声優・アーティストの岡咲美保が、1stアルバム『BLOOMING』よりおよそ10ヵ月ぶりとなる新曲を、6月より3ヵ月連続でリリースした。女の子の気持ちをキュートに歌った「Maybeヒロイン」から自身初の作詞となる「カレイドスコープ」、そしてリリースされたばかりの壮大な「琥珀の心音」まで、いずれもがこれまでの岡咲美保とは異なる、挑戦に彩られた珠玉の楽曲たちとなっている。アーティスト活動2年を迎えるなかで、彼女はこの挑戦とどう向き合っていったのか。そしてその経験を経て気づいた岡咲美保における音楽とはなんだったのか、改めて振り返ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――アルバム『BLOOMING』から10ヵ月ぶり、また3ヵ月連続リリースとなった今回の配信シングルですが、今回のプロジェクトにはどんなお気持ちで臨まれましたか?
岡咲美保 私の性格的に新しいことへの挑戦と、挑戦を通して自分を知ることができるような過程が大好きなんです。アーティストデビューしてからシングルを2枚出させていただいたり、『BLOOMING』で1stアルバムというものにも挑戦させていただいて、次にどうやって曲を発信していこうかというなかで、「デジタルはどう?」とプロデューサーさんに提案していただいて、自分の直感的な部分で「すごくやりたい!」と思ったんですよね。
――直感的ですか。
岡咲 私は結構直感を大事にしているタイプなのですが、「これ、私やりたい」と直感的に思って、「ぜひやらせてください!」と言ったら、3ヵ月連続というすごいプロジェクトになっていきました。3曲一気にどうぞ楽しんでくださいというやり方も好きなんですけど、1ヵ月に1曲ということで、私も配信があるから楽しみに頑張れましたし、ファンの方からも「毎月楽しみに頑張ります」と嬉しい言葉をいただいて。結果的に少しずつご褒美がもらえるような、楽しい3ヵ月にできたらいいなという気持ちが徐々に高まっていきました。
――最初は配信でというスタートで、それが連続リリースへと繋がっていったと。もちろん3曲それぞれにテーマはあると思いますが、今回のプロジェクト全体で岡咲さんが掲げたのは、やはり“挑戦”というものが強い?
岡咲 強いですね。今回はアニメのタイアップなどはなかったので、自分としても歌いたい曲を自由に選べる機会で、デモ選びから関わらせていただいて。たくさんの楽曲の中から、何度も何度も色んなシチュエーションで聴いて選んだ3曲です。
――そうした今までとは異なる、自由なモードで選ばれたのが今回の3曲となるわけですね。
岡咲 そうですね。「歌ってみたいな」という挑戦の意味でも、もちろん今まで歌ってきた楽曲とは全然違う世界観を意識しつつ、単純に自分がときめいたという部分も大事にしながら選ばせていただきました。
――そういった点では新しい一歩というか、ご自身の新たなトライというものが色濃くでた楽曲たちになったわけですね。
岡咲 そうなんです。なので少し緊張もしていて。これまでのアッパーなシングル曲や『BLOOMING』とはまた全然違う3曲なんですけど、でもやっぱりここでも“アーティスト・岡咲美保”を知っていただきたいと思いましたし、私も声優という職業のなかで自分の色んな引き出しを見せていけたらなというのはすごく大事にしていることなので。
――そうした挑戦の3曲は、ジャケットのカラーも異なるように、それぞれアプローチもまったく異なるもので。まずは6月にリリースされた「Maybeヒロイン」ですが、モータウンビート調のキュートな仕上がりになっています。まずはこの楽曲を最初に選ばれた決めてはなんでしたか?
岡咲 たくさんのデモを聴いていくなかで、「Maybeヒロイン」は聴いていてウキウキするときめきがあって、自分もすごく楽しい気持ちになれるし、私の曲をたくさん聴いてくださっているファンの皆さんもきっと好きだろうなって、そういうシンパシーみたいなものを感じたんですね。歌ったことのない曲調でもありましたし、ヒロインに憧れる主人公の立場に私もなりきって歌ってみたいな、そういう自分を見せられたらいいなと思って選ばせていただきました。
――キュートなコーラスも随所に聴かれて、ボーカルアプローチも様々な聴かせ方のある楽曲だなと思いましたが、歌ってみていかがでしたか?
岡咲 自分で選んでおきながら、歌うと結構ハードな曲だなって(笑)。でもそれを感じさせないように、というのも自分の中で掲げたテーマでした。サビの“Maybe!””Baby!”というフレーズはすごくキメて歌いたかったんですが、歌っているとだんだん力みがちになってしまって。普段から私は何回も何回も自分の声を聴いては録り直すというレコーディング方法をとらせていただくことが多いんですけど、今回も「今はちょっと頑張りすぎてるな」とか「ちょっと足りないぞ」みたいな試行錯誤をしながら休憩を挟まずレコーディングしました。
――まず自分の納得いくニュアンスを見つける作業があるわけですね。でもそれを休まずやるというのは……。
岡咲 スタッフさんも途中で「休憩しますか?」と言ってくださるんですけど、気持ちで歌っていたので駆け抜けました!
――たしかに聴かせていただくと、“Maybe!””Baby”といったキメは力まず、軽やかな聴こえ方になりましたよね。
岡咲 リズムも軽快だし、サウンドも明るく華やかなので、そこに負けないようにというのと、リズムにどうやって乗るか、みたいなところは作曲してくださったKOUGAさんにも現場でディレクションしていただいて。自分からも「もっと軽快に歌うにはどうやったらいいですかね?」と相談をしながらレコーディングしていきました。歌詞の気持ちを大事にしつつも、リズム1つ意識するだけで歌い方が変わったりするので、そこは取り逃したくないなと思って、欲張りヒロインみたいな気分で歌わせていただきました。
――たしかにこの歌詞の中のヒロイン像は、たくさんの声の成分も聴かれる欲張りさもありつつも、一方で頑張りすぎない軽やかさが表現されていますね。
岡咲 そうなんですよね。歌詞の主人公は恋に恋しているところもちょっとあるかな、というのはあって、その気持ちも「愛おしいな」「かわいいな」って思うので。そこの表現は頑張りどころでした。
――続いては7月にリリースされた「カレイドスコープ」へ。この曲はなんといっても、岡咲さんが初めて作詞に挑戦された1曲となっています。作詞についてはアーティスト活動をするなかで、いずれやりたいと思っていたんですか?
岡咲 3ヵ月連続リリースという提案をいただいた際に私からアプローチしました!
――自分からやりたいと提案した?
岡咲 そうです。3曲デモから選ばせていただくなかで、「カレイドスコープ」のメロディと仮歌詞を聴いて、「この曲で作詞に挑戦してみたいです」と提案させていただいて。いつか作詞をやりたいなという話はスタッフさんと以前からしてはいたんですけど、デモを聴いて「この曲だ」と思って。もしこの曲に出会わなかったら、作詞はもう少し先の未来になっていたと思います。
――デモを聴いた時点で、歌詞のイメージが広がったわけですか?
岡咲 デモの仮歌詞では恋愛風の気持ちをはめていただいていたんですけど、「Maybeヒロイン」もあったので、自分はもうちょっと夢や心のマインドみたいなものを示して歌えたら、すごく素敵なものになるだろうなと思っていました。
――岡咲さんが書いた歌詞世界は、ある種自分自身を描きながら、そこにカレイドスコープ=万華鏡だったり、宝石の名前が散りばめられていたりと、これまでの岡咲さんの世界観にあるドリーミーなものになったなと思います。
岡咲 そういう世界観が好きなんだと思います。
――そうした世界観のなかでご自身を投影する作業はいかがでしたか?
岡咲 難しかったですね。最初は言いたいことや伝えたいこと、入れてみたいキーワードが多すぎて、壮大な世界観の神話のような歌詞になってしまって(笑)。ファンの方も岡咲美保の初作詞という認識で聴いてくださると思ったので、私という立場で伝えられることを書くのがベストだなって。でも「真っ直ぐ夢を追いかけよう」みたいな気持ちをストレートな言葉で書くよりも、幻想的な、もう少しサウンドに合わせた歌い方をしたくて、最初はどうしようか悩みました。
――ただ自分の想いをしたためるだけではなく、楽曲に沿ったアプローチに悩まれていたと。
岡咲 はい。そんなある夜に、オルゴールを聴きながら「全然浮かばないな……」って現実逃避みたいな感じでガラスでできた万華鏡を覗いてたんです。Dメロの“眠れない夜は 月の明かりを照らして プリズムを駆けよう”という歌詞はまさにそのときのことなんです。作詞という挑戦の壁に当たったときで。私はネガティブな気持ちやそういった壁にぶつかったときに現実逃避することって、すごく大事なことだと思っていて。現実逃避をして別の世界を知ることで自分をより客観視できるので、良いことだと思うしそれを伝えたいなと思ったんです。
――作詞に悩む時間がそのまま歌詞のコンセプトへと繋がっていったと。
岡咲 そうですね。私もそういう生き方をしているタイプなので、万華鏡というアイテムを通して自分自身を愛してあげたいとか、夢に向かって可能性みたいなものを感じ続けたいという気持ちを書こうと思いました。
――そこから生まれた歌詞はリアルでありながらアイテム使いも含めてキラキラしているのが岡咲さんらしさなのかなと。最後を”笑顔で”と締め括る辺りは特に。
岡咲 すごくシンプルですよね。かっこいいキーワードや作詞だからできる語りもあるとは思うんですけど、初作詞というのも大きかったですし、自分は割と嘘がつけないタイプなので、自分の本当に思っていることをかっこつけずに表現することの大切さは作詞を通して気づくことができました。
――このタイミングでそう感じられたというのは大きな出来事ですよね。
岡咲 記念と言ったらちょっと硬いんですけど、自分の人生を振り返ったときに、この曲を作詞したこと、当時こういうことを書いたんだな、素の自分を届けたんだな、みたいなのはすごく刻まれると思いますね。
――そうした自分の正直な気持ちを歌詞にして、それを自分が歌うということについてはいかがでしたか?
岡咲 この曲も歌い方でメッセージ性が変わる部分があるなと思っていて。明るく楽しくキラキラとした声色を色濃く出す選択肢もあったんですけど、色々歌ってみて、真っ直ぐしっとりでもいいのかなと思いました。華やかさみたいなものはサウンドが引っ張ってくれているから、私はあえてそこに作り込んで入るというよりは、マイクとの距離も近めで、今までお届けしたことがないくらいにスッピンな声といいますか、自分の作詞曲だからこそできることなんじゃないかなと思って、そうさせていただきました。
――あえて作り込まずに自分の素の声を活かしたアプローチになったと。だからこそ自分の想いとなる歌詞がよく伝わる仕上がりになったと思います。
岡咲 ありがとうございます。声優として歌手活動させてもらっているのは大前提として自分の中でも大事にしていることではあるんですけど、それを「Maybeヒロイン」ではしっかりと活かすことができたんです。でも「カレイドスコープ」に関しては、「ただの岡咲美保でもいいんじゃないかな?」と思って。
――そうした歌詞や、ボーカルアプローチが聴けるというのはファンにとっても新鮮だし嬉しいことですよね。
岡咲 SNSで皆さんからの感想を読ませていただくんですが、そこでも「歌詞も美保ちゃんって感じがすごく出てる」という感想を書いてくださっている方がいて、改めて自分が作詞したことに実感が湧きました。歌い方の部分でも「今まで聴いたことがない美保ちゃんの声が聴けて嬉しい」という感想を書いてくださっている方もたくさんいて。作り込まず等身大の自分を出した結果、それを受け入れてもらえるとより安心するし嬉しいですよね。
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