることで、生きることの喜びが宿るサウンドに観客は聴き入っていた。さらに、バイオリンが奏でる旋律とビアノの音で始まる「Won’t Give Up(For Live Size)」はまるで言葉を差し出すように歌い上げるZinee&isseiの歌声がドラマティックに響き、染みわたっていく。劇伴ながら、希望を優しく歌い上げるナンバーをこの日のために用意されたアニメの映像と共に堪能するオーディエンス。

そして、このイベントは林 ゆうきの力が大きいと話す加藤。これまでのフェスの模様を見て、出演への想いを高め、満を持しての出演となったのだとか。続いて、アニメ『TRIGUN STAMPEDE』からメインテーマ「TRIGUN STAMPEDE」が演奏される。原作の完結から10年以上の時を経て制作された「TRIGUN」シリーズの最新作。ヴァッシュとメリルの内に渦巻く血潮を音にしたようなダイナミックさと世界観を投影した、スペシフィックなスケール感のあるエモーショナルな1曲が梅小路公園を圧倒していく。

さらに同作よりシリアスなストリングスの旋律と重厚な音、賛美歌のような美しさと命の力強さとを宿すボーカルとで紡がれる「MILLIONS KNIVES」の2曲を響かせると、自身の爪に施してきたネイルアートに描かれたアニメ『アイドリッシュセブン』の曲を披露。(この日、七瀬 陸が爪に描かれていた!)まずは感情を吐き出すようなストリングスの音色と轟くバンドの音、そして力強く伸びやかなボーカルとで聴かせる「We the black hole!」で苦悩の中でも立ち上がる強さを見せたアイドルたちの姿をここ京都に刻み付け、さらに「UNTOUCHED PRiDE」は希望へ向かって駆けだす彼らの想いそのままの、真っ直ぐで光を浴びるような1曲。会場に集まっていたファンは大きく手を挙げて楽曲の想いに応える。ビジョンに映るアニメの映像で「あんなことがあった」「そうだ、このときにはこんな想いだった」とファンは気持ちを蘇らせていたことだろう。ライブで、その感覚を味わえるのは京伴祭ならではかもしれない。

そんな加藤が口を開く。自身にとって京都は特別な場所である、と。京都が、日本が世界に誇るアニメーション制作スタジオ・京都アニメーションのお膝元であるこの場所で、京アニと共に紡いだアニメ『Free!』の音楽を鳴らす。誕生から10周年を迎えたこの作品から、まずは「Into the new world」が響く。会場では多くの観客が立ち上がり、手を広げ、クラップのリズムで楽曲に参加する。七瀬 遙が、橘 真琴が、松岡 凛が、山崎宗介が、椎名 旭が、桐嶋郁弥がビジョンの中で力強い泳ぎを見せ、音が彼らの息遣いを感じさせる。続けて「Rhythm of new sensation」の軽やかなビートと軽快なストリングスとサックスの音色とで生み出す多幸感溢れる空間に、観客は自然と笑顔になっていく。さらに『劇場版Free!-the Final Stroke-』のテーマソング「We could be free」では、彼らの想いが飾らない言葉で英詞となって綴られていくような、パワーを宿す劇的な音が広い会場の奥まで、さらにその先まで、広がっていくのを感じさせた。

圧倒的な存在感の1曲を全身で堪能したところで、最後にもう1曲『Free!』から「Never seen landscapes」。「みんな、一緒に口ずさんでね」と加藤とZinee&isseiの言葉の通りに、昇っていくストリングスの音と力強いバンドの音ともに「Wow wow」と声を上げる梅小路公園のオーディエンス。胸震える一体感がこのイベントの真価を見せた。「ありがとう!」と作品を愛する人たちから声が上がり、京都の地に響いた京アニの名作の音楽へ、共に歌った観客が鳴らす大きな拍手はなかなか止むことがなかった。

京伴祭・桶狭間の乱、開戦!

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