声優アーティスト・青山吉能が、9月27日(水)に4thデジタルシングル「空飛ぶペンギン」をリリース。アコースティックギターと青山自身によるコーラスが彩る、秋空のような爽やかさをもったこの曲は、3月にリリースされた1stアルバム『la valigia』のどの収録曲ともまた異なる魅力を有するもの。新たな一歩を踏み出す楽曲を、聴く側に想像の余地を与えるように肩の力を程よく抜いた歌声で歌唱し、表現している。今回はそんな楽曲に加え、5月開催の“Birthday LIVE「されど空の青さを知る」”での心の動きや、地元・熊本での11月開催の公演から幕を開ける初のトーク&ライブツアー“こぼればな(し)”への想いなどについて語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
――前回アルバム『la valigia』についてインタビューさせていただいたあと、“Birthday LIVE「されど空の青さを知る」”で実際に収録曲をファンの皆さんの前で歌う機会がありました。
青山吉能 そのワンマンライブを開催するにあたって、初めての不安が2つあったんです。まずは、初めて自分の曲中心のワンマンだということ。今まではソロライブをやるとなってもカバー曲の数も多かったですし、それぞれの曲が強いおかげで満足してもらえていた部分も少なからずあったと思っていたんですね。それともう1つは、一番良いテイクを使ってできた音源の良さを、ライブという一発本番の中で超えられるんだろうか?ということ。その2つがあって、最初は「このライブ、楽しくないかもしれない」という想いもあったんです。元々はライブが楽しくて、自分でそのライブを作りたくて音楽を好きになったはずなのに……。
――その不安は、どのように乗り越えられたんですか?
青山 ファンの方の存在があったおかげです。例えば、みんながコール&レスポンスのある曲でコールしてくれたり、何気ないMCで笑ったり拍手してくれたり……そういうことを通じて、ファンの皆さんのおかげで本番日になってようやく、ライブならではの一体感の良さに気づけたというか。「もっと自分の曲とか自分のやることに、自信を持ってお届けしてもいいんだな」とこのライブを経て感じたので、今までとは違ったファンという存在のありがたさも感じながら過ごした記憶がありますし、信頼関係もさらに深められたように思っています。
――では続いて、そのライブでリリースが発表された、新曲「空飛ぶペンギン」についてお聞きできますでしょうか。
青山 実はこの曲、「新曲出します!」と発表したときには影も形もなくて。開演直前に新曲の話をしてもいいと言われて、ただ言うだけ言っちゃったんですよ。……でも、確定事項にしたんですよね。言うことで(笑)。
――ファンの皆さんへの約束になりますからね。
青山 そう。私たちのプロジェクトって、基本誰にも止められなければ急かされることもないので、言わなかったらなんとなく先延ばしになっていたかもしれないんです。でも、できれば折角知ってくれた方も増えたところだし、自分自身の中でも「音楽って楽しいな」という気持ちが燃えている今の間に、色々やっておきたいんですよね。
――1回止まってからもう1回動き出すのって、すごくエネルギーが必要ですし。
青山 そうなんですよ。しかも1回止まったら、その意味を求められちゃうというのもありますから。
――その「空飛ぶペンギン」について、まずは楽曲選定のプロセスからお聞きできますか?
青山 今回もデモ曲をまた何十曲も聴かせていただいて、その中から選んだんですけど、今までのデモ選考とちょっと違う部分がありまして。『la valigia』という名刺のようなものも出来たうえに、一度曲を書いてくださっている方も多いなかでデモを集めたことで、「青山さんだったら、こういう曲を歌ってほしいなぁ」とか「これを歌ったらどうなるんだろう?」というクリエイターの皆さんの挑戦や投げかけみたいなものがデモからすごく溢れているように感じたんですよ。「『誰が歌っても良い曲』じゃなくて、「『青山さんに歌ってほしい曲』なのかもしれない」と思えて、それがすごく嬉しかったんですよね。それで一番ビビッときた曲……が5つくらいあったんです(笑)。
――1位タイが5曲、みたいな?
青山 そうなんです。『la valigia』も決まったジャンルのないアルバムじゃないですか?今回も「あ、この路線あったかー!」のあとに違うジャンルの曲がきて「こっちね!!!」みたいになったりもして。
――なるほど。1位タイというよりは「各種目の1位が5曲」という感じですね。
青山 そう。なので、結構悩んだんですよ。しかも、最初はリリース時期に合わせて季節が移っていく感じを表した秋ソングにしようかなと思ったんですけど、自分の中で「秋ソングとは?」というのがいまいちピンとこなくて。それで秋へのこだわりを捨てたら、その結果「今、『秋に出します』って言ったから曲を選んでるのかな?」ってすごくモヤモヤし始めちゃったんです。「『言われて出す』みたいな音楽歌いたくない!」って。
――以前からそういうお話はよくされていましたよね。『la valigia』のときにも、ライブについての話題で「何ごとも『やらなきゃいけないから、やる』が一番しんどい」といったお話もされていましたし。
青山 そうなんです。でもこの曲のデモは、「あ、これ歌いたい!」と思わせてくれたんです。今までになかったコーラス始まりの曲というところにまず心を掴まれましたし、そこからちょっと懐かしいギターの音が鳴り響いて淡々と展開していく感じが、すごくお気に入りで。そのギターのサウンドってやっぱり今の青山吉能を取り巻く環境の中では欠かせない要素にもなってきましたし、自分は元々コーラス部だったので、こういうコーラスラインが多くて複雑な曲には自然と触手が伸びていくというか……そういうふうに、昔から好きだったものと新しく出会ったものが上手く融合しているような気がしました。
――しかも、ちょうどリリース時期の青空に似合う印象があったので、結果的に自然と秋ソングになっているといいますか。
青山 いや、ほんとそうなんですよ!この曲は、俗に言う「夏空」よりももっと雲が高い位置にあるようにしていて。夏とも言えぬが冬とも言えぬ、あの、ぬるーい空?ぬるっとしてはいるけどじめっとしてない、あの絶妙な感じがすごくして。おっしゃってくださった通り、結果的に秋っぽい曲になったように思っています。
――繰り返して聴いていて非常に心地良いというところも、秋の爽やかな空にすごく結びつきますよね。そもそも「爽やか」という言葉自体が秋の季語なので、「爽やかで聴き心地が良い曲」ということは、まさに秋ソングなんだと思います。
青山 わー!それは嬉しいです!ちょっと……今後使わせていただければ(笑)。「爽やかっていうのはぁ、秋の季語でぇ……」みたいなことを、私がリリース前後のラジオで言っていたらすみません(笑)。
――(笑)。ただ、そうやってコンペで決めた曲ではありますが、フタを開けると以前「moshi moshi」を手がけられた雨野どんぐりさんと宮原康平さんのタッグによる曲だったんですね。
青山 そうなんです。私、楽曲を決めるときはいつも作家さんの名前で選ばないように、ディレクターさんにブラインドで「はい次」「はい次」って流してもらっているんですね。でも、この曲のときだけ「この曲、お気に入りです。はい」ってディレクターさんが言ったので、「私情入ってきた!なんでだ!?」って(笑)。だけどそれを踏まえずに聴いても、曲自体が本当に素晴らしかったんです。それで、さっき言ったように5曲くらいの中からどれを選ぶか悩んでいたとき、この何気ないひと言を思い出しまして……。
――それこそ違う種目の1位が集まっていたわけですから、決め手の1つになった。
青山 そうなんです。やっぱり決断の材料って、いっぱいあったほうがいいじゃないですか?だから「私だけじゃなくて、チームの総意にもなるのかもな」と思って、最終的にこの曲に決めました。
――そんなこの曲、歌う際にはどんなイメージを持たれて臨まれたんでしょうか?
青山 物語がはっきりとした起承転結をもって進んでいくわけでもないので、「透明人間」とか「たび」みたいな“青山吉能み全開”で作った曲からは、少し離れたかったというか。どこか空想の世界を描いていて、タイトルにもある「ペンギン」を私としてもいいし、ほかの誰かにしてもいい……という自由が生まれるように、その“余白感”みたいなものを生むような歌い方に、自然となっていきました。
――そのうえで、聴く側を飽きさせないようにしなければいけないという。
青山 そうなんですよ、そこがかなり大変で。最初のほうに録ったテイクだとあまりにも同じすぎて、統一感はあるけど飽きがきやすそうだったんですね。でも逆に、2番から超絶ニュアンスをつけたりすると、それは音と合わない。数字が1個増えただけでもすごい変わっちゃいそうというか……例えば、私が1から100まで全部細かく刻んで表現したとしても、届いてる側って「1」「50」「100」くらいの大きな分類で受け取りがちじゃないですか?だから、小さな変化だけで「1」が「50」になっちゃうかもしれないと思って。それくらいすごく繊細な曲な、すごく丁寧に作っていく必要のある曲だと感じたので、正解探しはすごく難航しましたね。
――となると、押し付けにならないように、青山さんの中のこの曲に対するイメージを出しすぎてもいけないわけですね。
青山 歌い方ひとつで、歌詞の捉え方も変わってしまうんですよね。例えば2番の“愛しくて憎らしい”というフレーズって、表現しようと思えばいくらでもできる言葉なんですけど、これを淡々と歌うから不気味にもキュートにも感じられますし。それに、自分は歌うからまだいいんですけど、聴き手からすると私の歌から感じるものしか正解がないじゃないですか?だから最近は、「この曲の正解を、私がちゃんと歌って提示しないといけない」という責任感が徐々に芽生えているように感じています。
――そうやって青山さんとしてもそれを提示しつつ、同時に“余白感”も残したかった。
青山 そうですね。今回はどこか物語を楽しんでもらうような感じにしていただけたら……という気持ちもありつつ、この曲は『la valigia』で一旦やりきった私が「新しく何か見つけたい!」と思った先で見つけた曲でもあるんですよ。だから、大サビの“新しい輝きを探したい”という言葉はまさに私の想いを表したものでもあるので、「青山吉能らしさがまったくないわけでもない」という、絶妙なマーブル加減みたいなものを楽しんでもらえたらいいのかなと思います。
――コーラスから始まるという点では、まさに青山さんのルーツにも触れられるわけですし。
青山 たしかに。そのコーラスがこの曲のキモだと思っていますし、それが自分の声によるものなので、妥協はしたくなくて。コーラス録りと別日に本線を録ったときに、私からコーラスの追加をお願いしたくらいなんですよ。
――追加されたのは、どんなコーラスだったんですか?
青山 元々コーラスが7トラックあったんですけど、それでも物足りなさを感じて、何か一癖欲しかったんですね。それで、コーラス部のときに顧問の先生の工夫で、メロディを歌うときに楽譜にはない“息担当”が3人くらいいたのを思い出しまして。それで「ギリギリ声が入っているようなすっごいウィスパーのコーラスを足したら、もっとぼわっとするんじゃないかな?」と思って“息担当”を録らせていただいたんです。「いらなかったらミックスでポイしてください」ともお伝えしたんですけど、採用していただけて。良い感じにほわっとした雰囲気が出ています。
――より懐かしさみたいなものを際立たせたのは、まさに青山さんならではの要素が加わったからだったんですね。
青山 ディレクターさんが言うには、そういう要素ってだいたいエフェクトで作っちゃうらしいんですよ。でも「たしかに、生でやったほうが絶対に説得力が違うから」と、受け入れてくれて……そういうふうに、音楽まだまだ素人な私の意見をひとまず「一旦やろう!」と受け入れてくれる今のこのチーム感って、すごくやりやすいんですよ。それは、音楽だけじゃなくてメイクや衣装、アートワークでも同じで。そういう風通しの良すぎる現場なことは、本当にありがたいです。
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