逢田梨香子が、自身初となるミニアルバム『Act 2』を完成させた。TVアニメ『スキップとローファー』のEDテーマとして好評を博した「ハナウタとまわり道」を筆頭に、彼女の憧れの存在である大塚 愛が楽曲提供したリード曲「プリズム」、今までになくロック色の強い「My Trailer」、自身のより深い心情に踏み込んだミディアムバラード「うまれる」、ファン人気の高い「ブルーアワー」のアコースティックアレンジなど、全7曲を収録。新鮮な表情と歌声の彼女が詰まった、アーティスト・逢田梨香子の“第二幕”を感じさせる充実作に仕上がっている。自身の今の気持ち、今表現したいことが色濃く表れた本作について、たっぷりと話してもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回のミニアルバム、今までの逢田さんらしさもありつつ、新しいことにも挑戦されていて、すごくいい作品に仕上がりましたね。
逢田梨香子 ありがとうございます。いつも1曲1曲の存在感が強いのですが、今回は特に意志の強い楽曲が揃ったと思います。
――『Act 2』というタイトルには“第⼆幕・第⼆章”といった意味合いが込められていると思うのですが、なぜこのタイトルにしたのでしょうか?
逢田 以前からインタビューで「次はどんなことをやりたいですか?」と聞かれたときに、「自分の殻を破れるような楽曲を歌ってみたいです」というお話をすることがよくあったのですが、今回はそのテーマを広げた作品を作ってみようとなったんです。とはいえ「打ち破る」みたいに強すぎる雰囲気だと、自分的にも無理してる感じが出て違うなと思ったので、今までの自分に寄り添った形で新しいものを打ち出したいと考えたときに、これまでの作品では『Principal』や『Curtain raise』『フィクション』のように、演劇や舞台に基づいたタイトルを付けてきたので、“新しい演目・第二幕が始まる”という意味を込めて『Act 2』というタイトルにしました。
――これまでの活動が“Act 1”で、今作からが“Act 2”という意識もあったのですか?
逢田 そこは特別意識していなかったのですが、1st EPの『Principal』はこれからプリンシパルとして頑張っていく準備段階だったところから、アルバムの『Curtain raise』で幕が開いて、2nd EP『フィクション』で遊び心も入れつつ、今回また新たな一歩が始まっていく、というイメージが強いです。
――逢田さんは、自分の殻を破りたいという気持ちを常々お持ちなのでしょうか。
逢田 私は知らず知らずのうちに自分にストッパーをかけてしまうことが多くて、特にライブの最中にそう感じるのですが、常日頃の生活やお芝居をしているときでもそういうことがよくあるんですね。なので、もう一歩踏み出して新しい自分に出会ってみたい気持ち、もうちょっと殻を破れるんじゃないかな?と思うことが結構あって。特にソロ活動ではきれいな楽曲を多く歌ってきたので、もう少しガツンとした楽曲も歌ってみたい思いがあったので、今回はそういう楽曲を集めていただきました。
――自分でストッパーをかけてしまうというのは、ご自身の性格上のことが理由?
逢田 それもあると思います。あまり踏み込めないというか、どちらかと言うと控え目で後ろに下がりがちな性格なので。そこがコンプレックスでもあったんですけど……でもまあ、人間ってなかなか簡単には変われないので(苦笑)、そういう自分も受け入れつつ、もうちょっと頑張ってみたいなっていう。
――前回のインタビューで、「今までやってこなかったことをやりたい欲が高まっているのかもしれない」とお話されていましたが、今はご自身としても変化を求めているタイミングなんでしょうかね。
逢田 確かに「専門学校に通ってみたい」とか言っていましたね(笑)。今までやっていなかったことをやってみたい気持ちは常日頃あるんですけど、なかなか行動に移すのが難しくて。お仕事でバタバタしていると、プライベートのほうがめちゃめちゃになりがちなので、バランスが難しいんです(苦笑)。
――今回のミニアルバムを制作するうえで、逢田さんからはどんなことを制作スタッフの方にお伝えしましたか?
逢田 基本的に楽曲を作るときは、まず自分から「こういう楽曲をやりたいです」という意見を出すのですが、今回も2曲目の「My Trailer」と6曲目の「うまれる」は自分からどんな楽曲を歌いたいかをお伝えしました。それと大塚 愛さんが書いてくださった「プリズム」は、ずっと前から「どなたか楽曲を書いてほしい人はいますか?」と聞かれたときにお名前を出していた方で。実際にオファーさせていただいたのは今回が初めてだったのですが、まさか実現するとは思っていなかったので本当に嬉しかったです。
――それでは今回の収録曲について詳しく聞いていきます。1曲目の「Act 2」はオーバーチュア的なインスト曲になっていますね。
逢田 ある程度楽曲が出揃った段階で、次の「My Trailer」という楽曲を歌入りの楽曲の1曲目にしようとなったときに、それに繋がるような楽曲として作っていただきました。『Curtain raise』の1曲目(「Curtain raise」)もインストで、そのときはすごくかっこいい感じから「Mirror Mirror」に繋がる形になっていたのですが、今回も1st EPの頃からお世話になっている田中隼人さんにお任せして作っていただいたら、眠っていた街にどんどん人が集まってくるような優しい楽曲にしてくださって、意外性もありつつとても素敵な“Act 2”の幕開けになりました。
――そして2曲目の「My Trailer」は、ロック系の力強いナンバー。逢田さんからイメージを伝えて制作したというお話ですが、どんな楽曲にしたかったのでしょうか。
逢田 この楽曲では“殻を破る”ということを込めたくて、メロディやアレンジの希望も伝えたうえで作っていただきました。もっとロックっぽい曲もあったのですが、私としてはきれいさみたいなものは一旦取っ払って、胸にダイレクトに響くような楽曲がほしくて。歌詞も泥臭さというか、もがいてでも前に進むような、今までの自分を振り返ったときに感じる自分らしさも込めていただきました。
――もがきながら人生を歩んできた実感があるのですか?
逢田 夢を追っている方は皆さんそうだと思うのですが、うまくいかないことも多かったですし……あまり自分で苦労してきたみたいなことは言いたくはないですけど、そういう部分を楽曲に込めることで、むくわれたらいいなと思ったし、そういう風にもがいている方の背中を押せる曲になったらいいなと思って。それと私は元々ロックやかっこいい楽曲が好きで、今までもやりたい気持ちはあったのですが、自分が好きなものと自分に向いている曲は別だなと思って、飲み込んできた部分があったんです。正直、自分が楽曲に負けてしまうかもしれない自信の無さもあったのですが、このタイミングで挑戦してみたくて一歩踏み出しました。
――自分の中のストッパーを外したわけですね。実際に歌ってみていかがでしたか?
逢田 音が常にガツンとくるし、テンポが速い曲でもあるので、付いていくのにも必死だったんですけど、楽曲の強さに負けないように、ずっとストッパーを外しながら歌いました。力強さを出したかったので、他の楽曲と比べても歌い方のアプローチが違ったかもしれないです。この楽曲は自分自身への応援歌でもありますし、誰もが人生の中で一度や二度は壁にぶち当たると思うので、そういう人に年齢層を問わず響く楽曲になっていたら嬉しいです。
――新しいことに挑戦する気持ちに年齢は関係ないですからね。
逢田 私もそう思います。だんだん踏み出す勇気がなくなる方が多いと思うんですけど、私は気持ちさえあれば年齢は関係ないし、いつでも挑戦したいと思っているので。
――3曲目の「プリズム」は大塚 愛さんが書き下ろされた楽曲。逢田さんの希望だったというお話ですが、大塚さんのことは昔から好きだったのですか?
逢田 小学生のときからずっと好きで聴いていて、CDも1stアルバムの頃から聴いていました。テレビでもCMやドラマでたくさん楽曲が流れていて、お顔もすごくかわいくて、CDのブックレットを見ているだけで楽しいし、楽曲を聴いても楽しくて、当時の自分にとっての一番のエンタメでしたし、本当に憧れが詰まった方でした。
――音楽面ではどんなところに惹かれていたのでしょうか。
逢田 1つ1つの楽曲が絵本を読んでいるような感覚というか、タイトルを見るだけでもワクワクするんですよ。それと大塚 愛さんにはポップなイメージを持たれている方が多いと思うんですけど、ちょっと毒々しさもあったり、孤独で寂しげな歌をうたっていらっしゃたりもして。自分自身も子供の頃、子供ながらに寂しさや人恋しさを感じることがよくあったので、そういうときにすごく寄り添ってくれた存在でした。
――特に思い出深い楽曲を挙げるとすれば?
逢田 一番好きな楽曲は、『LOVE JAM』というアルバムに収録されている「Strawberry Jam」です。ブラスの効いたかわいらしくてお洒落な楽曲で。多分20年ぐらい前の楽曲ですけど、今聴いても古さをまったく感じないですし、当時本当にたくさん聴いていたので、その楽曲に限らずどの楽曲でも聴くとファッと一気に聴いていた当時のことを思い出します。実はこの楽曲のことを発表した後に、当時よく一緒に大塚さんの曲を聴いていた地元の友だちからも連絡があったんです。「えっ、すごいね!なんか私も嬉しい!」という連絡をもらって、私も嬉しい気持ちになりました。
――素敵なエピソードです。そんな憧れの方に、今回はどんな楽曲を書いていただこうと思ったのですか?
逢田 ミニアルバムのリード曲になることはお伝えしたのですが、ほかはすべて大塚さんに委ねて書いていただきました。最初に音源のデータをいただいたのは、お風呂でスマホを触っていたときだったのですが、ドキドキしちゃってすぐに開けなかったんですよ。一旦置いてお風呂から出たあとにゆっくり聴こうと思って。で、「よし、聴こう!」と思って聴いたら、イントロから「あっ、いい!」となって。もちろん私のために書き下ろしていただいた楽曲なので、今まで聴いたことがないはずなんですけど、新鮮さと懐かしさを感じて、子供の頃の自分を思い出したりしました。それと歌詞を読んで、すごく不思議な気持ちになって。
――というのは?
逢田 偶然だと思うのですが、昔の自分と今の自分に重なる部分があって、「もしかして自分のパーソナルな部分に寄り添って書いてくださったのかな?」と思ったくらいで。難しい言葉を一切使っていないのに、すごく胸に響いて、聴いたときは自然と涙が溢れてしまいました。やなぎなぎさんに楽曲を提供してもらったときもそうだったのですが、「生きているとこんなことが起こるんだ……!」と思ってしみじみしちゃいました。
――「昔の自分と今の自分に重なる」というのは、どんなところがでしょうか?
逢田 2Aの“失敗して 憂鬱になって 消えちゃいたいなって思って”という歌詞が特にそうなのですが、楽曲は明るくてポップなのに歌詞は重いところがあって、ネガティブさも受け入れつつ、そこからサビの“越えていけ”というフレーズに繋がっていくので、そこにすごく背中を押されたんです。でも無理してポジティブになっていないところがすごくいいなあと思うし、そこが自分らしさと重なったんですよね。私も昔からマイナス志向だけど、結局は「頑張ろう!」といったところに落ち着くので、そういう部分も自分の腑に落ちやすかったですし、「なんでこんなに素敵な歌詞が書けるんだろう?」と思って感動しました。
――逢田さんの歌も素晴らしかったです。特に今お話にあったサビの“越えていけ”の部分は、すごく張りのある声で歌われていて。
逢田 大塚 愛さんが歌われた仮歌もいただいていたので、「私で大丈夫なのかな……?」という緊張もあったのですが(苦笑)、こんなにも素敵な歌詞をいただいたので、「私もちゃんと何かを越えていかないと!」という気持ちを持ちつつ、ニュートラルさも大事にして歌わせていただきました。
――最後は優しい歌い口で“うん 大丈夫”と締めるところも素敵でした。
逢田 ここは大塚さんから「自分に言い聞かせるように言ってください」と、プロデューサー伝いに文面でメッセージをいただいたんです。大塚さんらしさもすごくありつつ、今までの私の楽曲も大切にしてくださっているように感じて、本当に素敵な楽曲になりました。
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