初のワンマンライブの直前に、これまでの自身の楽曲とは雰囲気を変えたファンタジックな配信シングル「ヒトコキュウノ」を発表し、さらにリリース直後にライブで披露してファンを驚かせた山下大輝が、「ヒトコキュウノ」に続いて再びファンタジーの世界を滲ませる新曲「シークエル」をリリースする。「物語」を意味するタイトルを冠したこの1曲は本の世界に夢中になる女の子の視点で描かれている。想像と現実とを行き来する中で少女が出会うものとは。そんな「シークエル」を視覚的に表現するのはイラストレーターのさわと動画クリエイターのえむめろ。音楽で、歌で、アートワークで、と三位一体の“作品”が完成した。ストーリーテラーとして楽曲を制作し、共にアートワークを制作するクリエイターを見つけ出した山下が「シークエル」に込めた想いを語る。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――まずは初ワンマンライブの感想をお聞かせください。
山下大輝 めちゃくちゃ大成功だったなと思いました。たくさんの人が来てくださって、非常に喜んでくださっていることを肌で感じましたし、声出しOKだったので、コール&レスポンス的なこともやらせてもらえて、めちゃくちゃ大きい声でノってくれて、表情も豊かで、笑ってくれるし、驚いてくれるし。本当に楽しかったな、と。大満足のライブになりました。色んなことがありすぎて、何から話せばよいのやらというくらい思い出が詰まった1日でした。
――ライブ前にお話を伺った際には、怖いとおっしゃっていた印象が強かったのですが、その想いはいかがでしたか?
山下 やっぱり初の試みというか。声出しOKで、生バンドで、コール&レスポンスをやって、ゲストの方もいて、しかもゲストの方の曲を歌うというのは自分の中でも盛だくさんすぎて……「これで本当にいけるのかな」という不安はぬぐい切れなかったというか。ギリギリまでは「いよいよ始まるのか!」と思ったし、イヤモニがブレていたらどうしようとか、マイクはちゃんと音を拾ってくれるのかなとか、ちゃんと動けるかなといった心配に苛まれてもいましたね。
――そういった心配事もライブが始まったらなくなった?
山下 出た瞬間に「大丈夫だ」と思えました。最初にステージに出て行ったときの「わー!」というウェルカムな声。それを聞いた瞬間に「大丈夫だ。楽しもう」って。そこで「よし、みんなと楽しい時間を過ごそう」という気持ちに切り替わったなと思います。
――「ライブが怖い」という気持ちは払拭されましたか?
山下 一気に吹っ飛びました。怖いよりも楽しみが勝っていましたね。「怖い」って言っていたんだなって、今、思い出したくらいです(笑)。
――ライブを経てさらに先へと進んだ山下さん。これまでご自身が芯に据えてきた「エールを送りたい」という想いを具現化したのが『from here』でしたが、ワンマンライブ直前のリリースとなった「ヒトコキュウノ」は、そこから先の山下大輝を感じさせる1曲でした。新たな表現の海へと飛び出した感もあるこの曲の世界観の広がりを、改めて感じさせるのが新曲「シークエル」かなと感じます。制作のきっかけとなったことやテーマなど教えてください。
山下 『from here』までは割とバンドサウンドが似合うような、バンド向きで前向きな曲が非常に多かったと思うんですが、「ヒトコキュウノ」で世界観がだいぶファンタジーに寄った楽曲を出して、聴いてくださる人たちに「あれ?」と驚いてほしかったんですね。今回も、前作で振り切ったファンタジーな感じを繋ぐ曲を目指しました。ファンタジーと現実の間にある楽曲、というのが「シークエル」なんです。だからこそ出てくるキャラクターも現実感を感じられるごく普通の女の子として表現しているんです。現実とファンタジーを上手く繋ぐことができるような曲になっているのでみんなも共感しやすいんじゃないかなと思っています。
――今回、1曲作りましょうとなったときに、現実寄りだけどファンタジー要素もあるナンバーを、となったうえで制作中に最も意識したことはなんですか?
山下 ファンタジー寄りにしたかったので、現実に寄りすぎないようにするバランスが大事だなと思っていたんです。ただ僕があれこれ言ってしまうと、ファンタジーに寄りすぎてしまう気がしたので、そのへんに気を付けつつ、自分の思う「現実の中のファンタジー」ってなんだろう?と思ったときに、文学の世界に憧れるというモチーフが出てきたんです。それって誰にも経験がある気がして。僕自身も小さい頃に見たマンガ、アニメ、ゲームみたいなものに触れたからこそ今の自分があるので、あのときに受け取った「これが好きだな」「こんなふうにできたらいいな」「自分も物語の中にこんなふうに入れたらいいな」という想いが、自分にとっての魔法というか。あのときの想いというものが今になってすごく輝いているのが僕の今に生きているんですね。それって結構、誰しもが持っている共通のことだとも思うんです。
――テーマが見つかってから、世界観の構築はどのようにしていったのでしょうか。
山下 共感を得られるテーマだ!と思ったところから、次は主人公を誰にしようかと考えました。それで中学生くらいの女の子にしようと思ったんです。そのくらいの頃の、所謂多感な時期の女の子って本を読み、物思いにふけっている姿が印象的だった記憶があって。特に中学の頃に流行っていたのが「ハリー・ポッター」や「ダレン・シャン」とか、熱中できるファンタジー小説が多くて。僕もそれにのめり込んだ派なのですが、あのときって自分のことを物語の中に投影させて、魔法も使えるし空も飛べるし誰よりも強いし、魅力的だしっていう想像ができたんですよね。それで、現実とファンタジーを上手く掛け合わせて1人の主人公に集約させ、その主人公の成長に繋いでいくように描きたいです、とお伝えしました。
――とても具体的なイメージですね。その主人公はどんな女の子なのでしょうか。
山下 主人公の女の子は言ってしまえば引っ込み思案だけど、物語の世界では無敵で自由になんでもできてしまう大好きな自分です。そして「これが私!」というものを持っている感受性豊かな子。だけどそういう自分自身を現実では表に出せない。表に出すことを怖いと思っているんですね。でも表に出さないのはもったいないくらいの熱い想いやキラキラした自分を「出していいんだ」と思えるようなあるきっかけがあって、一歩踏み出すことができる。そういう物語にできたらいいなと思ったんです。誰かと出会って、それがきっかけで自分を好きになって前に進んでいける、未来に繋がっていける「成長物語」の歌です。だから「エール」という部分ではこれまでの僕の歌と繋がっているかもしれないです。どうしてもそこに繋がってしまうのかもしれないですけど、いい意味でそうなっていると思います。
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