“京伴祭”初出演の桶狭間ありさが登場。アニメ『呪術廻戦』から、挨拶代わりとばかりに「虚式『茈』」の和旋律を主軸としたエレクトロを響かせると、ステージから客席の方へと降りて腕を上げながらオーディエンスを煽っていく。百鬼夜行さながら、妖しさと鋭い旋律が展開していくこの曲。ビジョンに映る五条 悟の戦闘シーンに、会場の子供たちが飛び跳ねる。
野外ライブを見に来るのも初めてかもしれない、と思うほど親子連れの多い会場で、子供たちが初めて浴びる生演奏による劇伴の躍動感。疾走するサウンドに美しくも劇的なバイオリンの音が情感を加えていく。「会場の皆さん、配信の皆さん、初めまして」と挨拶すると、「京伴祭、桶狭間の乱、開戦!」と声を上げ、おもむろに取り出したほら貝を吹いて戦いの火ぶたを切って落とす桶狭間。時はまさに天下分け目の戦い・関ケ原の合戦の起きた時期に近く、京都の地での開戦とあっては熱くなることは間違いない。
そんな予感をさせるように風が吹き抜ける梅小路公園で彼女が響かせる2曲目は、同じく『呪術廻戦』から「7:3」。桶狭間曰く、めちゃめちゃライブ映えする激しい曲である1曲。ピアノとストリングスの情緒感ある音からデジタルビートが轟くアッパーチューンへと変貌すると、会場のオーディエンスがビートにノって跳ねる様子が印象的だった。戦闘シーンの勢いをそのまま織り込んだようなその音に、海外からのファンも声を上げる。広大な屋外会場ながらライブハウスのような熱を放つ“京伴祭”。続いて、アニメ『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』の「SEOUL TEAM (FilmScoringVer)」が響き出す。
彼女にとって初めての劇伴制作作品である本作は、フィルムスコアリングで音楽制作がされたという。アニメの映像に合わせて、キャラクターたちの呼吸と共に音が鳴るという映画的な音の付け方をした作品。アニメ第5話の映像をそのまま使用し、フィルムスコアリング同様に音を響かせる、というライブで改めてフィルスコを体感させる桶狭間。これぞ劇伴のフェスの醍醐味の1つ。疾風のようなバトル映像に、エモーショナルなストリングスの旋律と鍵盤を叩くように鳴らす桶狭間のピアノの音が躍る。そして最後は、彼女自身が思い入れ深いというシーンを、そこで流れた音楽と共に聴かせる。そのシーンは『劇場版 呪術廻戦0』から「This Is Pure Love」。五条と夏油 傑のワンシーンを、静かなピアノの旋律で奏でられ、つま弾かれる鍵盤の音に、ストリングスとアコースティックギターの繊細な音が重なる。ぽつりぽつりと音をこぼすような1曲が、親友であった2人の在りし時を、ゆっくりと紡ぐようだった。最後は暖かな拍手の中、「桶狭間の乱」の終戦を知らせるようにほら貝を吹き、桶狭間はステージを降りた。
劇伴による音楽フェスの立ち上げメンバーの1人である高梨康治がステージへ。今年も国内外のアニメイベントからのオファーが絶えない高梨と刃-yaiba-のメンバーが、躍動する最初の1曲を響かせる。まずはアニメ『FAIRY TAIL』から「ドラゴンフォース」だ。ファンタジックな世界観をより一層熱く彩るような、ケルティックな旋律が響く1曲を、ショルキーを手にした高梨が掻き鳴らす。ストリングスの壮大な音がバンドの音と共に轟くと、会場のオーディエンスは大きく拳を上げて応えた。
ナツや仲間たちの戦いの日々が、その勇壮な楽曲から蘇る。続いたのは、高梨が一推しだと公言するエルザのための1曲「エルザのテーマ」。凛とした芯の強さを感じさせ、ラウドに轟く重厚なゴシックメタル。ギターの藤澤健至がエッジの効いた音を響かせれば、負けじとショルキーで音を奏でる高梨。ストリングスがそんな1曲に美しく繊細なエルザのキャラクター性を乗せていく。ステージを右へ左へと駆けながら、会場を煽る高梨にオーディエンスのテンションも上昇し、それまでのどこか牧歌的な観覧スタイルからスタンディングライブへと変貌させていく。さらに『FAIRY TAIL』から「最後の魔法」へ。戦いへ向かうナツたちの奮い立つ心が宿るような、壮大かつドラマティックな楽曲。映し出される映像には、何度でも立ち上がる彼らの姿。信じる心、繋がる想い、不屈の信念、作品がファンへと届けたものを、アニメが終わってからも高梨の演奏が届ける。そして「FAIRY TAILメインテーマ2014」は物語自体を感じさせるような一大叙事詩的な1曲。前へと進んでいく彼らの背中を押すような存在感ある1曲を演奏しながら、客席の目前まで歩を進める高梨。異国感ある旋律が躍動しながら轟くと観客はその音を浴びるように大きく手を上げた。
続いて、アニメ『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』からメインテーマ「BASTARD!!」が響き、アニメの世界観を思わせるゴシックメタルの重厚な音が轟く。畳みかけるように叩き出されるドラムのビートに、賛美歌のような人声が響く。漆黒のサウンドと光の音、その両面を持つ1曲に主人公のダーク・シュナイダーの姿が浮かぶ。ここで、藤澤が劇伴を担当するアニメ『バキ』の「刃牙 OAD M01」をかき鳴らす。この曲は『バキ』のために最初に作った1曲であり、刃-yaiba-の和太鼓・茂戸藤浩司も制作に参加したというラウドでタフなロックンロールナンバー。元々『バキ』のファンだった藤澤が、同作のファンである茂戸藤を誘って制作した1曲は、彼らの息の合ったグルーヴと共に京都の空を駆け上がっていった。
再び高梨がステージへ。ここから20周年を迎えたアニメ『NARUTO-ナルト- 疾風伝』の劇伴コーナーへ。三味線の-KIJI-が呼び込まれると、茂戸藤の「ハッ!」の掛け声も飛び出して、気合が高まっていく。まずは『NARUTO-ナルト- 疾風伝』のバトルシーンの象徴的な「動天」だ。中村有里もステージ前へと出てきてエアロフォンを響かせると、向き合うように高梨が鍵盤を叩く。ストリングスがドラマティックに楽曲を彩ると、音は会場を席捲していく。ビジョンにはナルトとペインの戦いが。古都を震撼させる忍者ロックにオーディエンスは拳を上げた。疾風怒涛の三味線の旋律から幕を開ける「臨界」では、轟くビートに会場からクラップが湧く。林 ゆうきの出番までに会場のテンションをマックスまで引き上げたいという高梨が、世界各国でやっている恒例の掛け声として、ナルトのセリフ「だってばよ!」を叫ぶ。すると会場も「だってばよ!」のコール&レスポンスが響くと、ライブは一気に終盤へ。
『NARUTO-ナルト- 疾風伝』の代名詞でもある「NARUTO Main Theme ‘16」では茂戸藤の「ハッ!」「ソイヤ!」の声と和太鼓、そして-KIJI-の三味線、藤澤のギターに中村のエアロフォンが重厚かつ軽快な音を響かせると、ラストは戦闘シーンを躍動感いっぱいに彩ってきた「形勢逆転」へ。会場を駆け抜ける疾風のサウンドは、“疾風伝”の名の通りの勢いと熱を宿す1曲。ドラマティックな展開で戦闘の形勢が変化していくのを感じさせ、鼓動を逸らせるメロディにオ-ディエンスは腕を上げて熱を返していく。世界を熱狂の渦に巻き込む高梨の渾身のステージに、オーディエンスは大歓声で応えたのだった。
“京伴祭”会場が夜の帳に包まれる。星が瞬き始めた空の下、イベント最後の出演者である林 ゆうきがステージへ。扇子を開き、恭しく頭を下げる林。「お待たせしました」と笑みを浮かべる林は、「最高のスタッフと、最高のミュージシャンの皆様と、最高のお客さんに集まっていただけて、こうやって(フェスを)やれて本当に嬉しいです」と、感謝を伝えた。
1曲目はアニメ『ポケットモンスター』の「みんなでいっしょに!」。この曲にコーラスで参加していた五阿弥ルナがたまたま会場にライブを見に来ているということで、ステージに招くと、来場する子供たちも喜ぶカラフルな音に彩られたアッパーチューンを響かせる。バイオリンやピッコロの音が歌うように奏でられる1曲を五阿弥の軽やかな歌声と共に聴かせると、続いたのはアニメ『君は放課後インソムニア』の「無敵のふたり」。不眠症で眠れない男女の高校生のラブストーリーに向けて制作された、深淵につま弾かれるような柔らかな1曲。天文学部で星空を見上げる2人を彷彿とさせる夜空へ向けて、ステージのミュージシャンたちが音を放っていく様が印象的だった。そしてアニメ『バクテン!!』のメインテーマ「Blue Feather」が続く。自身もここ京都で男子新体操部に所属し、大会に出ていたという林が「今日も男子新体操部の子が来てくれていると思う」と話すと、会場後方にいた制服姿の男子高校生たちが手を上げた。部活を終えて来場したのかな、というタイミングでやってきた男子高校生たちがいたのだが、彼らは男子新体操部だったのだ。そんな後輩たちの眼前で、凛とした美しさと、ほとばしる汗の輝きや演舞する者たちへ向けて天井から注ぐ光を思わせるストリングスとピアノ、そしてバンドの躍動感漲る音で紡がれる壮大な楽曲が響く。
さらにアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』からメインテーマの対となる「竜の騎士」が響く。ダイと父・バランの激闘のシーンと共に響く1曲。演奏する林の手の甲にも、ドラゴンの紋章が浮かび上がる!?道を違えた親子の死闘は、見ている者たちの心に消えぬ熱を灯した、そんなエピソード。主人公・ダイが進む道の前に立ち塞がった大きな存在、それこそが父だった。2人の心の動きまでも届けるストリングスの音が琴線に触れる。アニメを見たときと同じく胸が熱くなったあとには、林の代表作の1つ、アニメ『ハイキュー!!』の楽曲を聴かせるターンへ。ここでスペシャルゲストのバイオリニスト・Ayasaが紹介される。第2期のメインテーマ「”上”」のバイオリンを弾いていた彼女を迎え、チェロと共に躍動感いっぱいの旋律を聴かせる。“堕ちた強豪 飛べない烏”と呼ばれてきた古豪・烏野高校の躍進を感じさせたメインテーマに、スクリーンで流れるアニメでのドラマティックな展開が迫りくる。そして最後のエピソードを描く劇場版の制作が発表されたこともあり、その相手でもある鴎台高校を象徴する軽やかなナンバー「カモメ」でも雄弁なチェロと躍るようなバイオリンの旋律とで、星海光来と日向翔陽との色の違いや出会いの衝撃を感じさせると、今度は日向と影山飛雄のステップや息遣いを彷彿とさせる「神業速攻」へ。試合中の、体育館での足音やステップ、ボールが加速する様までも感じさせる1曲に会場ではオレンジのペンライトが揺れた。
ライブのラストは林の代表作のもう1つ、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のセクション。林にとっては、このイベントに参加した観客一人ひとりが“ヒーロー”だと言う。そんなヒーローたちへ向けて、ヒーローの歌を送りたいと響かせるのは「You Say Run」。主人公・緑谷出久に向けて「走れ」と鼓舞するような、ヒーローの卵である有精卵たちへとエールを送るように京都を震わせるように鍵盤を叩く林。熱を帯びながら奏でられる1曲に、観客は緑のペンライトを振って応える。続く「My Hero Academia」はデクたち、雄英高校1年A組の生徒たちが、初めてヴィランに襲撃されたときの映像と共に響く交響曲のような大きな力を感じさせるナンバー。ストリングスの音色が園内を駆け巡り、オーディエンスの心を熱くさせていく。演奏をしながら笑みを浮かべる林。そしてライブは会場のクラップの音を巻き込みながら「「好敵手」たちと書いて「同級生」と読む」へ。楽しそうに演奏をする林。そのテンションと同じくオーディエンスも体を揺らしライブを楽しむ。中村のサックスが軽快に響くと、ピアノも軽やかに歌い出し、会場は「楽しい!」という気持ちで1つになっていく。
本来、ライブ本編はここで終わりだったが、このままアンコールに突入!ロックバンド・Dizzy Sunfistのボーカリスト・あやぺたがステージに登場し、『僕のヒーローアカデミア』の文化祭シーンでお馴染みの「Hero too」が響き出す!この曲では特にやることがないという林はステージを降り、客席へ缶バッジを配りに行く。客席前方へ押し寄せるオーディエンス。その一人ひとりに笑顔を向けながら、感謝の気持ちを込めてバッジを配る林。伸びやかな歌声で会場を煽るあやぺた。
彼女が歌い上げる軽快なバンドサウンドを、観客は全身全霊で楽しんでいた。最後は出演者全員がステージに上がり、観客と記念撮影。この日を忘れない――そんな想いが滲む瞬間で幕を閉じたのだった。海外では人気の高い劇伴ライブ。その大きな形となる劇伴フェスが、これからも続くことに期待したい。ぜひ来年も京都でこのイベントが観られますように!
●イベント情報
京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023
【⽇程】2023年9⽉16⽇(⼟)
【会場】梅⼩路公園
【共催】懐⼑、京都国際マンガ・アニメフェア実行委員会
【制作】グラウンディングラボ
【運営協⼒】ボスコーポレーション / サウンドクリエーター
【総合プロデューサー】島津真太郎
京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023 公式サイト
https://www.kyobansai.com/kyoto-2023
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