INTERVIEW
2023.09.08
次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」発の“現実(リアル)”と“仮想(キャラクター)”が同期するバンド、MyGO!!!!!。彼女たちが結成されるまでの物語を描くこの夏話題のアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』を、音楽面から掘り下げるリスアニ!の連載特集の第5回は、楽曲提供および音源の演奏ミュージシャンとしてMyGO!!!!!の音楽を支えるSUPA LOVE所属のクリエイター、長谷川大介と木下龍平に加え、サウンドディレクターの札ノ辻泰紀(エースクルー・エンタテインメント)、MyGO!!!!!音楽プロデューサーを務める緒方航貴(ブシロードミュージック)を迎えた座談会を実施。長谷川が手がけた「迷星叫」「焚音打」、木下が提供した「影色舞」「碧天伴走」の制作エピソードをはじめ、MyGO!!!!!楽曲の音作りのこだわりに迫る。
■【連載】アニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』――“迷子たち”の音楽を徹底特集!
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――まずは長谷川さんと木下さんが作編曲した楽曲の制作エピソードをお聞かせください。MyGO!!!!!の最初のオリジナル楽曲「迷星叫(まよいうた)」は、長谷川さんが作られたわけですが、まだバンドとしての具体的な形がないなかで、どのように制作を進めたのでしょうか。
長谷川大介 正直、この楽曲を作り始めた当初は、MyGO!!!!!のことを意識していたわけではなかったのですが、バンドのコンセプトやメンバー像、楽器の構成などを知らされたときに、僕の中にあったこの楽曲のイメージや世界観とちょうどマッチすると感じたんです。それが“夜の星”や“流れ星”、それとサウンド的にはギターメインで女性ボーカルがメッセージを伝えるというもので。その時点ではどんな方が歌うかもわかっていなかったのですが、この曲にMyGO!!!!!のメッセージ性を当てはめたら、ハマりそうだと思ったんですね。あとは僕がエモーショナルロック好きで、バンド時代もそういう楽曲ばかりやっていたので、多分そういうところも上手くマッチングしたんだと思います。僕も今MyGO!!!!!のアニメを観ているのですが、結構エモーショナルなシーンが多いので、「なるほど、こういうことなんだな」と後から答え合わせできているようなところがあって(笑)。
緒方航貴 MyGO!!!!!は企画当初から既存の「バンドリ!」シリーズとは少し違う方向性を目指していて、ジャンル的にはメロコアや青春パンク系を初期の頃から想定していたのですが、最初は我々も手探り状態だったなかで、この楽曲からは「MyGO!!!!!の音楽ってこういうものなんじゃないかな?」と感じたんです。一筋縄ではいかないもどかしさみたいなフィーリングがあったので、この楽曲で決めさせていただきました。
長谷川 その時点ではあくまでデモだったので、そこからメロディの修正などがあって今の形になったのですが、僕の中では歌詞が付いたときに、MyGO!!!!!がやろうとしていることが何となくわかったんですよ。普通はもっと「頑張ろう」とか「一生懸命夢に向かおう」みたいなコンセプトの楽曲が多いと思うのですが、そうではなくて、十代の頃の迷っている感じやもどかしさが前面に押し出されていたので、これは無責任に「頑張れ!」という曲ではないなと感じて。だからそういう気持ちを単純にサウンドに乗せたほうがいいと思って、楽器演奏はシンプルにして歌詞を引き立たせるアレンジを心掛けました。
――MyGO!!!!!の場合、基本キャストの皆さんがライブで実演することが前提になると思うので、その意味で1曲目は楽器のアンサンブルをシンプルにしたのかと思っていたのですが。
長谷川 僕的には、その時点ではキャストさんがどの程度の演奏ができるかはわかっていなかったので、純粋に聴いて良いと思えるものを考えていました。それと僕が元々持っている音楽のポリシーとして、あまり難しいことはいらないと思っているんですよ。世のヒット曲は実は難しいことをやっていない曲が多いと思っていて。それはなぜかと言うと、その方が(より多くの人に)伝わるからだと思うんですね。ただ、楽曲の世界観は大事にしたいので、例えば2Bのギターはクリーントーンにして、夜空の下で悩んでいる感じを演出しています。それとサビの入りは耳に残るものにしたかったので、音数が少なくてインパクトのあるメロディを狙いました。
緒方 1Bの歌詞に“何千回夜を越える”とありますが、この楽曲は1曲を通して夜を越えていく歌というイメージがあったので、その意味で言うと2Bは深夜の2時か3時くらいで、それを経て最後に夜が明ける感じをサウンドでも表現していただいていて。あとは伝えるために難しいことはいらないというのも、この楽曲はコード進行的にもシンプルで、特にサビは7thも使っていないようなパンクな感じなので、その意味でも「迷星叫」が1曲目で良かったと、今お話を聞いて改めて感じました。
――余談ですが、MyGO!!!!!のメッセージ性は、長谷川さんが以前にギタリストとして活動していたバンド、Aqua Timezにも通じる印象があります。
長谷川 そうなんですよね。僕もMyGO!!!!!のアニメを観ているうちに、なんか自分の過去を観ているような気分になってしまって。僕らもバンドなのでやっぱり揉めることもあったし、売れない頃はすごく悩みもしていたので、そういう頃のことを思い出すし、不思議と泣いてしまうんですよね。「なんだろう?この感覚」と思って。それに(高松)燈ちゃんが言っているメッセージは、うちの元ボーカル(太志)と近いところがあるので、正直、他人事じゃない感じがありますよね(笑)。だから僕的にも感情移入しやすいですし、MyGO!!!!!に関しては、自分のまま弾けばハマる感じはあります。
――時系列順でいくと、次は3rd LIVEで初披露された「影色舞(シルエットダンス)」になりますが、制作はどのタイミングで行われたのでしょうか?
木下龍平 作っているときは他の楽曲の情報を知らなかったので、今の長谷川さんのお話と同じくらいの状態だったと思います。元々いただいたオーダーは、いわゆる「4つ打ち系のテンポが速い楽曲」で「みんなで簡単な振りと一緒にノレるようなもの」ということだったのですが、ダンスナンバーとはいえはっちゃける感じにするのは違うなと思ったのが第一で。というのも、同じ「踊る」といっても夜のクラブで踊るのではなく、夜道や夜の公園で街灯のもと踊っているようなイメージ、ということだったんですね。なのでリズムはクラップを入れたりメロディの節回しを工夫して小気味良くしつつ、メロディやコード感で物悲しさを出すように試行錯誤しながら作りました。
緒方 「影色舞」に関しては、最初の1~2曲を作ったところで、踊れるナンバーも欲しいとなって、少し毛色の違う楽曲として発注させていただきました。結果としてライブで人気の楽曲になったので、すごく良いものを作ってくださって本当にありがたいです。
木下 作った当初は思っていなかったんですけど、MyGO!!!!!の楽曲がだいぶ増えた今、改めて聴き返すと、かなり特殊な楽曲ですよね。この曲調とこの声質の組み合わせは今まで聴いたことがない気がしますし、自分も初めて完成版を聴いたときに「あ、こういうことだったんだ」と答え合わせができた感覚があって。結果としてMyGO!!!!!のレパートリーにはあまりない楽曲になったのが嬉しかったです。リアルバンドのライブでは演者の皆さんが踊りながら弾いていたりして、すごいなあと思いました。
札ノ辻泰紀 この楽曲、デモの初稿の段階では鍵盤やシンセの音が結構入っていたんですよ。ただ、MyGO!!!!!の楽曲に関しては、キャストの皆さんがライブで実演することを想定して、「バンド内にない楽器は極力鳴らさない」というのが共通のテーマとしてあるので、鍵盤系は極力なくして竿(ギターやベース)で全部持っていく感じにしていただいたんです。こういう曲調の場合、同期のシンセを重ねたくなると思うのですが、そうしなかったことも今までにない雰囲気の楽曲になった理由のような気がします。
木下 だから音が男前なんですよね(笑)。自分は普段、音数が多い楽曲をよく作るのですが、MyGO!!!!!の楽曲に関しては基本生演奏でオケを作るので、自分が楽器を始めた頃を思い出しながらアレンジしています。
――アニメ第7話のライブシーンで演奏された挿入歌「碧天伴走(へきてんばんそう)」も木下さんの制作になります。
緒方 この楽曲は、物語の中盤で1つの盛り上がりになる楽曲、ということで制作したのですが、その時点ではまだ脚本が固まっていなくて、プロットの状態で制作をお願いしました。
木下 一応大まかなストーリーと歌詞の方向性はいただいていて、確か“「頑張ったね」という言葉と共に贈る歌”ということだったので、疾走感と解放感、ちょっと応援歌的な要素を意識して作りました。ただ、やはり底抜けに明るい感じや爽やかさは違うと思ったので、そこのバランスは試行錯誤しました。サビのメロディは明るめだけど、少し悲しい感じのコードを入れたりしていて。バンドの楽曲だけどアコギやピアノで弾き語りしても成り立つようなメロディとコードの世界観、Aメロ・Bメロ・サビの流れで1つのストーリーを描くような盛り上がりを意識しています。
緒方 1サビで言うと“必死なんだから”や“迷っても”のところでスケール外の音が使われていると思うのですが、そういう部分でも、バンドにまだ危うさが残っている感じを表現していただいているように感じました。
木下 この時点では、もうMyGO!!!!!の楽曲は何曲か出来上がっていて、自分もベース演奏で参加していたので、「影色舞」を作っていたときよりも、バンド自体の方向性をイメージしやすかったのが大きいと思います。それこそ自分も中学生の頃に楽器を始めたのですが、この曲はその当時好きだったHAWAIIAN6やハイスタ(Hi-STANDARD)辺りをイメージしながら作った覚えがあります(笑)。メロディがエモくて、ちょっと悲しいコードも入れつつ、爽やかすぎないけど前向きな感じっていう。
――確かに。それとこの楽曲のイントロ、勢いがあってかっこいいですよね。
木下 ありがとうございます。実はこの曲、最初はイントロがなくて歌始まりだったんですよ。ただ、アニメのストーリー上、イントロを失敗するシーンがあるので、そのバージョンも作ることになって、イントロなしとありの両パターンで制作を進めたのですが、結果、イントロを気に入ってしまったので、元からある形で進めることをご提案した覚えがあります。
――そして3rdシングルに収録された「焚音打(たねび)」は長谷川さんが制作。「迷星叫」はシンプルなアレンジを心掛けたとのことですが、こちらは一転してテクニカルかつ色んな要素の詰まった楽曲になりました。
長谷川 実は「焚音打」は元々、別のオーダーに合わせて作った楽曲だったんですよ。ただ、作っていくうちに、「この曲では俺の好きなことをやろう」っていう気持ちになってしまって(笑)、自分のルーツにあるエモーショナルなところを前面に押し出して作りました。このときにはMyGO!!!!!の形もある程度わかっていたので、「もう行き過ぎたところまでやっちゃってもいいかな?」というのが自分の中にもあって、結果、かなりアグレッシブな仕上がりになったんですね。そんなデモを提出したところ、印象に残っていただいたみたいで、想定外の形で採用していただくことになりました。
緒方 確かに、本来想定していたものとは違う内容で、少なくともそのときのMyGO!!!!!にはまだ早い印象があったのですが、逆に温めておきたいというのがありまして。でも、その分、挑戦的だし今までのMyGO!!!!!の色んな部分を踏まえた楽曲になっていて、ポエトリーもあるし、パンクロックな感じが詰まっていて、ある種、大団円的な雰囲気もあるので、5th LIVEの表題的な位置の楽曲として使わせていただきました。5th LIVEではこの楽曲に追いつけるだけのところまで行きたいというのもありましたし、逆にこの楽曲のパワーに引っ張ってもらったところもあると思います。歌詞にもありますけど、“このパンクロックの中で同じ熱になれるいまがすべて”というところがすべてで、まさにバンドにとっての“種火”になった楽曲だと思います。
長谷川 僕的にはものすごくチャレンジした曲でもあって。イントロから「このテンポでそれを弾くの?」っていう難しいフレーズになっているし、他にもBメロとかに割とややこしいフレーズを混ぜていて。僕的には、そこでバンドが少しずつ上手くなっていく感じを表現できたらと思って、あえて入れたところがあります。それとラップとは言わないまでも、リズムに乗せて音程のない歌をうたう部分も、チャレンジポイントになったと思います。
――連載第4回のインタビューで、サイドギター担当の立石 凛さんが、この楽曲のギターのカッティングが速すぎて、今までにない難関だったとおっしゃっていました。
長谷川 いや、多分、普通は弾けないんですよね。BPMもかなり速いですし、16分で刻んでいるフレーズがすごく多いので。この楽曲、左手の運指ではなくて、単純に右手を速く動かさなくてはいけないんですけど、それって結構難しいんですよ。だけど、そういう壁があったほうがバンドって燃えるじゃないですか(笑)。ギターにしても限界を自分で作ってしまうとそこで止まってしまうんですよね。僕も昔から自分の一歩先の何かを目指して練習をしていて。MyGO!!!!!というバンドも、そういう紆余曲折を経て成長していくことがわかっていたので、ここらでガツンと一歩成長させるフレーズを入れたら面白いかなと思って……立石さんには申し訳なかったです(苦笑)。
――ということは今後、またMyGO!!!!!に楽曲を書くとしたら、さらにすごい演奏力が必要な楽曲になるかもしれないということですよね。
木下 もうライトハンド入れましょうよ(笑)。方向性が違う気もしますけど。
長谷川 そうそう。そこはあくまでパンクロックやメロコアの枠をはみでないようにしようと思っていて。僕もその辺のジャンルのルーツにハイスタとかがいるんですけど、ハイスタもとにかく右手が速いんですよ。
木下 確かに(笑)。
長谷川 僕がMyGO!!!!!の楽曲を作る場合、「左手が速い」のは違うけど「右手が速い」のはアリと思っているんですよ。パンクロックって大体そういうものだと思うので(笑)。「左手が速い」はジャンルが変わってしまうんですよね。メタルとかハードロックとかになるので。
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